「ドリーマーズ・ハイ」

(みらいいろ:記憶回路)


(十四)

冷たい風が頬を撫でる。

白い息を一つ吐き出すと、俺は花束を片手に歩き出した。

年が明けて最初の休日。

俺は初めてヨウの墓参りに行った。

墓石の前に立つと、何も言えなかった。

ただ黙って、手を合わせた。

相変わらず、喪失感は残ったままだ。

それでも、少しずつでも前を向こうと思えた。

今回の墓参りは、その一歩だった。

たまに、みんなから連絡が来る。

ただ、カナデからは来ていない。

連絡をしようにも、音信不通になっていた。

心配だし、不安だった。

でも、たぶん大丈夫だ。

一人じゃないから。

カナデはきっと一人だと思ってるだろう。

でも俺は、何かあった時には、必ず助けてやろうと思っていた。

みんなも同じだと思う。

空を見上げた。

一月の空は、綺麗に晴れ渡っていた。
「ドリーマーズ・ハイ」

(みらいいろ:記憶回路)


(十三)

駅前へと歩いた。

行き交う人々は、足早に過ぎていく。

その波に取り残された俺は、ぼんやりと立ち尽くしていた。

駅に入る人と、家に帰る人。

その中で、何となく片隅に目をやった。

ヨウがいつも歌っていた場所。

何だか、まだそこにヨウが居そうな気がした。

薄暗い駅の片隅は、行き交う人波の中に埋もれて、忘れ去られたようだった。

ヨウは居ない。

ここにはもう、ヨウは居ない。

そう思った瞬間、一気に喪失感が襲ってきた。

ふと気付けば、俺は公園の前に居た。

日が暮れた年の瀬の公園には、誰も居なかった。

みんなとよく遊んだ公園。

ヨウも一緒だった。

いつも一緒だった。

最後に見た、ヨウの笑顔が浮かんだ。

もうヨウは居ない。

どこにも居ない。

不意に、頬を涙が伝った。

泣いていると気付いた途端に、涙は次々溢れて止まらなかった。

「馬鹿じゃねぇの、お前。」

言葉が口をついて出てきた。

「本当、馬鹿だろ。約束はどうすんだよ。」

ヨウが居なきゃ、意味が無い。

「どうすりゃ良いんだよ。これから。」

進めねぇよ。

俺が零した言葉は、誰にも届く事無く、冷えた空気に溶けて消えた。
「ドリーマーズ・ハイ」

(みらいいろ:記憶回路)


(十二)

もう年末も間近だった。

不意に携帯が鳴った。

相手はリュウだった。

「ヨウの事、聞いたよ。」

震えてる声で、リュウは呟くように言った。

いつもの明るさは、全く感じられなかった。

「ごめん、そっち行けなくて。」

受話器越しに、リュウが謝罪する。

「良いよ。お前らだって、今大変なんだろ?」

今月の頭に、リュウから久々に連絡を貰っていた。

受話器から聞こえるリュウの声は、どことなく元気が無かった。

どうしたのかと問いかければ、リュウはいったん言葉を切った。

「カナデがバンドを辞めたんだ。」

全く予期しなかった出来事に、俺はしばらく言葉を失った。

訥々と、リュウは近況を話した。

十月に入ってしばらく、突然カナデがバンドを辞めると言い出した。

あまりにも突然で、話についていけなかったと言っていた。

リュウとヒロとタケの三人は、必死で止めた。

フジは止める事はしなかった。

ただ、酷く悲しそうな顔をしてたそうだ。

バンドは今、活動休止中らしい。

「解散はしないよ。新しいバンドを始める気もない。」

リュウは、きっぱりとそう言い切った。

「カナデが戻ってくるのを待つよ。カナデじゃなきゃ、ボーカルは嫌だもん。」

最後に、リュウはそう言った。

「カナデ、元気そうか?」

「分かんない。あれから会ってないんだ。連絡は入れてるけど、出ない。」

俺の問いかけに、リュウは心配そうに言った。

しばらく間を置いて、リュウは再び喋り出した。

「みんなで決めたんだけどさ、ヨウの事、カナデにはまだ言わない事にした。」

いったん途切れる、リュウの言葉。

「落ち着くまで待ってようって。」

リュウの言葉は静かに響いた。