ATの原理<3>感覚的評価はあてにならない | 音楽家のためのアレクサンダー・テクニークレッスン〜フルート奏者嶋村順子

音楽家のためのアレクサンダー・テクニークレッスン〜フルート奏者嶋村順子

♪アレクサンダー・テクニークを演奏に生かすレッスン♪
~ココロを自由に、カラダも自由に、自分らしく生き、演奏する~
アレクサンダー・テクニーク教師&フルート奏者の嶋村順子です。
演奏者の心理的・身体的問題を解決する方法を探求しています。

アレクサンダー・テクニークの原理、

3つめは「感覚的評価はあてにならない」というお話です。

 

(参照)

  アレクサンダー・テクニーク(AT)とは

    → http://ameblo.jp/espressivo1214/theme-10054502057.html
  ATの原理その1(頭と脊椎の関係~プライマリー・コントロール) 

    → http://ameblo.jp/espressivo1214/entry-11256115099.html

  ATの原理その2(指示・方向性~ディレクション)

    → http://ameblo.jp/espressivo1214/entry-11272354441.html

 

分かりやすく言うと、

「私たちが『正しい』『正しくない』と感じている基準はあてにならない」

ということです。

 

具体的な例をいくつかご紹介します。


 

<私が初めてアレクサンダー・テクニークのレッスンを受けた時>

 

先生に立っている時の姿勢を直してもらいました。

それまでは背中を反らせ気味の「きをつけ」が過剰な立ちかただったのですが、

先生のガイドで、人間の骨格構造に沿って脊椎の上に体重がのっかるような

効率的な立ち方になりました。

「どんな感じですか?」

「え~と、ものすごく楽で、

 これなら長時間でも腰が痛くならないで立ち続けていられそうです。

 …でも、とても猫背になったような。

 まるでゴリラになったみたいでとても違和感あります。」

すると先生は他の生徒さんたちに聞きました。

「じゅんこさん、猫背ですか?ゴリラみたい?」

みな首を横に振ります。そして横に持ってこられた鏡の中の自分を見てびっくり

「まっすぐじゃん。。。」

これが、姿勢に対する感覚がおかしいことに気づかないという実例その1です。

 

 

<楽器を構える時の腕の使い方を直したとき>

 

実例その2は「楽器を構える時にひそむクセ(腕)」でも書きました。

  → http://ameblo.jp/espressivo1214/entry-11291356926.html

 

腕の使い方を変えた時に「変な感じがする」と思いました。

あきらかに楽な持ち方に直り、自分でもそれを喜んでいたはずなのに、

意識しないとすぐにいつものやり方に戻ろうとしてしまいます。

長年やってきたやり方の方が馴染み深くて「正しい」感じが強いのです。

新しいやり方の方が「間違った」感じがする、

という感覚的評価を持っているのです。

でもこの「正しい」とか「間違っている」感じは実は正確ではなくて、

新しいやり方の方が自分の身体へのダメージは少なく「正しい」はずなのです。

 

 

<あるピアニストのレッスンのとき>

 

AT教師がそのピアニストの椅子の位置を変えるアドバイスをしました。

もっとピアノから離してもいいのでは?という提案です。

ピアニストは違和感があってなかなか受け入れにくそうでした

でも、実際には彼女の腕の長さにみあった距離であり、

彼女の腕がストレスなく動ける距離だったのが徐々に実感でき、

少しずつ受け入れていきました。

教師は

「あなたが子供の頃の椅子の位置を、

 身体が大きくなった今もずっと使っていたのですね。」

と言いました。

 

 

<アレクサンダーさんの著書に書かれた女の子の例>

 

何年も変な歩き方をしていたせいで少し奇形な状態を起こした女の子に

アレクサンダーさんがレッスンをしました。

一時的に身体がかなりまっすぐになり、

それまでかかえていた身体のねじれや歪みが直ったそうです。

でもその女の子は母親に「わたし、変な格好にされちゃった!」

と言ったそうです。

彼女の感覚認識では湾曲した状態が「正しい恰好」で、

まっすぐな状態は「変な格好」だったのです。

もし彼女がこの感覚認識を基準にしていることに気づかず

「もっと『正しい恰好』になりたい」と努力したとしたら、

湾曲はますます進んでいたことでしょう。

 

 

人間は経験を積んで習慣を獲得します。これを「学習」と呼ぶこともありますね。

繰り返し学習して獲得した「技術」である場合もあります。

習慣化が進んで無意識にやるようになると、

「なにかをする」時に動かすパターンはほぼ自動的に行われるようになります。

 

たとえば、外出する時に家の鍵をかけますが、
ほぼ無意識にカチャッとやっていますよね。

「あれ?鍵かけたよね」という感じです。

字を書くとき、料理をする時、お風呂に入る時、

特に意識せずとも習慣的に動いていると思います。

楽器の演奏など、修練を重ねた「技術」は、まさしく習慣的です。

 

毎度毎度いちいち考えなくてもすむので、

これはこれで人間にとっては便利なシステムなのですが、

 

根付いた習慣が本当に「ベストな動き方」、とは限りませんね。

 

必要以上に今までのやり方にしがみつかなくてもいいのかもしれません。

 

あるときに獲得した感覚認識でも、

 

時を経て身体の状態が変わったり、心理的な環境が変わったり、

または新たな効率の良いバランスを発見した時には、

 

動きのパターンを更新する必要があるのです。

 

その時に過去の感覚認識を基準にしていては更新できません。

 

人の動きは毎瞬毎瞬違っている、毎回毎回より良い動きが存在する、

 

そういうふうに考えてみることが大切なのです。

 

今持っている自分の感覚認識は「あてにならないもの」だということを知って、

いつも新しく、より良いバランスを見つけて

アップデートできる楽しみを持ってみましょう

 

「なんだか、変な感じ」「違和感がある」は大正解。

間違った感じがするということは、実は「新しい」ということなのです!

 

そして自分の感覚認識の基準をよりあてになるものとするために役立つのが、

アレクサンダー・テクニークの原理、プライマリー・コントロールです。

(アレクサンダー・テクニークが「違和感の壁」を乗り越えるのに役立つ話はこちらにも)

 → http://ameblo.jp/espressivo1214/entry-11280301697.html


プライマリー・コントロールがうまく働いていると、

自分の身体が最も自然に良い状態、ニュートラルな状態になります。

この状態で新しい動きのパターンの習慣を作っていくことが、

アレクサンダー・テクニークです。

 

このことを「自分自身の再教育」と言ったりしています。

 

自分の感覚認識のレベルを上げていくことが出来るのです。

 

さあ、

これで今日から誰でも自分の感覚認識をアップデートできる可能性がうまれましたね。

 

「頭と首が楽で自由に動けて、

 頭が上方向へ脊椎から離れていくように思って、

 身体全体が自由に動ける」と意図したうえで

 

「新しい感じ」に対してどんな感じがするかを認識してみてください。

「今までと違うけど、なんだかラクになった気がする」といいですね!

 

もし、読んだだけではピンとこない、よくわからない方がいらっしゃったら、

ぜひ一度ATのレッスンを体験してみてください。