王羽十選(7)『獵人』 | 続・功夫電影専科

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香港映画を始めとした古今東西のアクション映画の感想などを書き連ねています。


獵人
英題:The Great Hunter/The Hunter
製作:1975年

●(※画像は本作を収録したDVDセットの物です)
 数々の武侠片・功夫片で名を馳せた王羽(ジミー・ウォング)は、60年代に当時の香港映画最大手のスタジオ、ショウ・ブラザース(邵氏兄弟有限公司)でデビューしました。
彼はヒット作を連発しますが、方針の違いから同社を離脱。次にライバルのゴールデン・ハーベスト(嘉禾電影有限公司)に移籍するも、トラブルによって活動拠点を台湾へと移さざるを得なくなります。
 その後のジミー先生は皆さんも知っての通り、数々のトンデモ功夫片を撮りまくっていく事になるんですが、全ての面において彼が主導していた訳では無いと思われます。
確かに、彼は様々な方面(意味深)に顔が利くし、大スターでもあったため現場での発言力は大きかったでしょう。事実、ジミー先生が監督じゃないのに素っ頓狂なテイストに満ちた作品は多く、以前取り上げた『不死身の妖婆』では丁善璽が監督でした。

 しかし時には我を通さず、あくまで一人の役者としてドッシリと腰を据え、自らの個性を抑えた作品にも出演しています。本作は『スカイ・ハイ』と同じ年に製作された作品ですが、ジミー先生らしさは息を潜め、とてもシリアスなタッチで作られていました。
ストーリーは警備隊を指揮する父を殺されたジミー先生が、妹の嘉凌(ジュディ・リー)とともに真の敵へ迫っていく、というもの。慈善家の皮を被った黒幕には張翼(チャン・イー)が扮し、そこに謎の殺し屋・陳鴻烈(チェン・ホンリェ)も絡んできます。
 いつものジミー作品なら、主人公が敵の賭場に押し入って大乱闘を演じたり、悪漢に襲われるヒロインを堂々と助けたりしますが、本作はそうしたご都合主義を一切カット。中心となるのは登場人物たちの駆け引きで、ジミー先生も前半はあまり目立ちません。
宿屋の女主人・徐楓(シュー・ファン)も交えて進むストーリーは、活劇というよりサスペンスに近く、奇しくも前回取り上げた『捜査官X』に近い物があります(って流石にそれは言い過ぎか・苦笑)。

 後半は敵サイドのドラマも濃くなり、物語の把握が難しくなってくるのですが(私が見たのは英語版)、単なる勧善懲悪ではないストーリーに引き込まれます。ラストもジミー作品にしては珍しく、かなり苦い結末となっていました。
本作を監督したのは、座頭市と空飛ぶギロチンが戦う『盲侠血滴子』を手掛けた屠忠訓で、ジミー先生とのコラボはこれが初。恐らく本作がシリアスなタッチで落ち着いたのは、奇をてらうよりも実直に行こうと考えた屠忠訓の案…だったのかもしれません。
 結局、両者の関係は本作と翌年の『燈籠街』だけで終わっていますが、功夫アクションは派手な見せ場こそ少ないものの、腕に覚えのある出演者たちによって中々の迫力が出ています。
前半はおもに嘉凌が立ち回り(途中で嘉凌VS徐楓の女ドラゴン対決が!)、主役のジミー先生が動き出すのは中盤から。対する陳鴻烈はナイフ、ラスボスの張翼は仕込み分銅つきの杖を使用し、アクション面にトリッキーさを加味しています。
 ラストのVS張翼は意外と壮絶で、いつもなら姑息なギミックやケチくさいスタイルで対抗するジミー先生が、本作では特別な必殺技を持っていないため苦戦を強いられます。…う~ん、ここまで真っ当だとジミー先生が別人に見えてくるなぁ(爆
とはいえ、アバンギャルドさのない天皇巨星は新鮮だったし、もう少しこういう路線の彼が見たかったのも事実。そこで次回は、ジミー先生が気心の知れた名監督と共に挑んだ、ある偉人の歴史劇を紹介したいと思います!