「ドリーマーズ・ハイ」

(みらいいろ:記憶回路)


(八)

それから半年ちょっと経った、六月のある日。

俺は公園のベンチに腰掛けていた。

隣には、カナデが座っている。

顎で切り揃えていた髪は、肩まで届くくらいまで伸びている。

まだ青白い顔をしている。

もう暑いくらいにはなってきているのに、カナデは長袖のパーカーを羽織ったままだった。

「上京する事にしたよ。」

数日前に、カナデから届いたメール。

一度、カナデと話をしたくなった。

「七月の下旬に、東京に行く。」

カナデは呟くように、だけど、しっかりと言った。

「みんなも一緒にね。」

「そっか。頑張れよ。」

笑ったカナデは、まだ頼りなげだったけど、俺は不思議と安心出来た。

夏になり、みんなはこの町から旅立って行った。

俺はヨウと一緒に見送りに行った。

「寂しくなるな。あいつら居ねぇと。」

駅前のベンチに座って、俺はヨウとしばらく喋った。

「本当だな。特にリュウが居ねぇとな。」

そう言って、俺らは笑い合った。
「ドリーマーズ・ハイ」

(みらいいろ:記憶回路)


(七)

その後、リュウと連絡を取って、会う約束をした。

たぶん、リュウが一番カナデを気にかけてると思った。

他の四人だって、もちろん心配はしてるだろう。

リュウは世話好きだった。

困ってる奴が居たら、放っておけないところがある。

案の定、リュウは頻繁に、カナデの家へと足を運んでいた。

リュウの話では、あれでもカナデは、だいぶ良くなった方らしい。

「普通に笑えるようになってきたんだ。最近だと、よくギターを聴かせてくれる。」

そう言うリュウの横顔には、安堵と不安が入り交じっていた。
「ドリーマーズ・ハイ」

(みらいいろ:記憶回路)


(六)

それから約三ヶ月後、俺らは高校を卒業した。

専門学校に入学してしばらくは、新しい生活に慣れるのに必死で、みんなともなかなか連絡を取れずにいた。

そんな新生活にも漸く慣れて、もうすぐ夏休みという時期、地元の駅で、偶然ヨウと会った。

俺らは駅前のベンチに座り、久しぶりの会話をした。

ヨウは相変わらずだ。

それに俺は安心した。

話をする内に、俺はみんなの事を思い出した。

あいつら、どうしてるだろうな。

そう呟くと、不意にヨウが黙った。

不思議に思っていると、ヨウが口を開いた。

「カイト、カナデの事知らないんか。」

「え?」

ヨウが俺を見る。

どことなく、深刻な顔をしている。

俺は急に不安になった。

「カナデ、今精神的に、相当不安定になってんだよ。」

少し前に、ヨウはリュウと連絡を取ったらしい。

よくある近況報告だった。

ごく自然な流れで、みんなの事も聞いた。

それで分かったらしい。

「リストカットが酷くて。一度様子を見に行ったけど、左腕が、手首から肘まで傷だらけだった。」

他にも、不眠症が酷くて、そのせいで睡眠薬の大量服薬もしてるらしい。

ろくに食事もしていないそうだ。

カナデには、確かにどこか危ういところがあった。

人の目を気にし過ぎる事がよくあった。

自分に自信の無い事も、原因の一つかもしれない。

一度、カナデに会いに行こうと思った。

だけど、何だか怖くて、いつもあと一歩が出ない。

結局、決心がついたのは、秋も半ばになった頃だった。

カナデの家に行って呼び鈴を鳴らせば、少しして、玄関に向かう足音が聞こえてくる。

しばらくして、ドアが開き、カナデが顔を出した。

カナデを見た瞬間、俺は言葉を失った。

痩せて、血の気の無い白い顔。

痩せ細った体。

「久しぶり。」

カナデは俺を見ると、力無く笑った。

カナデの髪は、黒髪に戻っていた。

高校を卒業してしばらく経った頃、黒髪に戻したらしい。

久々に、カナデの部屋に入った。

物が少なく、シンプルな部屋。

懐かしくなって、しばらく部屋の中を見回していた。

「カイトはさ、学校毎日行ってるの?」

不意にカナデが話しかけてきた。

「まぁな。一応、ちゃんと行ってるよ。」

「そっか。」

俺の答えに、カナデは小さく笑った。

ベッドに腰掛けたカナデは、細い手で、アコースティックギターをいじっている。

しばらくチューニングをして、ギターを鳴らした。

カナデが羽織ったパーカーの袖から、時折白くて細い腕が覗く。

垣間見える左腕は、手首から隙間の無い程に、沢山の切り傷に覆われていた。