第63回:こだわりは木製トリプルサッシ!スウェーデン住宅の秘密(後編) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

前回に続き今回も、栃木県佐野市にある吉田登志幸さんの省エネ住宅からお伝えします。省エネ住宅の部材を販売する吉田さんが、実際に暮らした実感からもっとも重視しているのは窓です。今回は日本では珍しい木製トリプルサッシへのこだわりを中心に伺っています。


吉田登志幸さん

今回のトピックス
■こだわりの木製トリプルサッシ
■家にまつわる常識を変える
■リフォームなら内窓がお勧め
■カギは地域の工務店

◆こだわりの木製トリプルサッシ

高橋:木製サッシにはこだわりがあるそうですね。ぼくも実物を見るのは初めてですが、詳しく教えてもらえますか?

吉田:私は住宅そのものではなく、内装、壁材、断熱材など省エネ住宅用の部材を北関東と周辺の工務店・設計事務所に販売しています。その中で、家のエネルギーを考える上でとくに重要なのは窓です。家のエネルギーの50%くらいを開口部、つまり窓が左右しているからです。そして窓で重要なのは、まずは周りのサッシの素材です。日本では一般的にアルミなどの金属などが使われてきました。アルミは軽くて丈夫、そして安いというメリットがありますが、暑さや寒さを伝えやすいので結露しやすく、エネルギー効率は非常に悪くなります。そのためほとんどの先進国では使われていません。木とアルミと木を比べたら、アルミの方が熱を1000倍以上も伝えますから、エネルギー効率が悪くて当然です。


窓が3重になっているのも見た目では気づかないが、よく見ると取っ手が3重に映り込んでいることが分かる

高橋:ぼくが住んでいる賃貸住宅で使っているようなアルミのシングルサッシと、吉田さん宅の木製トリプルサッシのエネルギー効率を比べると、2倍から3倍もの違いがあるという数字が出ていますから、はっきりとした差になっていますね。ぼくもエネルギーの取材をはじめるまではサッシは金属が当たり前だとばかり思っていましたが、日本の常識そのものが間違っていたんですね。ドイツでは樹脂製が多いようですが、なぜ北欧は木製なのですか?

吉田:国産でも、樹脂サッシは少しずつ増えていますが、木製はほとんどありません。木製サッシは、温度に対する性能や耐久性などで樹脂を上回っています。もちろん見た目にも木のぬくもりがあります。木の家が多いので、サッシも木が自然な流れだったのでしょう。

◆家にまつわる常識を変える

高橋:木製サッシにはデメリットはあるでしょうか?

吉田:性能は抜群なのでデメリットというほどではありませんが、最初のコストは高くなります。例えば私が扱っている木製トリプルサッシの金額は、一般的なアルミサッシの2倍から2.5倍の費用がかかります。でも、性能は4倍近いので、光熱費を考えたら充分取り戻す事は可能ですし、何より快適に過ごす事ができます。

それから、木製の場合は定期的なメンテナンスが必要です。特に外側のサッシは風雨にさらされるので、塗装しないといけません。うちの場合は、建ててから6年目に1回塗装しました。こうやって窓枠が一回転するので、2階の窓でも自分で塗る事ができます。


窓枠は1回転するようになっているので、手入れが可能

高橋:これ回転するんですね!驚きました。でも日本ではそのような手入れが面倒だと感じる人もいるのではないでしょうか?

吉田:北欧の人は何でもDIY(DO It Yourself)でやるのに慣れているから、自分で手入れする事が容易な木の家が広まったのかもしれません。日本人は一度つくったらノーメンテナンスが好きなので、アルミサッシが普及していますが、住み心地を考えるとお勧めできません。

私は室内の二酸化炭素濃度を計る機械を持っているのですが、アルミサッシで結露をたくさんするような一般的な日本の住宅で計ると、メーターが振り切れるんです。特に冬は石油ストーブやガスストーブを付けたりすると水蒸気をたくさん出して濃度が高くなる。濃度が高いと体調には良くないし、精神的にいらいらするということがわかっています。海外の先進国では、日本の車は売れるのに住宅が売れない背景には、そういう住宅をめぐる常識の違いがあるからなんです。

高橋:日本社会の住宅についての常識を変えていく必要がありますね。でも、ドイツや北欧の話をすると、「日本とは気候が違う」とか、「いろいろな違いを無視して海外のマネをしても仕方ない、日本に適した家があるはず」と言う人もいます。

吉田:私も、ただコピーすれば良いと思っているわけではありませんが、そう反論する人は、省エネ先進国の住宅事情をあまりわかっていないで言っていることが多いようです。例えば「気候の差」と言われますが、ドイツだって夏は40度を越えることもあります。きちんと温熱環境を考えれば寒さだけではなく、蒸し暑さにも充分対応できる家作りは可能です。


冬でも暖かいスウェーデン住宅

とくにひどいのは冬の寒さ対策です。北海道を除いて、日本人は先進国の中で一番寒い家に住んでいると分析する人もいます。例えば、ドイツのフライブルクでは冬にマイナス20度近くになりますが、暖房を使わないで部屋を17度以下にしてはならないという法律があります。違反すると人権侵害として家主や事業主が訴えられる。そうするとまず家主に勝ち目はありません。消費者の意識も高いから、断熱されていない賃貸住宅は売れ行きが悪くなります。だから家主も一生懸命断熱リフォームに力を入れるという循環が起きています。

◆内窓という選択肢

高橋:サッシの話に戻りますが、木製トリプルサッシは「性能は良くても価格が高い」と感じている方はどのようにすればいいのでしょうか?

吉田:新築なら、ちょっと初期投資が高くついても後々の事を考えると木製サッシがお勧めです。一方、リフォームであれば内窓の方が費用対効果は高くなるでしょう。こちらは町の建具屋さんでも設置できます。うちが扱っている内窓は、ペアガラスになっていて、ガラスとガラスの隙間が16ミリの空気層になっています。こんなに力を入れた内窓は他では扱っていないと思いますよ(笑)。 木製の内窓をつけたら、結露も止まるはずです。難点と言えば、窓を2回空けないと外の空気を入れられないことですが、朝空けて夜閉めればいいので、慣れたら苦にはなりません。 

高橋:なるほど。この佐野市のように一戸建てが多い地域では、内窓というのは大きな選択肢になりそうですね。ではぼくは賃貸なのですが、賃貸の方でもできることはあるでしょうか?

吉田:賃貸ではサッシを交換するのは難しいかもしれませんが、省エネや快適な居住空間をつくるためにできることはいろいろとあります。例えば厚手のカーテンを床まで下げて吊るすだけで、冬の暖房効率があがります。省エネは気づいた時からやれるので、少しずつ取り組んでいただけたら良いのではないでしょうか。

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室内は北欧インテリアで統一されている

高橋:吉田さんは現在は輸入サッシを販売しているとのことですが、国産材は扱わないのでしょうか?
吉田:ぼくも輸入ばかりしたいわけではないので、国産で何とかできないかいろいろ試しています。でも、家の外部に出すサッシというのは防火や防犯の視点からさまざまな規制や試験があり、そのためのお金も結構かかるので、ゼロから取り組むにはなかなかハードルが高いのです。一方で部屋の中で使う内窓は敷居が低いので手がけています。福島県の奥会津地方、三島町というところでとれた樹齢約80年の間伐杉をつかい、栃木の鹿沼市にある製作所で木製の内窓を作っていただいているんですよ。今後はこれをどのように広げていくか考えている所です。



◆カギを握る地域の工務店とエネルギーパス

高橋:吉田さんは、省エネ住宅を建設したりリフォームのできる地域の工務店との連携を強めていますね。

吉田:私がおつき合いさせていただいている工務店さんは、ほぼすべて丁寧な省エネリフォームをしている所です(下記の「素晴らしき地場ビルダーランド」を参照)。中小零細の地場の工務店は、これから人口減少の影響などで新築の仕事は半減するはずです。でもドイツのように省エネリフォームが広がれば、仕事も増える可能性がある。震災後は、徐々にですが家のエネルギー効率を気にする消費者も増えてきていますから、チャンスはあると思います。


冬は天井のファンを回して、暖かい空気が溜まらないようにする

エネルギーパスという指標は、統一のモノサシで家のエネルギー効率、つまり家の燃費ですね、それを示したいというところから、ヨーロッパで適用されるようになりました。日本ではまだ各メーカーが独自の基準でうちの家はエコですよとやっていますが、消費者からするとどれが本当にエコなのか、よくわからないのが実情です。ひどいのになると、建物の性能はスカスカなのに「太陽光発電を入れたらエコ」みたいな家が横行していて、これには本当に幻滅しています。

ですから、まずは地域の家作りのプロである中小の工務店が、家の燃費という考え方を知り、そこから一般の人たちに伝えていくことが大事だと思っています。省エネ住宅に興味のある工務店さんや、部材を扱っている会社の方は、まず日本エネルギーパス協会に連絡してください。そこで講習なども受ける事ができます。いずれは各地域の家作りを担うのは、大手のハウスメーカーではなく、地域のそういった中小の工務店がやるという社会が実現できれば良いと思っています。

そして一般の消費者の方も、エネルギーパスという基準がある事を知って欲しいですね。多くの方が、省エネリフォームの価値や、「車と同じように住宅にも燃費があるんだ」「それが一目でわかるんだ」ということを知れば、社会は確実に変わっていくはずです。


キッチンにて。後ろのパイプは薪ストーブの煙突

前編の記事はコチラ

◆関連リンク
・吉田登志幸さんの会社:(有)オストコーポレーション北関東
・吉田さんが運営する施工業者の紹介サイト
 「素晴らしき地場ビルダーランド」
一般社団法人日本エネルギーパス協会
◆これまでの関連記事
・家の燃費を見える化する(エネルギーパスについて)
・省エネにも健康にもなる家づくり(低燃費住宅について)
・1985年レベルの省エネを(Forward to 1985 energy lifeについて)


省エネの方法についても紹介!エネルギーをみんなの手に!
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