白石和彌監督、綾野剛中村獅童YOUNG DAIS田中隆三みのすけ植野行雄矢吹春奈瀧内公美松岡依都美青木崇高ピエール瀧ほか出演の『日本で一番悪い奴ら』。R15+



1976年、柔道の腕を見込まれて北海道警の刑事になった諸星要一(綾野剛)は、先輩刑事の村井(ピエール瀧)の助言で裏社会に捜査協力者である“S”(スパイ)を送り込んで点数を稼いでいく。やがて頻発する政府要人や警察関係者への狙撃事件によって銃器摘発が強化され、道警の成績を上げるために暴力団やロシア人などを利用して次々と拳銃を入手する諸星だったが、大勢の“S”を抱えて出費もかさみ、次第にその活動に綻びが見え始める。

ネタバレがありますのでご注意ください。


原作は稲葉圭昭の「恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白」。

映画は稲葉事件と実在の人物をモデルにしたフィクション。

僕は普段、やさぐれ刑事とかヤクザが出てくるこの手のVシネっぽいジャンルはほとんど観ないんですが、同じ監督の『凶悪』が面白かったのでその最新作にも興味を持っていました。

それにしても、一体、綾野剛は年間何本の映画に出演してるんでしょうか。

僕が今年観ただけでも『リップヴァンウィンクルの花嫁』と『64-ロクヨン-』、そしてこの映画。明らかにTVドラマよりも映画の本数の方が多いよね(って、ピエール瀧の方がもっと多いんだが)。

彼の主演映画を観るのは僕は今回が初めてなんですが、当然ながら全篇出ずっぱり。

「公共の安全を守り、市民を犯罪から保護する」ことを掲げていたはずが違法な拳銃の押収や覚醒剤に手を染めていく悪徳刑事を嬉々として演じている(ように見える)。

映画館の観客には綾野さん目当てらしき女性たちが多かったですね。

ラヴシーンというよりも“濡れ場”、ソープランドでの風俗嬢とのカラみもあって、アダルトな雰囲気が濃厚。

女の子と泡だらけになっておっぱい揉んだり「…入っちまった」とか嬉しそうに言ってる綾野剛をファンの人たちはどんな気分で観ていたんだろうか。

まぁ、綾野剛さんって映画で結構脱いだりしてるし、きわどいシーンがあることもファンのかたはわかってて観にきてるのかもしれませんが。

よくこの映画については「最初は純朴だった青年が」みたいに紹介されてるけど、僕にはそうは思えなかったんですけどね。

確かに警官になりたての頃は童貞でクラブのホステスの前でドギマギしてたり仕事場でもいつも真面目に書類書いたりしてるんだけど、「市民を犯罪から保護するため」などというのはただ口先だけだということは先輩刑事たちに「ウッス」ばっか言ってる頭の悪そうな彼の様子からうかがえるし、「点数を稼げ」とアドヴァイスされた直後に自分の名刺をばらまいて手段を選ばずに名前を売ろうとするところなど、人として信用できない奴だということもわかる。

もともと人間性に問題のある奴が調子に乗って落ちぶれていく、ただそれだけの話。

だからそういう映画はそもそも好みじゃないんだけど、でもこの作品を楽しめたのは綾野剛のチンピラ演技のおかげ。

この映画での彼は刑事なのにちっとも刑事らしくないし(最終的には警部になるが全然“警部”っぽくない。おまけに柔道が強そうにも見えない)、やることなすことすべてが徹頭徹尾チンピラなのだ。貫禄の「か」の字もない。

ちなみに、自らの体験を著した稲葉圭昭氏はもうちょっと凄味のある顔立ちの人です。あぁ、この人ならそりゃ女も作るわな、といった感じのチョイ悪風(いや、実際悪いことしてるんだが)な男前。


「ムショには反省してない連中もいます」逮捕された元警部が語る、覚せい剤の誘惑と刑務所生活


小器用だからだんだん上司から頼られるようにもなるが、その直後にはカミナリを落とされている。詰めが甘すぎるのだ。

その警察の上司たちもが揃いも揃ってクズ野郎どもときている。この部下にしてこの上司。

 


違法捜査、裏金作り、組織ぐるみの隠蔽工作。

北海道警察、まったくもってクズの吹き溜まりである。

ブラック企業そのまんまな金と欲にまみれた脳筋体質。

こんなカスい奴らが拳銃持ってたり、一般人に対して捜査や逮捕の権利を持ってることへの恐怖。

初めのうちは、現実の世の中では清濁併せ呑まなければ犯罪捜査も難しいんだろう、と幾分理解を示しながら観てもいたんだけれど、いやいや、単にこいつらはサイテーなだけなのだった。

一連の不祥事絡みで関係者から自殺者を出しながらも、諸星(のモデルとなった稲葉氏)以外は誰一人として逮捕もされていないという信じられないような事実。

なんか似たような映画を観た気がするなぁ、と思ってたら、『マネー・ショート』だった。

責任者であるはずの人間たちが一切その責任を負っていない、という点において、『マネー・ショート』の金融関係者たちと道警の人間たちは似ている。

あるいは、根っこの部分はちっとも改善されてない後味の悪さでいえば、『スポットライト』なども思い出される。

諸星の上司たちは道警の評判を上げてくれる彼を「正義の味方」「銃器対策のエース」などと冗談めかして持ち上げるが、「正義」なんてものはここには存在しない。“エース”はいとも簡単に神輿から転げ落ちる。

北海道警察がいかに腐った組織なのかは以下の記事を読んでもよくわかる。


「日本で一番悪い奴ら」の生みの親 違法捜査まみれの「平成の刀狩り」とは


しかし、残念ながらこれは北海道警だけの問題ではないんだろう。

日本中の企業や組織における、何もかも下っ端におっかぶせてあとは尻拭いさえろくにしない上役たちの無責任さ、無能さには身に覚えのある人も多いのではないか。

諸星というチンピラ刑事を狂言回しにして、『日本で一番~』はこの国における集団の愚かさ、人の上に立つ人間たちの最低ぶり、低脳ぶりをまざまざと見せつけてくれる。

田中隆三やみのすけが演じたような高圧的だったり調子のいいクソったれな上司、現実にいるもんね。

普段の言葉遣いや物腰、部下への配慮の有無などから、その上司の人間性はかなりの部分うかがい知ることができる。

この映画での上司たちの描写は、彼らの中身のなさ、人間としての薄っぺらさを見事に映し出している。

まぁ、上司に限らず、この映画の登場人物たちは主人公をはじめ、ほとんどがみんな薄っぺらいんですが。

なぁなぁな感じで、いつの間にか香港からの大量の覚醒剤や大麻の密輸も見逃してしまう。

このテキトーさ。イイカゲンさ。だって「仕事」だから、と。

だがそれが俺たち日本人なのではないか、という絶望感すら漂ってくる。

仲間意識なんてものは金の切れ目が縁の切れ目で、“S”で舎弟の男に自分のことを「オヤジ」と呼ばせたりヤクザとの兄弟分ゴッコで悦に入っているが、結局のところそんなのは互いに甘えあっているだけなのだ。

 


そこに真の友情も絆もない。矜持もない。

この映画を観ていると、“友人”とか“仲間”などについてなんとも考えさせられる。自分がこれまでの人生で築いてきた人間関係は、本当に真っ当なものだったのだろうか、と。

夕張に飛ばされたあと、覚醒剤の所持・使用で逮捕された諸星は、あなたは組織犯罪の捨てゴマにされたのだ、と言う面会人にむかって、柔道しかとりえのなかった自分を拾ってくれた北海道警に感謝している、と答える。

そして、出所したらまた警察で頑張りたい、と。

これだけのことをやらかしといて、まだ警察に復帰できると思っているおめでたさ。

彼は根っからの悪人ではないかもしれないが、バカだった。

原作者と諸星のキャラクターは違うのかもしれないけれど、彼を最初から最後まで何一つ学ばない単細胞の「道化」として描くことによって、この映画はバカが祭り上げられて調子に乗って身を持ち崩すという、とてもわかりやすい教訓モノになっている。

バカは自分がバカであることをちゃんと自覚して調子コかずに堅実に生きなければ、大変なことになりますよ、と。

一所懸命になるべきことの選択を間違えてはならない。


出演者については、皆さんほんとに好演してましたが、特に強く印象に残ったのは、諸星の“S”を演じたYOUNG DAIS




この人は園子温監督の『TOKYO TRIBE』でワイルドな主人公を演じていたんだけど、今回はまったく異なるキャラで、ヒップホップの人が片手間に役者やってるんじゃなくて、これはほんとに演技の才能がある人なんだ、と思いましたね。

だってほんとに舎弟っぽいものw

ちょっと舌っ足らずなところは素かもしれないけど、それが山辺太郎という舎弟気質の若者そのもので、目を細めて作り笑顔みたいな表情をしてる時の彼の顔つきはほんとにそういう人種に見える。

彼もまた根っからの悪人ではないが、覚醒剤を売りさばくことに一切良心の呵責を覚えていないところでは諸星と同様、根本的に道徳的な部分が麻痺している人間でもあって、シャブの売買で儲けた金で夫婦でカレー屋とか始めて感極まって泣いたりしてるとことか、気のいい奴ならバカでも許されるのかといったらそうじゃないことを痛感する。

彼がどうして「オヤジ」である諸星を裏切って警察にタレ込み、やがて獄中で自殺したのか、その本当の理由はわからない。

やっていたことは「悪」だし彼の末路は因果応報ともいえるのだが、それでもそんな彼を哀れに感じさせるほどに、YOUNG DAISは太郎を愛嬌たっぷりに演じていた。彼の演じる太郎には憎めなさがある。

また、けっして大きな役ではないのだけれど、クラブのホステスでやがて諸星とつきあいだす由貴役の矢吹春奈は、胸もはだけてガラスに押しつけられたり濡れ場も果敢に演じて、僕はこの映画で初めて彼女の本格的な女優としての演技を見たのだけれど、これだけ名前や顔が知れてる女優さんでちゃんとこういう役を真正面から演じた彼女には、ちょっと感動を覚えたんですよね。




もちろん裸も厭わずに体当たり演技を見せている女優さんは芸能界には他にもたくさんいるが、そういう女優さんたちはほとんどが「脱ぎ要員」としてだけ起用されてろくに名前も紹介されないままただ消費されて忘れられていく。

でもこの映画の矢吹春奈は、ただおっぱいほっぽり出して機械的に喘いでるだけじゃなくて、堕ちていく女の悲しみをしっかりと表現していた。

この映画での彼女の演技はもっと評価されるべきだ。

女優でいえば、矢吹春奈みたいな美人がいながら浮気をする諸星には「こいつ、ただちに死ねばいいのに」と思わずにはいられないが、でもそんな彼の気持ちもわからなくはない、と思わせるような魅力的な女性警官を演じた瀧内公美。




僕は瀧内公美という女優さんはこの作品で初めて見たんだけど、ちょうど成海璃子をエロくしたような(ゲスな表現)顔つきで、なんかイイなぁ、タマランなぁって。

キンチョーの蚊取り線香のCM藤原竜也と共演してますね。

彼女は諸星に「あなたは道警のエースになる」と言って、もうこれ見よがしに彼を誘う。

署内でファ○クとか、あぁ、Vシネちっくだなぁ、と^_^;

矢吹春奈や瀧内公美が演じる女性たちはほんとに安くて、まるで頭の悪い男の妄想の中の女たちみたいだが、日本映画は彼女たちのような女優こそ大事にしてほしい。

実際にモデルとなった人物がいるのか、それとも映画用の架空のキャラクターなのかは知りませんが、昔ながらのつまらない男に溺れてダメになっていく女や、男が落ちぶれていくとさっさと捨てる女という、実に型に嵌ったもので、なんとも昭和テイストな人物造形。

この映画は諸星の目線に近い視点で全篇が描かれているから、彼とつきあう女性たちが空っぽで薄っぺらい存在としてしか描かれないのは、まぁしかたないのかもしれませんが。

諸星は彼女たちのことをそのようにしか見ていなかった、ということでもある。

諸星の先輩刑事を演じるピエール瀧は同じ監督の前作『凶悪』からの続投だけど、主要登場人物かと思いきや意外すぎるほどあっけなく退場する。




やはり『凶悪』にピエール瀧の内縁の妻役で出演していた松岡依都美が、今回はホステス役で乳揉まれてる。

この二人のコンビ、なんかいいなw

青木崇高(優香さんとのご結婚おめでとうございます)は前半で先輩刑事として出てくるけど、諸星が出世して異動すると映画からいなくなってしまう。

史実に基づいてるんだからしょうがないけど、もったいなかったな。もうちょっと出番があってもよかったかも。

諸星の上司を演じた田中隆三さんって、田中裕子の弟なんだな。

僕はこの俳優さん、ちょっとこれまで知らなかったんだけど、凄くイイ味出してる役者さんだな、と。

クソ上司がハマりすぎ^_^;

人間のクズばかり出てくる映画でも、俳優たちの演技に魅力を感じられれば面白く見られる。そのことを実感しましたね。

ヤクザのボス役でTKOの木下隆行が出てきた時には「七人のコント侍」かっ、と思ったけどσ(^_^;)

さすがに鶴瓶師匠のモノマネが得意なお笑い芸人を本物のヤクザと感じるのは難しくて、彼が率いるヤクザたちが諸星や太郎たちを折檻する場面はコントみたいに見えてしまったけど、でも木下さんは声がいいので、リアルとは違う次元で作り物のドラマとしてあの場面は楽しめました。

同じくお笑い芸人のデニス植野が演じるパキスタン人ラシードも、本物のパキスタン人には見えない。トボけた感じが笑えたし、なかなか芸達者でしたが。




肝腎の主演である綾野剛については、最初に申し上げたようにチンピラ演技がなかなか不愉快でよかったんだけど、1976年からの26年間を描いているわりには彼がいっこうに老けないので、そこはやっぱりどうしても作り物臭が拭えなかったです。

2002年の時点でいきなり白髪にヘンなドジョウ髭生やしたクンフー映画に出てくるお師匠さんみたいな姿になってて、なんのコントだよ、と^_^;

綾野さんは、おぎやはぎのラジオ番組であのソープランドのシーンであまりの気持ちよさにアソコがおっ勃ちそうになってしまって撮影を中断してもらったエピソードを語ってましたが、アレがエレクトすることを「ムスコがシンボル化しそうに」と言ってるのが可笑しかったですw

ご本人はインタヴューなどでも非常に真面目で誠実そうな受け答えをする人ですが、演じる時にはチャラかったり凄く浅薄なキャラクターがハマる、というのも面白いですよね。

ラヴシーンも「僕じゃなくて“役”だから」と仰っていたのが印象的でした。俳優って不思議な存在だよな。



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