Jリーグが閉幕しましたが、思うような結果が出なかったクラブの中にはスポンサーなどから出向してきた社長が現場介入したことを低迷の原因と挙げる向きもあります。


これは、実際には非常にバランスが難しい問題です。


確かに上手く機能していた時期のバルセロナであれば、ご意見番のヨハン・クライフが「ラポルタ会長は良いことも良くないこともしたが、一つ彼が優れていたのは自分の領域ではない現場に口出ししなかったことだ」と語っているように、会長(社長)は経営のプロであるべきで、勝利を保障する方程式が存在しないスポーツの現場の方針にまで口を出さない方が良いというのは正論です。


一方で一般的に収益性が悪いサッカーチームの社長をわざわざ務めようとする人がどういう人であるかというと、やはりサッカーが好きな人、もしくはサッカーに深い知識がなくても選手の補強やチームのプレースタイルに介入したいと考える人が就任する可能性が高いでしょう。お金を出資しているのだから口も出したいというのは自然なことです。


また、このテーマには別の側面もあります。社長の現場介入をよく思わないファンが大勢だと思いますが、一方でJリーグではチームの成績が低迷すると観客が競技場に居残って社長への説明を求めるケースが実に多い。これはJリーグに顕著なことです。批判は試合中にすべきで、居残りはみっともない。


スポーツである以上、勝敗は論理的に説明できるものではないので、その説明を求めること自体に無理があるのですが、そこで社長に説明を求めるということは観客側も暗に社長の現場介入を認めていることになります。


プロクラブである以上、社長はクラブの顔であり経営とクラブのイメージ作り、そして各部門に責任者を置くところまでが仕事であり、チームを誰に任せるかは強化部長が決め、その強化部長も監督の方針には口を出さないという各管轄ごとの権力の棲み分けがサッカーのクラブ運営を安定させる根幹となります。


そして結果がでた暁には、社長が喝采を受けるべきです。現場に介入するのを我慢した最高責任者は、この時ばかりは一番の功労者として称えられる権利があるのです。

10日に行われたチャンピオンズリーグのバルセロナ対パリ・サンジェルマン戦はバルセロナが3対1でパリ・サンジェルマンを下していますが、前線に攻撃陣を多めに配置し中盤を放棄した驚きの布陣は試合後に物議を醸しています。


では実際にどういった点が従来のシステムと変更されていたか振り返ってみましょう。


バルセロナのこれまでの基本布陣は4-3-3で、動きの特徴としてはフォワードのメッシが中盤での組み立てに参加し、両サイドバックも積極的に攻撃参加するというもの。ただ、グアルディオラ監督が去った後のバルセロナでは、前線の崩しで必勝の型が見出されておらず単発な攻撃が多く、そのため敵守備陣を消耗させきれていない現状があります。



これがどういった弊害を生むかというと、バルセロナはボール喪失後の速いプレスでボールを奪回するスタイルを採用していますが、度重なるボール喪失はスタミナ切れによるプレス不全を招きます。また、守備陣も攻撃の組み立てのためのパス能力・戦術眼を最優先に選ばれた選手たちのため、度重なるカウンターに晒された際の耐久力は他のビッククラブの守備陣よりも劣ります。


特にサイドバックが上がった後のスペース(図の赤いエリア)が手薄になる傾向があるのです。 加えて、平均身長で他クラブを下回るバルセロナは、セットプレーを与えてしまうと空中戦で劣勢になってしまいます。


要するにバルセロナのボールポゼッションとプレスを機能させそれが結果に結び付くには前線での組織的な打開力が必須なわけですが、今季のバルセロナはその点がまだ不完全なのでビッククラブ同士の戦いでは従来の戦法が威力を発揮しない現状があるのです。


それどころかバルセロナが中途半端な攻撃を仕掛けたならば、敵にとってそれはカウンターとセットプレーを得る絶好のチャンスとなります。実際に従来の布陣でゴール前のセットプレーを敵に与えてしまったら、長身の選手はピケ(バルトラ)、マティウ、ブスケッツの3選手(図の黄色印)のみです。


さて、ここで今回の布陣を見てみましょう。この布陣、ハッキリ言って即興の布陣なので機能するかどうかは蓋を開けるまで分からないものだったはずです。




守備ラインはセンターバックをこなせる4選手で固め、サイドバックは敢えて上がらずオーバーラップを封印する代わりに4選手間のカバーリングを厚くすることでカウンター対策を行っています。また従来の布陣では長身選手が3選手でしたが、この布陣では決して背は高くないですが空中戦に対応できるマスチェラーノを加えると空中戦への要員が5選手(図の黄色印)に増えています。


サイドバックの上りを封じた代わりに、従来は3選手で構成する前線に4選手を配置しビックプレイヤー達の即興的な連携プレーを前面に出す方針を採っています。


この結果、中盤ではブスケッツとイニエスタの2選手が取り残されることとなったので(図の赤いエリア)、これを補うためにマスチェラーノがセンターバックと中盤の底の2ポジションを往来し、前線ではよりスタミナがあるペドロが中盤へのサポートを行っています。


もちろんこれらのサポートは補助的なものなので、中盤では普段よりもパスコースが減りバルセロナの中盤でのボールポゼッションは影を潜めました。ブスケッツのパスミスが頻発したのが象徴的です。この点を指摘し現地の評論家の中には「バルセロナがポリシーを放棄した」と批判的な意見も見られましたが、エンリケ監督はボールポゼッションを放棄して打ち合いによるシーソーゲームを仕掛けた方が勝機が高いと見たのでしょう。


エンリケ監督は終盤の68分にボールポゼッションを回復させるためにペドロを下げラキティッチを投入し中盤を3枚に戻しています。バルセロナは73分にイニエスタを下げチャビを投入するとその4分後にスアレスがダメ押しゴールを決め、ロスタイムにはアドリアーノもバルトラに代えて投入されています。






今回の戦い方が今後も継続されるのかどうかは分かりませんが、エンリケ監督が今回の試合では「賭けに出て勝利した」といえますね。



バルセロナ 3-1 パリ・サンジェルマン


ゴール経過

15分 0-1 イブラヒモビッチ

19分 1-1 メッシ

42分 2-1 ネイマール

77分 3-1 スアレス

スペインでライセンスを取得し始めた2003年、日本のB級に当たるレベル1の講習会の技術の授業で、スペインでは日本で「ドリブル」として括られている技術が2つのまったく異なる技術として扱われていることを知りました。


スペインではボールをオープンスペースに運ぶ「コンドゥクシオン(運ぶドリブル)」と、相手を抜くドリブル「レガーテ(抜くドリブル)」は、まったく別の技術として扱われているのです。


そして驚くことに指導現場ではこの2つのドリブルに特化した練習は殆ど行われていないものの、試合では各選手がTPOを使い分けてこのドリブルを使いこなしていました。


今回、「スペイン流2大テクニック 運ぶドリブル&抜くドリブルをマスターする本」という本を川島和彦さんとの共著で出させて頂くことになりましたが、その中で私は理論編を担当し、この2つのドリブルの違いと習得方法について紹介しています。


嬉しいことに発売から1カ月を経たずに増刷されることが決まったとのこと。ご興味ある方はお近くの書店でご購入&注文ください。

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スペイン流2大テクニック 運ぶドリブル&抜くドリブルをマスターする本
(マイナビ)
価格:1,523円
A5判:160ページ
ISBN:978-4-8399-5007-1
発売日:2014年01月31日



運ぶドリブル&抜くドリブル

2月6日発売のサッカークリニックでは、連載しているスペインサッカーの流儀でジュニア年代の選手が習得すべきボールポゼッションの練習について寄稿しています。



サッカークリニック3月号


サッカークリニック(ベースボールマガジン社)
840円

今回の記事ではシンプルさを重視するスペインのサッカー観をベースに、実践しやすい練習を紹介しています。また、通常は3つの練習を掲載していますが、今回は3倍の9つの練習を掲載しているので、皆さんの参考になれば嬉しいです。


サッカークリニック2014年2月号


2014年1月6日発売のサッカークリニックの連載「スペインサッカーの流儀」では、「選手の能力を現時点より伸ばす」と題して、育成での指導目標の設定について寄稿しています。

指導現場ではともすると、「プロを目指すため」という名目で選手の現在地からあまりに離れた目標が設定されている場合があるので、選手の能力に応じてステップを踏んだ指導の重要性について触れています。

またプロクラブの育成年代で選手が学ぶこと、そしてフォワードの育成論であまり触れられない「人材発掘」についても触れています。

12月6日に抽選が行われた2014年ワールドカップ・ブラジル大会の組み合わせですが、日本はコロンビア、ギリシャ、コートジボワールと同じ組に入りました。


この組み合わせについて、「良い組に入った」、「油断してはいけない」と楽観・悲観双方の見解が出ていますが、今回の組み合わせの難易度は正しくは「難易度の種類が違う」といえるかと思います。


ワールドカップに出場する国の中に、日本にとって組み易い相手は一国もありません。先の東欧遠征で日本は2敗し評価を下げ、その後のオランダ、ベルギー戦で1勝1分けで評価を上げましたが、短期間で日本の実力が向上したのではなく、この両方が日本の現在地の実力だといえます。


要するに、いくつかの要素の変動に大きな影響を受けるのが現在の日本代表です。


欧州と南米のサッカー大国とのグループリーグでの対戦は避けました。決勝トーナメント進出を目標とするなら、サッカー大国との対戦がないのは組み合わせに楽観的なイメージを与えるでしょう。


もちろん実力を平均化すると、それらのサッカー大国が世界でもトップレベルの強さを誇っているのは数字が証明しています。


ただ別の見方もあります。サッカー大国は優勝を目指しているがゆえに、決勝までの全試合数(7試合)を想定して各試合を戦うということ。一方で日本が対戦する3カ国は、大前提として優勝できる可能性が高くないことは自覚している国々です。そういった国はグループリーグから1戦1戦全力でくるでしょう。


ワールドカップでサッカー大国と序盤であたるということは、実力差は覆せないものの決勝までを見据える相手が消耗戦を避けたがっているという、挑戦者にとっては攻めどころがある戦いです。一方で実力が拮抗している中堅国同士の対戦では、どちらも全力でくる分、消耗戦になりがちで戦局の予想が困難なものとなります。


今回のワールドカップで日本が戦うグループリーグは、この後者の性格を帯びたグループです。


ベスト16や準々決勝進出といった「どこまで勝ち進んだか」という記録も大事ですが、そういった記録は自国内でのみ覚えていてもらえるものです。日本人の内、どのくらいの方が前回のワールドカップのベスト16やベスト8の国々を覚えているでしょうか。


オランダのように1974年と2010年にワールドカップ決勝に進出しながら、未だに優勝経験がない国もあります。現在の日本の実力では優勝は正直難しいでしょう。ではサッカー大国との対戦が避けられたことを喜ばずに、グループリーグで死の組といわれる国に入ってサッカー大国とガチンコ勝負をしたって良いのではないかな、と私は思います。

12月6日発売のサッカークリニック2014年1月号では、連載のスペイン・サッカーの流儀(10)で、


「攻撃の設定を施して試合をスムーズに進める」


というテーマについて寄稿しています。

チームに共通の約束事を埋め込む例を挙げています。



スペイン・バルセロナ サッカー監督日記-サッカークリニック2014年1月号


11月6日発売のサッカークリニック12月号の連載「スペインサッカーの流儀」では、「スペースの使い方」について寄稿させてもらいました。


スペースの作り方、埋め方、ポジション取りとスペースが出来る位置の関係について触れています。ご興味がある方は是非ご一読を。



スペイン・バルセロナ サッカー監督日記-サッカークリニック2013年12月号


17日にFIFA(国際サッカー連盟)からFIFAランキングが発表されましたが、日本は順位を2つ下げて44位となっています。さて、このFIFAランキング、日本のメディアでは親善試合などを行う時も相手国のFIFAランキングが併記されますが、これはあまり正しい使い方とは言えません。


スペインでは相手国をランキングと共に紹介することは少ないですが、そもそもFIFAランキングが重要なのは国際大会のグループ分けの基準になるからであり、その他では必ずしも「順位=その国の強さ」とはなりません。


各国がまず目指すべきは、自国がある地域の予選や地域内国際大会で第1シードに収まるための順位です。日本は現時点でアジア諸国で一番順位が上なので、このハードルはクリアしていることになります。


その次に目指すべきは、ワールドカップ本大会での第1、第2シードでしょう。そういう観点から見ると、ワールドカップ本大会に参加する国の中でFIFAランキングの上位7ヶ国(+開催国)は第1シードなので、その範囲に収まっていればランキングで1位でなくてもよいことになります。


この順位は親善試合での勝敗もポイント化され対戦相手が順位が上であるほど試合結果がFIFAランキングに反映するので、マッチメイク力で好カードを組める日本は順位が実力よりも上にランクされることがあり、東南アジア、中米、東欧の財政力に乏しい国は親善試合でポイントを稼げないので実力よりも下の順位が付きがちです。


一方で、ポイント付けで一番重視されるのはワールドカップなどの公式戦であることは間違いないので、そこで結果を出していれば親善試合でポイントを稼いだ他国に抜かれることはあまりありません。いずれにしても親善試合の相手をFIFAランキングと共に紹介するのは、視聴者に間違った印象を与えることになります。

日本代表が行ったセルビア、ベラルーシとの東欧2連戦は、2連敗という残念な結果に終わりました。


結果はもちろん残念ですし、実際にワールドカップに向けた展望は厳しいかもしれません。ただスペイン・サッカー協会がワールドカップ後に、強化をそっちのけで高額な興業費を稼げる親善試合に代表選手を強行出場させていたのに比べると、不景気の中、日本協会としては少しでも国内で代表戦を行い収益を得たいところを我慢して東欧遠征を敢行したのは、もう少し評価されても良いのではないかと思います。


代表戦で露呈している日本の弱点は、代表の取り組みが悪いというよりは、普段、多くの日本人選手が抱えてはいてもJリーグでは露呈しない弱点が、代表戦で他の国のサッカーと対峙したことで露呈しているだけです。そこをザッケローニ監督のせいにしても元も子もありません。


確かに短期決戦用にチームを仕上げる監督もいますが、その場合はその監督が退任すれば代表チームはゼロからのスタートを余儀なくされます。それよりも代表戦での課題を、Jリーグで検証する方が長期の強化になります。


例えば日本は韓国や欧州のチームのダイレクトプレーに弱いですが、国内ではそのようなスタイルのチームが少ないので、その弱さが露呈しません。言い換えれば、その弱点を攻めることができればJリーグでも勝ち星を稼げるということになります。そういった国内の切磋琢磨が代表選手を鍛えるのではないでしょうか。