$映★画太郎の映画の揺りかご


サイドウェイ』『アバウト・シュミット』のアレクサンダー・ペイン監督、ジョージ・クルーニー主演の『ファミリー・ツリー』。2011年作品。

第84回アカデミー賞脚色賞受賞作品。

原作はカウイ・ハート・ヘミングスによる小説。



ハワイのオアフ島。弁護士のマット(ジョージ・クルーニー)は祖先の残した土地の権利があと7年にせまり、不動産売却の話で親族との話し合いに追われている。そんなときボート事故で昏睡状態のままの妻について、医師から意識が回復する見込みがないことを告げられる。17歳と10歳の娘2人と妻の看取りの準備をはじめるマットに、長女のアレクサンドラ(シェイリーン・ウッドリー)が意外な事実を伝えるのだった。


原題の“The Descendants”とは、子孫、末裔という意味。

また邦題の「ファミリーツリー」とは家系図のこと。

ジョセフ・ゴードン=レヴィット主演の『50/50 フィフティ・フィフティ』もそうだったけど、人の死や家族の絆、夫婦や恋人同士の愛などを観念的にではなくて、ありのまま現実にある人々のさまざまな感情の行き来を丁寧に、ときにユーモアを交えて描き出している。

以下、ネタバレあり。



とにかくパパを演じるジョージ・クルーニーに萌える映画恋の矢

それは冗談だけど、ジョジクル兄貴が妙にカワイイのはたしか。

妻の浮気を知ってサンダル履いて駆ける場面なんか、その走り方がなんともラブリー。

クルーニーが演じるマットは、遠い祖先がカメハメハ大王という家系。

こう書くとコメディみたいだけどそうじゃなくて、かつて白人と先住民の女性が結婚してハワイの広大な土地を所有することになった一族の末裔という設定。

つまりお金には困っていないということだが、では家族のあいだにはなんの問題もなくてハッピーなのかといったら、そうとはかぎらない、という話。

たしかにマットの一家はプール付きの家に住んでいるし(でもプールは放置されたままなのでゴミだらけだし、家のなかも散らかっている)、妻の父からは「娘は事故で死んで、お前には大金が入るんだな」と何度もキツいことをいわれたりもする。

僕は土地や財産を相続する、といったことには縁がないからそのあたりの大変さには実感がわかないが、それでもやがてこれはどこにでもある父、そして夫の物語なのだということがわかってくる。

17歳の長女アレクサンドラは寄宿学校に入っているが、酒を飲んだり問題行動をおこしている。

マットといっしょに住むちょっとぽっちゃり系の次女スコッティは同級生に嫌がらせしたりキレやすかったりと、これまた手を焼かされる。

これまで仕事一筋で家族をかえりみなかったマットにとっては、2人の娘と意思疎通を図るのも一苦労。

…ということなんだろうけど、でもじっさいに映画を観てると彼女たちが反抗的だったり問題行動をおこすのは前半だけで、すぐに父親になついて聞き分けの良い子たちになるんだが。

娘たちはふたりとも可愛いし、あの程度で音をあげてるようじゃ父親としては甘いんじゃないか?

娘じゃなくて息子だったらあんなもんじゃないですよ。

まぁ、映画としてはあまり娘たちのことばかりに時間を割いてられない、という事情があるのかもしれないが。

妻は生前の誓約書によって尊厳死をむかえることになり、マットはアレクサンドラを呼び寄せて最期のお別れをさせようとする。

しかしアレクサンドラから妻が事故に遭う前に浮気していたという驚愕の事実を聞いて、不倫相手を捜しはじめる。

長女は自分の母親の、父に対する裏切りが許せないでいる。

一方で彼女は自分が母とよく似ていることを知っている。

良いところも、おそらくそうでないところも。

アレクサンドラがそんな母を、その後いつの段階で許したのかはハッキリとしない。

ただ、終盤で不倫相手の妻が病院をおとずれて唐突に「あなたを許します」と泣いてマットの妻に語りかける場面で、これは多分アレクサンドラの言葉の代わりなんだろうな、と思った。

この映画で興味深いのは、ハリウッド映画でありがちな登場人物たちの「和解」の場面を言葉や態度でハッキリとは描かないところ。

マットはいつ娘たちと打ち解けたのか。

アレクサンドラはいつ母を許したのか。

わかりやすく描きはしないが、それでも映画を観ていれば自然とそれが受け入れられてくる。

感動的に高鳴る音楽や、家族が抱き締め合って大泣きするような愁嘆場はない。

そのへんはもっともっと繊細に描かれている。

最初に『50/50』を思い出した、というのはそんなところから。

妻が事故に遭う前から三ヵ月間も夫婦は会話がなく、妻は離婚して不倫相手の男といっしょになることを望んでいた。

同様にマットもまた彼女と別れようとしていた。

かつては縁があって出会い愛し合った者たちは、すでにたがいに心が離れていた。

マットは、もはやものもいえず目も開けられないベッド上の妻にむかって彼女の裏切りへの恨み言を並べ立てるが、では彼は妻を憎んでいるのかといえば、そうでないことは観ていればわかる。

あるいは憎くてたまらなくもあり、それでも愛おしくて、別れはたまらなくつらい。

もう、「情」としかいえないようなものがそこにある。

またこの映画では、「こうすればすべて丸くおさまる」という解決策は提示されない。

マットは先祖代々受け継いできた土地を売ろうとしていたが(売らなければ7年後にその権利をうしなうため)、最後にそれをやめる。

その理由は妻の不倫相手が不動産関係者で偶然この一件にかかわっていたから、ということもあるが、なによりマットは自分の故郷であり家族や妻との想い出が数多く残るこの土地の風景が、そこを売ることでリゾート地として開発され破壊されていくことに耐えられなかったから。

そして、それはハワイの住民たちも望むところではないだろう。

しかし、もし彼が土地を売らなければ親族たちが訴訟をおこし、血を分けた者たち同士が争いつづけることになる。

それでもマットはいうのだ。

「そうすればかえって絆が深まる」と。

マットの妻の父(『ジャッキー・ブラウン』のロバート・フォスター)は、娘が昏睡状態になってからというものマットにつらくあたるが、それは彼が誰よりも娘を愛しているからだ。

孫娘のアレクサンドラに祖父は「お母さんを見習え」という。

それは孫を愛していない、ということではない。

孫もたしかに可愛いが、それでもいつだって親にとっては自分たちの子ども=娘や息子が一番大切なのだ。

病院で横たわる娘にふれる老父の姿に涙が出た。

人の心は単純ではない。

「娘がこんな目に遭ったのはお前のせいだ」とマットを責める義父は、孫たちが憤慨するような「クソジジイ」ではない。

愛する者にひどい仕打ちをした者は許せない。

誰もがそういう感情をもっても不思議ではない。

だからマットは、妻を愛していなかったくせに彼女と関係をもち、騙しつづけた不倫相手ブライアン・スピアーを許せない。

その男が死ぬ直前の妻の前にあらわれて、おのれの罪深さを心の底から悔いるべきだと考える。

ところが、予想に反して姿をあらわしたのはその男ではなく、彼の妻だった。

会わせる顔がない、とけっきょくあらわれなかったスピアー。

代わりにマットとアレクサンドラの訪問ではじめて夫の不倫を知った彼の妻がやってくる。

そして、死にゆくマットの妻にいうのだ。

「あなたを許します」と。

マットの立場としては、「あんたに許してもらういわれはない!被害者はこっちだぞ!!」とキレたくなるような一瞬であるが、彼女からすればマットの妻は結果的にスピアーの家庭を破壊した張本人である。

こうしてさまざまな立場の人たちの想いが分け隔てなく描かれる。

ここには単なる憎まれ役や悪者はいない。

みんながどこかに傷を負って、そんななかで日々を過ごしている。

アレクサンドラのボーイフレンド、シドの描写が秀逸。

こいつはいつのまにかマット一家にくっついてきて、アレクサンドラの認知症の祖母が娘のエリザベスの名前を聴いて英国の女王のことと勘違いすると、「マジで?冗談だろ?」と笑う。

また、「年寄りって動作が鈍くてイライラするよな」などとホザく壮絶なバカである。

でもこういうオツムの足りない奴ってそのへんにいっぱいいるよね汗

で、この「バカな若者代表」みたいなシドだが、そんな彼は父親を交通事故で亡くし、女手ひとりで自分を育ててくれている母親に感謝する気のいい青年なのだ。

あまりの無礼さにぶん殴ろうとしたマットも、彼の境遇を聞くうちにその怒りもおさまっていく。

あまつさえ、娘のあつかい方を彼に相談しさえするのだ。

バカだと思っていたシドは(たしかにバカなのだが(^_^;)、じつはちゃんと場をわきまえたり空気を読むことも知っている若者だった。

シドはマットを、亡き父親の代わりのような存在として見ていたのかもしれない。

こうして“ファミリーツリー”はまたその枝をいくつも空にむかって生やしていくのだろう。

その“ファミリーツリー”が植わっているハワイの土地が今後どうなっていくのかはわからない。

それでも今はともかく彼らはあの土地とともに生きていくのだ。

静かに、でもじ~んとくる映画でした。

現実には独身貴族のジョージ・クルーニーが演じる悩める父親もよかった。

あいにく『サイドウェイ』は未見なんだけど(評判いいですが)、そのうちDVD借りて観てみようかな。



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