先月末、一本の電話がなった
 
 
誰だろう
 
 
相手は知らない新聞記者さんだった
 
 
事故の事で、取材をしたい
との事だった
 
 
 
私は、汰緯くんを妊娠し
出産してから驚く程に
 
本来の自分を取り戻していた
 
 
 
妊娠したことで、再発予防の
為に呑んでいた薬を断薬した
にも関わらず
 
 
むしろ心は穏やか、よく眠れる、快便
 
 
再発への不安も消え
どこにも問題は見当たらなかった
 
 
子育てをするうちに、自分を
否定する自分もいつの間にか
どこかに消えていた
 
 
汰緯くんは私たち両親の背中を
見て育つ
 
 
汰緯くんにどう育って欲しいかと
考える前に
 
自分たちはどう在りたいのか
 
 
そんな事を日々考えていたら
自分を否定する自分でい続けら
れるはずもなかった
 
 
 
そして汰緯くんが毎日を
一生懸命生きる姿は
 
何より私の心を癒やし
 
 
汰緯くんが、私を必要として
くれることは
 
私は、ただいるだけでいい
んだという自己を肯定する
力となった
 
 
今ならちゃんと自分の言葉で
事故の事やその後の事を話せる
のではないか
 
そう思って、取材を受けること
に決めた
 
 
 
記者さんは私より数個年下の
男性で、お会いしてすぐに
 
 
心が綺麗な人
 
 
そう直感した
 
 
 
気づけば取材が始まって
2時間以上経っていた
 
 
後日、写真撮影と合わせて
大樹と2人でまた取材を受けた
 
 
その後、『ママとベビーのピラティス』
を見学したいとの事で
また記者さんが我が家にやってきた
 
 
 
 
もう3度も取材を受け
汰緯くんもすっかり記者さんに
懐いている
 
 
その間にも電話やメールで何度となく
やり取りを交わした
 
 
千通子さんの想いと記事の
内容がずれるような事が
あってはいけないからと
 
一文一文確認を取ってくれた
 
 
 
『今出来上がっている文章です。』
 
 
そう言って送られてくる文章は
毎回、ガラリと内容が変わっていた
 
 
『この文章は確かに私の事を
書いているんだろうけど、
少し違和感がある』
 
 
初めは少しそんな風にも感じた
文章は、送られてくるたびに
私そのものに近づいていった
 
 
 
記者さんはあの事故のこと
読者のこと、私の事を思いがら
 
全身全霊で記事を書いている
 
そんな風に思った
 
 
1度目の取材の時、記者さんが言った
 
『事故現場に行かれるときに、
帯同させてもらえないですか。』
 
 
これまで、大樹が何度か事故現場に
行きたいと言っていたのに
 
そのたびに、聞き流して後回しに
していた自分
 
 
記者さんが事故に真摯に
向き合う姿に触れたことで
 
私ももう一度あの事故に
向き合いたいと思うようになっていた
 
 
 
③へ続く