上記記事の続きになります。

釣りシーズンが終わった後、私達は見たものの不可解さについて、暇さえあれば殆どの時間を使って議論を行いました。
この頃には、
【魚の感覚器は視覚依存ではない】
無気力明暗程度は感じてるけど、ある意味飾り
【激流を泳ぐ魚族は音依存ですらない】
泣き笑い水中うるさすぎた
【感覚を統合処理する脳が小さすぎる】
つまり…

【判断より反射が優勢、学習結果(判断)は反射の数秒後に】

凝視反射を引き出さない餌なんぞ生ゴミですよ
そして…
【魚は後ろ(死角領域)の情報を見ないでも知っている】
不安驚き薄々感じてはいたけれど…
加えて…
【浅瀬の岩場を猛スピードで遊泳する魚は、岩に接触も激突もしない】
【水流の体表触覚は反射を引き起こすが、それだけでは説明出来ない動作を行っている】

昇天泳ぐ度にぶつかってたら死ぬもんね
あんぐり姿勢制御要素に重力・水流以外の要素がどう考えてもあるのですよ

観察結果からこれらの事実が浮上しました。

特に死角の情報に関して、「〜のように感じる」などという曖昧なものではなく、瞬時に「〜はxxxだ」と当然のこととして見たように理解しているのは何故なのか?
(例:敵?ではなく敵!、餌?ではなく餌! 等)

目があって鼻口があって側線があったら、地上の生き物と同じように視聴覚が優先感覚になると考えがちですが、おそらくその考えは途方もない誤りであった事。
人間が従来考えている感覚器への依存度は1〜2割程度で、8〜9割の「情報」は未知の感覚器官から得ている可能性がある…と。

師走に入ったある日のこと、BGMがてらに適当に流していたYouTubeで「まんが日本昔話」に気が付きました。

釣り人垂涎の名作、イワナの怪

真顔Bさん、子供の頃(戦前)「ね流し」やったって言ってたよね…
多分当時から違法だったと思われます。現代では間違いなく逮捕されます。
ちょっと不満んむ…あの辺り食用でみんなやってたでしょ
大あくびレシピ覚えてる?
真顔大体ね。アニメのレシピは一部だけだね。手順もかなり違う…
驚き具体的には?
ニコニコ下上中ゲームのコマンドみたいねw
※川の流れの話です
凝視上下中じゃなくて?
知らんぷり下上中だよー!
物申す大事な事だから思い出せ! 断言出来るのか?
真顔できますー!下上中ですー!
###そこから1時間ぐらいすったもんだして###
むかつきもういい、Bさんに電話して?
ちょっと不満「ね流し」の手順教えろって? バカじゃね?
物申すじゃあ俺が掛けるから!
知らんぷりどーぞどーぞ?(変な疑いかけられそ)
###更に30分後###
にっこりなんかね?知ってる人集めて話し聞かせてくれるって。だから禁漁期間中だけど温泉入りおいでって!
ニコニコそっかー(…Bさん商売上手だ、流石年の功)
ニコニコ釣りも「ね流し」の実演も出来ないって何回も言われちゃった♪
ニコニコそうなんだ〜(100%疑われてる💦要注意人物の周知を近所にされるんだな。やだわぁ)
よだれ雪深いから在来線で行こう!乗り鉄だから嬉しいな♫
ニコニコ…うん💢(クソ野郎め)

私は非常に気が進まなかったのですが、雪の中コトコト鈍行で乗り継ぎながら片道4時間半。
「ね流し」の話だけを聞きに行くことになってしまいました。

今から思えば何かに導かれていたのだと思います。

Bさん達の昔話から、未知の感覚器官に関する重要な示唆と閃きが与えられると。
私達は想像すらしていませんでした。


上記記事の続きになります。

魚に保護者はおりません。
稚魚期から成魚に至るまで、何を食べれば良いのか? 誰も教えてくれないのです。
加えて、魚には定規も鏡もありません
相手より自分が大きいか小さいか? 大小の程度を示す単位は無く、自分自身の大きさを見ることも無ければ、教えてくれる相手も居ません。

しかし、魚は全てを知っています。
何を食べて何を食べるべきでないのか?
食べ物はもとより、相手や自分自身の大きさについて、ミリ単位の精密さで把握しています。
何より重要な事として、どんなに過密になったとしても、パニックにならない限り衝突や接触をすることは殆ど起こりません。重力ジャイロ的なものだけでは説明し得ないほど綿密に、一定の距離を保つ事ができます。相手に触れるときは、攻撃しているときか、外部の力に翻弄されて自主的に動けなくなっている時ぐらいです。

これは五感だけでは説明しかねる、どの魚にも普遍的に備わった魚族特有の感覚能力で、私達人間が知り得ない第六感とも言うべきものなのではないか? と。

Mダム以前の段階で、私共は上記のような仮説をたてておりました。

Bさんに教えられたMダムは、村の中心を流れる本流河川の最上流部に位置しておりました。
2本の沢が合流して大きく堰止められたそれは、今流に言えば魚道も何も無い「やってはいけない」を全て行ってしまったような代物で、当時遡ること6年前に完成したものだと。

緑色が水の流れになります。
2つの沢から流れ込むものの、沢とダムはそれぞれ高さ3メートル程の砂防堰堤で区切られ、貯水率は常時60%前後。
落差20メートルほどの急な坂になったコンクリート製の放水路からは、ウォータースライダー程度の水流が常時出ている…魚族保護の観点からは、最低最悪の構造のダムでした。

横からだとこんな感じです。

当時、水道がなかった村の飲用水を賄う為に、いわゆる村興しがてらに交付金でダムを作ったものの、熊が頻出する上に希少な大型猛禽類の営巣地でもあったので、外部の人間を一切シャットアウトすることになった、と。

中途半端に観光客を意識した地名や自然物の解説板や無人の展望台がなんとも物淋しい、大自然の中に忽然と現れたダムは、ディストピアめいた異様な場所でした。
加えて、6年間行き場無くきっちり閉じ込められた大ヤマメが探すまでもなく養魚場の如くにうじゃうじゃ群れる……地獄だか天国だかよくわからない物凄いポイントです。

Bさんはクーラーボックスから何かを取り出し準備を始めました。
ウインク「凍ったまんまだ、少し遊んでてくれな?」
持ってきた餌がガチガチで使い物にならなくて、石とナタで崩そうとしているようでした。

私達は余りにもべらぼうな光景に圧倒されて、始めはただただ沈黙していたように記憶しています。やがて全景を把握しようとB沢堰堤入口から離れて、展望台に移動しました。
ここならばA・B沢どちらの入江もはっきりと見下ろせる最高の観察場所です。
水面に目をやれば、鯉のような太さのヤマメ、ヤマメ、ヤマメ…常軌を逸しています。
あんぐり「頭がおかしくなりそう」
無気力「こんな場所…魚…気が狂う」
対岸まではGoogleマップのざっくり目視で50メートル程。止水という感じではなく、砂防堰堤から滝のように入った流れは合流地点で渦巻いて、水面の落水物を見ても「流れている」感じはあります。
Bさんがナタで冷凍餌の固まりを叩く音がやみ、準備が出来たと知れました。
爆笑「今、撒き餌で寄せるから、気をつけて降りてきてな」
いうより早く、Bさんはバケツいっぱいに砕いた何かをB沢堰堤から豪快にぶちまけました。
着水音と同時にダムの水を底から撹拌したように水面が盛り上がり、滝の音より凄い水音を立てて巨大ヤマメが群がります。
「「!!!!!!!!!!!」」
その瞬間、私達は見たものの不可解さに、パニックになりかけました。
グラサン「やっぱりナマコ(冷凍生筋子)はすげえなあ!」
Bさんは誇らしげに声を上げると、タバコをふかし始めます。
あんぐり『今見た?!』
驚き『見たよ、見てたよ!なんで…』
不安『おかしいよ、どうして』
驚き『着水音と同時にしか見えなかった!』
不安『タイムラグ無しにA沢の魚が走った!』
驚き『どうしてB沢の事がわかったんだ?』

狂ったように2人で走り、Bさんを質問責めにします。

あんぐり「Bさん!いつもこんなことをしているのですか?」
ニヤリ「いつもはやらねえよ?」
物申す「前回来たのはいつですか?!」
キョロキョロ「4-5年前、かなぁ?いつかやろうと思って麓のスーパーで買ってあったんだよ」
不安「…いつか?」
てへぺろ「思ってたより湧いてびっくりしたなぁ」
無気力「思ってたより?」
爆笑「こんなこと初めてやるよ。ナマコ高えもん」
今しがた空になった半額シールの残るパックの賞味期限。
…確かに3年前の日付が印字されてるのです。

大ヤマメがBさんのイクラぶちまけを過去の経験で学習していた可能性は限りなく薄くなりました。
不安驚き「「着水音と同時に、A沢の魚が反応したんですよ…」」
ニコニコ「そりゃあそうでしょ、水の中のことだからな」
不安「A沢からここは見えないし、流れもあるし…」
ウインク「だって繋がってるでしょ?」
無気力「いや、匂いとか…同時ってのは、」
ニヤリ「昔からそういうもんだ、魚にはわかるんだよ」
あんぐり「だとしても今の速さは…、」
照れ「見たものが全てさね。頭で考えすぎちゃいけねえよ」
日没までに釣ろうとBさんに促されて、私達は予想だにしなかった大釣果を獲得しました。
爆笑「また来シーズンおいでな? 禁漁期間中に来たらとっ捕まえるからな!」

晩夏の午後は日没早く、Bさんに釣果の処理をしてもらって、私達は全く釈然としないまま大きな「宿題」を持って墨田に戻ったのでありました。






間が空いてしまいましたが、上記の続きです。

冬季は行ける山も無いので、管釣り等でお茶を濁しつつ、私たちは餌の開発に邁進しました。
とはいえ、一番の核心部分に気づいてすらいない時期だったので、魚の5感に訴えるものしか作ることができません。
視覚(見え方)
聴覚(着水音、水中で立てる音)
嗅覚(匂い)
味覚(味)
触覚(口触り)
ここまでコンプリートしても、最終的に「学習」というステップ〜口に入れたら旨かった、これがなければ、野生の魚は絶対に食べてくれないのです。
何かがおかしい。
私達は何を見落としてる?
目の前に正解があるのに辿り着けないジレンマと不明確なソレを言語化出来ない苦痛は凄まじいばかりでした。
それとは別にふと思い立ち、来季の釣りの宿泊先を変更してみよう、と。どちらともなく言い出しました。
これは前シーズンから考えていたことで、地元の山をガイドしてくれる人が居る宿が絶対にいい、と。
現地観光協会に問うと、かなり山側にあるYという宿を紹介してもらいました。
Y宿のご主人、元ハンターのBさんとの出会いが、全ての鍵となりました。

今流に表現すればエコツーリズムとかそういう形態になるかと思うのですが、普通に生活していたら一生体験できないような物凄い場所に、私達は幾度もガイドをしてもらいました。
熊が普通に出る場所だったのも大きい要素でしたが、最初の年はBさんの指示通りの場所と装備に徹底し、山の掟や基本的なルール、人の脆さや車の壊れやすさ、野生動物の恐ろしさについて学ぶ年でした。

関係者以外立ち入り禁止の鍵付きゲートで区切られた広大な村有林に入る時はいつも、ジュラシックワールドに行くような緊張感に満ちています。
うっかり食べ物の匂いをさせれば動物に襲撃され、野生の猿などは普通に投石してきますし、車のガラス越しに食物が見えれば即座にガラスは叩き割られ、シートは剥がされます。
同じ時期にBさんの所に通っていた都内ナンバーの釣り人は猿に車のガラスを割られて、それでも頑張ってレンタカーで通っていたのですが、羚羊に突かれて救急ヘリでの下山=リタイアとなりました。私も滑落創から人生初の破傷風になって墨東病院のお世話になりました。

野生動物の前に私達は圧倒的弱者で、車は身を守る武器にはなり得ない。
ここでふざけると普通に死ぬと痛感させられた最初のシーズンの最終週、Bさんがご褒美に山の中の小さなダムーMダムを紹介してくれました。

このダムが、私達の「なぜ?」の旅の終着駅になり、全ての知識の始発駅にもなったのです。

工藤にとってMダムは、生涯かけて挑んだ聖地となりました。