UFC ベラル・モハメッドVSヴィセンテ・ルケ 感想ほか | 銀玉戦士のアトリエ

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えーと前回のエントリーでは色々と取り乱してしまって申し訳ありませんでした。

 Twitter時代のスイッチが入ってしまって何だか嫌味な文章になってしまいましたが、日本のMMAへの処方箋というか提言に関しては後々じっくりと語っていきたいと思っています。

当ブログのコメント欄では、喧嘩腰にさえならなければ異論反論も普通に受け付けますので宜しくお願いします。

 

今回は先日行われたUFCファイトナイト興行の感想です。

メインイベントで行われたウェルター級契約のヴィセンテ・ルケVSベラル・モハメッドの試合は、2016年からの6年越しのリマッチとなったわけですが、この6年の歩みの中でUFCウェルター級ランカーとなった両者の進化というものが現れた成熟した攻防を堪能する事が出来ました。

その他、印象深い試合も幾つかあったのでレビューしていきましょう。

 

 

🏟UFCウェルター級ワンマッチ🏟

⚪️🇵🇸ベラル・モハメッドVSヴィセンテ・ルケ🇧🇷⚫️(5R判定勝利)

 

 

2016年に行われた両者の6年越しのリマッチです。

 

前回はヴィセンテ・ルケが相手の右を左でガードしてから即座に左フックで打ち抜いて1R・79秒でKOするという芸術的なフィニッシュで勝利を上げています。

 

https://youtu.be/p8Z2lmWFGnE

 

ルケはモハメッドの左右のサークリングを内外のローキックと左ミドルで足止めしつつ、相手が打ちに行ったところへ得意のカウンターをヒットさせた狙いがズバリ成功しました。

この試合から6年が経過しルケはUFCで10勝2敗、モハメッドもUFCで11勝1敗と勝ち星を積み重ね、それぞれウェルター級のランキングを4位と6位にまで上げてきました。

 

ヴィセンテ・ルケはサンフォードMMA所属の選手。ガードを内側に高く構えたダッチムエタイスタイルをMMAに踏襲させたストライキングが得意な選手で、これまで数々の激闘やKO劇を魅せてくれましたが、ここ2試合ではタイロン・ウッドリー、マイケル・キエサと組み技の強いトップファイターを相手にアナコンダチョークで一本勝ちを納めるなど、グラウンド技術の進化も目覚ましいです。

 

対するベラル・モハメッドはパレスチナ人の両親との間に生まれたアメリカ在住の選手で、UFCではパレスチナ国旗を掲げ戦います。

シャープな打撃と多彩なテイクダウンを武器に戦う、立って良し寝て良しの技巧派ファイターでしたが、近年はハビブ・ヌルマゴメドフとの合同練習の成果からテイクダウンとそこからのトップキープ能力が飛躍的に向上し、前戦ではTDD能力に長けたスティーブン・トンプソンに判定勝ちを納めています。

 

試合はヴィセンテ・ルケがプレッシャーを掛けていきます。モハメッドはケージを背負わされながらも左右に動き、ルケも前回の試合と同じく右カーフキックやサウスポースイッチからの左ミドルで左右の動きを封じ込めようとしますが、モハメッドのフットワークも巧妙で、近づいて左右のKOパンチを当てたいルケに的を絞らせません。何だかエディスランディ・ララっぽいフットワークです。

 

一方のモハメッドですがプレッシャーを掛けられ、左右に動き回りながらも時折前に出て左ミドルや左右のパンチを出していってルケをバックステップさせます。そしてこの左右のステップのフェイクを見せてから全てのラウンドでタックルを成功させ、グラウンドでトップをキープします。

 

そこから立ち上がってスタンドに戻ったルケも左ストレートを当ててモハメッドを一瞬ぐらつかせる場面も見せますが、やはりモハメッドのテイクダウンを警戒してか一気に追撃を仕掛けられず、モハメッドの左右の巧妙なフットワークでパワーショットを打ちたいけど打つ的が絞れません。

 

2-2のイーブンとなった最終5R、モハメッドは2度タックルを仕掛けますがルケもそれを切り、相手の首をがぶって得意のフロントチョークへと移行しますがモハメッドもそれを外します。

ルケの打撃か、モハメッドのテイクダウンか。やや疲弊した印象のルケに対し、モハメッドが3度目の正直でテイクダウンに成功し、バックコントロールで首に手を掛けていきます。

ルケもグラウンドから脱出しますが、このテイクダウンとコントロールがポイントとなり、判定はベラル・モハメッドが勝利。息詰まる技術戦ではありましたが、モハメッドがこの6年間で身に付けた自らの「強み」を生かし、それを信じ切って戦術を貫徹させていった上での見事なリベンジでした。

 

両者の6年間の歩みをずっと追い掛けてきたファンにとっては、味わい深い5Rマッチでした。

 

 

 

🏟UFCウェルター級ワンマッチ🏟

⚪️🇹🇳ムニール・ラジーズVSアンジェ・ルーザ🇨🇭⚫️(3R判定勝利)

 

 

ムニール・ラジーズはチュニジア生まれ、ドバイ在住の34歳の選手。

BRAVE CFやUAE Warriors等の中東MMA団体を経て、2020年にUFCデビューしています。

一方のアンジェ・ルーザはスイス在住の選手で、インスタではギルバート・バーンズとツーショットで映っている写真がよくアップされています。

ラジーズの当初の対戦相手の負傷欠場により今回の試合がUFCデビュー戦となります。

 

ラジーズはキックボクシングをベースとしたファイトスタイル、ルーザも元K-1ファイターのヘンリー・フーフトがヘッドコーチを務めるサンフォードMMAでよく練習しているという事で、普通に純キックボクシングの試合として観ても遜色の無い、中間距離でのハイテンポな打撃戦が繰り広げられました。

 

ラジーズはオーソドックスに構え、左リードジャブを丁寧に突いていきながら、左ボディ、ローキック、右ストレートと攻撃を散らしながら、10cmの身長差を活かして打撃戦を優位に進めていきます。パンチとキックのバランスも良く、時折対角線コンビネーションのような打撃を出していきます。立ち技ファンならば気に入って貰えるようなファイトスタイルの選手です。

 

https://youtu.be/1P0_rMxj8Oc

 

そういった攻防の中でも時折両者タックルを仕掛ける場面も見られ、そこは流石にMMAの試合だなと唸りました。

ルーザもブロッキング主体のダッチムエタイスタイルの弱点という事でガードの隙間からジャブを多く被弾しながらも、同じく攻防の中でジャブ、ワンツーを返していく場面が見られましたが、ラジーズもポジションを変えて効かせる角度で右ストレートを打ち抜くなど、ストライキングの技術では完全に上回っていました。

 

判定は当然フルマークでラジーズの勝利。

ラジーズは34歳、王者を目指すためにはもう駆け足で上がっていかなければいけない年齢ではあります。レスリングエリートがトップランカーとして多く君臨しているUFCウェルター級戦線において、ラジーズが今回の試合のような綺麗な純キックボクシング的な試合を披露する事は段々難しくなってくるとは思いますが、K-1最高😝‼️軍としては是非とも頑張って貰いたい選手の一人です。

 

 

 

🏟UFCヘビー級ワンマッチ🏟

⚪️🇺🇸デヴィン・クラークVSウィリアム・ナイト🇺🇸⚫️(3RTKO勝利)

 

 

デヴィン・クラークは元々UFCではライトヘビー級で戦っていた選手で、今回がヘビー級契約での初めての試合です。

一方のウィリアム・ナイトもライトヘビー級から階級を上げてきたファイターで、ヘビー級ではアンコ型の体型を駆使したケージレスリングと一発のある長距離砲が武器の選手です。

 

計量時はクラークが101kg、ナイトが113kgと12kgの体格差が既にありましたが、試合時にクラークがあまりリカバリーしていない身体付きだったのを見るに、当日は20kg以上の体格差があったものと推測されます。

 

試合は意外にも体重の軽いクラークが主導権を握ります。危険な拳を振り回しフィジカルで押していくナイトでしたが、スピードで勝るクラークが打撃を見せてからのタックルでテイクダウンを奪うなど、技術でナイトを翻弄していきます。こういう攻め手は軽量級では当たり前のように見られていますが、一発で試合が決まる事の多いヘビー級の場合だと余計にクラークの技巧ぶりが際立ちます。

 

クラークは3Rにケージレスリングの展開で相手の左手をリストコントロール(手を掴む)して左のガードを下げさせてから右エルボー→左フックを効かせ、左右フックの連打でTKO勝利。

このリストコントロールからのKO劇はコーミエミオシッチの第1戦と同様の技術です。

 

https://ameblo.jp/fanroad-gindama/entry-12389426409.html

 

「ヘビー級で体格の劣る選手が、技術とスピードでそれをカバーして活躍する」というファイターは、旧K-1だとアーネスト・ホースト、アンディ・フグが有名でしたが、立ち技もMMAもライトヘビー級以下の階級をきっちりと制定するようになってからはそういう選手も意外と見られなくなってきただけに、ヘビー級で技術とスピードで相手を攻略したデヴィン・クラークの勝利が懐かしくも新鮮に感じました。

昔のK-1ヘビー級だと体重80kgのガオグライ・ゲーンノラシンが体重130kgのマイティ・モーをKOしたり、PRIDEで高瀬イイジュさんが体重270kgのエマニエル・ヤーブローに勝利したりと、今では考えられない無茶なマッチメイクをしていましたが、小さい選手が大きい選手を倒すというのも格闘技における一つのロマンであります。

 

7月にジョン・ジョーンズがヘビー級に階級を上げてスティぺ・ミオシッチとヘビー級暫定王座決定戦を行うという話も出ているようですし、ライトヘビーから階級を上げた選手が、技術とスピードで相手のパワーとフィジカルを凌駕する、といったシーンが多く見られるようになって欲しいです(ただジョンジョーンズはちょっと違うような気もするけれど)。