しかし、いざ臨床現場にでてみると、ヒトの動きと解剖学で覚えた
筋肉の作用にしっくりこないことが多々ありました。
それもそのはずです。
解剖学には運動学で必要な筋肉の作用が記されていないのです。
解剖学に記されている筋肉の作用は、
動かない方の骨を起始部に停止部が動く方向。
中には停止部を固定した場合の作用が記されていますが、
私が理想とする運動モデルの筋肉の作用についてはありません。
▲骨格筋の形と触察法(大峰閣) 著:河上敬介、磯貝薫
例えば、膝窩筋ですと金子丑之助先生の日本人体解剖学には
「作用:膝関節を屈し、下腿を内方に回転する」とあります。
起始は大腿の外側下端、停止は脛骨の内側上端です。
「起始・経過」大腿骨の外側顆、外側側副靭帯
および膝関節包から起こり、下内側方にゆく
「付着」脛骨の後面で、ひらめ筋線より上方につく
▲骨格筋の形と触察法(大峰閣) 著:河上敬介、磯貝薫
大腿(起始)を固定して膝窩筋が収縮すると
下腿が内方へ回転するということです。
ですから、解剖学では膝窩筋の作用を
膝関節の屈曲と内旋と覚えました。
しかし、運動学でヒトが走る、歩く、動作を見る場合は、
接地側から作用を見ていく必要があります。
つまり、下腿(停止)を固定したときの
大腿(起始)の運動方向です。
そうすると、足を固定した場合は
「作用:膝関節を屈し、大腿を外方に回転する」
ということになります。
運動解剖学は、解剖学をそのまま運動学に運用するのではなく
どのような運動モデルの筋肉の作用なのかを明確にする
必要があると思います。
そうすると私の運動解剖学では、
膝窩筋は外旋筋ということになります。
膝のスポーツ外傷をみていますと、
大腿(起始)側を固定して膝窩筋を
膝関節の内旋筋として作用させている方が多いです。
そして、決まって股関節が硬いという不安を訴えます。
股関節が滑らかに動く状態であれば、
下腿から膝窩筋を外旋筋として収縮させることができるのですが、
股関節の動きが悪いために、
大腿から膝窩筋を内旋筋として収縮させてしまうようです。
これは、解剖学を咀嚼しないまま運動学に運用していることが
背景にあるかもしれません。
ヒトの動きは、多くの筋肉が協力しあいます。
単筋の作用として捉えるのではなく、
協力し合う筋肉の作用として動きを捉える必要があるでしょう。
実際、膝窩筋が外旋筋と聞いても
イメージできる人は少ないと思います。
スクワットや股割りをトレーニングしていても
膝窩筋を外旋で作用させるまでには苦労します。
この実感が伴うと運動解剖学が面白くなると思います。
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