「ドリーマーズ・ハイ」

(みらいいろ:記憶回路)


(十一)

一週間程経った十二月半ば。

珍しく、年明け前に雪が降っていた。

一昨日から降り出した雪は、今日になっても、まだちらちらと舞っている。

寒いな、なんてぼんやり思いながら外を見ていると、不意に携帯が鳴った。

相手は、俺とヨウの共通の友人だった。

特に不思議に思う事もなく、俺は電話に出た。

「なぁ、落ち着いて聞いて欲しいんだ。」

友人の声は、妙に震えてる。

不意に俺は不安になった。

聞きたい、聞きたくない。

そんな思いが交錯する。

そして、友人の一言を聞いた俺の頭は真っ白になった。

「お前、何言ってんだよ?」

震えてる声で聞き返す。

友人が何か言ってるが、上手く聞き取れない。

ヨウが死んだ。

受話器越しに、友人はそう言った。

原因は、飲酒運転による事故死。

雪で滑り、電柱にぶつかったそうだ。

即死だったらしい。

夕べの出来事だった。

それから数日、どんなふうにして過ごしたのか覚えていない。

気付けば葬儀が終わって、数日経っていた。
「ドリーマーズ・ハイ」

(みらいいろ:記憶回路)


(十)

十二月に入ると、何となく忙しない雰囲気が町を覆う。

バイト帰りに、たまにヨウと駅前で会っては、相変わらず二人で喋っては笑い合った。

慌ただしく行き交う人波から、俺らだけ取り残されたような感じだった。

この不思議な感じが、俺は好きだった。

十二月頭のある日、ヨウから話したい事があると言われて、いつものように駅前に向かった。

「上京しようと思ってるんだ。」

ヨウは一言、しっかりとそう言った。

「まだ未定だけどな。」

そう言って、ヨウは笑う。

「そっか。何か寂しくなるな、ヨウまで居なくなると。」

俺はそう言うと、白い息を吐き出して、空を見上げた。

「でもまぁ、頑張れよ。」

空を見上げたまま、俺は言った。

「それでさ、カイトに一つ、約束して欲しい事があるんだ。」

ヨウの一言に、俺は視線をヨウに向ける。

「俺が上京してさ、またこの町に帰ってきた時に、今最高に楽しいって言って欲しいんだ。」

そう言って、ヨウは笑った。

「俺もさ、帰ってきた時に、凄ぇ楽しいって言う。」

俺はヨウの顔を見た。

正直、今の俺にとって、その約束は少し怖かった。

果たせる自信も無い。

だけど、思ったんだ。

ヨウのこの笑顔を見て、きっと大丈夫だって。

「分かった。約束な。」

そう言って俺は笑うと、ヨウと拳を合わせた。

その時のヨウの笑顔を、俺は忘れなかった。

そして、これが最後に見たヨウの姿で、最後に交わしたヨウとの言葉だった。
「ドリーマーズ・ハイ」

(みらいいろ:記憶回路)


(九)

それから、二年とちょっと経った。

就職に失敗した俺は、バイトをしながらの生活をしていた。

ヨウは本格的に音楽の道に入った。

ヨウに会う度、全く進めていない自分が情けなくなった。

自分が何をしたいのかさえも、正直分からなくなっていた。

たまに来る、みんなからのメールなんかでも、俺だけ取り残されてる感じがして、何だか寂しかった。

「羨ましいよ、本当。」

いつものように、駅前のベンチに座り、ヨウと喋る。

「みんなさ、自分のやりたい事っていうか、やるべき事が分かってて。」

隣でヨウは、俺の話を黙って聞いていた。

「俺、本当どうしたら良いか、分かんねぇよ。」

溜息を吐くと、そのまま俺は俯いた。

「そういう時の方が多いんじゃねぇか?」

不意に、ヨウが呟くように言った。

「上手くいく事の方が珍しいだろ?回り道とか、遠回りとか、そういう事しねぇと見つからないものもあるしな。」

ヨウが空を見上げる。

秋の空に、一番星が輝き出していた。

「それにさ、一本道じゃ、絶対つまんねぇよ。」

ヨウを見れば、その横顔は笑っていた。