ジョン・M・チュウ監督、ジェシー・アイゼンバーグ、マーク・ラファロ、ウディ・ハレルソン、デイヴ・フランコ、リジー・キャプラン、ジェイ・チョウ、サナ・レイサン、ツァイ・チン、ダニエル・ラドクリフ、マイケル・ケイン、モーガン・フリーマン出演の『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』。



伝説的マジシャンのライオネル・シュライクが脱出マジックに失敗して命を落としてから30年。現在のニューヨークでハイテク企業オクタ社のカリスマCEOの不正を暴こうとしたイリュージョニスト集団フォー・ホースメンは、何者かの罠にかかってマカオに飛ばされてしまう。彼らを待っていたのは1年前に亡くなったはずの天才コンピューターエンジニア、ウォルター・メイブリーだった。彼はフォー・ホースメンに全世界の情報を手に入れることのできるチップを盗み出させようとしていた。


2013年の『グランド・イリュージョン』の続篇。

あの映画はなかなかツッコミどころ満載の映画でしたが、でも無理のある展開もノリで見せきってしまう小気味よさがあって、僕はわりと好きだったんですよね。

ただ、トリックの見事さで観客を唸らせる類いの作品ではないので、そういうのを期待してしまうと肩透かしを食らう可能性大。

手品、奇術を扱った映画って結構難しくて、というのももはや映画においては映像的にCGでなんでも表現できてしまうために、どんな「驚異のイリュージョン」もそれだけでは観客に驚きや感動を与えられないから。

別の見どころがなければ、手品そのものをただ映しただけでは作品自体をもたせられない。

生でテーブルの前やステージで見るマジックと映画のそれとは根本的にまったくの別物なのだ。

だからミステリー物などで小道具の一つとしてマジックが用いられていると効果的だったりする。

これまでに観てトリックによって「騙された!」ととても面白かったミステリー映画は、『グランド・イリュージョン』にも出演しているマイケル・ケインが出ていた『探偵<スルース>』(1972)。

それから直接マジックを描いてはいないけれど、どんでん返しで魅せる映画としてはクリストファー・リーヴとやはりマイケル・ケインの出ていた『デストラップ・死の罠』(1982)が挙げられる。

派手な映像演出ではなくてほとんど同一の場所で展開される舞台劇的な物語(どちらももともと原作は戯曲)で、巧みに張られた伏線とアッと驚くオチが売り。時代を越えて通用する映画の“マジック”ってこういうのを言うんだと思います。どちらも古い作品ですが、推理モノがお好きなかたにはお薦め。

で、『グランド・イリュージョン』はそういうロジックとか伏線の積み重ねで緻密に作られた映画ではないので、残念ながらそのような部分での面白さはない。

1作目の感想でも書いたけど、僕はこれは「手品を見ることの楽しさ」を教えてくれる映画だと思ったんですね。

不思議な現象を目にする驚きと喜び。それを味わわせてくれるのがマジック(手品)なのだとあらためて教えてくれていた。

だから好きだったんですが。

ブライアン・タイラー作曲のおなじみのテーマ曲を聴くと、もうワクワクしてくる。




このシリーズはテーマ曲でかなり得をしてるところはあるなぁ。

これ聴くと条件反射的に、まるで催眠術にでもかかったみたいに気分が高揚するもの。

2作目であるこの『見破られたトリック』(最近、映画のタイトルに数字を入れないので何作目なのかわからなくて紛らわしい作品多いですね。前作を未見だったり公開後にDVDなどで観る人たちに対してかなり不親切だと思うんですが)は鑑賞前にちょっとだけ読んだ他のかたたちの感想にはかなり辛らつなものもあって、要するに「前作からかなり劣化している」という評価が少なくない。

1作目自体ちまたの評判はビミョーなところがあるのに、続篇がさらに劣っているのはキツい。

だから映画館で観るべきかどうか迷ったんですが、やっぱり気にはなったのでかなりハードルを下げて鑑賞。

「トリックの見事さで魅せる映画ではない」とはいえ、一応マジックを描く映画だし、ネタバレが嫌な人もいるでしょうから、以降は映画をご覧になったかただけお読みください。前作のオチについても触れます。

これからご覧になるかたは、ぜひ1作目を観てからどうぞ。



フォー・ホースメンの一人で脱出マジックが得意な紅一点のヘンリーは、演じたアイラ・フィッシャーが妊娠のために降板したそうで(ちなみに夫はサシャ・バロン・コーエン)。僕は彼女の演じるまるで峰不二子ちゃんみたいなヘンリーは結構好きだったのでちょっと残念でしたが、代わりにリジー・キャプランがルーラ役で新たにメンバーに加わる。

この女優さんどっかで見たことあるなぁ、と思っていたんだけど、『クローバーフィールド』の1作目で病気に感染して大変なことになってしまう女性を演じてた人でした。あぁ、顔が印象に残ってたわけだ。途中からSHELLYに見えてきてしかたなかったんだけどw

今回は手品で腕が大変なことになってます。

 


主人公のダニエル・アトラス役のジェシー・アイゼンバーグの髪形が前作と変わって短くなってたのは、『バットマン vs スーパーマン』で頭丸めたあとだからかな。




前作では主人公と思わせておいて実は…と、彼の存在自体がミスディレクション(故意の誤誘導)に使われていたんだけど、今回はマーク・ラファロ演じるFBI捜査官ディラン・ローズとダブル主演みたいな形に。

前作のラストで、ディランの正体は観客にはバラされている。

彼はフォー・ホースメンを追う立場でありながら、本当は5人目のメンバーだった。

1980年、彼の父親でマジシャンのシュライクは、人々の前で川の底から金庫を開けて脱出するマジックの最中に事故のため亡くなってしまった。

ディランはフォー・ホースメンを使って、シュライクを焚きつけて無理なマジックに駆り立てた、トリックを暴くことを生業とする男サディアス・ブラッドリー(モーガン・フリーマン)に犯罪の濡れ衣を着せて警察に収監させる。

ここまでが前作のおさらい。

あれから1年。メンバーたちは姿を隠して散りぢりになっていたが、オクタ社をハメるために再び集結。ヘンリーの代わりにルーラがホースメン入りして計画が実行されるが、ウォルター・メイブリーに邪魔をされ、マカオで彼らに捕らわれてしまう。




ウォルターは、前作で不正によって得た莫大な金をホースメンに奪われたトレスラー(マイケル・ケイン)の息子だった。

トレスラー父子の復讐をかわしてホースメンは彼らを見事に出し抜くことができるだろうか──。

あらすじだけ読めば面白そうだし、前作の敵トレスラーや今回新たに登場したその息子との因縁の対決はそれなりに痛快でもあるのだけれど、なぜ本作品が「前作よりも劣化」と言われてしまうのかというと、それはイリュージョニスト集団であるフォー・ホースメンや彼らの敵が駆使するのがほとんど「催眠術」だから。

前作でもメンタリストという呼び名で紹介されていたメリット(ウディ・ハレルソン)がかなり都合よく催眠術を使っていたけれど、今回はさらにその双子の弟チェイスまで登場する。もちろん彼も催眠術の名手。

そして、メリットから催眠術を習ったジャック(デイヴ・フランコ)もまた…。

催眠術に双子と、マジックのトリックとしては禁じ手ばかり使うんだよね。

前作では現実に可能なマジックの中に催眠術を巧みに潜り込ませて「催眠術が自然にある世界」を観客に信じ込ませていたんだけど、今回は重要なトリックの場面で思いっきりその催眠術に頼りきっているので、そうなったらもうなんでもアリじゃねーか、と思えてきてしまう。

まるで“フォース”みたいに人を操れる催眠術を使った、ほとんど超能力合戦になってしまっている。

今回の敵役にダニエル・ラドクリフがキャスティングされているのは、ちょっとした遊び心を感じさせますが。

ご存知“世界一有名な魔法使い”ハリー・ポッターを10年間演じていまだにそのイメージが色濃く残っているラドクリフを「“魔術”を悪用して人々を騙す詐欺師」として描く本作品には、なかなか悪意がこもっている。

だから、すでに違うジャンルの映画になってるんですね。

そこを楽しめるかガッカリするかの違いかと。

配役はユニークなんだから、それはそれで突きつめれば面白くなると思うんですが。

僕も「現代の魔術師たち」を描く作品として前作に感動した部分もあるので。

ポスターには「あなたは必ず、爽快にダマされる」というキャッチコピーがついているけれど、観客は「マジック(手品)を描いた映画」だと思って観ていたら、実はマジック(魔法)を描いたファンタジー映画だったことに気づくのだ。それが果たして「爽快」かどうかはわかりませんが。

監督は前作のルイ・ルテリエからジョン・M・チュウにバトンタッチしたけど、脚本は同じ人(エド・ソロモン)なので、「劣化した」と評されるのは作り手が替わったからではなくて、そもそもかなり危ういバランスで保たれていた作品内の「リアリティ」がついに崩壊したからだろうと思う。

魔法だとか魔術なんかが堂々と通用してしまう世界観で手品のタネ明かしをしたところで、そこにはもはや感動はない。

だって魔法にはトリックは必要ないから。ハリー・ポッターが唱える「エクスペクト・パトローナム!」という呪文と本作品の催眠術は同じ類いのものだ。だからそこにはトリックも伏線もない。

マカオ科学館で撮影されたというチップを盗み出す場面で使われるのは超絶的なカード飛ばしテクニックだけど、それはもう軽業の世界で、マジックではない。

ライヴショーで観るならともかく、映画の中で映像技術を使ってそんなものを見せられたって、別に「おぉ!」とはならない。

ちょっとノリが『オーシャンズ11』っぽい。『オーシャンズ11』にトリックの見事さを期待しちゃいけないのと同様に、この『見破られたトリック』にも邦題に反して見破られるべきトリックが存在しない。

それと、ちょっとここ数年中国マネーの影響でハリウッドの大作に中国が出まくってて、正直飽きてきてます。『ゴーストバスターズ』もそうだったよね(バスターズの事務所が中華料理屋の2階)。『ダークナイト』の頃からそういうのが目立ってきている。

そろそろ他の国も見たいんだけどな。

マカオでマジック用品店を営む男リーを演じているジェイ・ チョウは台湾の人気歌手らしいけど、『オデッセイ』でもそうだったし『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』とか先日観た『ミュータント・ニンジャ・タートルズ』もそうですが、いろんな映画にちょいちょい中国系の俳優(モデル系の美人女優が多い。パイロット役とか助手役とか)が顔出してるのもなんだかなー、って。

この作品でのリーもそんなたいした役ではないし。「ブルース・リーじゃないよ」っていうジョークも寒かったな(僕にはどうしてもこの人が「スタイルがよくなったバカリズム」に見えるんですが)。




中国の観客たちは嬉しいんですかね、そういうの。

たとえば僕は、ハリウッド映画に日本人の俳優がどーでもいい役でお義理みたいに出てきたら逆にイラッとしますけどね。

1本や2本なら「あー、ハイハイ、中国資本ね」で済むんだけど、今ではほとんどの大作が中国がらみなんでいいかげんウンザリしてくる。

マカオのタイパ市場でディランが追っ手と戦う場面なんて、昔の香港のクンフー映画みたいだったし。そういう時にこそマジックを使えよ。そうじゃないならとっととハルクに変身してしまえ。

日本や日本人を見たかったら邦画を観るし、中国や中国人を見たかったら中国映画を観るよ。俺はハリウッド映画観てんだ。

中国や中国人出しときゃ中国の客が喜ぶだろうっていう発想がすっごくセンスがないなぁ、って思う。

それはともかく、悪役を演じるラドクリフ君もなぁ…。

ヒゲ生やして「タタァ~♪」とかイキってみせてるけど、背が低いしなんかあまり頭がキレるキャラに見えないんですよね。全然強敵っぽくない。

 


顔がちょっと「ハングオーバー!」シリーズのザック・ガリフィアナキスみたいで^_^;

彼が演じるウォルターは天才エンジニアという設定なんだけど、どのへんが天才なのかよくわかんないし。

あんなに簡単に捕まってしまうフォー・ホースメンに万能チップを盗ませようとするのも不思議で。メリットの弟のチェイスもいるんだから彼の催眠術で全員言うこと聞かせりゃいいじゃん。

それと、フォー・ホースメンは自分たちが助かるためにチップを盗むことを了承するんだけど、ウォルターから逃れた時点ですでに自由の身なわけで、なんで彼らがウォルターの言いなりになってるのかもわかんないし、ウォルターが余裕ぶっこいてる理由もよくわからない。逃げられて慌てふためいたり、アホ過ぎでしょう。

最後に父親であるトレスラーからは「お前の母親が誰なのか知らない」とか言われちゃうし、散々だな。

さくさく進んでいくから退屈はしませんが、観ているうちにだんだんフォー・ホースメンとウォルターの戦いがどーでもよくなっていくんだよね。

だから彼らの最後の勝利にも別にアガらない。予定調和的に大団円で終わり、って感じで。

いつものあのテーマ曲がかかると、パブロフの犬みたいにちょっと気持ちよくはなるけど。

さて一方で、フォー・ホースメンたちと合流する前に、ディランは前作で捕まって刑務所にいるサディアスに面会して今回の敵についての情報を得ると同時に、自らの正体を明かしてサディアスへの仕打ちは父シュライクの死に対する復讐だったことを告げる。

ダニエル・アトラスたちフォー・ホースメンの活躍とともに、ディランの父親をめぐるサディアスとの30年間の因縁に決着がつく。

 


まぁ、前作の感想にも書いたように、マジシャンとそのマジックのトリックを暴こうとする者がガチで敵対しているというのはおかしくて、普通はそれはショーの一環であるはずなのにこの映画でディランは父の死をサディアスのせいだと思い込んでることにツッコミを入れたんですが、今回それは誤解で、サディアスはもともとシュライクとコンビを組んでいたことが彼の口から語られる。

シュライクとサディアスの対立は、すべて“演出”だったのだ、と。

…でしょーね!σ(^_^;)

自分自身がマジシャンでもあるディランがそのことに30年間も気づかないはずはないし、だからこの映画には最初から無理があるんだけど、さらにここではサディアスは敢えて真相を黙っていることでディランを試験していたのだ、という意味不明なネタばらしがされる。

彼は影からフォー・ホースメンを見守っていたのだった。

あー、もう好きにしてくれ、って感じですが。

亡き父シュライク(そしてサディアス)とディラン、トレスラーとウォルターのように、父親と息子の関係が重ねて描かれているのはわかるんですが、それが物語的な深みを生み出さない。

やっぱりシナリオがかなり雑なんじゃないかと。


そんなわけでずいぶんとディスっちゃいましたが、それでも僕はこの映画を本気で嫌いにはなれないんですよね。

マジシャンたちが悪を懲らしめる、っていう“ヒーロー物”の一種だと思って観れば、確かにちょっと爽快でもある。

だけど、前作がわりとお気に入りだったから今回は観たけど、次回作があってもまたお付き合いするかどうかはわからないな。もうしばらく中国は結構。

前作をTVでやってくれたら嬉しいけどね。

面白い映画を観て感動したり興奮することって、それこそが「魔術」の仕業なんじゃないだろうか。

そんな素敵な魔法にかかることを望んで、僕たちは今日も映画館に足を運ぶのだ。



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