共通の話題に事欠かなかった。両人ともイタリアのボローニャ大学から名誉博士号を授章している。
教育事業にも携わってきた。1992年(平成4年)に建築学院を創設した皇太子。
「なぜ建築に興味を抱かれたのですか?」。池田会長がたずねる。建築と文明について考察してきた視点から答えた。
やがて遠くからバリバリとうなる音が近づいてきた。愛犬がピクンと鼻先を窓外に向けた。外の芝生に王室専用の赤いヘリコプターが降り立った。足下に振動が伝わる。
会見後、チャールズはオックスフォードへ発つ予定だった。米国大統領クリントンが待っている。
さかんに会長は時間を気にしている。皇太子の予定を慮ってのことだった。
そこでチャールズが「思い切って」という形容がふさわしい口調で切り出した。言葉に力がこもっていた。
「私は不合理と戦っています。悪と、不正と戦っています」
会長は即座に反応した。
「皇太子が勇気をもって信念を叫んでおられることを知っております。社会の改革へ行動しておられる。行動すれば、反発もあるでしょう。名誉を傷つけんとする謀略もあるでしょう」
いささかの淀みもない。
「何があろうと見おろして、毅然と前へ進むべきです。リーダーが毅然として前進しなければ、民衆は不幸です」「嵐に向かい、嵐を超えてこそ、不朽の事業はでき上がる信じます」
血の通った言葉だった。
大英帝国の皇太子。その地位や肩書きを意識した美辞麗句ではない。
庭でヘリのプロペラがうなりをあげている。操縦士の焦りが伝わってくるようだ。
「池田会長、私がやろうとしていることには多くの困難があります。『勇気』と『決意』をもたないとできません。他の人の支えも必要です、お言葉に感謝します」
一行が私邸を辞して程なく、頭上から激しい回転音が聞こえた。見上げると、赤いヘリコプターが青空を猛スピードで突っ切った。