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豚の報い




又吉 栄喜
豚の報い

 浦添のスナック「月の浜」に豚が闖入した。豚の厄を落とすために3人のホステスと従業員の正吉は真謝島の御獄(ウタキ)に向かうが…。第114回芥川賞受賞。

 最後に小さな、けれど確かな優しさを残していく作品というのはまさしく良作で、「豚の報い」もそれにぴったりと当てはまりましたね。
 3人の女性たちの苦悩、後悔が、真謝島での珍道中のうちにだんだんと顕在化していき、12年前になくなった正吉の父親という存在に明るく収束していく流れが、とても緩やかで心地がいいんですよね。

 全ての人は絶対に云ってはいけない悩みを必ず抱えていて、それはたいがい死ぬまで守られるものですが、作中の女性たちはそれらを明るく悩み、明るく涙するんですよね。
 読後に感じる全編に漂うユーモアは、こういった女性たちの強さであり、それを育んだのは沖縄という土地だということが分かるのです。

 崔洋一が映画化していて、それはまだ未見なのですが、もう一度この物語を体験できるという喜びがあります。
 映画がつまらなかったらどうしようという不安はまるでなく、それがこの小説の素晴らしさを物語っていると思えます。

ほととぎすを待ちながら



田辺 聖子
ほととぎすを待ちながら―好きな本とのめぐりあい

 田辺聖子を読むのは本当に久しぶりで、源氏物語以来でしょうか。沢木耕太郎の「シネマと書店とスタジアム」の紹介から再びのブックレビュー・エッセイだったのですが、読んでみたいと思わせる点において、沢木も書いていたとおりピカイチでした。
 前半部は淡々と感想と分析を述べているのですが、だんだんと紹介本の引用と田辺聖子の言葉が注釈無く混ぜられていって、読んでいるほうとしてはレビューだったのか、小説だったのかが分からなくなるのです。作家の書くレビューとしてひと味違うぞ、と云っているようでもあり、それでいて興を削ぐようなこともないのが流石です。

 私はご承知の通り、触れるのも穢らわしい変態ですが、それ故自己防衛のための過剰なフェミニストをよく気取ってたりしてしまいます。
 田辺聖子の忠実な読者ではないのですが、彼女の強さと柔らかさはとても心地がいいんですよね。きっとそれは優しさで、私にも素で接してくれるだろうと思わせてくれるのです。
 その優しさは本にも向けられているのだと云うことが分かる一冊でした。

田村で金

seesaw

 「谷だが金」だったら面白いな、と一日考えていました。
 「ママだが金」はもう意味が違ってくるなと思いました。

 「セルラー」という映画を借りたのですが、アイデア一本勝負って感じで面白かったですねえ。
 突然誘拐された主婦。閉じこめられた部屋の壊れた電話を何とか直すが、繋がったのはビーチにいるおちゃらけた青年だった。しかし、この電話を切られたら、自分は死ぬ!
 事件の始まりから終わりまでをアイデアで埋め尽くしていく映画で、興奮が途切れることなく終わっていくのは圧巻。ラストの青年の台詞、お洒落すぎるよ!



アミューズソフトエンタテインメント
セルラー

S60チルドレン (4)




川畑 聡一郎
S60チルドレン 4 (4)

 昭和の終わりの小学生物語も、最終巻。余韻を残すというよりかは、きっちりと締めて完結していきましたね。

 実はこの作品へのテンションはだいぶん下がっていて、それは3巻の照(テル)と白石ユリのエピソードの為でした。
 確かに劇的で泣ける話ではあるのですが、この漫画の基本線からはかけ離れていて、異質すぎるんですよね。こんなことが起こりうる世界、といったん認識してしまうと今までのエピソードも全てどこか歪んでしまっているように思えてしまったのです。きっとこれは作家としての欲というか、読者に対するサービスなのでしょう。読み切り版ではあった弟の失踪という設定も本編では切っている辺り、作者も分かってはいるはずですが…。

 最後を晶と光子で纏めていくのは、とても良かったですね。子供時代の恋愛をはっきりと区切る光子の決意は、楳図かずお「わたしは真悟」のそれとほぼ同じで、読んでいて震えました。
 光子が思春期に差し掛かるにつれてその強さに弱さを身につけていくところも、読んでいて身悶えましたねえ。最後に中学時代の二人を見せてしまうのも、素直に嬉しかったです。

 なんだかんだ云って、終わってしまったのですねえ、寂しい。。
 今頃彼らは埋没している素晴らしさを感じているのだろうか、とちょっとセンチメンタルに想像したり。

死刑囚042




小手川 ゆあ
死刑囚042 (1)

 死刑制度の廃止に伴って提案されたのが、殺人等を犯すほどの興奮をすると爆発するように設計されたチップを死刑囚の脳に埋め込み、一生を無償労働に捧げさせるというものだった。
 その最初の実験に選ばれたのが、7人殺しの死刑囚042号、田嶋良平。高校の用務員として、死刑囚として、田嶋は社会に戻っていく。全5巻。

 最初のエピソードを読むぐらいで、結末の予感はだいたい分かります。で、まさに予想通りだったのですが、それでも結末では泣かされました。
 割とぬるくて、感情も設定もそれほどリアリティを感じることもなかったので、なのにどうして泣かされたのかというのが読み終わった直後は不思議でした。

 作者の小手川ゆあは、まず生きる意味というのを念頭に、人物や設定を全てそこから逆算して作っていってるんですね。ですから、盲目の美少女も田嶋のドラマティックな過去も、全て結末に収束していって物語を純化させていく一つに過ぎないのです。
 結末を描きたいがための物語であり、そのためのさじ加減がとても上手くいっていると感じました。

 出てくる女性キャラが全て可愛くて私は終始悶えていたのですが、それと比して男性キャラはいまいちだったかも。もう少し格好良かったらなあ、というのが唯一の不満でしょうか。。