フランシス・フォード・コッポラ監督、マーティン・シーン、マーロン・ブランド、ローレンス・フィッシュバーン、ロバート・デュヴァル、デニス・ホッパー、ハリソン・フォードほか出演の『地獄の黙示録 ファイナル・カット』。2019年作品。オリジナル版1979年公開(日本公開1980年)。PG12。

 

第32回カンヌ国際映画祭パルム・ドール(『ブリキの太鼓』と同時受賞)、第52回アカデミー賞撮影賞、音響賞受賞。

 

原作はジョゼフ・コンラッドの小説「闇の奥」。

 

音楽はカーマイン・コッポラ。日本語字幕は戸田なっち。

 

IMAXで鑑賞。※この映画は3月に観ました。

 

ヴェトナム戦争後期の1969年、アメリカ陸軍空挺将校のウィラード大尉(マーティン・シーン)は元グリーンベレー隊長のカーツ大佐(マーロン・ブランド)の暗殺を命じられる。カーツはカンボジアの奥地で現地の住民たちの上に王のように君臨していた。海軍の哨戒艇で乗組員たちには行き先や目的を告げぬままヌン川を遡るうちに、ウィラードはまるで悪夢の中のような戦場の狂気を目にすることになる。

 

日本では1980年に劇場公開されたオリジナル版(153分)は僕はTVやヴィデオで観たかどうかもはや記憶がなくて(映画館では観ていない)、2002年にオリジナル版ではカットされていたシーンを復元した202分の「特別完全版」を劇場で鑑賞。

 

ただし、その後この映画をBSで観た覚えはあるものの、それがオリジナル版だったのか、それとも特別完全版だったのかも失念。

 

また、今回の「ファイナル・カット」は「特別完全版」よりも20分ほど短いんだけど、正直なところ作品そのものにそこまで強い思い入れがないので今回劇場パンフレットも買ってなくて(売ってなかったかも)、どこが削られたのか細かい違いも確認できず。

 

それでも20年近く前に映画館で観た作品をもう一度、今度はIMAXで観られる機会は貴重だと思ったから、ともかく僕が住んでるところでは唯一の上映館に足を運びました。

 

前半の見せ場であるワーグナーの「ワルキューレの騎行」を流しながらのヘリ部隊によるナパーム爆撃のシーンは大迫力でスペクタクル映画として見応えはあったし、ロバート・デュヴァル演じるキルゴア中佐のお馴染みの台詞「朝のナパームの匂いは格別だ」も聴けたけど、後半は主人公のウィラードやマーロン・ブランド演じるカーツの顔のアップなど寄りの画が多く、意外と大スクリーンで観るありがたみが感じられず。

 

 

 

 

特にマーロン・ブランドの全身がほとんど映らないのは、彼が太り過ぎてて画にならなかったからなのだろうか。ほとんど動かないし^_^;

 

 

 

この『地獄の黙示録』はヴェトナム戦争を批判的に描いた映画として、また現地の混乱とデタラメぶりを圧倒的な物量で映像化した映像叙事詩として称賛されているのだけれど、まぁ、多くのかたがたが「前半は100点満点だけど後半失速」という評価をされていて、それは徐々に映像的に単調で内省的、観念的になっていく内容がぶっちゃけ退屈だからで、たとえば同じく3時間近い上映時間の『ゴッドファーザー』が眠気など感じる暇もないほど物語がさくさく進んで終盤に向かって盛り上がっていって、クライマックスで大いにカタルシスをもたらしてくれるのとは大違い。

 

それは両者が作品のタイプもストーリーの組み立て方も根本的に違うからだから比べてもしかたないのかもしれないけれど、10年間ぐらいのマフィアの抗争劇や家族の形を描いた前者に対して、要するにこちらはただスキンヘッドの肥えたおっさんを殺しにいくだけの話を3時間かけてやってるので(ちょっとイニャリトゥ監督、ディカプリオ主演の『レヴェナント:蘇えりし者』を思い出しますが)、ストーリー自体は物凄くシンプルなんですよね。

 

でも、撮影現場での混乱ぶりをそのまま写し取って、大量の撮影フィルムと悪戦苦闘の末にコッポラがなんとか組み上げたこの映画で観客はヴェトナム戦争の狂気と撮影現場のそれとを重ねて疑似体験するわけで、それはなかなかエキサイティングだとは思う。

 

 

 

 

そういえば、僕は日本では1992年に公開されたこの映画のメイキング映画『ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録』(監督:エレノア・コッポラ)を確か劇場で観ていて、撮影現場で錯乱気味のコッポラがピストルを自分のこめかみに当てていたのを覚えてます。あのドキュメンタリーももう一度観たいなぁ。

 

 

 

実をいうと、僕はいわゆる戦場で戦闘場面が延々続く作品というのは1998年のスピルバーグの『プライベート・ライアン』以降に何本か観たことがある程度で、恥ずかしながら有名なオリヴァー・ストーン監督の『プラトーン』もTV放送で断片的に目にしたことがあるぐらいでちゃんと観ていません。

 

そもそも戦場を描く映画そのものにそんなに興味をそそられなくて。

 

だから、この『地獄の黙示録』がそういうジャンルの中でどのような位置を占めているのかもよく知らないんですが、コッポラ監督自身が映画スタジオを作ってそこで映画界の「王」になろうとした男なわけで、だからそんな彼がカーツ大佐という怪物に自分を仮託した、というところに面白さを感じたりはします。

 

映画の冒頭近くでハリソン・フォード演じる“ルーカス大佐”が登場するけれど、ジョージ・ルーカスはコッポラとともにアメリカン・ゾエトロープを設立しているし、アメリカン・ゾエトロープは彼の『スター・ウォーズ』の製作も行なっている。

 

ルーカスが自己を投影させて描いた“ルーク・スカイウォーカー”の兄貴分のようなキャラクターでハリソン・フォードの当たり役“ハン・ソロ”にはコッポラの人物像が重ねられているし、もともと『地獄の黙示録』はルーカスの監督で作られる計画があった(のちにルーカスはスター・ウォーズの『エピソード6 ジェダイの帰還』と『エピソード3 シスの復讐』で彼が構想していたアイディアを基にしたジャングルを舞台にした場面を描いている)。いろいろ繋がってますよね。

 

 

 

僕がこの映画を「反戦映画」のようなものとして見られないのはそのためもあって、だってナパームでのジャングルの爆撃は迫力あって“かっこいい”し、人命のことなどよりも戦場で「いい波」を見つけてサーフィンすることの方が大事だと思っている頭がどうかしているキルゴアはメチャクチャ面白キャラだ。同じく、哲学的なことをブツブツ呟くカーツの肉塊のような巨体も現実の「戦争」からはずいぶんとかけ離れているように思える。

 

「戦争の狂気を描いた」というのは嘘ではないかもしれないが、この作品のごく一面でしかなくて、それは目的ではなくてあくまでも手段であるように思う。だからダメだ、と言っているのではないんですが。

 

映画評論家の町山智浩さんが解説されているように、この映画はグァルティエロ・ヤコペッティ監督のモンド映画世界残酷物語』『さらばアフリカ』の劇中のいくつかのイメージ(水牛の首を斬り落とす描写やヘリコプターでの馬の空輸など)を拝借しているし、アジア人を爆弾抱えてヘリとともに自爆したり予防接種をされた子どもの手首を斬り捨てるような野蛮な未開人として描いたり、つまり「見世物映画」の一種なんですよね。

 

 

 

 

また、先ほどタイトルを挙げた『レヴェナント』がそうだったように、これは主人公が冥府めぐりをする“オデッセイ”であって、この映画がしばしば「神話的」だと評されるのも(ルーカスのスター・ウォーズもまた多くの人々からアメリカの「神話」と捉えられているのが興味深いが。ルーカスはルーカス・フィルムやILMによって、コッポラが挫折した「王国」を実現させる)、「ゴッドファーザー」シリーズがそうだったように、コッポラはあの当時「大きな映画」、“アメリカ”そのものを俯瞰するような叙事詩的な映画を撮ろうとしていたからなんだな。

 

途中で登場するフランス人たちは亡霊か幻めいているし、そしてウィラードと身体を重ねるそこの女性(オーロール・クレマン)などは、まるで神話に登場する女神だとかセイレーンのようだし。

 

 

 

コッポラはフランスのサイレント期の映画監督、アベル・ガンスの『ナポレオン』の修復にもかかわっているし、アメリカの“映画の父”D・W・グリフィスの『イントレランス』(2本ともリヴァイヴァル上映時にはコッポラの父カーマイン・コッポラがオーケストラを指揮した)やソヴィエトの“モンタージュ理論”で知られるエイゼンシュテインの『戦艦ポチョムキン』など古典の影響が顕著で、もちろん黒澤明への傾倒もその延長線上にある。

 

自分自身をそのような「偉大な映画監督」の系譜に連なる存在と見做しているコッポラ(事実、彼の名は映画史に残っていくわけですが)の誇大妄想的なヴィジョンはカーツのそれとダブって、だからこの映画はコッポラが自身の「王国」の崩壊を予言したきわめてプライヴェートな映画だったともいえる。

 

カーツの王国が爆発炎上するエンディングはこのヴァージョンでは使われていない

 

個人的にはヘリコプターで慰問にやってくる“プレイメイト・オブ・ザ・イヤー”のシンシア・ウッドの「はみケツ」とダンスがいつ見てもいいなぁ、と(突然ゲスな発言)。

 

 

 

 

莫大な予算をつぎ込んだアメリカ産モンド映画、というのは大変くだらなくて面白い試み(笑)だったと思うし、こうやってIMAXの大画面で観られたこともいい記念にはなった。

 

『ゴッドファーザー』の方がはるかに好きな映画ではありますが。

 

 

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