どんな指導が役に立つのか | 音楽家のためのアレクサンダー・テクニークレッスン〜フルート奏者嶋村順子

音楽家のためのアレクサンダー・テクニークレッスン〜フルート奏者嶋村順子

♪アレクサンダー・テクニークを演奏に生かすレッスン♪
~ココロを自由に、カラダも自由に、自分らしく生き、演奏する~
アレクサンダー・テクニーク教師&フルート奏者の嶋村順子です。
演奏者の心理的・身体的問題を解決する方法を探求しています。

ここのところよく耳にすることがあり、気になっています。

「あの先生の前だと緊張してうまく吹けない」
「その先生に聴かれていると緊張して失敗してしまう」

主に学生さんの悩みです。
詳しく話を聞くと、どうもその先生の言動が、悩める学生さんたちには辛いようです。
「できない自分が悪いのだけれど、怒られるとすごくこわいし、落ち込む」ので、
その先生の前に出ると萎縮してしまうそうです。

私自身が音楽を学んできた中では、
こういう威圧的な質を持った先生とは全く出会いませんでした。
今考えるとかなりの幸運だったと思い、師事した先生方には感謝の気持ちでいっぱいです。

でも、現実には
生徒さんに不必要に高いプレッシャーを与える教え方をされる先生も、
中にはいらっしゃるようです。
私がフルート講師として仕事を始めてから、そういうケースに時々出会いました。
高圧的な態度や見下すようなふるまい、感情的に怒るといった
キレキレタイプの指導者のもとで萎縮してしまった生徒さんに出会うことが時々ありました。
自分の生徒さんではなくても、胸が痛みました。


指導するうえではもちろん時には厳しさも必要です。
ですが、生徒さんを全否定するような言動はやはり避けたいと思います。

全否定や萎縮させるような指導は、生徒さんのココロもカラダも固くしてしまいます。
生徒さんは文字通り「萎縮」します。


アレクサンダー・テクニークの原理でお伝えしているように、
カラダ(特に頭と首)が押しつぶされると身体は効率よく動くことが出来ません。
萎縮は演奏を邪魔します。

考えてみてください。
あのミミズがのたくったような複雑な「楽譜を読み」ながら、
「身体の各部を繊細にコントロール」して、
これまた複雑な構造をしている「楽器を扱う」という、
実はかなり高度な技術を駆使して奮闘しているのですから、
身体を固めていては全力を出せません。
そこのところを分かってあげて指導する方が良いと思います。

すでに高いレベルの演奏者への指導となると別次元になるので話は違ってきますが、
ここでは一般的な学習者レベルの生徒さんを想定して考えてみます。

教育の効果を上げるためには、
全否定ではなく‘条件つき否定(理由のある否定)’が有効だといわれています。


たとえば、
練習してこなかった生徒さんには、
「レッスンの準備をしてこなかったのは悪い。レッスンの内容が本来よりレベルダウンしてしまうからだよ。今日のレッスンで、できる限り多く学ぼう。」

ミスばかり続く生徒さんには
「ミスが多いのは練習が足りないと想像できる。これから練習回数を増やす努力をすることを決心すると同時に、今日は他の原因がないか探って解決策を考えてみよう。」

どうしてもうまくできない生徒さんには
「自分が前回より向上した要素をひとつでも見つけて自分の努力を認めよう。どうして向上できたのか考えてみて、今うまくいかない要素に対しても、目をそらさずに原因を良く分析して解決策を見つけていこう。」


生徒さんたちには必ず
「うまくなりたい」「良い音で華麗に演奏したい」という望みがあるのです。
でなかったら楽器などやりません。

彼らの憧れや望みを実現するための

‘実践的’で‘現実に即して’いて、‘建設的’なアドバイスこそが

指導ではないかと思うのです。

でももし、うまくなる気がない生徒さんがいたら、それは例外視しなくてはなりません。
本人が望まない限り、指導者がどうすることもできませんから。
でも不真面目だったり、ひねくれた態度だったりする生徒さんの中には、
一見やる気がなさそうな「カクレうまくなりたいさん」も時々います。
そういう人には何かのきっかけで気持ちが伝わるかもしれませんので
アプローチは工夫しながら続けたいものです。


「実践的」
どのように身体を使うか
(どの筋肉を使うのか使わないのか、姿勢やバランスなどの身体的アドバイス)
どのように楽譜を解釈するか
(どこでどんな音量、音色にするか、間合いの取り方などの音楽的アドバイス)
これらは指導者自身の持っている演奏技術、楽曲分析能力や身体に関する知識が役立ちます。

「現実に即した」
その人が持っている能力に見合った要求をする。
 身体面…まだ肺が子供の大きさなのに大人と同じブレスを最初から要求したりしない、
 技術面…初心者なのに難易度の高い曲を全部完璧に吹くことを最初から要求しない
など、生徒さんが現実にできることから徐々にレベルアップしていくこと。
教師が生徒の実力を見極める力が必要です。
教師の見立ては、医師の診断と同様に、今後の改善や向上のカギを握っている重要なポイントだと思います。

「建設的な」
今はできなくても、今後どのようにしたらできる可能性があるかをアドバイスする。
現在、今ここでの実力を検証してフェアに評価し、
これから身に着けてほしい技術と、その方法などを具体的に伝える。
「あれができない、これができない」という否定や、だだ「練習しなさい」だけでは、
どうやって、何を身につければよいかわからないのです。
これらは、教師の持つティーチングスキルによると思います。
細かく手取り足取り教えることが良いとは限りませんが、
教師が実演するなど、生徒さんが完成イメージを持てるようにするのも良いと思います。


この指導方法のお手本はアレクサンダー・テクニークの先生たちです。
彼らは生徒さんの望みを実現する為には「どうやって考え」「どうやって心と体を使う」のかを一緒に探求し、新しいプランを提供します。
それを受け取って洗練させていくのは生徒本人です。
生徒が自分で上達していくための有効なヒントを確実に手渡してくれるのです。
これぞ指導の理想形ですよね。


「指示は肯定形で」という記事を読んでみてください。
  → http://ameblo.jp/espressivo1214/entry-11285286889.html
  → http://ameblo.jp/espressivo1214/entry-11287762861.html


人は、否定形で指示されてもピンと来ないのです。
ピンとこないばかりか、感情的に否定されると
受け取る側も感情的にマイナスの方へ落っこちてしまいます。
生徒を思う愛情からの叱咤は、ちゃんと生徒の心に響きますが、
そうではない全否定の結果は恐怖反射による心身のこう着です。

どんな指示もはいっていかない状態、どんな指示も実行しにくい状態を
わざわざ作ってしまいます。
このやり方は指導者としては使っても意味がないように思います。

どうか、生徒さんを怖がらせないでください。


世の中の楽器演奏の指導者の方々、
日々なかなか言いたいことが伝わらない生徒さんたちと向き合って
苦労されているとは思います。
感情的に指摘したくなる時もあるでしょう。
でも、どうぞ生徒さんの望みをかなえるために一番伝わりやすい方法は何か、
もう一度見直してみませんか。

生徒さんの望みがかなえば、教える私たちの願いもかなうと思うのです。

以上、自分自身も肝に銘じつつ。