「ドリーマーズ・ハイ」

(みらいいろ:記憶回路)


(五)

二年になって、俺はカナデとフジと同じクラスになった。

六月に入って数日後、衝撃的な事が起こった。

「お前、どうした?」

教室に入ってきたカナデを見るや否や、フジが苦笑いを零しながら口を開いた。

「びっくりだわ。」

思わず俺も、苦笑いが零れる。

昨日まで夜の闇のように真っ黒だったカナデの髪は、明るい茶髪へと変わっていた。

「特に意味は無いけど。」

少し困ったようにカナデが答える。

あれからカナデとも仲良くなれた。

そんな中で知っていったけど、カナデは割と大胆というか、頑固というか、そういった面もある。

それでも、今回の事は、充分衝撃的だった。

それから約一年半後。

年の瀬も目前な今は、進路の最終調整やら何やらで、やたらと張り詰めた空気が漂っていた。

俺は、デザイン系の専門学校への進学が決まった。

カナデとフジは、進学も就職も決まってない。

「バンドを続けるよ。」

二人共、迷う事無くそう答えた。

他のメンバーの進路も聞いた。

リュウも、進学も就職もしないで、バンドを続けると言った。

ヒロとタケは、音楽系の専門学校へ、二年間通う。

バンドの為に、ある程度音楽の勉強をしたいと言っていた。

俺にはみんなが羨ましかった。

「分かるわ、その気持ち。」

駅前で、ギター片手にヨウが言う。

「あいつら、本当凄ぇよな。」

「絶対、大物になるぜ。」

俺の一言に、ヨウが笑いながら答える。

「ヨウだって凄ぇじゃん。音楽の道に入るんだろ?」

ヨウも音楽系の専門学校へ進学する。

結構前から気付いてた。

ヨウは天才だって。

ヨウなら、この道でもきっと成功する。

「カイトだって、デザイナー目指すんだろ?」

「俺には、それしか無いから。」

正直、俺には何の取り柄も無い。

デザインなんかはみんなには好評だけど、それだってたかが知れてる。

どこまで自分が出来るのかなんて、分からないし、自信だって無い。

「良いんじゃないか?別にそれで。」

ぽつりとヨウが呟くように言った。

「誇れるものが無くたって、別に良いんじゃないか?」

俺はヨウを見た。

ヨウは笑いながら、ギターをいじっていた。
「ドリーマーズ・ハイ」

(みらいいろ:記憶回路)


(四)

その日から、俺は二人と昼休みや放課後を一緒に過ごすようになった。

「これ、この間言ってたCDだよ。」

フジと名乗ったそいつが、CDを差し出してきた。

「有難う。帰ったら早速聴くわ。」

笑いながら、フジに礼を言う。

フジは少し癖っ毛の黒髪を、長めに伸ばしていた。

前髪は目を覆う程長いが、フジに分ける気は無いらしい。

一見すれば、暗い奴にも見えそうだけど、不思議と初対面からそんな感じはしなかった。

何となく、周りとは違う独特の空気を纏っていた。

不思議な奴、一言で言えばそんな奴だった。

人見知りはそんなにしないのか、最初から気軽に話してきた。

対して、フジと一緒に居るもう一人は、人見知りをする奴なのか、未だに俺を警戒して、なかなか会話に加わろうとしない。

俺はそいつに視線を向けた。

真っ黒な髪が特徴的な奴だった。

夜の闇という言葉がぴったりな程だ。

その綺麗な黒髪を、襟足とサイドを、顎辺りで切り揃えていた。

少し長めの前髪を、センターで分けている。

その前髪の下から、色白で整った顔が覗く。

細身なのも相まって、何となく繊細な印象を持った。

男らしくない、だけど、女っぽいかと言われれば、そうではなかった。

中性的な感じというのだろうか。

一言で言い表すのが難しい奴だった。

フジとは違った意味で、不思議な奴だ。

カナデ、という名前だった。

その、男とも女とも取れない名前のせいもあったのかもしれない。

でも、直感的に思った。

こいつにはぴったりな名前だって。

カナデはボーカルとギターを担当し、フジはギターを担当していた。

メンバーは、他に三人居て、全員別々の学校だそうだ。

しばらくして、フジに他のメンバーを紹介してもらった。

ベース担当で、バンドのリーダーでもあるリュウは、バンドのムードメーカーなのもあって、明るくて賑やかだった。

ドラム担当のヒロは、カナデと同じように人見知りする奴だったけど、打ち解ければ人懐っこい。

正式なメンバーはこの二人で、残りの一人はサポートだった。

みんなは、ほとんどメンバーとして扱ってるらしい。

そんな、キーボード担当のタケは、意志の強そうな見た目通り、白黒はっきりした性格だった。

男でも惚れそうな程、格好良い奴だと思った。

俺はみんなと一緒に、スタジオに入り浸った。

一緒に居る内に、凄い奴らだなって思い始めた。

特にカナデには、何か光るものを感じた。

そうだ、ヨウにこいつらを見せてやろう。

そう思い、俺はみんなにヨウを紹介した。

同じ音楽好きなんかで、ヨウもみんなとすぐに仲良くなった。

「本当さ、凄ぇ奴らだよな。」

ある日の放課後、俺はヨウと一緒に駅前のベンチに腰掛けて喋っていた。

「カイトが惚れるのも、分かる気がするわ。」

そう言って笑いながら、ヨウはギターを取り出して、歌う準備を始めた。
「ドリーマーズ・ハイ」

(みらいいろ:記憶回路)


(三)

卒業式が終わり、春になり、新しい生活が始まった。

相変わらず、俺は周りを信用していなかった。

せっかく高校生になったんだから、これを機に変わってみようとは思った。

だけど、それ以上に周りと関わるのが面倒だった。

入学当時から茶髪だった俺は、すぐに不良のレッテルを貼られた。

そのお陰で、周りは俺と関わろうとしなかった。

それは幸いだった。

毎日退屈だったけど、面倒な人間関係よりよっぽどましだった。

そんなある日、ある噂を耳にした。

「バントやってる奴が居るらしいぜ。」

誰が言い出したのか、そんな話を聞いた。

別に、バントをやってる事自体は不思議じゃなかった。

高校生なら、バントの一つや二つ、やってる奴は居るだろう。

だけど、何となく気になった。

その内、そいつに会ってみたいとも思った。

「その話、本当なのか?」

俺はクラスの奴らに話しかけた。

俺に話しかけられた事に戸惑いながらも、何人かは答えてくれた。

それから何人かに当たり、具体的な話を聞いていった。

どうやら、二人組の男らしい。

そいつらの容姿や特徴なんかを、とにかく手当たり次第に聞いていった。

自分の行動が、信じられなかった。

らしくない、そう思っては苦笑いを零した。

ある日の昼休み、俺は屋上へと向かった。

どうやらそいつらは、よく屋上に居るとの事だった。

ドアの前で一度立ち止まる。

ドアノブに手をかけて開く。

目の前に青空が広がった。

ふと視線を下げると、二人の男が目に入った。

驚いた顔で俺を見ている。

俺はそいつらに近付いた。

「なぁ。」

俺は二人の側に腰を下ろした。

「バンドやってんだって?」

笑いながら、俺はそう言った。