●スコット先生の肩
朝日カルチャーセンター新宿で、来年1月期からはじまるロシア武術のシステマ講座。そのプレ講座が10月に三回行なわれた。
で、一回ごとに東京にいる三人のインストラクターが担当したが、三回目の最後はイギリス人のスコット先生だった。
講座の内容はスコット先生の十八番であるストレッチ各種。よくこういう格好を思いつくなあ、という感じでからだ中の関節のサビ取りをする。
いろいろからだを動かしながら、それがストライクにつながっていって、最後はふたり組みでけっこうバチバチと殴り合った。
こんな風に書くと、システマが怖いものだと思ったり、逆に血が騒ぐような人もいたりするかもしれない。
しかしシステマのやり方は、本当にゆっくり丁寧にストライクに移行して行くので、割りと自然にストライクをできるし、受けることができる。
もちろんお互いに無茶しないということもあるわけだが。
で、いつも感心するのはスコット先生のストライクの構え。
実に肩がゆったりとして、胸が肩の位置からグウッと前に張り出して、頭がその上にまっすぐに乗っている。
脇を楽に開いた中段に構えた腕は、肩からぶらさがっているように見える。そのぶらさがって静止している腕は、誰かが片方の拳に触れればいきなりガラガラと崩れ、触れた人の上に落ちてくるような動きを秘めている。
スコット先生の胸を張った姿勢は、松聲館の甲野先生が言っている、写真に残された胸をすぼめた日本の侍の姿勢とは正反対のように思うかもしれない。
しかしスコット先生(あるいはシステマの姿勢というべきか)のは、いわゆる「気を付けの胸を張った良い姿勢」というのとは違うのである。
気を付けの姿勢の多くは、肩甲骨を寄せて、肩を引いた姿勢である。これは演出家の竹内敏晴氏が甲野先生とのテレビ対談で言ったような、「自分では次の行動に移れない、人を使う上官の姿勢」である。
しかし肩の位置をそのままに胸を前に出した姿勢は、十全に腕を使うためには必要な姿勢なのだということを「骨盤おこしセミナー」で学んだ。
スコット先生の腕の構えは、まさにそれで、堂々としていて居つかず、腕が後ろにあるようなのに、どこまでも伸びてくるように見えるのである。
実は甲野先生も立ち止まって姿勢の説明をするときには、胸をすぼめて腰を後傾させるような構えをするが、動きの中では後傾から前傾へ、胸はすぼめた上体からフワッと前面に張り出してくるのである。
つまりその動きの幅が圧倒的に広いのである。
わたしたち稽古する者は、そこをよく観察せずに説明を鵜呑みにしたり、その変化が見えていながら、ことばの方に従ったりしがちなのである。
わたしは表面上(あるいは言葉上)は甲野先生の動きと多いに矛盾する「骨盤おこし」に出会うことで、今ごろになって「動きから学ぶ」ことの大切さを知ったのであった。
●北川先生のお尻
朝日カルチャー新宿での「ロシア武術システマ」の講座の講師である北川先生は、以前甲野善紀先生の恵比寿稽古会に来ていた稽古仲間でもある。それがいつの間にかシステマのインストラクターになっていた。
この講座に参加した折、北川先生が「骨盤おこしってどういうのですか」と聞いてきた。最近「骨盤、骨盤」とわたしと周辺の人たちが騒いでいるので気になっていたという。
そこで基本的な骨盤が起きた位置を示すために、正座をしてもらった。そこから股関節から折って、骨盤がおきるところまでお辞儀をしてもらうのである。
ところが北川先生の骨盤を触ってびっくりした。その時点でもう骨盤がおきていたのだ。
ふつうに座ってもらったので、胴体が前傾しているわけではない。ただまっすぐ骨盤の上に胴体が乗っているのである。
こういう人は骨盤おこしの師匠、Takahiroさん以外見た事がなかった。
しかし考えてみれば、骨盤のこの傾きが自然だとすればそういう人がいて当然である。
元々、赤ちゃんのときの骨盤をそのまま維持してきたのか、いろいろなトレーニングのなかで身に付けたものかはわからない。おそらくは後者であろう。
北川先生は複数流派の空手やら甲野流武術やら、もっとあやしいトレーニングやら、野口整体やらやってきたので、その過程でいつの間にか獲得した(赤ちゃんに戻った、か?)もののように思う。そしてシステマの柔らかいトレーニングが、それを補強したのではないか。
本人いわく、基本的な腰の構えは野口整体かもしれない。その後システマのトレーニングをするなかで、仰向けに寝て両足をどんどん上げて頭の向こう側の床に足指を付けるような体操を散々やったらしい(ヨガのスキのポーズみたいな形)。
この格好で、両足の重さを利用して腰をブラブラさせたりしたのが、仙骨と要椎の「つなぎ目」を柔軟にしたのかもしれない、と。
そのために骨盤がおきた位置になっても、脊椎はスラリと立っていられるのかもしれない。
わたしもかねてより、骨盤がおきたまま胴体が直立するには要椎五番と仙椎とのジョイント部の柔軟性を如何に実現するかだと思っていたので、うーんと唸ってしまった。
それで後日、恵比寿の稽古場に来てもらってみんなで北川先生のお尻を触らせてもらったのであった(笑)。
もちろん「お尻」ではなく「骨盤」なんだけどね。
ところで、前の日記にも書いたわたし自身の腰の変化は、これより後のことでいまは北川先生のような「腰つき」である。
まだまだTakahiroさんの腰には及ばないものの、なかなかのものなんである(笑)。
これは骨盤おこしのトレーニングの他に、腰骨と骨盤のつなぎ目あたりを、指で撫でていたことが原因ではないかと密かに思っている。
「撫でただけ?」などと思われるかもしれないが、その時期特別にやっていたことといえばそれだけである。そのことが腰の柔軟性を促したことは十分に考えられる。