ルイス・カーンの言葉1~Ⅰ期1 | ejiratsu-blog

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人は何を考え(思想)、何を為し(歴史)、何を作ってきたのか(建築)を、主に書いたブログです。

ルイス・カーンの「空間は用途を喚起する」「空間は必要を超越する」

建築の造形(外形)/機能(内容)1・2

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 アメリカの建築家のルイス・カーン(1901~1974年)は、建築作品の創作から、独自の建築設計の思想を提唱しましたが、その中で様々な言葉を生み出しました。

 しかし、それらは、独特で理解しにくいので、ここでは、『ルイス・カーン建築論集』(前田忠直・編訳、SD選書)から、カーンの言葉を抽出し、それらの相互関連性の中で、その意味を検討してみました。

 カーンの思想は、年代順に、次のように、区分されているようなので(山田雅美氏による)、それをもとに、まとめています。

 

・Ⅰ期(1953~1957年):オーダー(order)、デザイン(design) ~ 自然

・Ⅱ期(1958~1962年):フォーム(form)、リアライゼイション(realization)、シェイプ(shape)

・Ⅲ期(1963~1966年):インスピレーション(inspiration)、インスティチューション(institution) ~ サイレンス(silence)・ライト(light)

・Ⅳ期(1967~1974年):ルーム(room) ~ 構造、光

・根源:本性、真性、元初

 

 

■Ⅰ期:オーダー(order)、デザイン(design) ~ 自然

 

 まず、カーンは、認識段階では、自然(宇宙)の法則にしたがった、諸要素のオーダー(秩序)を発見し(p.8)、実践段階では、様々なオーダーを理解しつつ(p.34-35)、それを前提に、なしうる方法を思索する中で(p.128)、デザインを決定すべきだとしています(p.126)。

 

 オーダーとは、ものの本性で、ものがなしうること、何であろうとしているのか、その能力が充分発揮されて調和していることで(p.34-35)、自然は、つくられ方を記録し、自然の一部の人間も、つくられ方の記録があるという、宇宙の法則の感覚から、オーダーを発見できるとしています(p.135)。

 そして、ものを形成するための手段として、自然を受け入れつつ、人間の願望・スピリットを表現するので(p.220)、人間は、よき心・思索で、自然の法則をオーダーの断片として抽出する一方(p.52)、魂の驚異を表現しようと、神秘的な感覚を現実化したオーダーを、加味することになります(p.134)。

 デザインとは、自然の助けを借り(p.5)、いかにつくられうるかという、可能となる本性を発見しようと努力すること(p.41)、諸要素を相互に調和するシェイプ(外的・物的形状)へ展開させようと苦心すること、ひとつの全体・ひとつ名前になるように努力することとしています(p.97)。

 

 上記では、オーダーを認識段階、デザインを実践段階としましたが、両者の間に、フォーム(デザインに先駆、p.191)とリアライゼイション(「いかに」のデザインに先駆、p.86)が想定されています(p.34)。

 フォームは、諸要素の相互関係で成り立っており(p.191)、デザインを触発し(p.227)、デザインの方向を導きますが(p.191)、心の中の存在なので、フォーム(内的・心的形態)を触れ得る存在感(プレゼンス)へと変換するのが、デザインです(p.164)。

 また、フォームからデザインへの過程が、リアライゼイション(現実化)とされ(p.11)、そうなると、先には、「何について」のリアライゼイション、後には、「いかにして」のデザインが必要で(p.86)、こうして、デザインは、諸要素にシェイプ(外的・物的形状)を与えることになります(p.191)。

 

 ここまでをまとめると、次のように、図式化できます。

 

※認識段階:オーダー -[リアライゼイション・フォーム]→ 実践段階:デザイン [→ シェイプ]

・オーダー(秩序)

・リアライゼイション(現実化)

・フォーム(内的・心的形態):心の中の存在(イグジステンス)

・デザイン(設計):触れ得る存在感(プレゼンス)

・シェイプ(外的・物的形状)

 

* * *

 

●オーダー

 

 『ルイス・カーン建築論集』の中の「オーダー」を列挙すると、次に示す通りです。

 

 

○オーダー、本性、自然

・学校の形成について考える時、学校は、ある本性をもっている。学校をつくる時、あなたは、自然の法則に助けを求めねばならない。自然への参照とその承認は、絶対に必要なものだ。あなたは、水のオーダー・風のオーダー・光のオーダー・ある素材のオーダーを発見するだろう。たとえば、もし、レンガについて考えるならば、そのオーダーを考慮し、レンガの本性について考える。(p.8)

 

※建物の形成:自然の法則に助けを求め、建物の本性を考慮し、各々のオーダーを発見する

 

 

○オーダー、自然、光

・アインシュタインは、詩人とともに旅をした。彼は、ヴァイオリンを演奏する人だったから、測り得ないものを保持する。彼は、長きに渡り、測り得ないものを保持する。そして、彼もまさに戸口で自然、つまり光に到達する。というのは、彼が必要とするのは、ごくわずかな知識だけであって、そのわずかな知識から、宇宙を再構成することができるからだ。つまり、彼は、知ることではなく、オーダーに関わっているからだ。(p.20)

 

※測り得ないもの:オーダーが必要 → 自然・光に到達、宇宙を再構成

※測り得るもの:わずかな知識で充分

 

 

○オーダー、デザイン、本性、自然、美

・デザインは、「オーダー」が理解されることを求める。オーダーを知るとは、あるものの本性を知ることだ。あるものが、なしうることを知ることなのだ。そのことを大いに尊重しよう。もし、それを扱うなら、自然のオーダーを知らねばならないし、その本性、それは何であろうとしているかを知らねばならない。つまり、心の産物にするのだ。そして、あなたは、それらの美、その素材の能力が充分に発揮されたことによる、ハーモニー(調和)を知る。物事をあなたの心で正しく把握し、最も純粋な仕方で行えば、あなたは大いに孤立することになるかもしれない。しかし、その活動を深く掘り下げることは、それが注意深くなされ、自らの行っていることを充分にわきまえている限り、途方もなく重要なことなのだ。(p.34-35)

 

※オーダー:ものの本性、ものがなしうること、何であろうとしているのか、素材の能力発揮で調和

 

 

○オーダー

・「オーダー」について話すならば、交通のオーダー・光のオーダー・風のオーダー・水のオーダー、そして我々の周りのあらゆるものにオーダーがある。それが出発点だったが、私はさらに重要な出発点と思われるものを導入する方法を探し、その方法は、諸々のアヴェイラビリティ(可用性)を含むはずだった。測り得ないアヴェイラビリティは、我々の中にある、「表現することとして在らんとする」衝動に応ずるものとして、保持されなければならない。(p.44)

 

※自然:(測り得ない)オーダー

※人間:測り得ないアヴェイラビリティ → 「表現することとして在らんとする」衝動

 

 

○オーダー、自然

・知識は、不完全な書物に留まっている。知識は、常に不完全な書物の「中に」あって、さらに多くのページを集めつつ、オーダー自体の全体性を求めて、さらにページを増やし続ける。自然の法則は、オーダーの断片として抽出される。よき心は、この断片をオーダーについての自分の思索と常に関連づけて位置づける。(p.52)

 

※知識:不完全性

※オーダー:全体性 → よき心・思索で、自然の法則をオーダーの断片として抽出

 

 

○オーダー、インスピレーション、沈黙、光、美、芸術

・光は、全プレゼンスの賦与者で、物質は、燃え尽きた光だと、私は感覚する。光によってつくられたものは、影を投げかけ、その影は、光に属する。私は、閾を感覚する。つまり、光は沈黙へ、沈黙は光へ、インスピレーションのアンビエンス(雰囲気)、そこで表現することとして在らんとする願望は、可能性に交わる。岩・川・風が触発する。物質の中の美しいものは、まず最初に驚異の中で、つぎに知において、我々によって了解され、そして了解されることによって、表現せんとする願望に宿る、美の表現へと変換される。光は沈黙へ、沈黙は光へ。2つの移行は、芸術の聖域において交差する。芸術の聖域の宝庫は、より好みやスタイルを知らない。共同性から生ずる真性・規則、オーダーから生ずる法則、それらは、聖域の内への捧げものだ。(p.91-93)

 

※オーダー:法則が生じる

 

 

○オーダー、リアライゼイション、構造、光、美

・構造は、光の形成者だ。2本の柱は、それらの間に光をもたらす。つまり、闇-光、闇-光、闇-光、闇-光。我々は、柱の中に原始の壁と開口部から展開した、単純で美しい律動的な美を自覚する。はじまりの時、壁は厚いものだった。壁は、人間を守った。人間は、外の世界の自由と可能性への願望を感じ取った。人間は、最初に粗野な開口部をつくり、それから悲しんでいる壁に向かって、こう説いた。開口部を受け入れることで、壁は今や新しい価値あるエレメントとしてのアーチによって、より高度なオーダーに従っていかねばならない。このようなことは、建築における光と構造のリアライゼイション(現実化)だ。(p.96)

 

※高度なオーダーにしたがい、建築で光・構造を現実化

 

 

○オーダー、デザイン、フォーム、シェイプ、リアライゼイション、本性

・私は、フォームを本性のリアライゼイション(現実化)として語った。あるシェイプはフォームのある表現だ。フォームは、夢・信念の自覚として願望に従う。フォームは、不可分の諸要素について告げる。デザインは、相互に調和するシェイプへと、それらの諸要素を展開させようと苦心することで、ひとつの全体、ひとつの名前を求めて努力することだ。ある人の心の中のフォームは、他の人の心の中のそれと同じものでない。本性のリアライゼイションとしてのフォーム、そして、シェイプは、デザイン操作のプロセスには属さない。デザインの中にも多くの素晴らしいリアライゼイションがある。つまり、構造のオーダー・建設のオーダー・時間のオーダー・空間のオーダーが活動するものになるのだ。(p.97)

 

※デザインのすばらしい現実化:構造・建設・時間・空間のオーダーの活動

 

 

○オーダー、デザイン、リアライゼイション、構造、光

・構造は、光の賦与(分与)者だ。構造を決定する時、あなたは光を決定する。昔の建物では、列柱が光の表現だった。つまり、光なし、光・光なし、光・光なし、光だ。モデュール(基準単位)は、光・光なしだ。ヴォールトは、それから生じ、ドームは、それから生じる。それらは、光を解放するという、同じリアライゼイション(現実化)から生じる。デザインのエレメントを決定している時に考えているのは、オーダーだ。つまり、諸々のエレメントをデザインの中で完全なものにするために、どのように考えるのかだ。(p.126)

 

※オーダーを考慮し、デザインの諸要素を決定・現実化することで、完全なものにする

 

 

○オーダー、デザイン、構造

・デザインの中には、構造のオーダーと建設のオーダーの差異についての考えがある。それらは、2つ別々の事柄だ。建設に対してオーダーが働きかけて、諸々の時間のオーダーをもたらす。それゆえ、構造のオーダーと建設のオーダーは、緊密な関係になる。構造のオーダーは、クレーンを意識させることができる。どのくらいのものを持ち上げることができるかということは、別の単一のものと結合する、単一のものをつくる場合の考え方全体に、動機を与える事柄であるべきだ。構造のオーダーにおいても、こうしたオーダーに即した決定というものがある。(p.127)

 

※デザイン上、別々の構造のオーダーと建設のオーダーが、時間のオーダーで緊密な関係になる

 

 

○オーダー、デザイン、構造、光

・デザインは、展開する。それは、あなたが最も独自の素晴らしい方法で、なしうる方法についての思索だ。なぜなら、あなたは、次のことを認識するからだ。すなわち、構造には、オーダーがある。素材には、オーダーがある。建設には、オーダーがある。空間には、サーヴァント・スペースとサーヴド・スペースという仕方のオーダーがある。光には、それが構造によって与えられるという意味でオーダーがある。(p.128)

 

※様々なオーダーから、なしうる方法を思索し、デザインを展開する

 

 

○オーダー、リアライゼイション、自然

・壁面形成のオーダーは、開口を含む壁面形成のオーダーをもたらした。その時、柱が生じた。開口であるところをつくれば、開口のないところができるように、それは、いわば自然に生じたオーダーだった。諸開口のリズムは、その時、壁自身によって決定され、壁はもはや壁でなく、列柱と諸開口の連なりとなった。そのようなリアライゼイション(現実化)は、自然の中でけっして生じない。そのリアライゼイションは、表現を求める魂の驚異を表現しようとする、人間の神秘的な感覚から生じる。(p.134)

 

※壁面が柱と開口に分化:自然に生じたオーダー

※列柱と開口のリズム:人間の魂の驚異を表現しようとする、神秘的な感覚の現実化で生じたオーダー

 

 

○オーダー、自然・宇宙

・自然がつくる、あらゆるものの中で、自然はそれが、いかにつくられたかを記録する。人間の中には、人間がいかにつくられたかの記録がある。我々がこのことを意識する時、宇宙の法則について感覚する。ある人達は、ただ1本の草を知ることから、宇宙の法則を再構成することができる。一方、実に多くのことを学ばねば、宇宙そのものである、オーダーの発見に必要なことを気づかない人もいる。(p.135)

 

※オーダーの発見=宇宙の法則の感覚:自然はつくられ方を記録し、人間にもつくられ方の記録がある

 

 

○オーダー

・私は、プランニングには、未踏査の領域があると確信する。もし、それを建築家に手渡しさえすれば、すべてはよくなるだろう。しかし、都市の中には、いまだ未踏査の諸々の建築があり、オーダーの建築は、いまだ未踏査の状態に置かれている。(p.148)

 

※オーダーの建築は、未踏査の状態なので、プランニングにも、未踏査の領域がある

 

 

○オーダー、デザイン、フォーム、シェイプ、本性

・作曲することにおいて、フォームの諸エレメントは、その各々に最もふさわしいシェイプを与えようとするデザインの試みに、絶えずさらされながらも、常に変わることなく保たれていると、私は感じ取る。フォームは、プレゼンス(存在感)の中に閉じ込められない。というのは、その存在が心的本性からできているからだ。それぞれの作曲家は、フォームを独自に解釈する。フォームは、それが自覚される時、その自覚者に属さない。ただその解釈のみが、その芸術家に属する。フォームは、オーダーに似ている。酸素は、その発見者に属さない。(p.191)

 

※フォーム≒オーダー(フォーム=オーダー+ある存在を他の存在から区別するもの)

 

 

○オーダー、デザイン、インスピレーション、構造、光、芸術

・私は、平面図を見る時、それを諸々の空間の性格と、それらの関係として見る。私は、平面図を光の中の諸々の空間の構造として見る。ある作品を見た音楽家は、直ちにその芸術の意味を受け取るにちがいない。音楽家は、そのデザインと、自らの心的オーダーの感覚から、そのコンセプトを知る。彼は、自分自身の願望から、そのインスピレーションを感覚する。(p.197)

 

※芸術家:デザイン・心的オーダーの感覚から、コンセプトを知る

 

 

○オーダー、ルーム、光

・私は、諸々の感覚の融合を感じ取る。音を聴くことは、その空間を見ることだ。空間は、調性をもっている。だから、天井の高い空間・ヴォールト空間・ドーム空間を構成する時、狭さ・高さといった空間の抑揚、光から闇へ至る輝きの階調、そういうものに変換される音の性格が、その空間にあると、私は想像する。光の中の建築空間は、ある種の音楽を構成したいと思わせる。諸々の規律とそのオーダーの融合の感覚が、ある真性を想像させるからだ。どのような空間も自然光がなければ、建築的には空間といえない。自然光は、一日の時間の様々なムード、季節の様々なムードをもっている。建築のルーム・建築のスペースは、生命を与える光を求める。我々は、光からつくられたのだ。それゆえ、銀色の光・金色の光・緑色の光・黄色の光は、可変的なスケールや規則の諸特性なのだ。この特性が音楽を触発する。(p.197)

 

※規律とオーダーの融合の感覚:真性を想像させる

 

 

○オーダー、本性

・たったひとつの小さな知識の断片から、オーダーについての素晴らしい感覚を組み立てることができるような心は、めずらしいことだろうか。つまり、ギリシャ人は、私達が今ももっている知識をもっていなかったが、それでいて彼らのなしたことは、何と素晴らしく見えることだろうか。心に最高の敬意が払われていたからだ。つまり、質素ゆえに、選択するものを多くもたないがゆえに、生きんとする意志を表現しようとする人間の本性を、わずかなもので素晴らしく表現できる方法を、人は考え始める。(p.218-219)

 

※心に最高の敬意が払い、ひとつの小さな知識の断片から、オーダーのすばらしい感覚を組み立てる

 

 

○オーダー、自然

・建築は、自然がつくることのできないものだ。自然は、人間がつくるものを、つくることはできない。人間は、自然、つまり、ものを形成するための手段、を受け入れ、それを自然の法則から孤立させる。自然は、オーダーと呼ばれる法則のハーモニー(調和)の中で働くので、このようなことはない。自然は、けっして孤立して働くのではない。しかし、人間は、この孤立化を伴って働く。それゆえ、人間がつくるものすべては、人間の願望・スピリットによって表現されるのを望んでいるものに比べて劣る。人間は、常に自らのつくる作品よりも偉大だ。人間は、その手段によって、完全に願望を満たすものをつくることはできない。(p.220)

 

※自然:人間がつくるもの(建築)をつくれない、オーダーの法則の調和の中で孤立せず働く

※人間:自然(ものを形成する手段)を受け入れつつ、願望・スピリットで表現するので、自然の法則から孤立して働き、表現作品は、望みよりも劣り、人間のほうが偉大

 

(つづく)