10日に行われたチャンピオンズリーグのバルセロナ対パリ・サンジェルマン戦はバルセロナが3対1でパリ・サンジェルマンを下していますが、前線に攻撃陣を多めに配置し中盤を放棄した驚きの布陣は試合後に物議を醸しています。


では実際にどういった点が従来のシステムと変更されていたか振り返ってみましょう。


バルセロナのこれまでの基本布陣は4-3-3で、動きの特徴としてはフォワードのメッシが中盤での組み立てに参加し、両サイドバックも積極的に攻撃参加するというもの。ただ、グアルディオラ監督が去った後のバルセロナでは、前線の崩しで必勝の型が見出されておらず単発な攻撃が多く、そのため敵守備陣を消耗させきれていない現状があります。



これがどういった弊害を生むかというと、バルセロナはボール喪失後の速いプレスでボールを奪回するスタイルを採用していますが、度重なるボール喪失はスタミナ切れによるプレス不全を招きます。また、守備陣も攻撃の組み立てのためのパス能力・戦術眼を最優先に選ばれた選手たちのため、度重なるカウンターに晒された際の耐久力は他のビッククラブの守備陣よりも劣ります。


特にサイドバックが上がった後のスペース(図の赤いエリア)が手薄になる傾向があるのです。 加えて、平均身長で他クラブを下回るバルセロナは、セットプレーを与えてしまうと空中戦で劣勢になってしまいます。


要するにバルセロナのボールポゼッションとプレスを機能させそれが結果に結び付くには前線での組織的な打開力が必須なわけですが、今季のバルセロナはその点がまだ不完全なのでビッククラブ同士の戦いでは従来の戦法が威力を発揮しない現状があるのです。


それどころかバルセロナが中途半端な攻撃を仕掛けたならば、敵にとってそれはカウンターとセットプレーを得る絶好のチャンスとなります。実際に従来の布陣でゴール前のセットプレーを敵に与えてしまったら、長身の選手はピケ(バルトラ)、マティウ、ブスケッツの3選手(図の黄色印)のみです。


さて、ここで今回の布陣を見てみましょう。この布陣、ハッキリ言って即興の布陣なので機能するかどうかは蓋を開けるまで分からないものだったはずです。




守備ラインはセンターバックをこなせる4選手で固め、サイドバックは敢えて上がらずオーバーラップを封印する代わりに4選手間のカバーリングを厚くすることでカウンター対策を行っています。また従来の布陣では長身選手が3選手でしたが、この布陣では決して背は高くないですが空中戦に対応できるマスチェラーノを加えると空中戦への要員が5選手(図の黄色印)に増えています。


サイドバックの上りを封じた代わりに、従来は3選手で構成する前線に4選手を配置しビックプレイヤー達の即興的な連携プレーを前面に出す方針を採っています。


この結果、中盤ではブスケッツとイニエスタの2選手が取り残されることとなったので(図の赤いエリア)、これを補うためにマスチェラーノがセンターバックと中盤の底の2ポジションを往来し、前線ではよりスタミナがあるペドロが中盤へのサポートを行っています。


もちろんこれらのサポートは補助的なものなので、中盤では普段よりもパスコースが減りバルセロナの中盤でのボールポゼッションは影を潜めました。ブスケッツのパスミスが頻発したのが象徴的です。この点を指摘し現地の評論家の中には「バルセロナがポリシーを放棄した」と批判的な意見も見られましたが、エンリケ監督はボールポゼッションを放棄して打ち合いによるシーソーゲームを仕掛けた方が勝機が高いと見たのでしょう。


エンリケ監督は終盤の68分にボールポゼッションを回復させるためにペドロを下げラキティッチを投入し中盤を3枚に戻しています。バルセロナは73分にイニエスタを下げチャビを投入するとその4分後にスアレスがダメ押しゴールを決め、ロスタイムにはアドリアーノもバルトラに代えて投入されています。






今回の戦い方が今後も継続されるのかどうかは分かりませんが、エンリケ監督が今回の試合では「賭けに出て勝利した」といえますね。



バルセロナ 3-1 パリ・サンジェルマン


ゴール経過

15分 0-1 イブラヒモビッチ

19分 1-1 メッシ

42分 2-1 ネイマール

77分 3-1 スアレス