続・功夫電影専科 -6ページ目

続・功夫電影専科

香港映画を始めとした古今東西のアクション映画の感想などを書き連ねています。


獵人
英題:The Great Hunter/The Hunter
製作:1975年

●(※画像は本作を収録したDVDセットの物です)
 数々の武侠片・功夫片で名を馳せた王羽(ジミー・ウォング)は、60年代に当時の香港映画最大手のスタジオ、ショウ・ブラザース(邵氏兄弟有限公司)でデビューしました。
彼はヒット作を連発しますが、方針の違いから同社を離脱。次にライバルのゴールデン・ハーベスト(嘉禾電影有限公司)に移籍するも、トラブルによって活動拠点を台湾へと移さざるを得なくなります。
 その後のジミー先生は皆さんも知っての通り、数々のトンデモ功夫片を撮りまくっていく事になるんですが、全ての面において彼が主導していた訳では無いと思われます。
確かに、彼は様々な方面(意味深)に顔が利くし、大スターでもあったため現場での発言力は大きかったでしょう。事実、ジミー先生が監督じゃないのに素っ頓狂なテイストに満ちた作品は多く、以前取り上げた『不死身の妖婆』では丁善璽が監督でした。

 しかし時には我を通さず、あくまで一人の役者としてドッシリと腰を据え、自らの個性を抑えた作品にも出演しています。本作は『スカイ・ハイ』と同じ年に製作された作品ですが、ジミー先生らしさは息を潜め、とてもシリアスなタッチで作られていました。
ストーリーは警備隊を指揮する父を殺されたジミー先生が、妹の嘉凌(ジュディ・リー)とともに真の敵へ迫っていく、というもの。慈善家の皮を被った黒幕には張翼(チャン・イー)が扮し、そこに謎の殺し屋・陳鴻烈(チェン・ホンリェ)も絡んできます。
 いつものジミー作品なら、主人公が敵の賭場に押し入って大乱闘を演じたり、悪漢に襲われるヒロインを堂々と助けたりしますが、本作はそうしたご都合主義を一切カット。中心となるのは登場人物たちの駆け引きで、ジミー先生も前半はあまり目立ちません。
宿屋の女主人・徐楓(シュー・ファン)も交えて進むストーリーは、活劇というよりサスペンスに近く、奇しくも前回取り上げた『捜査官X』に近い物があります(って流石にそれは言い過ぎか・苦笑)。

 後半は敵サイドのドラマも濃くなり、物語の把握が難しくなってくるのですが(私が見たのは英語版)、単なる勧善懲悪ではないストーリーに引き込まれます。ラストもジミー作品にしては珍しく、かなり苦い結末となっていました。
本作を監督したのは、座頭市と空飛ぶギロチンが戦う『盲侠血滴子』を手掛けた屠忠訓で、ジミー先生とのコラボはこれが初。恐らく本作がシリアスなタッチで落ち着いたのは、奇をてらうよりも実直に行こうと考えた屠忠訓の案…だったのかもしれません。
 結局、両者の関係は本作と翌年の『燈籠街』だけで終わっていますが、功夫アクションは派手な見せ場こそ少ないものの、腕に覚えのある出演者たちによって中々の迫力が出ています。
前半はおもに嘉凌が立ち回り(途中で嘉凌VS徐楓の女ドラゴン対決が!)、主役のジミー先生が動き出すのは中盤から。対する陳鴻烈はナイフ、ラスボスの張翼は仕込み分銅つきの杖を使用し、アクション面にトリッキーさを加味しています。
 ラストのVS張翼は意外と壮絶で、いつもなら姑息なギミックやケチくさいスタイルで対抗するジミー先生が、本作では特別な必殺技を持っていないため苦戦を強いられます。…う~ん、ここまで真っ当だとジミー先生が別人に見えてくるなぁ(爆
とはいえ、アバンギャルドさのない天皇巨星は新鮮だったし、もう少しこういう路線の彼が見たかったのも事実。そこで次回は、ジミー先生が気心の知れた名監督と共に挑んだ、ある偉人の歴史劇を紹介したいと思います!


「捜査官X」
原題:武侠/武術
英題:Wu Xia/Swordsmen/Dragon
製作:2011年

▼かつては最後の本格派と呼ばれ、今や宇宙最強の男として名だたる存在となった甄子丹(ドニー・イェン)。以前の彼は知る人ぞ知るB級カンフースターであり、その人気もローカルなものでしかありませんでした。
しかし、大ヒットした『HERO 英雄』や『SPL/狼よ静かに死ね』でアクション映画ファンを驚嘆させ、その人気は世界中を席巻。ハリウッドでも成功をおさめ、幅広く認知されていく事となります。
 「…あれ? 今月は王羽(ジミー・ウォング)特集じゃなかったっけ?」と皆さん思ってらっしゃると思いますが、本日紹介するのはジミー先生が甄子丹と夢の共演を果たした異色作、『捜査官X』なのです(だから今回だけカテゴリが甄子丹になってます)。
この作品は普通の功夫片ではなく、推理ミステリーや家族への愛、古き良きカンフー映画へのオマージュなどが絡み合った、実に複雑怪奇な構成となっています。
これだけ盛り沢山だと破綻しそうですが、陳可辛(ピーター・チャン)監督はこれらを纏め上げ、しっかりと1つの作品に仕上げています。果たしてジミー先生と甄子丹、そして金城武はどのようなアンサンブルを奏でたのでしょうか?

■時は1917年…静かな中国の片田舎で、二人組の強盗(喩亢(ユー・カン)と谷垣健治)が紙職人の甄子丹に抵抗され、奇妙な死を遂げた。村人は彼の行動を賞賛するが、捜査官の金城は強盗たちの死因に疑問を抱いていた。
金城はかつて凄惨な事件に遭遇し、その後遺症を治すために鍼を打ち続けている。ゆえに点穴の知識を持つ彼は、甄子丹が人知れず強盗の急所を突いて仕留めたのでは?と推察。捜査の手は甄子丹本人や、その妻・湯唯(タン・ウェイ)へと及んでいく。
 やがて甄子丹が村の外から来た人間であり、重い罪を背負っていることが明かされる…のだが、「甄子丹は恐るべき達人に違いない」と金城は確信していた。そして外部に頼んでいた捜査結果を聞き、その推理が事実だと判明する。
実は、甄子丹は“七十二地刹”と呼ばれる暗殺組織に属し、トップクラスの実力を誇る最強の刺客だったのだ。血生臭い生き方に辟易した彼は、組織から足抜けして過去を捨て去っていたのである。
 だが、経緯はどうあれ今回の事件における甄子丹は無実。それでも愚直な正義を貫こうとする金城であったが、一方で甄子丹を自陣に連れ戻すべく、組織の教主であり甄子丹の実父・ジミー先生が動き出した。
かくして惠英紅(ベティ・ウェイ)ら刺客集団が放たれる。甄子丹はかつての仲間たちを退けるが、自らの素性が村人に明かされたばかりか、多くの人々が犠牲に…。遅れて到着した金城は、最終的に甄子丹を助けようと一計を案じた。
 彼は鍼を利用し、甄子丹を仮死状態にさせて警察と組織の目を欺こうとする。しかし組織の手からは逃れられず、彼は驚くべき行動に打って出た。そして家族を救うため、満身創痍の甄子丹はジミー先生と相対する。
底知れぬ憎悪を燃やすジミー先生と、必死に抗う甄子丹&金城。果たして示されるのは正義なのか、それとも…!?

▲本作は変わったタッチの作品となっていて、前半は金城がメインの推理パート、後半は甄子丹がメインのアクションパートに分かれています。主役がガラリと変わる辺りは『ローグ アサシン』を彷彿とさせますが、あちらほど散漫な内容にはなっていません。
まず推理パートでは事件の様子が克明に描かれ、捜査によって徐々に事実が明かされていきます。発端となる甄子丹VS喩亢&谷垣のバトルは2度に渡って行われますが、事件当時と捜査による回想で内容が違っており、この演出には意表を突かれました。
 この推理パートは幾つかアクションがあり、時おり緊張感が伴うシーンもあったりしますが、やや落ち着いた雰囲気で進行します。しかし甄子丹の正体が判明し、ジミー先生が動き出してからは空気が一転するのです。
後半のアクションパートは甄子丹の独壇場となり、鬼のような形相で迫る惠英紅とのドリームマッチ、刺客たちとの白熱した激突が連続して展開! ケジメをつけた甄子丹の姿(谷垣導演いわく「スケジュールの都合による産物」)にもニヤリとさせられます。

 しかし本作のクライマックスはここから。ついにジミー先生が甄子丹の前に現れ、愛憎入り混じった感情を爆発させるのですが、その様相はあまりにも恐ろしく、観客は彼の一挙一動から目を離せなくなります。
かくて始まるラストバトルでは、鐵布杉で防備を固めたジミー先生が無敵の強さを見せ、甄子丹を圧倒! 一部でスタントを使いつつも、老骨にムチ打って奮戦するジミー先生の勇姿には私も驚かされました。
 その後も激しい攻防戦が続き、甄子丹たちが劣勢に立たされたその時、突如として勝負は決着を迎えます。この結末はかなり唐突な感じがするんですが、あのジミー先生を倒すにはこうでもしないと不可能。金城の最期も含め、私はこれもアリだと思いました。
ところどころに作り込みの甘さを感じますが、色々と深読みのできるラストなど、実に味わい深い逸品。本作が切っ掛けなのかは解りませんが、近年ジミー先生は映画界へ復帰するようになり、銀幕のスターとして再起を果たしつつあります。
そこで次回は、彼がアクションスターの全盛期を迎えていた70年代にタイムスリップ! 本作と同じく、名うての女ドラゴンと共演した未公開作に迫ります!


「極東黒社会」
「極東黒社会 Drug Connection」
英題:Drug Connection
製作:1993年

●バブル崩壊に見舞われ、混迷を極めていた経済大国日本。中でも新宿歌舞伎町は人種の坩堝(るつぼ)と化し、これに目を付けたイタリアン・マフィアが麻薬市場の進出を目論んでいた。
一方、歌舞伎町では新興の香港マフィアが台頭し、台湾マフィア(ボスの補佐役は『力王』で四天王を演じた杉崎浩一)と血で血を洗う抗争を展開。この衝突に、フリーの麻薬密売人であった役所広司と近藤真彦も巻き込まれていく事となる。
 激化するマフィアの抗争に対し、警視庁はNYから潜入捜査官のショー・コスギを招き入れ、一匹狼の刑事・中条きよしと共に捜査へ当たらせた。ひょんな事からショーは役所と出会い、奇妙な縁で結ばれるのだが…。
やがて役所の仲間だった売人が香港マフィアの刺客・林偕文に殺され、彼らとマフィアの龍頭・王羽(ジミー・ウォング)の対立は決定的なものに。その過程で北原佐知子がジミー先生に暴行されるが、たまたま居合わせた近藤によって助け出された。
 役所もまた、ショーと因縁のあるジェシカ・ランスロットと出会い、襲いかかって来た林偕文をショーと共に撃破。意を決してジミー先生の麻薬工場に殴り込むが、敵の逆襲によって近藤と北原が犠牲となってしまう。
怒りに燃える役所は、弱腰の警察に見切りを付けたショーや中条、ジェシカたちと共同戦線を組んだ。かくして、彼らは香港マフィアと軍門に下った地元ヤクザ、そして提携を目論むイタリアン・マフィアを一掃すべく、最後の戦いに挑む!

 本作は日本・アメリカ・香港・台湾から国際色豊かなキャストを迎え、過剰なバイオレンスとドンパチで彩ってみたら、思いっきり収拾がつかなくなった作品です(苦笑
ストーリーとしては、武闘派の香港マフィアが好き勝手やりまくり、対抗馬の台湾マフィアは困り顔。そこに日本とイタリアの悪党が乗っかってくるという構図なんですが、次々と人が死んでいく上に新勢力が乱立するので、話が無駄にややこしくなっています。
 キャラクターの設定も荒唐無稽で、いくらなんでも役所が外人部隊出身というのは無理ありすぎ(爆)。売人なのに知り合いがヤク中になったら動揺しまくる近藤、決戦に参加するには動機が薄いジェシカなど、こちらもムチャ振りだらけでした。
中条が死んだ事に誰も触れないまま向かえる最終決戦も、唐突な伏線回収やメインキャラの壮絶な死が相次ぎ、まさに混沌の極みと化しています。最後の役所とショーのやり取りも抽象的すぎて(伏線はあるけど)、誰しも呆気に取られる事は間違いないでしょう。

 そんな中、我らがジミー先生は香港マフィアの元締めとして登場し、モノホンの迫力でスクリーンを席巻。本作で唯一リアリティを感じさせるキャラクターを演じていますが、彼が立ち回るシーンは一切ありません。
私が本作を視聴したのは、『片腕カンフー対空とぶギロチン』でジミー先生を知って間もない頃でした。彼に加えてニンジャスターのショー・コスギまで参加していると知り、夢の共演やアクションに随分と期待しました。
 しかし本作のアクションは銃撃戦がメインで、ショーの格闘戦もほんの僅か。対戦相手もジミー先生や林偕文(彼は『ドラゴン特攻隊』でジャッキーとの対戦経験アリ)ではなく、非・アクション俳優の役所広司という選出にはガッカリしてしまいました。
当時の私は銃撃戦より肉弾戦を好んでいたため、ラストバトルはとても退屈だったと記憶しています。終盤でジェシカを人質に取られる展開になった際は、「やっと素手の勝負が!」と浮き足立ったものです(←直後に期待は裏切られますが)。

 ところで本作には欧陽龍という中国系の俳優が出演しています。彼はショーの相棒として登場し、ラストバトルでは永倉大輔(当時は長倉大介名義)とともに自爆するんですが、ネットで検索しても出演作が見当たりません。
調べたところ、彼の正体は歌手の欧陽菲菲の弟にしてチェリストであるNana(欧陽娜娜)の父親。現在は台北で市会議員に就任しているそうで、私はてっきり王建軍(本作に出演しているそうですが詳細は不明)の変名かと思っていました(汗
 結局、作品としては地雷級の失敗作ではありますが、ジミー先生の存在感だけは特筆すべき珍品。これ以後、ジミー先生は映画界から距離を置き、しばらく本作が最後の映画出演作として扱われていました。
しかし、長年の沈黙を破ってついに天皇巨星が復活を果たす時が訪れます。宇宙最強の男を相手に、伝説の女ドラゴンを従えたジミー先生が見せる“恐怖”とは…詳細は次回にて!


「いれずみドラゴン 嵐の決斗」
原題:龍虎金剛
英題:The Tattooed Dragon
製作:1973年

●背中に龍のいれずみを背負った風来坊・王羽(ジミー・ウォング)は、強盗団から奪われた義援金を見事に取り返した。しかし思わぬ逆襲に遭い、深手を負った彼は何処ともなく姿を消してしまう。
一方こちらは片田舎の村でノンビリと暮らす許冠傑(サミュエル・ホイ)。彼は村長の一人娘・張艾嘉(シルビア・チャン)との結婚を夢見ているが、どうにも踏ん切りがつかずにいた。彼は傷付いたジミー先生を発見し、療養のため自宅に匿うこととなる。
 そのころ強盗団の頭目・田俊(ジェームス・ティエン)は、ジミー先生に奪われた義援金のことは一旦保留し、別の悪事を企てようとしていた。彼曰く、ある村に巨大な地下鉱脈が眠っており、秘密裏に村ごと乗っ取ってしまおうと言うのだ。
田俊は村に賭場を作らせ、ギャンブル中毒にした村人を借金漬けにした挙句、担保として土地の権利書を簒奪。着々と乗っ取り計画を進めていくが、その村こそジミー先生が身を寄せている場所だった。
 やがて許冠傑の友人・李昆(リー・クン)が博打にのめり込み、悲観した妻子が心中するという悲劇が起きる。村長も強盗団に袋叩きにされ、この状況を見かねたジミー先生は怪我を押して立ち上がった。
まず手始めに賭場で大博打を仕掛け、連中から村人の金と権利書を巻き上げた。さっそくリベンジに現れた強盗団だが、彼と許冠傑の敵ではない。かくして人々の財産は返還され、事件の解決を見届けたジミー先生は村を去ろうとする。
だが、この状況に業を煮やした田俊が自ら動きだし、たちどころにジミー先生の存在を察知。連中は許冠傑を殺害し、それを知ったジミー先生は一目散に賭場へと乗り込んだ。今…ここに、嵐の決斗が幕を開ける!

 『燃えよドラゴン』の登場によって、日本では未曾有のカンフー映画ブームが巻き起こりました。そのムーブメントは凄まじく、あっという間に方々の映画館に「ドラゴン」の名を冠した作品が溢れ返ったのです。
ジミー先生も『片腕ドラゴン』で日本に上陸し、その知名度を極東の地にも知らしめました。本作もその1つで、製作は嘉禾電影ことゴールデンハーベスト、監督は羅維(ロー・ウェイ)、ロケ地はタイという『ドラゴン危機一発』的な陣容で製作されています。
 作品としては可もなく不可もない…といった感じの出来で、ジミー先生らしい奇抜さは低め。台湾では気心の知れた監督とやりたい放題していた彼も、香港映画大手の会社でキャリアのある監督と組む場合、流石に譲歩しなければならない点があったのでしょう。
また、速効で察せてしまう許冠傑の死亡フラグ、じっくり描きすぎて気が滅入ってしまう心中シーンなど、マイナスポイントもいくつかあります(李昆のギャンブル中毒設定も『スカイホーク鷹拳』と被っていますが、こちらは本作の方が先だった模様)。
しかし全体としては悪くない出来で、なかなかの力作に仕上がっていました。

 確かにストーリーはありきたりではあるものの、禁欲的で正義感にあふれる主人公はとても魅力的だし、キャラクターの立たせ方も上々。デビュー間もない許冠傑と張艾嘉も初々しく、芸達者な演技を見せるワンちゃんにも目を引かれます。
敵となる強盗団はずっと同じ面子ばかりで精彩を欠きますが、ラストバトルでは実力を見せてこなかった田俊が奮戦し、豪快な回し蹴りでジミー先生に肉迫! 対するジミー先生も全編に渡ってエネルギッシュな動作を見せ、荒っぽい立ち回りを披露しました。
 ちなみに終盤でジミー先生は田俊を燃やして倒すんですが(苦笑)、ここでの火だるまスタントを田俊は替え身なしで演じています。しかも見るからに薄着で、バトルの行方より田俊の安否のほうが気になってしまいました(爆
『ドラゴン危機一発』を期待すると肩透かしを食らうものの、全体的に堅実な作りを保っている逸品。なお、本作の配給は東映が行っていたそうですが、そのことがジミー先生と日本を再び結びつけることになります。
そんなわけで次回は、時を経てダークなオーラを纏ったジミー先生が歌舞伎町に出現! 無駄に豪華なキャストが集結した底抜け超大作の全貌とは…詳細は後日にて!


「ドラゴンVS不死身の妖婆」
原題:英雄本色
英題:Knight Errant/Dragon Fist
製作:1973年

●ひと口に功夫片といっても、その価値は取り合わせの妙によって決まります。たとえ主役が強くても、物語や設定が洗練されていなければ野暮ったくなり、逆に基礎がしっかりしていても主役に華が無ければ、一気にショボく見えてしまうものです。
例えば、『酔拳』では主人公が軽薄なボンクラ青年で、師匠も小汚いジイさんという(当時としては)斬新な設定となっていました。一方でストーリーも青年の成長物語として完成されており、この完璧な取り合わせが同作を大ヒットへと導いたのです。
仮に主人公がジャッキーではなく、愛想のない無骨な俳優だったら『酔拳』は違う結末を辿ったでしょう。また、ジャッキーが主役でも赤鼻じいさんや父親が無残に殺されるストーリーだったら、ここまでの支持は得られなかったと思います。
 さて、なんだが前置きが長くなってしまいましたが、こうした取り合わせの妙を凄まじい変化球で繰り出しつづけた俳優が存在します。…そう、我らが王羽(ジミー・ウォング)です。
ジミー先生は、片腕の主人公が盲目のギロチン坊主と戦う『片腕カンフー対空とぶギロチン』、主人公が化物じみた空手家軍団と戦う『吼えろ!ドラゴン 起て!ジャガー』など、余人には想像もつかない取り合わせでスクリーンを彩ってきました。

 その極北…変化球どころかデッドボール級の取り合わせを実現させたのが、この『ドラゴンVS不死身の妖婆』です。本作はジミー先生が倉田保昭と初共演を果たした作品で、ともに全盛期だった2人の対決が見どころの1つとなっています。
しかし、ジミー先生は真っ向から戦うだけのストーリーを良しとせず、タクシー運転手の主人公と不死身の妖婆が殺し合いを展開するという、あまりにも狂ったシナリオに挑戦。その結果、他に類を見ないクレイジーな作品と化していました(笑
 物語は、割腹自殺を果たした帝国軍人の遺児である三兄弟が、謝金菊(ツェ・カムガク)の元で激しい修行を受けている場面からスタート。このシークエンスは異様にテンションが高く、ぶっ壊れた日本語とも相まって見る者を圧倒たらしめます。
三兄弟は倉田と龍飛(ロン・フェイ)山茅(サン・マオ)に成長しますが、同時に喧嘩っ早いジミー先生によるアットホームなドラマも進行し、両者の関係性がまったく見いだせぬまま話は進んでいくのです。
 その後、ジミー先生の父・魏蘇が三兄弟の父親を死に追いやったと説明が入り、三兄弟は台湾へと上陸。ここからツッコミどころがさらに増えますが、車のブレーキを細工されたジミー先生の顛末は、製作当時だれも疑問に思わなかったんでしょうか?(苦笑
やがて父と従弟の高雄(エディ・コー)を傷付けられ、妹をさらわれたジミー先生は三兄弟を返り討ちにするものの、今度は謝金菊が降臨! ここの演出は『片腕カンフー~』を凌駕する程の恐ろしさに満ちていて、最後まで目が離せませんでした。

 さて、あまりにも無茶なストーリーに目を奪われがちですが、アクションの方はジミー先生お得意のケンカスタイルで、今回もテンポのいい立ち回りが楽しめます。脇役の高雄にも見せ場があり、全編にわたってアクション満載の賑やかな作りとなっていました。
一方で敵となる三兄弟は、長男の倉田さんが別格の存在という設定になっていて、龍飛と山茅の活躍は抑え気味。終盤の連戦でも龍飛たちは呆気なく倒されますが、倉田さんだけはヌンチャクや蹴りを武器にジミー先生を追い詰めていきます。
 このへんの采配は、当時大スターだった倉田さんを立てるための計らいだったのでしょう(『不死身の四天王』の陳星みたいに)。しかし、そうした打算を跡形もなく吹き飛ばしたのが、ラストに待ち受けるジミー先生VS謝金菊の死闘でした。
謝金菊は気功術を会得していて、打撃どころか車で轢いてもノーダメージ。功夫片に攻撃の効かない敵は何人かいますが、ここまで化け物じみたキャラはそうそういません(得体の知れなさで言えば銀魔王より数段上)。
 必死で食い下がるジミー先生と彼女の対決は、功夫片というよりホラー映画のノリに近く、そのインパクトは劇中の誰よりも強烈だったと言えるでしょう。しかし、本作を見ていると「取り合わせの妙ってなんだろう?」と考えてしまいますが…ま、いいか(爆
数あるジミー先生の主演作の中でも、奇抜さという点においてはトップクラスに君臨する本作。なんとも強烈な代物だったので、次回は第一次ドラゴンブームにて日本公開された、ちょっと大人しめの作品箸休めしたいと思います。