裸のラリーズwith山口冨士夫 - 渋谷屋根裏1980年9月11日 (Live, 1980) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

裸のラリーズwith山口冨士夫 - 渋谷屋根裏1980年9月11日 (Live, 1980)

裸のラリーズ - 渋谷屋根裏1980年9月11日 (Live, 1980) :  

Released by Univive  UNIVIVE-001 from the album "Mars Studio 1980 Remaster" (4CD, Unofficial) Disc 4, 2006
Reissued by Phoenix Records ASHBOX3 (4CD, Unofficial, UK), 2012
全作詞作曲・水谷孝
◎Double Heads September
4-1. 夜の収穫者たち Reaper of the Night - 11:40
4-2. 白い目覚め White Waking - 6:36
4-3. 黒い悲しみのロマンセ Otherwise Fallin' Love With - 11:05
4-4. Enter The Mirror - 9:48
4-5. The Last One - 23:49
Total Time: 62:32
[ 裸のラリーズ Les Rallizes Dénudés ]
水谷孝 - vocal, guitar
山口冨士夫 - guitar
Doronco - bass guitar
野間幸道 - drums  

 本作は単独アルバムとしてリリースされたものではなく、2004年にCD-R3枚組でリリースされた『Mars Studio 1980』が2006年にリマスター&プレスCDで再発売された際にボーナス・ディスクのディスク4としてリリースされたものです。水谷孝(1948-2019)率いる裸のラリーズに元ダイナマイツ、村八分、リゾートの伝説的ギタリスト、山口冨士夫が参加していた時期は1980年8月から1981年3月、うち1981年の1月・2月にはライヴが行われていませんから、実質的に半年間の参加にすぎません。しかしこの時期のラリーズは、'60年代から活動している現役最年長のアンダーグラウンド・シーンのバンドとしてもともと伝説的だった上に、水谷孝と山口冨士夫という二大伝説的ギタリストの共演としてかつてないほどジャーナリズムやリスナーからの注目を集めることになりました。記録上残されている山口冨士夫在籍時の活動は、

・1980年8月14日、渋谷・屋根裏ライヴ(山口加入後の初ライヴ) *『Double Heads』収録
・1980年9月4~7日・9日、国立Mars Studioアルバム録音 *『Mars Studio 1980』収録
・1980年9月11日、渋谷・屋根裏ライヴ
・1980年10月29日、渋谷・屋根裏ライヴ *『Double Heads』収録
・1980年11月7~8日、神奈川大学「100時間劇場~人工庭園・錬音術師の宴」オールナイト・イヴェント(ほか12バンド以上)
・1980年11月23~24日、法政大学学生会館ホール「イマジネイティヴ・ガレージ」オールナイト・イヴェント(ほか8バンド以上)
・1980年12月13日、渋谷・屋根裏ライヴ
・1981年3月23日、渋谷・屋根裏ライヴ(山口在籍時の最終ライヴ) *『Double Heads』収録

 つまり本作は『Mars Studio』セッションが行われてから数日後と、スタジオ録音明けにまっ先に行われたライヴでもあり、その関連から『Mars Studio 1980』の再発盤ボーナスCDとなったものでしょう。6CDライヴ盤『Double Heads』、3CDスタジオ盤『Mars Studio 1980』はこれまでにご紹介した通りです。山口冨士夫在籍時の裸のラリーズはほぼ毎月に1度のペースでライヴ活動をしており、『Double Heads』に収録されているのは山口冨士夫初参加の1980年8月ライヴ、名演と名高い10月のライヴ、1981年3月の山口冨士夫在籍時最後のライヴの3回分のライヴ音源でしたが、それ以外の4回も含めて山口冨士夫在籍時のライヴ7回の音源はすべて録音が残されており、『Double Heads』収録の3回は演奏内容、録音(ミキサー卓からのサウンドボード)、ミキシング、各回のライヴ完全収録(一部フェイドアウト処理がありますが)と、明らかにバンド側によって公式リリース可能な最高音質で記録されたものでした。他の4回のライヴは完全収録でなかったり音質にやや難があったりで『Double Heads』収録の3回分にはおよびません。『Double Heads』音源は観客からのレスポンスは完全にカットされてスタジオ録音と見まがうばかりで、入念なサウンドチェックかサウンドボード音源の再ミキシングか、おそらくその両方と思われますが、ミキシングもこれ以上はないというほど完璧でした。ほか4回のライヴ音源はかなりラフなサウンドボード音源かバンドに了承を得たと思われるオーディエンス録音で、ラリーズは即興性の高い演奏のバンドですし臨場感の点では申し分ありませんが、不完全収録とともにいかに『Double Heads』が突出したライヴ音源かを感じさせるものです。

 ですから山口冨士夫在籍時のラリーズはライヴ盤『Double Heads』と未完成スタジオ盤『Mars Studio 1980』の2点が最重要アイテムなのですが、『Mars Studio』の再プレスでボーナス・ディスクとして陽を見たこの1980年9月11日ライヴも十分聴きごたえがあるものです。収録時間62分で5曲とラリーズのライヴとしてはコンパクトで、ラリーズのライヴは通常2時間弱で7~8曲が演奏されますから、おそらくここで1曲目の「夜の収穫者たち」は実際のライヴでは2、3曲目に演奏されたものと思われます。ラリーズの楽曲中でも疾走感あふれる人気曲「夜の暗殺者たち」はラリーズのライヴ用レパートリーが一気に増えた1975年~1976年にセット・リストに加わった曲で、ラリーズの活動期間末期の1990年代まで演奏され続ける曲ですが、この曲はフランスの象徴主義詩人、トリスタン・コルビエールの詩篇「パリの夜」の日本語訳からタイトルを採った楽曲で、欧米ではラリーズとの音楽性の類似がもっとも指摘されるアメリカ西海岸のプロト・パンク・バンド、クローム(Chrome)の作風との類似が感じられる楽曲です。 

 山口冨士夫在籍時のラリーズがレギュラー的にライヴを行っていたのは当時は渋谷駅前、1階と地下に当時テレビCMまで展開していたグランドキャバレー「ロンドン」、そのビルの4階にあったライヴハウス・屋根裏で、椅子・テーブルでキャパ50人、スタンディングで200人程度の箱でしたが、前売り券などなかった当時4階までの内階段で入場待ちした光景を覚えていらっしゃる当時学生、現在50~60代の方も多いでしょう。新宿ロフトと並んでチャージ1500円、最低オーダー500円といった時代です。『Double Heads』収録の3回がライヴ収録されたのも渋谷屋根裏ですが、この『Mars Studio 1980』録音直後、1980年9月11日の屋根裏ライヴもおそらくサウンドボード録音ながら、公式レコーディングは意識せずライヴハウス側が記録していたものと思われ、おそらくサウンドチェックを簡単に済ませた分ライヴ冒頭の数曲でミキシング調整を兼ねていたためか、2、3曲目の「夜の暗殺者たち」からの収録になったと思われます。ミキシングも音質も粗く、また1週間ほどのスタジオ録音明けのためか緊張感をほぐしたようにバンドの演奏もラフなため、『Double Heads』と較べるとガレージ・ロック的な質感が増し、水谷孝と山口冨士夫の2ギターが蛇のように絡む『Double Heads』の3回分のライヴよりもルーズな放出感が勝っている点で、1時間で5曲の収録時間を一気に楽しめる内容としてこちらを生々しい演奏として採る、という聴き方もできるでしょう。オープニングから数曲が割愛されているにしてもここでの5曲はラリーズのベスト選曲でもあり、何より1974年以来1996年の活動休止まで不動のライヴ・エンディング曲だった「The Last One」の名演が聴けます。シチュエーションによって10分程度から最長40分まで、おおよそ平均20分台で演奏される「The Last One」ですが、ここでの演奏は約24分と平均的ながら、コーダというよりアウトロのインプロヴィゼーションが長めの、ノイズ成分たっぷりのフリーキーな演奏が楽しめます。つい数日間まで『Mars Studio』録音に集中していたのと、おそらくサウンドチェックが簡略でサウンド・バランスを模索しながらの演奏のため、ここでのラリーズの演奏は軽く流しつつ爆発する、というバランスが荒々しい音質とともによく出ており、臨場感の点で『Double Heads』に勝る、と愛聴されている方もいらっしゃるのではないかと思われます。 

 また圧倒的な音質の良さや緊張感、完成度では『Double Heads』にも収録された山口冨士夫初参加の1980年8月14日ライヴにおよびませんが、スタジオ録音を経て山口冨士夫参加2回目のこの9月11日ライヴでは楽曲の消化が格段に練れており、録音・ミキシングの状態もあって2ギターの分離が聴きとりづらい分ギターのせめぎ合いはより荒々しく、『Double Heads』ライヴの3回分がビシッと緊張感の張りつめたライヴならこの9月ライヴはヤクザな勢いで駆けぬけるような質感が楽しめます。音質面ではそのままオフィシャル・リリース可能な『Double Heads』にはおよぶべくもありませんが、山口冨士夫のギターの爆発力ではこのライヴの方が勝っているとも思え、それはラリーズが短期間水谷孝の1ギターだけのスリーピース編成だった1978年11月の青山ベルコモンズ「Cradle Saloon」ライヴと聴き較べれば、本作がむしろ山口率いた村八分や山口のソロ『ひまつぶし』に近い乗りであることでも、より山口色の出たライヴ音源のように思えます。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)