「ドリーマーズ・ハイ」

(みらいいろ:記憶回路)


(十七)

翌日、公園のベンチに座って空を眺めていると、不意に隣に気配を感じた。

顔を向けると、カナデが居た。

よくここに来るのかと言う質問に、俺は頷く。

カナデはヨウの事を話し出した。

上京前、どうしようもなくなって、ヨウに全部をぶちまけた事。

そんなカナデの事を、ヨウは受け入れた事。

プロを目指せと、カナデに言った事。

ずっと、カナデの事を羨んでいた事。

もしかしたら、ヨウはずっと、一人で悩んでいたのかもしれない。

カナデはそう言った。

天才だと言われて、周りからは期待されて。

そう言った事に、ヨウはずっと苦しめられていたのかもしれなかった。

頑張れよとカナデに言ったヨウは、どこか寂しげに笑っていたそうだ。

もっと早く言うべきだったと言って、カナデは謝罪の言葉を口にした。

「お前のせいじゃないよ。」

カナデを見ながら、俺は言った。

「話してくれてありがとな。」

そう言うと、俺はカナデに笑いかけた。

大型連休の最終日、カナデは東京に戻った。

一緒に帰省していたみんなも、戻ると言った。

俺は駅に見送りに行った。

カナデは笑っていた。

カナデの笑顔は綺麗で、俺には眩しすぎた。

その笑顔が、俺は羨ましかったし、好きだった。

「下ばっか見んなよ。」

笑いながら、俺はカナデに言った。
「ドリーマーズ・ハイ」

(みらいいろ:記憶回路)


(十六)

公園のベンチに座って、俺らは久々の会話をした。

パーカーの裾から時々覗く左手首には、包帯が巻かれていた。

でも、上京前のあの頼りなげな空気は無かった。

まだ不安定なのかもしれないけど、よく笑顔を見せてくれた。

上京前には肩辺りまであった黒髪は、顎辺りで切り揃えられていた。

座敷童みたいだと言って、俺は笑った。

俺らは近況を報告し合った。

あれからカナデは、バンドに戻ったらしい。

みんなとも、よく会うようになったそうだ。

カナデがヨウの事を聞いてくる。

俺は躊躇ったけど、ヨウの事を話した。

案の定、カナデは驚いて、そのまま口ごもった。

「それってさ、本当に事故だったの?」

カナデはそう言った。

俺は驚いてカナデを見る。

それは、俺が心の片隅で思っていた事だった。

そして、一番考えたくない事だった。

墓参りがしたいと言ったカナデに、場所を教えてやる。

一人になってから、頭の中をいろんな事が巡った。

そして、行き着くのは、最後に見たヨウの笑顔だった。
「ドリーマーズ・ハイ」

(みらいいろ:記憶回路)


(十五)

五月に入り、大型連休が始まったある日。

俺は地元を歩き回った。

ヨウと出会った駅前。

みんなと遊んだ公園。

あれから十年近くの年月が流れていた。

この町は、何も変わっていない。

変わった事、変わらなかった事。

そんな事を繰り返しながら、俺は今日に辿り着いた。

ふと俺は足を止めた。

目の前には、みんなが通っていたという中学校があった。

その校門の前。

一人の男が立っていた。

夜の闇のように真っ黒な髪。

思わず俺は声をかけた。

そいつが振り返る。

驚いた顔を向けた。

「久しぶりだな。」

俺はカナデに笑いかけた。