今月の私のお役は日蓮の父 貫名重忠ですが、お役と云うのは勉強会や自主公演を除いて
自分で決めることはできません

 

会社の所謂、演劇制作室の方たちが上演される演目と主演の方に配役を伺ったりして
あれやこれやパズルの様にお役を決めて参ります。

一応、名題以上は体力的にきつかったり、気に入らなければ
変更をお願いしたりする事はできますが、ほとんどが二つ返事ですね。


ですから演目が決まってからの自分のお役は 以前に勤めたことがある場合や
大体の予想でおそらくは、と思うことが多いです。

今回のように新作で脚本もわからずお役を頂くのはある意味 ミステリアスです(笑)

 

私が今までお役を頂いて当初の予想と比べて 想像以上だった経験が少なからずございます。

お役を上げてもどれがNO1かと云う訳ではなくて やってみて楽しかったお役と云うのを
少し上げてみましょう。


まず『ワンピース』のディスコ、これは漫画の本編より舞台の方がイメージが
膨らまされていて、演じていてずいぶんと得をしたな と感じました(笑)
美味しかったと云えばいいでしょうか。

 

『新・水滸伝』の宋江、これは出番も長いし立ち回りも多く 
しんどいですが力いっぱいできました。

 

逆に驚いたのが『修禅寺物語』の下田五郎、17歳の青年のお役を
60歳過ぎた私にお鉢が回って来て、役渡しの会社の方に「え?私でいいのですか?」と
思わず聞き返しました(笑)

おそらくですが、受けた時の年齢は歌舞伎界で私が最年長だったと思います。


思い出深く想像もしなかったお役が『カグヤ』の婆 おうな、ある場面でかぐやに諭す一言
「私はもう、終わりました。」のセリフはちょっと云いにくくもあり抵抗もありましたが
今ではやってよかった思っております。

この時私はまだ43歳(笑)今の猿之助さんよりも若くして、ばあさんを演じてました。
余談ですが、このお役で猿翁旦那と会社から賞を頂きました(笑)


あと、お役渡しで一番びっくりしたのと一番印象に残っておりますのは
2001年7月歌舞伎座の公演、『楼門五三桐』で演じました「岸田民部」のお役です。

白塗り、生締め、そして織裃の二枚目のお役。
(生締めと云うのは四の切の佐藤忠信や実盛物語などのお役のかつらの形です)

しかも、このお役は、舞台の段四郎さんの左枝利家の命を請けて
花道七三まで行き 一人で見得を切りツケとともに揚幕ヘ入ります。


もともとが岸田民部は石田治部少輔三成がモデルです。
そら格好いいですよね(笑)

残念な事に、この頃は今ほどキチンと写真などの記録を残しておらず、
販売された写真しか残っていないのではないかと思います。残念!
さすがに、販売写真を載せる訳には行きません。
残念!


ですが、この格好いい役の裏には もう一つのお役があったのです。
『楼門五三桐』は夜の部の演目だったのですが、
昼の部は『続篇華果西遊記』『俊寛』『連獅子』

私はその中で『続篇華果西遊記』に出ておりました。

「珍竹林」と云う名の医者役だったのですが・・・(笑)


名前を見たらわかります様に、そして歌舞伎に出て来る「医者」と云うのは
総じて三枚目だったり、好色だったり(笑)

まさに、その医者役の典型のようなお役でして・・・。

茶屋の娘をからかって、殴られて鼻血迄出してしまう役でした(笑)


たしか幕開きに出て参りまして、好きなだけ喋って喋って、
殴られて鼻血を出して去って行く(笑)
そんな役でした。

私結構こういった三枚目の役好きでして、嬉々として演じて居た覚えがあります。
ですが、私史上で「格好悪い役」のかなり上位にランクインする役でした。


そして、夜の部には先ほどの目の覚めるような(誰も言ってくれないので自分で云います)二枚目
そのギャップのあるお役を 楽しく勤めていたのを覚えております。

 


歌舞伎座でしたので、舞台写真も売り出してもらいましたが、
並んで売っていたこの二役、昼の部だけを見に来てくれた知り合いは
横の岸田民部の写真が私だとは 全く気が付かなかったそうです。

・・・名前書いてあるのに・・・(笑)


その思い出のふた役も もう20年も前ですか。
ついこの間の事のような気がしますが。

 

少し前に、代役の話を書きました時に、二人の代役の役者さんを同じ人だと
思っていた方が居たと云う話を書きましたが、この月のこの二役は、
おそらく私の事を知らない方には 絶対に同じ人間が演じているとは
気が付いて頂けなかったと思います。(笑)

知り合いにも気づいてもらえませんでしたもの。

 

 

新作のお役 古典の初役と云うのは頂いたその時から想像が膨らみ
どんなお役にしようかと云う 期待も生じます。

もう一度やりたいお役 もう2度とやりたくないお役それぞれですが、
お役渡しを頂かないことには それも始まりません(笑)


私はやはり生涯役者でしょうか?