映★画太郎の映画の揺りかご


ショーン・レヴィ監督、ヒュー・ジャックマン主演の『リアル・スティール』。



2020年。元ボクサーのチャーリー(ヒュー・ジャックマン)は、いまではロボットにボクシングをさせるショーの巡業をしている。彼には別れた妻とのあいだに11歳になる息子のマックス(ダコタ・ゴヨ)がいた。その妻が亡くなり我が子とはじめて対面したチャーリーだったが、ロボットを買う資金作りのために義妹の夫とある取り決めをする。


ネタバレは特になし。

等身大ボクシング版『プラレス3四郎』か『プラモ狂四郎』(どっちがどっちだったかわかんなくなってしまったが)みたいな映画。

…ってスイマセン、テキトーなこといってますが。

人間とロボットの見事な共演、といえば『トランスフォーマー』ですでに実現されているが、こちらのロボットたちはさらに身長が人間に近くキャメラワークも普通の人間ドラマのそれで、ロボットがボクシングの練習や試合をする場面、人々のなかを歩いてくるところなど、それがCGで描かれたものだとまったく意識させない。あまりに自然に見えるのでロボットたちがそこにいるのが当たり前のように感じられてきて、その凄さに慣れてしまいそうになるほど。

マックスがゲームでおぼえた日本語を使って「ノイジーボーイ(超悪男子)」の性能を引き出す場面はいかにも日本の観客ウケをねらってるようで尻がこそばゆいが(「日本製は最高だ」とか、お世辞も忘れない)、しかし後半でアジア系の敵役(名前が“タク”なので日系っぽくもある)が出てくるので、それに対するエクスキューズなのが丸わかりで正直イラッとする。

$映★画太郎の MOVIE CRADLE

ともかく、「息子を売った金」で購入したロボットをスクラップにされて借金をかかえたまま文無しになった父子は、ロボットのパーツを盗み出そうとガラクタ置き場に忍び込んでそこで旧型ロボットを拾う。「ATOM」と名付けてそのロボットを懸命に整備するマックス。はじめはただのガラクタ扱いしていたチャーリーだったが、人間の動きを模倣する機能をもったATOMは次第に格闘ロボットとしての実力を発揮しはじめる。マックスとATOMのふれあいの場面がほほえましい。

ただしこれはロボットが登場してはいてもいわゆる「ロボット愛」を描いた作品ではないので、ロボットたちはあくまでも道具、闘ってぶっ壊れる「モノ」でしかない。それ以上のフェティッシュな思い入れはない。この映画では製作総指揮を務めるスピルバーグの『A.I.』の“フレッシュ・フェア”のような「ロボットを破壊して楽しむことへの疑問」などはまったく一顧だにされない。

ちょっと「鉄腕アトム」の1エピソード「地上最大のロボット」を思わせもする。主人公とその息子のロボットの名が「ATOM」というのは偶然なのか、それとも、これもまた“オマージュ”なのか。

この映画では、ロボットたちの闘いはあくまでも「試合」であって、『トランスフォーマー』のように相手を八つ裂きにしたり、かつての「日本製ロボットアニメ」のように必殺技をお見舞いして大爆発を起こさせたり、ということはない。

ぶっちゃけ予告篇がほとんどダイジェストになっていて、本篇観る前にお話の内容がだいたいわかってしまうんですが。

でも、たとえばシルヴェスター・スタローン主演のアームレスリング映画『オーバー・ザ・トップ』が好きな人にはオススメ。あの映画も展開や結末は最初から予想がつくけど、でも燃える。試合が進んでいくところの描き方とか、あとガキんちょが小生意気なとこなんかもよく似てる。



『オーバー・ザ・トップ』じゃ金持ちの家で育った息子は父親を軽蔑しきっていて、クソガキぶりはこの『リアル・スティール』のマックスよりもはるかに上をいってるんだが、ここではマックスはダメな父に寛容な態度を示す。彼は最初からこの父のことが好きなのだ。父親さえその気になれば、息子はその胸に飛び込んでいける。自分を「金で売った」父親に対して“甘過ぎる”気はしなくもないが。

ダメ親父とその幼い息子の絆の物語は「お約束」みたいな感じでさくさくと進み、良くも悪くも「人間ドラマ」に関してはあまり重くなりすぎないようにあくまでも「エンターテインメント作品」の範疇で描くにとどめている。

また、チャーリーが現役のボクサー時代からいたジムと彼の恩師の娘にして恋人である女性や亡き元妻とのドラマ、賭けボクシングの試合会場で会う昔からの馴染みの黒人ディーラーなど、人間の描きこみは若干中途半端な印象がしなくはない。

それでも試合の場面は目に愉しいし、敵の最強ロボット「ゼウス」に夢中になるマックスの様子など、男の子がアガる心理をちゃんと描いている。

これはあきらかに80年代の「スタローン映画」を意識、あるいはそれにオマージュを捧げた作品だろう。チャーリーとマックスの親子に最後に立ちはだかるのは、無口でつねに冷徹な面持ちのアジア人とロシア語訛りの美女。『ロッキーIV』のロシア人ボクサーとその妻を思わせる。

この映画の最大の見どころはCG製のロボット・バトル、ではなく、ロボットたちが闘っているリングの外でいっしょになって腕と拳を振っている父親の雄姿を見て涙ぐむマックス、そして同様にチャーリーを現役のボクサーの頃から支えてきた恋人のあの表情だ。

観客を「泣かせたい」映画の作り手は、あの場面を参考にするといい。

クライマックスで、父は息子の前で「鋼鉄の戦士」と一体化する。あれこそがこの映画の「泣きどころ」である。



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