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中栄@築地場内

吹きすさぶ風が分厚い上着の中まで寒さを伝う。

こういう時は、寒い時季だからこそ美味い魚が食えるんだと精一杯ポジティブに気持ちを切り替え、何とか日々を過ごしている。


それでも朝の寒さは手ごわい。

それでも朝の築地には行きたい。


欲求と嫌気がせめぎあう今なら、日本で誰より葛藤という意味を実感しているに違いない。

そして答えは、道連れという生贄を差し出した、欲求の勝利に事が動き出した。


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後輩3人を連れ、朝の築地場内へ。

初めて訪れる3人は、生贄のくせに「おもしれぇ!」などとえらく楽しんでおる。


まぁいい、それより魚だ。

海鮮丼にしようか。イクラも悪くない。

椀物は海苔が好物だが、芯まで冷えた身体ゆえ、温かいものであれば贅沢など言うまい。


思案を巡らせ視線を遊ばせていると、生贄のひとりが「海鮮丼っすかぁ…」と二の足を踏み出した。

黒い気持ちが広がりだしたが、まぁいい、ここは世界一の市場。

美味いものは売るほどあるのだ。


「何が食いたい?」

「カレーとかないっすか?」


口の利き方に対して心の中でローブローを食らわしてやった。生贄のくせに。

しかし、それなら久しぶりに行きたいところがある。


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中辛とハヤシの合いがけ  ¥600-

一度に2つの味が楽しめるのだが、付け合せの千切りキャベツを混ぜて食べるのもオススメ。

しゃっきりさっぱりと様変わりしたカレーが朝にはもってこいである。

3人のをおごってあげても¥2400-と、懐もそこまで冷えずに済む。


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その後きゃつらは、徹夜明けの寒空のもと場外を引き回され、生贄の役割を終えたのだった。





寒さもまた一興

シベリア上空から最強寒波がやってきて、日本海側では例年の2~3倍の降雪を記録し、

氷水の中に投げ込まれたかのような鋭い冷気が東京にもやってきています。


こんな折こそ気持を入れ替え、心頭を滅却。

そう、今こそ魚がうまい時期なのだ。




白身の刺身を食べて美味いと感じる店は一目置いてしまいます。


歯ごたえばかりではない、見た目だけではない。

しっかりと旨味を持ったものを季節を変えて出してくれる店が、新橋「ととや」です。


焼き魚・煮魚も評判ですが、私は刺身三点盛りがいい。

「三点」と謳いながら4~5点出てくるのが、またいいのだ。


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これと、小鉢2つ・茶碗蒸し・香のものがついて¥1050也。

ごちそうさま。



宵の口。

宝石のような輝きと艶が滲み出し始めた銀座の道すがら、

割安で美味しいワインを飲める店を思い出した。


「テノテカ」は、大手老舗ワインインポーター。

広尾本店をはじめ、銀座店でも試飲カウンターを設けてあるため、店内で飲めるんです。


通常、レストランやバーのワインの価格は、仕入れ値の他に管理費・ノウハウ・売上などを計上しているため、仕入れの2~3倍の値段で提供されています。

しかしここは試飲が目的なので、たとえば広告のようなもの、なのです。


そのため、かなり有名なワインもグラスで飲めるので、そういう意味で安いんです。


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「ルイ・ロデレール カルト・ブランシュ NV」

シャンパンの中でも指折りの高級メゾン(作り手)です。


シャンパンは、製造過程でシロップを加えることによって味わいが5段階に分かれます。

一般的な「ブリュット」が2番目に辛口なのに対し、

これは「ドゥミ・セック」と呼ばれ、2番目に甘いシャンパンになります。


口当たりに幅があってクリーミーで、花の香りがピチピチはじけます。

ブリュットのような辛口が爽快さを伴うのに対し、しっかりした甘さは優しさや愛情を感じさせてくれます。

くべた火にあたっているような温かさがあるんです。


レストランなどではボトルでしか提供されないものですが、仮にグラスで出されたら2倍ほどの金額です。




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「モレ・サン・ドニ2007 デュジャック」

ブルゴーニュの有名な作り手で、彼の最も基本的なワインです。

家に2004年がありますが、これがグラスで頂けるなんて。


軽くて優しくて、素晴らしい香りが広がります。

どちらのワインも冬の寒さを感じさせない表情をしていて、そして美味しかった。


いよいよ冷えた街の片隅で、徐々に満月へと満ちている宵の月がどことなく紅く火照って見えたのは、

ネオンのせいだけではないのでしょうね。






1985年 シャトー・ネナン

9月に1978年ローザンセグラというワインを開けましたが、思っていたほどではなかったため、

年内に年代物をもう1本開けてみたいと思っていました。


1985年「シャトー・ネナン」
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フランスはボルドーの右岸「ポムロール村」のワインで、リッチなワイン産地という印象がある場所です。

有名なシャトー・ペトリュスなどの産地でもあります。


この村の1985年は狙い目と言われたりしていますが、実際はどうなのか。
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美味しいです。

メルローらしいジャムのような甘い香りと、森の香りがしてきます。

ヨード香という磯の香りもほのかにあって、湿り気も感じます。

よく熟成していて、舌触りが絹のよう。


それに合わせるという訳ではないですが、こんなものを作りました。

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「牡蠣のガーリックバター炒め」


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旬の牡蠣を文字通り炒めたもの。

非常に美味しいのですが、ニンニクの香りがワインの香りを消してしまって、相性は悪かったです…




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1985年は筑波科学万博のあった年。

子供の頃に何度か連れて行ってもらった記憶があります。


その頃のワインには少し思い入れがあって、この他にも何本か所有しています。


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「シャトー・ド・サル1985」

小さなポムロール村では最大級のシャトーのもの。

その割には比較的手ごろです。



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「レオヴィル・ラスカーズ1981」

ボルドー左岸のシャトー。

翌年の1982年が世紀のヴィンテージと呼ばれる人気の年ですが、それに隠れるようにして穴場の年のもの。



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「シャトー・マルゴー1986」

5大シャトーのうち最も女性的と言われる有名なワイン。



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「シャトー・ラフィット・ロートシルト1985」

5大シャトーの中で最も入手困難なワイン。

ここ数年で市場から消えてしまって売っているのを見なくなってしまいました。

ハレー彗星が近付くと良い年になるというヨーロッパの逸話から、ボトルに彗星のレリーフが。


熟成したワインは本当に美味しいのですが、高かったり、飲み頃をずっと待たなければいけなかったり…

しかし、それもまた楽しみのひとつなのです。


猫たちの秋 三崎編

ある夜…




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おなかすいたなぁ~


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あ゛~ おなかすいたにゃ~

さっきテレビで水族館ってやつを見てから、なんか落ち着かない。


あんなにいっぱい魚がいる、夢のような場所なんてホントにあるんかいな。



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でっかい海、でっかい魚。


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三浦半島ってとこの先には、港とか水族館ってのがあるらしんだにゃ。

こんな感じのトコなんじゃないかと勝手に想像してみる。





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あれっ?

なんか魚のにおいがする…







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きゃー! 憧れの水族館だにゃー!


「へぃ!ぃらっしゃい!」

「うまそうな魚がいっぱいいるにゃ」

「今朝捕れた三崎の魚だから、どれもうまいよ!」

「えっ!食べていいにゃ?」

「そりゃあんた、全部売りもんだがよ」

「まじでか!? 水族館ってそんなシステム!?」

「よく分かんねぇけど、選んだのを隣の定食屋で食べられるんだけど、どだ?」

「乗った!」


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フーッ!どれもうまそう♪


じゃあイサキを刺身にして、カワハギは肝を添えてちょうだい。できるよね?

それと~… キンメをね、半身は刺身にして、残りは煮付けで。

あとはマグロ三種盛りもできるかしら?


「まいど!」


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夢みたいだな~♪

でも魚も大変だなぁ。あんなに見せ物にされた挙句に食べられちゃうなんて。

せめて美味しく食べてあげるからね。



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キター!
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おいちゃん、ついでに生もちょうだい!

どうしよう!どれから食べよう♪












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もうちょっと… もうちょっとで食べられる…


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あれ…

寝ちゃったんだ~



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おなかすいたにゃー!

1978年 シャトー・ローザンセグラ

父の退職祝いにと買った1978年産のフランスワイン

「シャトー・ローザンセグラ」


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筆者が生まれた1977年に近いワインを一緒に飲みたいと思って買ったものだけど、

その後、生まれ年のワインを2本手に入れたため、これは飲んじゃってもいいかなと思って開けてみることに。


ただ、古いワインは優しく扱わないと味わいが壊れてしまいやすいと聞きます。

コルクを抜くのも難しいとか。

30年をこえるオールドヴィンテージを、飲むはおろか、開けるなんて経験は初めてです。

どことなく力みそうな気持を鎮めながらスクリューを通します。


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割れてしまいました。

けど割れ残った方も無事に抜き取ることができて抜栓完了。

30年もの間ワインに触れていた部分は赤黒く変色し、コルクも年老いて見えます。

時間的な距離をぐっと縮めたようなコルクは無言の説得力を持つため、簡単には捨てられそうにありません。


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穏やかな香り。

みずみずしいという感じではないけれど、その頃の面影をしっかり残したまま眠り続けていたことは、香りから明確に伝わってきます。


ただ、どこか不愉快な香りが混じっているのも事実。

これがコルクから来るものなのかどうかは私には分かりませんが、この頃のローザンセグラは樽が原因で香りを損なっていたという話は買った当時から耳にしていました。


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ボルドーの特徴は濃い色をしたワインレッドですが、時間が経つと色が薄まり、やがてレンガ色に変化していきます。

このワインの上部、縁のあたりがオレンジがかっているのが分かるでしょうか。


太陽が西へ沈む時に見せる夕日の色は、大気の厚みによって可視化される赤い色がつけるものであるため仕組みとしては全く別のものなのに、

どちらも郷愁に似た侘しいオレンジを見せるんですね。


この1978年産のワインが眠り続けている間、このシャトーはシャネルグループがオーナーになりました。

それからは品質が大きく向上しているそうです。

やや不愉快な香りというものも今はもうしないんでしょうね。


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1秒という単位をゆっくり何度も繰り返し刻み続ける時の歩みは遅いし、それによる様々な変遷にはなかなか気づくことができませんが、

こういう機会に、積み重ねたものの深さに気づき、変化に気づくことというのは

なかなか面白いことだなと思います。