その時、携帯がなった
俺のではない
あっ、さっきの彼女の携帯だ
とっさに出てしまった
「あの…どなたか解かりませんが、拾ってくださってありがとうございます。その携帯の持ち主です。今どこに?取りに行きますので教えて下さい」
「さっきぶつかった者です。持って行きますのでさっきの場所で」
電話を切り俺は駆け出していた
「人希、A子を送ってくれ」
「おい、兄貴どこへ行くんだ」
<真珠の場合>
「人希、A子を送ってくれ」
俺はいったい何をしているんだ?パーティの途中だぞ。最後までエスコートが残っているだろ?取りに来るよう言えばいい話じゃないか?たかが携帯のために…
<仁希の場合>
「おい、兄貴どこへ行くんだ」
いったい何があったんだ?
あの兄貴が、女性のエスコートを途中でほおり出して帰るなんて…
その人はさっきぶつかった場所で待っていた
「遅くなって…」
「いいえ。取りに行ったのにわざわざ持って来て頂いて…本当にありがとうございます」
「僕で良かったね。悪い奴に拾われなくて」
「本当にありがとう。“お礼にお茶でも”と言うのも迷惑でしょうし、言葉でしかお礼出来ませんが本当にありがとうございました」
「言葉はいいから、お茶をご馳走してもらえませんか?」
(おい何を言っているんだ?)
「私は構いませんがご迷惑じゃないんですか?披露宴か何かの途中じゃないんですか?」
(この街では、この格好は披露宴に見えるんだ…)
近くの喫茶店に入ることにした
「私は、松下えりか。名前負けしてるでしょ。歳はたぶん貴方より年上かな?生まれも育ちもこの街よ」
それから時間も忘れ、仕事の事、趣味だの楽しみだの色々と話した
<真珠の場合>
俺は今日どうかしている
何故初対面のこの人に、自分から誘ってこうして自分の事を喋っているんだ?
仁希しか知らない生い立ちまで…
しっかりしろ!俺らしくないぞ
どうしちゃったんだ?
「やだ、もうこんな時間…ごめんなさい…忙しいでしょうに長話になってしまって…今日はどうもありがとう。気をつけて帰ってくださいね」
「せっかく知り合ったんだから、番号教えてくれる?」
「“携帯持ってないの”って嘘はつけないわね…でもたぶん私出ないわよ」
「いいよ出にくい時は出なくて」
<真珠の場合>
おい、何を言ってるんだ?
自分から番号なんか聞いた事ないだろ?
聞いてどうするつもりなんだ?
<えりかの場合>
悪い人じゃなさそうだけど、電話がかかってきても困るなぁ…
別に悪い事をしてる訳じゃないけど…
私は、松下えりか
地元の高校を卒業後就職し、そこで知り合った人と結婚して別れた
彼女が俺の事を警戒しているのは良く解かった…彼女は結婚暦はあるが多分夫はいない…だけど彼女はその事を決して口に出さなかった
「じゃぁさようなら。今日は本当に助かりました。ありがとうございました」
「じゃぁ。また電話していいですよね」
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