
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地撃攘」
原題:黄飛鴻之五龍城殲覇
英題:Once Upon a Time in China V
製作:1994年
●趙文卓(チウ・マンチェク)という男をご存じだろうか。徐克(ツイ・ハーク)の黄飛鴻シリーズを李連杰(リー・リンチェイ)から引き継ぎ、その後は電視劇版に至るまで同シリーズを盛り立てた武星だ。
肉体的なポテンシャルやマスクは同時期に活躍した李連杰や甄子丹にも劣ってはいない趙文卓だが、日本では彼の目だった活躍は90年代の武侠片ブーム以降ほとんど音沙汰が無い。実際は近年でも日本と合作した『国姓爺合戦』など彼の出演作は一応日本でも見ることができるものの、李連杰や甄子丹と比較すると少し知名度は落ちており、趙文卓自身も出演作は先の2人より少ないのだ(電視劇での活動も挟んだ上での話だが)。
思うに、趙文卓が大々的なブレイクを果たせなかったのは、彼なりのスタイルが確立できないままズルズルと引きずってしまっている事が原因ではないだろうか。李連杰は文字通りの"一騎当千"なスタイルを、甄子丹は過剰ともいえる早回しアクションを自分のスタイルとしている。趙文卓はアクションセンスも悪くはないが、あの2人に太刀打ちできそうなポイントが見当たらないのである。
この李連杰・甄子丹・趙文卓と似た構図がアメリカでも存在している。かつて数々のアクション映画を世に送り出した「マーシャルアーツ三羽烏」がそれだ。
何者をも寄せ付けないスティーブン・セガール、股割りと回し蹴りで市場を席巻したジャン・クロード=ヴァン・ダム、そしてそれら2人と比較すると迫力負けしてしまっているドルフ・ラングレン…彼らが「マーシャルアーツ三羽烏」だ。これをそれぞれに当てはめると、李連杰がセガール、甄子丹がヴァンダム、そして趙文卓がラングレンに相当する。
この趙文卓とラングレンは、共に大物スターの対戦相手としてスクリーンデビューを果たしたという共通点があった(趙文卓は李連杰の『方世玉』で、ラングレンはスタローンの『ロッキー4』)。だが、私自身まだ彼らの主演作には見ていない作品が多くあるため、趙文卓とラングレンについてはこれからも期待したいところ。
趙文卓の主演作で気になるのは、代表作と呼ばれる『刀/ブレード』、彼の作品では傑作とされる『生死拳速』、盧惠光との蹴撃戦が要注目の『麻雀飛龍』だが、とりあえず今回は日本で見られる作品の中から本作の紹介です。
本作はスーパー獅子舞大戦と周比利(ビリー・チョウ)でハチャメチャだった前作『天地覇王』から直結した物語で、今度の敵は実在した大海賊・張保仔だ。この張保仔を演じるのは武術指導家の易天雄(『無問題2』にも参加)、そしてラスボスが張保仔の息子役で出演している董[王韋](トン・ワイ)と、2人の武術指導家が相手となる。これに五大弟子を引き連れた趙文卓が挑む物語だ。
作品としては前作以前よりも規模が縮小され、単なる海賊退治の物語でしかなくなっている。第一作のようにメッセージ性が強いというわけでも、第四作のようにハジケまくった作品でもないため、どこかもどかしさを感じる作りとなっているのが惜しい。アクションはそれなりに良いぶん、そこのところは残念である。
ところで前から気になっていた事だが、前作の『天地覇王』はまだいいとして、本作のタイトルである『天地撃攘』って…何?(爆

「レッド・リベンジ/復讐の罠」
原題:龍鳳賊捉賊
英題:License to Steal/Dragon Versus Phoenix/Thief Versus Thief
製作:1990年
●かつて師匠の劉洵のもと、高麗虹(ジョイス・コウ)、江欣燕、そしてアグネス・アウレリオの3人は、キャッツアイのように怪盗として暗躍していた。しかし、思想の違いから高麗虹らを疎んじていたアグネスが仕事中に裏切り、高麗虹は逮捕されて劉洵は脚をへし折られてしまった。
それから数年後、アグネスは周比利(ビリー・チョウ)や崔正一らを従えた強盗団を仕切るまでに勢力を拡大。その後、高麗虹が出所した事を知ったアグネスは、彼女を再び陥れようと企む。そこにアグネスを追う刑事の呉耀漢(リチャード・ウン)と新米警官の倪星(コリン・チョウ)、そして呉耀漢の甥で頭がプッツンしているユンピョウも巻き込まれ…。
ユンピョウのカテゴリに入れていますが、本作は高麗虹(ジョイス・コウ)主演のレディースアクションであり、時期的にも倪星が日本で初お披露目されたと思われる作品です。
上記のあらすじを見ても解るように、ストーリーはかなりオーソドックスな内容で、これといって意外性の無いシリアスなアクション映画に仕上がっています。主演の高麗虹はサモハン直伝のアクションで大健闘し、本作でもアグネスやユンピョウを相手取ってバトルを繰り広げています。最後のVSアグネス戦でも、激しい殺陣をテンポ良く演じていました。
武術指導は李撃柱という人が担当しており、サモハンはアクションに一切タッチしていないようです(こっそりカメオ出演はしてます)。しかしアクションシーンのノリはサモハン映画そのもので、立ち回りの雰囲気が若干違って見えるかもしれませんが、拳と拳がぶつかり合う壮絶な功夫ファイトが構築されています。
ちなみに李撃柱は京柱という別の芸名があり、昔は主にショウ・ブラザーズという大手プロで活躍していました。彼は役者としての顔も持ち、劉家輝(リュウ・チャーフィ)主演作『続・少林虎鶴拳』では主人公の相棒を演じています。その作品で劉家輝の妻を女性武術指導家の楊青青が演じていますが、彼女は本作でもワンシーンだけ出演し、ユンピョウとサイフの取り合いを展開していました。
そのユンピョウもまた、本作では無理やり挟み込んだようなゲスト出演ではありましたが、功夫アクションを大熱演!倪星も少ない見せ場で頑張っていて、本作ではラスト手前の乱戦で見せるVS崔正一(レディアクションものに何本か出演)で俊敏なファイトを見せています(今となっては貴重なユンピョウVS倪星の一幕も見逃せないかも?)。
そんなわけで、功夫アクションに関してはなかなか悪くない作品でしたが、いまいちストーリーの弾けっぷりが足りなかった気がします。もし本作がサモハン監督作だったら弾けまくっていたと思いますが…それだと確実にセクハラ描写満載のおバカ映画になっただろうなぁ(爆

「カンフー・ボーイ/最後の騎士」
原題:Sidekicks/Last Electric Knight
製作:1986年
●『ラッシュ・アワー2』の中盤で、ジャッキーとクリス・タッカーに窓口で話しかけらるや否や、章子怡(チャン・ツィイー)のところまで走っていったナイナイの岡村に似た男を覚えているだろうか。
実は彼はアーニー・レイズJrという人で、いくつかアクション映画に出演しているスター。『ミュータント・ニンジャ・タートルズ2』『ランダウン』など、日本でも彼の出演作を見ることができる。また、子役時代の姿をタイマック主演のブラックスムービー『ラスト・ドラゴン』でも見られるのだが、本作は彼がその『ラスト・ドラゴン』と同時期に主演した作品である。
製作はディズニーで、アメリカではTVドラマとして作られたらしい(詳しくは不明)。物語はアメリカを舞台に異邦人のカンフー少年・アーニー君が、死期が近いと悟った祖父の予見に従い、中年刑事に親となってもらおうとする…という、ちょっぴり切実な話。ここに親権問題や麻薬組織との対決、そして祖父とアーニー君の別れなどが挟まれる。ディズニーらしくまったりとした作品だが、たぶんこれがドラマでは第1話ぐらいのものだと思われる。
さて肝心のアクションだが、子供向け作品のせいか劇中ではたった2回しかアーニー君の見せ場は無い(作品自体も50分弱と短め)。だが、その僅かなシーンで見せる棒術アクションやアクロバティックなファイトは、以前紹介した『クロオビ・キッズ』も霞んでしまうほどの見事なものだ。好小子特集の際に語ることはできなかったが、アメリカ系の好小子としてはまず『クロオビ・キッズ』の面々よりもアーニー君が先んじていたことが解る。
個人的にはドラマとして放送されたバージョンも気になるが、その後のアーニー君は成長するにしたがって様々なアクション映画に出演していく。日本では『マッハ!』の公開に便乗されてリリースされた『ガチンコ!』なる作品があり、彼の日本リリースされた出演作の中では数少ない主演作だ。現在も活躍中のアーニー君だが、その他の日本未公開の出演作もいつかは見てみたいものである。
なお、いくつかのサイトでは本作のタイトルを『カンフー・ボーイ/最後の旗士』としているが、正しくは上記の通りです。

「ビバリーヒルズ・ニンジャ」
原題:Beverly Hills Ninja
中文題:比佛利武士/笑林忍者
製作:1997年
●主人公のクリス・ファーレイは一人前のニンジャになることを夢見るおデブ君。しかしドジばかりで素質はゼロに等しく、ニンジャ学校の試験にも落ちてしまう。そんな時、彼のもとに謎の美女ニコレット・シェリダンが尋ねてきて、彼氏について調べてほしいと頼まれた。クリスはニンジャでもないのにはりきって任務を引き受けるが、偽札をめぐるヤクザの事件に巻き込まれてしまう。
どうしてもニコレットの事を信じたいクリスは、師匠に懇願してニコレットがいるはずのビバリーヒルズへと向かう。師匠はこっそりクリスの兄弟子をバックアップに同行させるが、果たしてクリスは一人前のニンジャになることができるのであろうか?
主演のクリス・ファーレィは『コーンヘッズ』や『トミーボーイ』などでおなじみのコメディ俳優だが、この同年にコカイン中毒で帰らぬ人となってしまっている。コメディとしてはヌルい本作だが、この作品を取り上げたのには理由がある。というのも、本作にはクリスの兄弟子役で仇雲波(ロビン・ショウ…別名は「威龍」)が出演しているのだ。
仇雲波はいずれこのカテゴリでも紹介するであろう『モータル・コンバット』での出演が有名だが、香港映画では『タイガー・コネクション』におけるドニーとの死闘、戴徹(ロバート・タイ)と組んだ『戰龍』、皇家師姐シリーズに噛みついた『地下兵工廠』などで印象深い活躍を残している。本作でもクリスのアシストとして貧乏クジを引く事も数多ではあるが(苦笑)、クリスとの友情などの見せ場もあって見逃せない。
アクションに関して言うと、本作はコメディであるため格闘シーンが沢山あるという訳ではなく、ボリューム不足の感は否めない。だが終盤のバトルでは仇雲波もバリバリ動いており、クリスもピンチに陥った仇雲波を助ける場面で、比較的ノンスタントのアクションで頑張っている。
なお、他にも敵役で『チャイナ・オブライエン』のキース・クックも登場している。こちらも仇雲波と同様に活躍を予感させるが、すぐに倒されてしまうので期待はずれもいいとこ。また、劇中に見られる間違った日本像はご愛敬だが、クリスが日本で育ったのに英語が話せたり車が運転できたりするなど、不自然でツメの甘い箇所が散見される。もう少ししっかりした作りならもっと面白くなったと思うのだが…。

銀蕭月剣翠玉獅
英題:Moonlight Sword & Jade Lion
製作:1977年(1981年?)
●ゴールデン・ハーベスト(以下GH)の黎明期を支えた功夫レディ、茅瑛(アンジェラ・マオ)。そしてGHにてデビューを果たした正統派功夫スター、王道(ワン・タオ)。この2人はGHを去ると台湾へと活躍の場を移し、それぞれ活動を続けた。しかし、同じGHから羽ばたいた者同士ではあったものの、王道はすぐに台湾へ行ってしまったため、GH内で2人が共演を果たす事は無かったのである。
2人が共演を果たせたのは1977年に製作された本作と『三千大洋』で、それ以外には後年の『怒馬飛砂』でしかこの顔合わせは実現していない。そういう意味では貴重な作品といえるし、茅瑛と王道による同郷同士のバトルもしっかり見ることができる。だが、本作はまったりとした感じのシリアス武侠片(なんじゃそりゃ)で、台詞主体で織り成される物語が非常に解りづらいのが難点だ。
とりあえず「茅瑛が王道と悪を討つまで」という筋立てである事までは解るのだが、物語のテンポは至極まったりと進む(悪く言えば遅い)ため、シリアスな話ではあっても緊張感はあまり感じられない。功夫アクションにしてもそんなに多い訳ではなく、どちらかといえばドラマ重視となっているので、あまり派手さも感じる事はできなかった(まぁ、ドラマ自体もそれほど面白くはなかったのだが…)。
悪い作品ではないが面白い作品とも言いきれないイマイチな出来の本作だが、実は上記の茅瑛VS王道と並んでもうひとつ見どころが存在する。
この作品にはラスボスの愛人(?)役で台湾功夫片の常連である龍君兒(ドリス・ロン)が出演しており、幾度か茅瑛VS龍君兒という夢の対決が行われるのである(2人はこれ以後も譚道良の『決闘太陽塔』で共演することとなる)。茅瑛は映画人生の晩年期に楊惠珊(エルザ・ヤン)など様々なレディドラゴンと共演していく事となるのだが、本作こそがその先駆けであったと考えると、感慨深いものを感じられる。
ちなみに監督の廖江霖(カール・リャオ)は、荊國忠の主演作『夢拳蘭花手』の監督だ。パッとしない感じの作風が引っ掛かっていたが、あの作品の監督ならなるほど納得。アクションやキャストはそこそこ良いだけに、この出来に甘んじてしまったのはちょびっと残念です。