「俺も麻琴が好きだ。」

誠人は麻琴をじっと見つめ渾身の想いを込めて告げた。

途端に麻琴は視界がぼやけた。

「…速川っ?!!………あっ。」

急に誠人が見えなくなって麻琴は叫んだが誠人の唇が目元に触れて初めて涙が溢れていることに気づいた。

「泣くな。」

誠人はそう言ったが涙は次から次へと溢れて止まりそうにない。

「だっ…っ…て!…ひっく…はやっ…わっ!……っや…かわ!…」

麻琴はしゃっくりをあげながら夢中で誠人を呼んだ。

「大丈夫だ。俺はここに…麻琴の傍にいる。」

誠人は麻琴に応え安心させるように強く抱き締めた。

麻琴は返ってくる返事に、応えてくれるぬくもりに必死にしがみついた。

「俺もっ!俺も速川が大好きだよっ!!」

大きな声で叫んだ麻琴はなんだか恥ずかしくなって誠人の胸に顔を埋めた。

『バカッ!!大きな声で何てこと言っちゃってんだよぉ~。』

頭の上からクスと小さな笑いが降ってきて麻琴は慌てて顔を上げて言い訳しようとした。

「違っ!…いや、違わないけど……なんて言うか…あの……」

しどろもどろになりながら言う麻琴がかわいくて誠人は両手でまだ赤みのある麻琴の顔を包んだ。
「っ!…は……わっ!…はや…っ…!」

誠人を呼ぶ麻琴は冷たい風に晒されてのどをガラガラと乾燥させうまく声が出せなかった。

それでも麻琴は誠人の名前を呼び続け声にならない声は暗闇に虚しく吸い込まれて言った。

「ゴホッ…ゴホッ……はやか……速川っ!…はや………わっ!!!?」

途端にふわっとした感触からギュッと何かに後ろから包まれた。

「えっ!?…えっ?」

急な出来事に涙は引っ込みクリアになった視界にはカタンっと床に転がった松葉杖が映ったが見覚えがなくて麻琴は戸惑った。

「……麻琴っ!!!」




麻琴を包んでいたのは誠人だった。




ずっと会いたかったけど会えなかった誠人の声。

「……な…ん………で?」

息を詰まらせながら麻琴は問いかけた。

腕をほどいて振り返ると目の前に夢にまで見た誠人がいる。

「おばさんが麻琴は屋上から見る景色が好きだからって言ってたから俺もその景色を見たくなって。そしたら麻琴が…」

眉根を寄せて誠人はそう言いながらそっと麻琴の頬に触れた。

自分の名前を呼び続けていてくれた麻琴の頬を愛しそうに撫でた。

「俺も………」
「…これでいいはずなのに……ひっく…なんで涙が出るんだよぉ…」

麻琴は美佐子にノートを届けた後も空がほとんど光を失うまで屋上で1人誠人を想っていた。



『好き。』



自分のせいで怪我をさせてしまった誠人に会えないけど今の麻琴の精一杯の勇気を振り絞って書いた言葉。

もう誠人の役には立たないと知って何度も捨てようとしたノート。

でもそのノートを捨ててしまうと自分の気持ちまでなかったことになりそうで捨てれなかった。

『明日が退院だったなんて…。』

麻琴はその事実を受け止めようとしたのに心がそれを拒否していた。

傍にいたい―

傍にいてほしい―

それが報われないとわかっているのに。

『バカ、俺…気持ちを伝えて全部速川のこと忘れようと思ったのに。それでいいはずなのに……』

冬の風はすでに何時間も外にいる麻琴を感覚が失われるほど芯から冷えさせていたが今度は夜の闇が麻琴を飲み込もうとしていた。

たとえそうなっても麻琴は誠人との繋がりが失われるのを恐れてそこから動こうとしなかった。

最後―

それはとても残酷な言葉で麻琴は涙を止めることができずに空に誠人の名前を呼び続けることしかできなかった。