第62回:お宅拝見!スウェーデン住宅の秘密(前編) | 全国ご当地エネルギーリポート!

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-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

住まいと省エネについては、これまでも何度かご当地エネルギーリポートで紹介してきました。今回は、実際にそこでの暮らしを拝見してきました。お宅を見せていただいたのは、栃木県佐野市で北欧スタイルの省エネ住宅を建てて住んでいる方。9年前に、絵本から抜け出たかのような素敵な家を建てたオーナーの吉田登志幸さんは、自らの愛するスウェーデン住宅の部材を、地域の工務店・設計事務所に販売する会社(オストコーポレーション北関東)を経営しています。


スウェーデンからの輸入材でつくった吉田登志幸さん宅

吉田さんは、これまでご当地エネルギーリポートで紹介して来た「Forward to 1985 energy life」(家庭のエネルギーを半分にする省エネ運動を進めるグループ)や、「日本エネルギーパス協会」(省エネ基準を計る指標である客観的な統一されたモノサシを広めるネットワーク)など、省エネ住宅を広めるさまざまな活動に関わってきました。今回はそんな吉田さんから、8年間住んでわかった北欧住宅の住み心地やこだわり、日本の一般的な住宅との違いなどを伺いました。

今回のトピックス
■木のぬくもりのある省エネ住宅
■エアコンをほとんど使わない快適な暮らし
■健康になる家づくり
■省エネ住宅と暮らし


吉田登志幸さん

◆お宅拝見!スウェーデン住宅

高橋:外見はもちろん、内装から窓のサッシまで、ほとんどが木でできている温もりのあるお宅ですね。

吉田:この家は、スウェーデンの木製三層ガラスを輸入して建てたものです。北欧の家は圧倒的に木製が多いですね。その理由は性能の高さもありますが、あちらでは家のメンテナンスを自分たちでやるのが当たり前になっています。部材が痛んだり、塗装がはげてきたらホームセンターで材を買って、自分で交換したり塗ります。サッシはだいたい30年に1回くらい交換すれば、家の寿命を長く保てます。日本では家の寿命が30年くらいと言われていますが、北欧では少なくとも70年から80年くらい。ちゃんとメンテナンスすれば、100年とか200年持つと言われています。


玄関のドアももちろん木製で断熱性能が高い

高橋:200年というのは日本の今の住宅建設では考えられないですね。ぼくは全国で省エネ住宅を取材していますが、この家は日本にある省エネ住宅っぽさというか、「省エネがんばってます!」的なところがないように思います。デザイン的にも「こんな家に住みたい」と多くの人が思うような家ですよね。

吉田:快適性はもちろんですが、木の優しさに包まれているので、心が安らぎます。出張に出かけていても、すぐ家に戻りたくなっちゃうんですよ(笑)。日本でも、エネルギー的には高性能な家が出てきましたが、中にはエネルギーばかりが全面に出て、住空間の素材そのものやデザインが残念なものがあります。家のエネルギーは重要ですが、そこだけで決める買い物ではありませんから、いかに楽しめるかということも大事ですね。 


白い壁は調湿機能をもつ珪藻土が塗ってある

心が安らぐような家づくりが北欧で進んだのには理由があります。日照時間が短い北欧では、家の中で過ごす時間が長いからです。照明やインテリアなどいわゆる北欧家具が、機能的でシンプルなのに、デザインも洗練されているということも同じ理由からです。

◆暑さ、寒さに強い快適な暮らしを実現 

高橋:実際の住み心地はどのようなものでしょうか?暑さや寒さの程度や、エアコンの使用状況について教えてください。

吉田:この家を建てたのは2006年で、今年で9年目になります。当時としてはそれなりに最高の性能を使いましたが、断熱材やサッシの性能は2倍くらいに進化しているので、今建てるとしたらこれよりもっと良い家を建てているでしょう。それでも冬は暖かくて、夏は涼しいというのは間違いありません。


建築中の家をバックに、吉田家の子どもたち

冬の朝に暖房を入れなくても寒くないので、朝起きたらさっと作業にとりかかれます。時間の有効活用にすごく役立っています。シーズンは薪ストーブを使用して、家全体が暖まるようにしています。特に2階のキッチンとリビングが暖かくなります。一方、夏は2階がちょっと暑くなります。といっても一番暑い時期の昼間に1週間くらいエアコンを付ける程度です。というのも、南面の軒を出して日射を遮っているので熱がこもるのを防げるんですね。もしそれがなかったら、断熱材があだとなって蓄熱してしまいますから。

断熱材は、日本で一般的に使われているグラスウールではなく羊毛の断熱材(ウールブレス)を使用しています。値段は多少高くなりますが、調湿性能が良く、湿気がこもりません。グラスウールはしっかり防湿処理をしないと湿気がこもり、中が結露して繊維が崩れるということがありますが、羊毛にはそれがないのです。また、壁には珪藻土を使っていて、これも湿度調整に効果があります。


薪ストーブは吹き抜けになっている二階のリビングをより暖める

高橋:エアコンをほとんど使わないということは、光熱費はあまりかからないということですか?

吉田:そうですね、でも冷蔵庫とかどうしても電気を使うものもありますから、さすがに「ゼロエネルギー」というわけにはいきません。うちの屋根には出力約5キロワットのソーラーパネルを設置しているので、トータルでは年間10万円くらいプラスになっています。ただ、これは太陽光発電の電気を売った収入が大きいので、「光熱費ゼロ」ではあっても、使用した一次エネルギーのプラスマイナスの収支がゼロ(「ゼロエネルギー」)というわけではないのです。最近はこれがごっちゃになって語られているケースが多いので、気をつけないといけませんね。ちなみに我が家の光熱費の収支については、会社のホームページでも逐次報告しています。

◆健康になる家づくり

高橋:省エネ住宅というとつい光熱費はどうかという点に目がいってしまうのですが、暮らしやすいについてはお金には換えられない価値がありますよね。

吉田:省エネ住宅に住む理由は、エネルギー的なものだけではありません。快適性、それから健康になるという大きなメリットがあります。私たちの家族も間違いなく健康になりました。例えば、ここに住んでから子どもたちがインフルエンザがかかっていません。クラスの他の子は毎年のようにかかっているのにです。風邪をまったくひかないわけではありませんが、せいぜい年に1回かかるかかからないかという感じです。長男が3歳くらいまでは借家暮らしだったのですが、子どもだけでなく親たちも、以前より風邪をひきにくくなりました。環境が変われば体調や体質が変わるということですね。


スウェーデン製のサウナも

ドイツや北欧の省エネ住宅は、まずエネルギーを減らそうという理由から始まったのではなく、住む人がどうやったら健康になるか、快適に過ごせるかを考えてつくられました。家が寒いと病気になりやすいのは当然ですが、さらに結露しやすい住宅だとカビが増えます。そのカビを食べに来るダニが繁殖してアレルギーの原因になります。特にアトピーや小児ぜんそくといった子どもの慢性疾患は、カビの胞子がきっかけになることが多いのです。建築的な知識できちんと対応すれば、そうしたことを防げるというのは、すでにヨーロッパでは常識になっています。住宅と健康というのは、はっきりとした因果関係がありますから。

◆省エネ住宅を人生と結びつける

高橋:吉田さんがスウェーデン住宅を建てようと思った理由は何だったのでしょうか?

吉田:以前は商社に勤めていましたが、入社してすぐ、たまたまスウェーデン住宅のモデルハウスを見て、一目惚れしたんです。いつかはこんな家に住みたいなと。その商社では9年ほど務めて営業をしていたのですが、売る商品は自分が心から勧められるものばかりではありませんでした。そういうこともあって、自分がお勧めできるスウェーデン住宅の部材を扱う会社を立ち上げて独立したのです。

佐野市に移住したのは、北関東エリアで販売するため、地理的に便利だということがありました。それと生まれたばかりの長男と嫁とで緑に囲まれて、畑をやったりしながら人間らしい暮らしをしたいと思ったからです。単に省エネ住宅に暮らして、「エネルギー性能が良いですよ」といってもそれだけだと物足りません。良い家が暮らしとか人生にどのように結びつくかを考えたんです。

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木製の窓から、緑豊かな景色を望む

高橋:この場所は丘の上だから景色も最高ですね。
吉田:「コンビニも何にもなくて不便じゃないの?」と言われる事もありますが、ぼくは逆に「5分以内に買い物できないと死ぬんですか?」という気持ちです(笑)。週末ご近所さんたちは薪を割ったり、芝刈をしたり、日曜大工をやったりと平日より騒がしくしていますよ。晴耕雨読というか、それに近い暮らしができている気がします。


家の裏庭には畑が広がる暮らし

独立したことで、売る商品も売る先も自分のことが自分で決められるのが何よりも嬉しいことです。自分がお勧めできない商品を売らなくてよいのは、ストレスがかかりません。お客さんにも納得して買っていただいているので、施工後にクレームになったことはありません。

地域の工務店さんとともに、省エネ住宅を広げていきたいと思っていますが、わたしが動けるのは主に北関東なので、各地でそのような人が増えたら良いと思っています。その点で、日本エネルギーパス協会に集う人たちは全国の住宅関係のプロなので、ここを拠点に省エネ住宅が広がっていくのかなと思っています。興味のある住宅関係社の方にはぜひこうした集いに参加して欲しいですね。


作物の栽培は雨水タンクを利用している

後編では、吉田さんがもっともこだわっている窓とサッシ、そして省エネリフォームについて取り上げます。
後編はコチラ

◆関連リンク
・吉田登志幸さんの会社:(有)オストコーポレーション北関東
・吉田さんが運営する施工業者の紹介サイト
 「素晴らしき地場ビルダーランド」
一般社団法人日本エネルギーパス協会
◆これまでの関連記事
・家の燃費を見える化する(エネルギーパスについて)
・省エネにも健康にもなる家づくり(低燃費住宅について)
・1985年レベルの省エネを(Forward to 1985 energy lifeについて)


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