の続きです

 

 

 

 

林さんと高木さんは、鍼灸が

 

とても気に入られたようで、

 

それから週1回のペースで

 

林さんのお家に伺うことになりました

 

 

 

 

林さんの家のインターフォンを鳴らすときは

 

いつも少し緊張しました

 

何故なら、毎回あの怖そうなお手伝いさんが

 

返事をして、玄関をあけてくれるからでした

 

 

 

 

 

別に何を言われるわけでもないのですが

 

「今日は特別暑いですね!」と言っても

 

「夏ですからね」と

 

取り付く島もない感じなので

 

できるだけ余計なことを言うまいと

 

いつも意識してやり過ごすのでした

 

 

 

 

あの8畳間まで行くと、林さんが

 

お布団の横で座って待っていてくれ

 

「先生、暑いところ、ありがとうございます」

 

と笑いかけてくださるので、私は、

 

お手伝いさんに嗜められないように

 

気をつけつつも、できるだけ

 

急ぎ足で8畳間へ向かうのでした

 

 

 

 

 

林さんは上品で、お優しく

 

私のことを、

 

「こんな技術職をしているなんて偉いわ」

 

と、いつも誉めてくださいました

 

 

 

 

ご主人とはお見合いで、高木さんの他に

 

2人の息子さんがおられることや

 

大きい事業をされていたご主人とは

 

すれ違い夫婦でここまで来たことを

 

施術の間に、ゆっくりゆっくりと話してくださり

 

 

 

「でも、主人の糖尿病が悪化して

 

 透析をしなくちゃいけなくなったせいで

 

 今はずっと一緒にいられるのよ」

 

 

 

 

と微笑まれたお顔を見て、

 

「私も、この方が好きだなぁ」

 

と感じるのでした

 

 

 

 

林さんの施術が終わるころ

 

高木さんが、バタバタと音を立てながら

 

慌しい様子で部屋に入って来られ

 

それはたいてい、進学校に行っている息子さんを

 

塾に送り届けた帰りなのでした

 

 

 

 

 高木さんは、林さんとは対照的で

 

息継ぎもまだるっこしい!という勢いで

 

機関銃のように喋ります

 

 

 

 内容は、ご主人への不満

 

3人の息子さんたちへの不満

 

とにかく、毎日こんなに忙しく

 

家族の為に動いているのに、

 

自分の気持ちは誰も分かってくれない!!

 

という話が、施術の間中

 

60分エンドレスで続くのでした

 

 

 

 

 

 

私があまり相槌を打たなければ、

 

高木さんは、寝てしまわれる

 

ということに気づいてからは

 

相槌を打つのは、3回のうち1度になりました

 

 

 

 

 

 

毎回、鍼灸師として気になるのは

 

やはり高木さんの体調で

 

いつ触っても身体が冷たく

 

何が原因か知りたくて

 

色々伺うのですが、

 

当の御本人は、あんまり興味がなさそうに

 

 

「まぁ、鍼してもらったら楽になるからいいわよ。

 

 それより、今日のお菓子はね・・・」

 

 

と、いつもはぐらかされてしまうのでした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

厳しい残暑が続いていたある日

 

駅からバスに乗り、

 

バス停から林家まで歩いていた私の目に

 

いつもと違う光景が飛び込んできました

 

 

 

 

林さんの家の前に、救急車が停まっています

 

いつもインターフォンを鳴らして開けてもらう

 

門扉も玄関も、開け放しです

 

 

 

 

 

急に胸がバクバクと鳴り出し

 

目もチカチカしましたが

 

私は、林さんの家の玄関へ向かいました

 

 

 

 

すると、中から担架に乗せられた

 

林さんのご主人が出て来られ

 

その後に、泣きそうな顔の林さんが

 

 

 

「先生、連絡せずにすみません。

 

 ちょっと行ってきます。

 

 今日はしていただけそうにないけど

 

 タクシー呼ばせますので、

 

 どうぞ中でお待ち下さい」

 

 

と、救急車に乗り行ってしまわれました

 

 

 

 

 

 

呆然と救急車を見送り、振り返ると

 

すぐ後ろにお手伝いさんが立っていました

 

 

 

「ご心配ですね。

 

 私、失礼させていただきますね」

 

 

 

と言うのを遮るように

 

「タクシーが来るまで、中でお待ち下さい」

 

と強い口調で言われ

 

「でも・・・私、バスで・・・」

 

と、モゴモゴ言っていると

 

先に立って、早く!と言わんばかりの目で

 

こちらを振り返るので、諦めて

 

上がらせていただくことにしました

 

 

 

お手伝いさんは、手早く

 

タクシーを呼ぶ電話をかけると

 

私に冷たい麦茶を入れてくれました

 

 

 

あれ?と思ったのは

 

お手伝いさんが麦茶をだしてくれたあと

 

いつものように台所の方へは行かずに

 

私の側に座って「はぁ」と

 

ため息をつかれたからです

 

 

 

この人も動揺している・・・

 

 

 

何かお声をかけようと思いましたが

 

失礼になりはしないかと考えると

 

結局、何の言葉も出てこず、

 

言葉がぐるぐる回っているだけの思考も

 

電話の音に遮られてしまいました

 

 

 

 

電話の主は林さんでした

 

私にも伝言があり、しばらく鍼灸の施術は

 

お休みさせてほしいという連絡でした

 

 

 

ご主人の様態は意識不明だということしか

 

分かりませんでしたが

 

良くなられることを願うばかりでした

 

 

 

タクシーが着き

 

玄関を出る前に、廊下を振り返ると

 

小さな光るものが、

 

ふわふわと風船のような動きで

 

移動していました

 

 

 

 

 

 

あれは、誰かの意識???

 

と感じたけれど確証もなく

 

お大事にと心で唱えながら

 

駅へ向かってもらいました

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、それは叶わず

 

次に林さんと高木さんにお会いするのは

 

この日から5日後の

 

林さんのご主人の葬儀の場になるのでした

 

 

 

・・・続きはこちら

 

 

 

 

 

 

 

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