過去の記事については下記をご覧ください。
夏の到来を感じさせるほどの強い日差しの中、白金台の2番出口から畠山記念館へ。
日傘をさしてゆっくり歩く。
いつも人通りの少ない閑静な住宅街に、工事の大型トラックが往ったり来たりする。
ものものしい警備員が道の角々に立って誘導している。
都市計画の一環らしいのだが、この工事とは別に地下を掘る計画もあるらしくて、「地下工事反対」「もっと説明を!」という文字の幟が界隈の各家庭に掲げられていた。
少し前までの静かな一帯は、変わっていく…
「茶の湯の美」―数奇のかたちと意匠― (平成22年度春季展)
2010.4.10(土)~6.20(日)
私自身の記録のための鑑賞ノートです。
よろしければお付き合いくださいませ。
日本文化が誇る総合芸術は「茶の湯」である。
侘び茶を大成した千利休、それを継承発展させた古田織部、小堀遠州ゆかりの茶道具の品々を、道具の見立て、茶人の好みや取り合わせなどを展示している。
会期中展示替え、前期のみの展示もあるが、目録では56点
私は、このとき50点を鑑賞。
記録しておきたい作品を簡単に…
【季節の道具】 単位は㎝
★古銅龍耳花入 銘九州 徳川将軍家伝来 明時代(16~17世紀)
照明がやや暗い。美しいシルエット、古銅花入の耳には他に象・獅子・一角獣などがあり、吉祥を基にデザインされている。
★瀬戸面取茶入 銘吸江(きゅうこう) 桃山~江戸時代(16~17世紀)
茶入を包む仕覆は3つ 花菱雲龍文金襴、
紹智金襴、
望月間道が添えられている。
松平不昧、小堀遠州の籍書あり
どっしりとした、茶入としては大ぶりで、焔によってできた景色の面白さ、面取りされた形の美しさ、安定感を心ゆくまで眺めることができる。
★共筒茶杓 銘 水の江 小堀遠州作 江戸時代(17世紀)
「水江の吉のゝ宮はかみさひて
よはひたけたる浦のまつ風」(新古今和歌集巻17 和歌)
★砂張青海盆 明時代 高さ2.0 口径17.0
小ぶりで、お茶席で菓子盆として使われたようだ。
青海とは、和船の両脇に張り出した歩み板のことで、舟子が客席の邪魔にならないように、櫓を漕いだり棹をさしたりする場所のこと。盆の広い縁がその歩み板を連想させることから「青海」と名づけられたと解説にあり。
【好み・見立ての品々】 単位は㎝
★黒棗 記三作 桃山時代(16世紀)
松平周防守所蔵
なだらかな丸い肩先。
*記三…武野紹鴎、千利休の時代の塗り師、特徴として木地が厚く下地も厚く重く感じられる。
仕覆は2つ 日野間道、梅鉢緞子
★独楽棗 銘 笆(まがき) 明時代(16世紀)
唐物、朱塗り
黒・黄・青など色漆を同心円上に塗り分けていく技法。一色のものを「無地こま」という。(独楽塗り)
「吾が宿の庭のまがきの荒れ行くを
まことの野辺になす鶉かな」 *鶉は「うずら」 *まがき…竹や柴(小枝のこと)などであらく編んで造った垣。
仕覆は3つ 白茶地横縞梅花文緞子
和蘭木綿紺地細縞間道
白茶地笹蔓緞子片身替り
★黒小棗 関宗長作 江戸時代(17世紀)
*関宗長…利休の孫、宗旦のときの塗り師
真塗り、茶入は高価なため、濃茶の茶器の代用として数寄者が考案したとされる。
したがって、小ぶりでお茶席で披露されることはない。
仕覆は3つ 白茶地古金襴
日野間道
薩摩間道
★真塗茶桶形水指 江戸時代(17世紀)
美しい…
洗練された形、塗り
★共筒茶杓 銘 海士小船 小堀遠州作 江戸時代(17世紀)
しなやかで繊細
「世の中はつねにしかもなく渚こく
あまのを舟の綱手かなしも」 (源実朝『金塊和歌集』)
★竹一重切花入 銘 初音 小堀遠州作 江戸時代(17世紀) 高30.9 口径12.0~13.0
利休没後、古田織部から武家の茶の湯は小堀遠州へと受け継がれていき、さらに美への追求「きれいさび」
竹の選定、銘も和歌を引用した「歌銘」となっていく。
胡麻煤竹の肌に美意識をみる。
★唐物籐組茶箱 清時代(17~18世紀)
唐物とは、中国、その他海外から渡来したものの総称。
国外の優れた工人たちの当時の最高の技術が込められた茶道具を一揃い。
いつまでも見飽きることがない。
ひと通り作品を観て、気になる茶道具の前に立って角度を変え、出来るものはケースの横、後ろ、斜めから何度も眺める。この時間だけは、私の時間…
館内で大きな声で話す男性職員の声にハッと現実に引き戻される。
正午を過ぎた頃、まだ陽は高い。
思い切って館内を出て、外の空気を吸いたくなった。
写真の奥には茶室がふたつある。
いつもならよろい戸が下ろされているはず…
珍しく戸が開けられて電気もついている。
お茶会が近いとみえる。
樹齢300年
堂々と枝を延ばし、葉を高くつけこの庭のシンボルになっている。
記念館の庭はどんどん狭くなり、敷地は隣にマンションが建つ気配。
重機の音、人声が響く…
来た時にはなかったトラックが入り口の石段のところに停車している。
これから作業が始まる様子。
はやくこの場所から立ち去ることだけを考えていた。
畠山記念館 のホームページ
次回展覧会 涼を愉しむ―書画・茶器・懐石道具―
7月31日(土)~9月20日(月・祝)