
その人に初めて会ったのは、桜の花吹雪が舞う頃のことだった
俺は、パーティにエスコートする女との待ち合わせ時間に遅れそうになって急いでいた
その人も待ち合わせか何かの時間に遅れそうだったのか急いでいた
俺たちは出会い頭にぶつかった
その人は散乱したバックの中身を拾いながら
「ごめんなさい。急いでいるもので…本当にごめんなさい」
あわてて駆け出していった
ふと見ると携帯が残っていた
「あの携帯…」
追いかけようとして、何故か俺は追いかけず携帯をポケットにしまった
俺は、森村真珠(もりむらしんじゅ)
独身
企画関係の会社をやっている
今日は、仕事関係のパーティに出席する為この街にやってきた
「おー!」感嘆の声が上がった
それを聞くためだけにパーティに出ているのかも知れない
と言っても、それは俺にではなくエスコートしてきた女に対してのものである
今日の連れは、最近売れ始めたモデルのA子だ
いつの頃からか、俺がエスコートして来た女は有名になるなんて、まことしやかに囁かれ、女たちはこぞってエスコートされたがり有名になった女優やモデルもかなりいる
噂が噂を呼びエスコートして行くと注目を浴びる
その後は彼女たちの実力や努力の世界ではあるが、とりあえず注目を浴びる事が第一歩だ
だが、エスコートは一度きりだ
次のパーティでは別の女をエスコートして行く
それは俺が決めた事ではなく自然にそうなった
今日も、部屋まで送って俺の役目は終る
食事でも旅行でも、行きたいと言われれば付き合う俺は、女に不自由をしたことがない
だが、不自由はしないが愛を感じた事もない
会場がどよめいた
仁希だ
そう言えばドラマのロケに行くと言っていたな…この街だったのか?
「兄貴!久しぶり」
俳優の、Luiji(ルイジ)だ
僕はLuiji
本名、馬場仁希(ばば ひとき)
学生の頃からのモデルを経て俳優となった
自分で言うのもなんだが、一応主役を務める
時代劇をやる事となりこの街にロケに来た
挨拶がてらパーティに顔を出した次第
仁希と知り合ったのは10年くらい前だろうか…
デビュー当時からなぜか気があって弟のように可愛がってきた
仁希も実の兄のように慕ってくれていた
連れのA子を仁希に紹介した
これで彼女はまた箔をつけた
俺のことは何でも解かっている仁希ですら
「兄貴はいいなぁ…いつも違う女連れで」
小声で、冷やかし半分に笑った
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