離婚時の子の引き渡しに関する裁判例です(東京高裁平成24年6月6日 判例時報2152号)。
本件において,妻は5歳と9歳の二人の子を連れて実家に戻り,別居が開始されましたが,夫が実力行使で,子2人を連れ帰ってしまいました。
そこで,妻が家庭裁判所に対し,①仮に子の監護者を定める保全処分とともに,②子の引き渡しの仮処分の申立を行い,事情が事情ですので,家裁は①②ともに認容しました。妻は,子の引き渡し命令を得て,引き続いて執行の申立をしました。
最近では,子の引き渡しについて執行官による直接強制も実施されるようになってきており,本件でも,執行官が夫方に出向き,執行に着手しました。
ところが,ここで,執行に立ち会った妻も同席したうえで説得し,9歳の長男に母親(妻)のもとに帰りたいか意向確認したところ,長男はこのまま父親(夫)のもとにとどまりたいという希望を示したため,執行官は長男について執行不能として執行を諦めます。そして,5歳の二男についても長男から引き離すべきではないとの判断のもと執行しませんでした。
ところで,子の引き渡しに関しては,「仮の監護者指定」「仮の引き渡し命令」の各申立はあくまでも保全処分であり,これと同時に「監護者指定」と「子の引き渡し命令」の申立(本案処分の申立といいます)を行うのが普通です。「仮の監護者指定」「仮の引き渡し命令」の各申立はあくまでも本案を保全するための処分というわけです。
先に家裁が命じたのはあくまでも「仮の」判断であって,最終的な判断は本案の申立で行うという仕組みになっています。
本件では,夫による連れ去りというのが明白でしたので,家裁も仮処分を出してくれましたが,普通はなかなか出してくれません。むしろ,本案と一緒に進行を進めたり(それぢゃ,保全処分の意味がないぢゃないかと思います),保全処分の取下げを執拗に促されます。裁判所は保全処分がいつまでも宙ぶらりんのままになっていることをとても嫌うようです(だったら,却下でもいいから判断すればいいぢゃないかと思いますが)。
それで,本件に戻ると,「仮の」子の引き渡し命令に基づく強制執行が失敗に終わった後,監護者指定と子の引き渡しの本案の審理を進めていた家裁は,どちらについても妻の言い分を認めて,(1)子の監護者を妻とすること(2)夫は子を引き渡すことの二つを命じました。
これに対して夫が抗告したのが本件高裁決定です。
夫は,「仮の」子の引き渡し命令に基づく強制執行で執行不能になっている以上,改めてまた引き渡し命令を命じることは,不可能を強いるものであるとして不適法であると主張しました。
これに対して,裁判所は,一応夫の主張についても理解を示します。
家裁や高裁の認定によると,「仮の」子の引き渡し命令に基づく強制執行の現場においては夫も現場にいたようですが,その際夫は冷静慎重に対処し執行を妨害するようなことはなく,執行官が執行不能と判断したのはあくまでも9歳の長男の意思を真意であると認めたからであって,今回,改めて子の引き渡し命令を認めて,再度強制執行したとしても,また執行不能になる可能性が高いとしました。
しかし,高裁はそれでも子の引き渡しを改めて命じることはできると判断し,その意味としてはあくまでも任意の履行を促し,裁判所の判断に従うように求めるという意味があるということだとしました。
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