国宝東塔大修理落慶記念 薬師寺展 ─ あべのハルカス美術館 令和2年2月28日 ─ | タクヤNote

タクヤNote

元mixi『東大寺』『南都七大寺』コミュニティ管理人で、
現在は古都奈良の歴史文化の紹介、
アメーバピグや、配信アプリ『RIALITY』で知り合った人の
アバターの絵を描くなどの自作イラスト紹介をしています。

日本一ののっぽビル、あべのハルカスの中にある都市型美術館『あべのハルカス美術館』で、『国宝東塔大修理落慶記念 薬師寺展』が開幕し、早速開催初日である2月28日の金曜日に行ってきました。

超高層ビルの都市型美術館であるあべのハルカスでの奈良の大寺院がテーマ展覧会、このブログ『タクヤNote』で紹介するのはこれが三回目となります。最初は2014年3月25日の『開館記念特別展 東大寺』で、二回目は2017年8月17日の『奈良 西大寺展』でした。そして今回同じ南都七大寺に数えられる薬師寺の特別展が開催されると聞いて「過去二度行ったのだから、今回も行かなくては」と、早々と前売り券を購入し、初日の午前中というほぼ一番乗りのタイミングでの鑑賞です。

ハルカス美術館のあるあべのハルカス16階へは、これまでと同様にシャトルエレベーターで昇ります。

 

 

到着してエレベーターホールを出るとすぐに美術館前の吹き抜けの広いロビーで、かつての展覧会と同様に薬師寺展の垂れ幕やパネルが飾られていました。インスタ撮影ポイントが薬師寺から出土したという、京都国立博物館蔵の獣身文鬼瓦というのが…

 

 

美術館に入る前に、まずミュージアムショップで図録を買いました。下の写真の図録の左下に小さくキーホルダーのようなものがありますが、小生は前売りチケットをコンビニで買ったのですが、その時に『オリジナルキーホルダーセット前売券』もあると聞き「記念にこれにしようか」と選んでしまったのです。前売券購入の時にキーホルダーの交換券を一緒に受け取り、ミュージアムショップのカウンターでキーホルダーと交換しました。

 

 

クルミ材の木製で柿渋と蜜蝋で仕上げた手作りの味わいあるキーホルダー。東塔水煙の天人をモチーフにしています。いいグッズではありましたが、これを手にして「薬師寺展のチケットだけなら前売1,200円、当日1,400円に対してセット前売券は2,200円で、よく考えたら800円~1,000円でこのキーホルダーを買ったのと同じでは」と後から変な計算をしてしまいました。

 

 

そして、今回特筆すべきところは、ミュージアムショップに薬師寺僧が常駐されていたことです。図録を購入した人に、その図録に揮毫をしていただけるという薬師寺展らしいサービスがありました。

小生が図録を購入した時におられたのは、加藤大覚師。平成24年11月の慈恩会で行われた竪義(学僧の試験)で、10年ぶり合格をしたとニュースになられた方です。

 

 

加藤大覚師の揮毫は『積聚』 。阿含経の「悪業悪法を遠離し、善業を積聚する」という一節から、法業と結縁の積み重ねによって東塔が落慶出来たことを説かれて書かれたとお話されてました。

 

ミュージアムショップで図録を買い終え、いよいよミュージアムに入館です。ミュージアム入口では白鳳時代の朝服風の女子衣装を着られた方に出迎えていただきましたが、その顔には白鳳時代の風流も何も無いマスクがしっかりと。昨今の事情によりその横には消毒剤も備えられていました。

他に音声ガイドも借りたのですが、接触感染を防ぐ為に利用者が自分で機械をトレーから取るという方法となっていたりするなど、今回の展示会では感染を警戒し普段と違うことがいっぱいでした。

 

 

実を言うと、現地に着くまで開催が中止されているのではと、心配をしながらの入館でありました。小生が行った時点で既にこの展覧会の関連イベントは3月中の全てが中止、3月3日にはついに展覧会そのものまで15日までの中止となったのです。この日は、政府が要請を出す前だったので何とか見れたという感じです。

 

音声ガイドでナビゲーターをされるのは、NHKの朝ドラ『ゲゲゲの女房』のヒロイン、松下奈緒さん。耳に心地よいとてもやさしい語調でガイドをされていました。

今回の薬師寺展は4ブロックに展示が分けられていました。最初のブロックはズバリ『聖観音菩薩立像』。ブロックの名の通り、東院堂の本尊聖観音菩薩立像[白鳳時代・国宝]をメインとするブロックです。

一尺(約30㎝)の小仏が多い白鳳金銅仏において、この聖観音菩薩立像は188.9㎝の存在感ある等身仏。圧倒的な造形の美しさも相まって、同じ薬師寺金堂本尊の薬師三尊と並び白鳳時代金銅仏の代表と呼ばれの高い仏像です。この薬師寺展に出陳された国宝は、東塔の建物関係の出陳物を除けば、この聖観音菩薩立像、慈恩大師像、吉祥天女像の3点で、いずれも今回の薬師寺展の目玉となっています。

 

 

東院堂では近世に造られた光背が付けられ、厨子に納められているので、正面からしか見ることが出来ませんが、この薬師寺展では360度どの方向からでも見ることが出来ます。光背も無いので後ろ姿も見ることが出来ます。

 

聖観音菩薩立像・背面 画像引用:薬師寺展図録

 

小生が博物館で聖観音菩薩を鑑賞するのは、4年前の平成27の(2015)年夏の奈良国立博物館『白鳳展』に続いて二度目。このブログでは2015年8月10日の記事で、白鳳展での聖観音菩薩のことも紹介しています。この時は薬師三尊の中から月光菩薩も一緒の出陳となっていましたが、今回の展覧会では聖観音菩薩のみがちょっと寂しそうな感じでの出陳でした。

 

ハルカス美術館に行く6日前の2月22日、奈良市三条通りのクロネコならTABIセンターで、切り絵作家の西村幸祐先生が講師の切り絵ワークショップに参加させていただきまして、そのことを2月25日の記事に書いてますが、小生がワークショップで切り絵教材に選んだのが、この薬師寺東院堂の聖観音菩薩だったのです。

 

 

画像左:2月22日の切り絵ワークショップで小生が作った聖観音菩薩
画像右:東院堂で安置されている聖観音菩薩立像 画像引用:https://www.travel.co.jp/guide/article/6038/ 

 

ワークショップの時に西村先生と話をして「教材の聖観音は横顔ですが、東院堂での聖観音は御厨子に納められているので、博物館で展示でもされないとこのような横顔は見れない」という話をしたばかりだったのです。薬師寺展では西村先生とした会話を思い出しながらの鑑賞となりました。

 

『聖観音菩薩立像』ブロックを見終えて、次のブロック『法相教学と舎利の伝来』へと進みます。このブロックでは玄奘三蔵、慈恩大師、行基菩薩という三人の僧侶をピックアップしています。興福寺と共に薬師寺は法相宗の総本山です。薬師寺は聖武天皇が開基ですが、法相宗を開宗した玄奘三蔵と慈恩大師を法相宗総本山として信仰の対象として崇めて来たのです。

 

このブロックの目玉となっている展示物は二つ、玄奘三蔵坐像[鎌倉時代]、慈恩大師像[平安時代・国宝]です。仏像同様に信仰の対象とされていた像です。

 

玄奘三蔵坐像[鎌倉時代] 画像引用:薬師寺展図録

 

慈恩大師像[平安時代・国宝] 画像引用:薬師寺展図録

 

玄奘三蔵坐像は衣装やしぐさなど、唐代から宋代によく表現された姿で表現されています。破損状態で伝わり、平成9(1997)年に修復されたばかりということもあり文化財指定はありませんが、中世までさかのぼる肖像彫刻として貴重な遺物です。

慈恩大師像は法相宗の宗祖として崇められる慈恩大師を研鑽する慈恩会の本尊として描かれた図画。薬師寺で慈恩会が始められたのは康平6(1061)年と伝えられ、この像はその本尊とされたのではと考えられています。千年前とは思えない状態のよさにも目を見張ります。身長六尺五寸(197㎝)の巨漢だったと伝えられる、慈恩大師の威風堂々ぶりが絵から伝わって来ます。

小生が初日に薬師寺展に行った大きな理由に、この慈恩大師像があります。この国宝の慈恩大師像は前期にしか展示されないのです。

 

このブロックでは玄奘三蔵、慈恩大師という二人の唐僧に加えて、行基も取り上げています。行基と言えば、近鉄奈良駅前にブロンズ像が立っているほどの地元の有名人。聖徳太子・弘法大師空海と並んで仏教界の三大スーパースター呼ばれる人物ではありますが、行基が薬師寺とどういうつながりがあるのでしょうか。

 

奈良駅前広場 行基ブロンズ像(杉村 尚 作) 撮影:2015年3月13日

 

薬師寺には釈迦の遺骨である仏舎利が行基から薬師寺に伝えられ、東塔に安置されたという伝承があるのです。薬師寺展では、複数の文書に書かれていた薬師寺仏舎利の由緒をまとめた『法相宗伝来肉舎利縁起』[江戸時代中期]という文書も出展されていました。

 

法相宗伝来肉舎利縁起[江戸時代中期] 画像引用:薬師寺展図録

 

今回の東塔の解体修理において、塔の心柱の頂部先端からその仏舎利を納めた容器が発見されたのです。江戸時代に造られたと推定される、その仏舎利容器も展示されていました。

薬師寺展で展示されていたのは空の容器でしたが、図録の写真には納められた仏舎利まで写っていました。容器は水晶の板が嵌められ、納められた仏舎利が見える様になっていたのです。

 

蓮華形舎利容器(東塔心柱納入品) 画像引用:薬師寺展図録

 

薬師寺展は3番目のブロックへと続きます。3番目は『東塔・西塔』です。

このブロックの展示は主に今回の東塔の解体修理において東塔で使われていた古材や、瓦や釘、塔の初層にあったとされる西塔跡から出土したや残欠や東塔初層に元安置されていたと伝わる塑像や、木造復元された像などの釈迦八相の塑像の残欠など、東塔や西塔の建材など建物にまつわる展示が主となっていました。このような展示会の場合「国宝〇点、重要文化財〇点」といった文化財指定出陳物の数が示されることが多いのですが、今回それが無いのは国宝の東塔の部材の展示が多いため数が出し難かったのではと思われます。

塑像

東塔 平瓦[奈良時代] 丸瓦[平安時代] 画像引用:薬師寺展図録

 

東塔 大斗[奈良時代] 画像引用:薬師寺展図録

 

東塔 肘木[奈良時代] 画像引用:薬師寺展図録

 

参考・東塔初層拡大 撮影:2011年7月7日

 

塔初層に安置されていたという塑像群ですが、昨年1月2日に西塔の初層特別公開に行き、新たに造られたブロンズ製の釈迦八相を見ました(昨年1月28日記事で紹介)、現存する塔初層の塑像群のある法隆寺で北子さんと一緒に拝観した時のことは、今年1月19日の記事で紹介してます。

 

西塔跡出土塑像残欠[奈良時代・重文] 画像引用:薬師寺展図録

 

また、初層屋根裏の垂木や天井裏の化粧板は、天平らしい原色の宝相華文様が残り、その鮮やかさは正倉院宝物を彷彿とさせます。現物と同じ色料で再現された彩色復元も同時に展示されていて、小生には古さを感じさせない、19世紀のアールヌーヴォー芸術そのものと感じて見てしまいます。

 

 

画像左・東塔 初層支輪板・裳階地垂木化粧裏板 画像右・同 彩色復元 画像引用:薬師寺展図録

 

聖観音菩薩立像や慈恩大師像などと並んで、今回の展示の目玉となっているのが東塔水煙の展示です。水煙は塔の頂上、相輪の最上部の金銅の透かし彫りです。創建以来、塔の上を飾っていましたが、今回の解体を機会に保存のため奈良時代のオリジナルは下ろされることになりました。

 

左・露盤蓋板、伏鉢、さっ管  右・水煙  画像引用:あべの経済新聞2020年2月27日 

 

このブロックでは、東塔初層の四天王像と西塔初層の四天王像[いずれも平安時代・重文]も展示されていました。今回の薬師寺展で小生が思ったのは「お寺の展覧会なのに、仏像が出展されていない」ということです。仏画や肖像彫刻は多かったのですが、67点の展示物中で仏像は聖観音菩薩立像と、この東西両塔の四天王像のわずか3点なのです。それがとても不思議でした。

 

左・西塔 四天王像  右・東塔 四天王像[平安時代・重文]  画像引用:あべの経済新聞2020年2月27日 

 

そして、もう一つ不思議だったのが、京都国立博物館所蔵の鬼瓦1点を除いて、すべてが薬師寺所蔵の文化財ばかりだったということです。薬師寺旧蔵の仏像や神像など9点の重要文化財が奈良国立博物館・東京国立博物館・大阪市立博物館が委託を受けているのですが、これらはいずれも今回の薬師寺展での出陳はありません。

 

委託の仏像などが出陳されればまだ良かったのでしょうが、仏像ファンにはちょっと満足の展示会になったかも知れません。自分は今回の解体修理を担当した大手ゼネコンの清水建設よる、建築物としての東塔についての解説が面白く、東塔の構造模型には顔を近づけて見させてもらいました。今回の解体修理では鉄骨を使っての補強が多く行われていたことを知り、少々気になりました。

展覧会全体を通して見た印象では、「薬師寺展というよりも、薬師寺東塔展」という内容だった気がします。まあ、最初から“東塔大修理落慶記念”と銘打っているのですし、聖観音菩薩や吉祥天女像には悪いのですが、今回の主役は東塔と始めから割り切っておいた方が良さそうです。

 

東塔構造模型 画像引用:清水建設HP 

 

『東塔・西塔』のブロックを見終えると、いよいよ最後のブロック『吉祥天女』に向かいます。『聖観音菩薩立像』ブロック同様に、一つの宝物をテーマにしているのですが、最初の『聖観音菩薩立像』ブロックは聖観音菩薩以外に4点の展示物がありましたが、『吉祥天女』ブロックで展示されていたのは、吉祥天女像たった一点で、ブロック内に他の展示物は一切なく、大きなガラスケースに一枚の麻布に描かれた図画が展示されていました。

 

吉祥天女像はこの絵のために造られ大正年間に寄贈された厨子も一緒に展示されていました。奈良時代に描かれたもので、正倉院宝物『鳥毛立女屏風』と並ぶ天平時代に描かれた美人画として、国宝に指定されています。

昨年のお正月に薬師寺で営まれた吉祥悔過法要で公開された小生は吉祥天女像を拝ませていただきまして、昨年1月17日のブログ記事にも書きましたので、吉祥天女像の詳しい解説はこのブログ記事に譲ります。

 

薬師寺展で展示される吉祥天画像[奈良時代・国宝]厨子  画像参照:Lマガジン 2020年3月3日 

 

昨年参拝したお正月の吉祥悔過法要(修正会)の時は、吉祥天女像は金堂本尊薬師如来像の前に置かれ、離れた場所から眺めるということに。今回の展示会では今回はガラスケースに顔をくっ付けて10㎝くらいの至近距離からじっくり見るという、滅多に経験出来ることのない鑑賞が出来ました。

 

ハルカス美術館での薬師寺展鑑賞を終えた小生は、エスカレーターに乗って一つ上の17階、カフェ・チャオ・プレッソでお茶をしました。こちらのカフェではハルカス美術館で開催される展覧会に合わせたラテアートのカプチーノが飲めるのですが、この時は薬師寺展のカプチーノがあると知り、記念にと思いケーキセットで注文をしました。

 

今回の薬師寺展は、本当に新型コロナウィルス大流行に翻弄された展覧会となりました。一日も早く感染が収束し、5月の東塔落慶法要がつつがなく行われることを願ってやみません。

 

 

アクセスカウンター
コーヒーメーカー通販ホームベーカリー通販デジタルブック