本棚部屋の読書きろく

本棚部屋の読書きろく

私的読書感想きろく。
再読&積読本を読み終わったら感想を書きます。

読んだ本の感想を書いています。
書影はあげていますが、あらすじなどはありません。
いきなりネタバレ上等だったりしますので、
未読の方はお気を付けください。
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スウェーデン館の謎 〈国名シリーズ〉 (講談社文庫)/有栖川有栖
¥669
Amazon.co.jp

3月10日~11日読了。

日付を跨いでしまいました……。

長編を一日で読了できるようになるまでまだまだかかりそうです。

さらに感想を書きあげるのにも時間がかかるというね。

この週末はあまり書く時間が取れなくて、読み終わってもなかなか感想があげられませんでした。

その間にちまちまと次の「ブラジル蝶の謎」を読み始めております。


今回はBGMかけて読みました。

ここ数冊は外で読んだりしてたので、音楽聴きながら読んだりできなかったのですよね。外で本を読むときは目も耳も塞がってると危ないので、音楽はかけません。ウチ読みの時だけです。


日本テレビ系日曜ドラマ ドラマ「臨床犯罪学者 火村英生の推理」 オリジナル・サウンドトラック/井筒昭雄
¥2,700
Amazon.co.jp
発売日にAmazonでポチろうとしたら、売切れになってて、入荷待ちをしていた一枚。他のCDの注文との兼ね合いもあって、ようやく届きました!

読書タイムのお供は基本的に歌ナシの曲にしています。読むのに邪魔になっちゃうからね。

テレビドラマのサントラを買うなんて初めてです。映画のサントラ盤は好みのものがあれば買うことがあるのですが。ドラマを見ててBGMが良かったので買ってみたのですが、効果音用なので一曲ずつが短めなのだけが短所かな?普段クラシックやジャズばかり聴いているので、短く感じるだけかもですが。


とりあえず「スウェーデン館」を読み終わってまず言いたいことは、アリス先生、どこか陰のある謎めいた美人が好きなんですね、ということですよ……。もともと、美人が出てくれば、描写が細かいので、面食いだな~とは思っていたのですが!
初恋の君は17歳で自殺未遂だし、ヴェロニカさんは人妻だからそこまで入れ込んでないとはいえ、なんだか空気がぴんく色だしね……。女性の好みがハッキリしてるのはいいんですが、友人選ぶ基準もほぼ同じじゃありませんか?先生……。男女ともに助けてあげなきゃいけないような感じのタイプに目が言っちゃうんですね?火村先生も男性だけど、陰のあるイイ男タイプ。いっつもいっつも心配ばかりしてるし。アリス先生の婚期はまだまだ遠そうです。

それでもって「嫌な予感がする」だけで、京都から裏磐梯まで駆けつけてくれる火村先生、相変わらず友達想いですね……。「46番目」とかでもアリスは事件に巻き込まれて危ない目にあったりもしてますしね。アリスばっかり心配してるわけじゃないのですね。お住まいの北白川の、おそらく最寄駅、な出町柳駅から京都駅までは電車で20分くらいかな?として、10時47分の新幹線に飛び乗った、ということは、アリスの救難電話は10時前だったわけだから、準備は30分前後くらい……?時間的には4時半くらいには猪苗代に到着できるので、当日に着けると言えば着けるけど、かなりの強行軍。9時に眠たがっても許してあげないとダメですよ、アリス先生。もっともそのまま解決編に突入しちゃう訳ですが。

事件発生が13日の夜10時半から12時、翌日、バレンタインディの14日の夜9時すぎには関係者を集めて解決編をやってるので、かなりのスピード解決事件だなぁ。短編でも事態が進まずに解決に一ヶ月以上かかってる描写のものもあった気がするので、長編で1日解決の事件があるとは思ってなかった。長くなってるのは、前半部分のアリスの旅行記やら建物探訪やら、事件の謎やナゾナゾでぐるぐるしてたりするのが長いからですね(酷)。
長編は相変わらず旅情たっぷりで、裏磐梯の雄大な景色や、五色沼の神秘的な色合い、雪の中のロケハンの大変さも伝わってきて、そういう描写も大好きなところです。実行されなかった会津若松、猪苗代、喜多方ルートの旅行計画もなかなかそそられました。帰りは新潟に出て日本海ルートで、とか時間のある人の旅行計画だよね……。先生、うらやましい。
プロローグ部分の事件前の夏の情景とか、森を駆け回る子供の楽しげな声まで聞こえてきそうな感じで、さらに本編の寂寥感が増すという……。

事件としては、いわゆる雪の密室モノですね。ロマンです。
でも、アリスの名刺の裏に書かれた足跡、ヘンなことが書いてありますね(もちろん本文の説明でも)。地元警察の方々も、きっとヘンだと思ったことでしょう。
なぜなら、足首が埋まっちゃうような雪が降ってる時、一番歩きやすいのは、人が歩いた上をなぞるように自分も歩くこと。帰りも同じ道で帰ることを考えると、同じところを踏み固めて歩いたほうが、絶対に楽です。誰も歩いていない新雪の上を歩き回るのは犬と子供くらいです(笑)。雪の少ない都心部でも、みんな何故か人が歩いて雪が溶けた上を歩きますよね?なので、誰が歩いたかわかる道筋がついたりなんてしないのが普通ですよね。現実には即していないと思います。
でも、いいのです。雪の密室はロマンだから(本気)。
そんなこと言い出したら、古今東西の雪の密室モノの多くが成立しなくなっちゃうのですよね、たぶん。書き手の方達も、雪の上を歩いたことがないとか、想像力が欠如してるとかいうわけじゃなくて、足跡パズルの出題編を書いているためにワザと無視している条件なのでしょう。だって、雨で濡れた土の上の足跡より、雪の足跡の方が、情景がキレイだしね!それに雨に濡れた土の水はけがどれくらいで済むのかより、雪が何時から降ってて、止んだのがいつで~のほうが、アリバイトリックものやりやすいし!
現実的にはヘンだと思うけど、パズルちっくなミステリの、美しい情景の一つとして、個人的にはアリだと思う派です。

それにしても、この巻でも、火村先生はアリスに理不尽行動しまくり。夕方に五色沼に行きたいとか(遭難しちゃうよ、先生…)、木から雪を落として雪まみれにするとか。背中に入った雪は冷たいぞ~。しかも理由が「論理的に反対されたのがムカついたから」とか酷いな……。アリスも事件後は「火村が来てくれたのは錯覚だったかも」とか、せっかく来てくれて事件まで解決してくれた友人に対して理不尽思考してたりするので、どっちもどっちか?

それでいて子供には優しい。アリスも火村先生も、30代前半なのに、7歳の子には自ら「おじさん」言っちゃうんですね……。アリスは火村先生の子供あしらいのうまさから、隠し子疑惑とか言ってますが、きっと周りに弟妹か少し年下の従兄妹、もしくは面倒を見るような近所の子とかがいたのではないでしょうか。火村先生のプロフィールには兄弟に関する部分はない(ご両親が相次いで亡くなって天涯孤独の描写は46番目にありましたね)ので、どういう関係の方かは不明ですが。一人っ子って基本的に、年下の子供の扱いは知らないと思うので(個人的な経験として)、面倒みる子がいれば、一人っ子でも年下の子供のあしらいを覚えることがあるのですが(これも個人的経験からの感想)。先生は謎が多過ぎます。

あと、やっぱり先生方の会話がおもしろい!二人で話しながら事件の謎を解いていくところ。アリスの的外れ気味、ミステリおたく的な意見の数々をいなしながら、解答にたどり着くところが好きだ!ドラマ版はこれがあんまりないんだよなぁ。時絵さんとのヒント会話もいいのですが、毎回それでは相棒は実は時絵さん状態で、アリス先生がイラナイコになっちゃう……。アリスの独白部分であまり理解したくない殺人に至る動機や衝動について解説されているので、事件の理解に絶対必要なのです!
特に二人の会話はテンポがいいのもあるけど、仲がいいからこそできる皮肉とウィットの応酬なところがいいです。コンビものの探偵と助手は、探偵上げのために助手はやり込められる一方のものが結構あるんだけど、大学以来の腐れ縁親友な設定なせいか、探偵・火村先生がやり込められるパターンも多いので、イイ!のだと思います。罵倒されてるのが読みたいんじゃないのよ。対等にやりあってるからいいのだ!

最後に事件の結末、について。あの人物。やっぱり嫌われますよね。私もなんだこいつ!です……。自分の浮気の結果として、子供は見殺しにされて亡くなってしまって、みんな悲しむことになったし、奥さんは浮気相手を殺してしまうことになるわけです。全部、自分が悪いにもかかわらず、「僕にまかせて」ってどういうこと。犯してしまった罪を断罪されたい、償いたい、という気持ちさえ、自分のために黙殺させるわけですよ……。もし事件の犯人として捕まることがなかったとしても、ヴェロニカさんの性格では死ぬまで苦しみ続けることになるのに。「僕のそばにいてくれ。年老いた家族のために、ここにいてくれ」っていうのは、一見すごく優しい台詞に見えて、その残酷さときたら……。優しさは優しいだけではない。場合によっては、弾劾より残酷になることがある、というのが有栖川先生のとんでもないところだと思います。
海のある奈良に死す (角川文庫)/有栖川 有栖
¥691
Amazon.co.jp


3月7日~8日読了。

長編を一日で読み終われるようになれるのでしょうか。自信なくなってきた……。さらに感想を書くのにも結構時間がかかっているという……。


古き良き時刻表アリバイものの鉄道ミステリ(そういえば有栖川先生は鉄道がお好きなようなのですが、このテの作品はあまりありませんね)、という訳ではないのですが、いっぱい電車に乗ってるし、車移動も多いし、あちこち旅して回っているので、もう旅情ミステリ、と言ってしまうべき?な一冊。


特に若狭周辺、小浜あたりの歴史、文化、観光ガイドを作中でアリスが語りまくってくれるので、思わず行ってみたくなります。古代から開かれた港町として栄えていたのでしょうね。オバマ大統領を勝手に応援するので盛り上がってるんじゃ寂しいですよ、小浜市……。火村先生がばあちゃんへのお土産にしていた塗箸、若狭塗でしょうね。塗箸の生産量が日本一のようです。それにしても先生はお土産を欠かしませんね。『ダリの繭』でも真珠島でお土産買いこんでて、時絵さんに無駄使いしたらダメですって叱られるかも、って言ってませんでしたっけ?小浜は北陸新幹線も開通したことですし、東京から旅行しやすくなったかもしれませんね。それでも金沢から敦賀経由で小浜まで、おそらく2時間半かそこらでしょうかね?新幹線の乗車時間も考えると、日帰りで行ける場所、ではないですね……。


作品のモチーフになっている『海のある奈良』『八尾比丘尼伝説』『人魚』など、歴史、説話、伝承盛りだくさんの内容で面白い。

特に、お水送りの儀式に関するところは興味深いです。奈良のお水取りの迫力ある火の祭りの風景はテレビなどで見たことがあったのですが、小浜の儀式と一対の儀式なのですね。神道の儀式のはずなのに、僧侶が執り行うあたりの歴史的経緯については勉強になりました。奈良と小浜の歴史的な繋がりが、そのままこの作品内で火村先生とアリスをミスリードしていく作りにニヤニヤさせられます。きっとこれをモチーフに作品を書こうとしていた赤星先生も読者がそこでぐるぐるしちゃうところを想像して、わくわくしながら取材旅行に出かけたのでしょう……。登場時のアリスとの掛け合いもなかなか楽しい先生だったので、お亡くなりになってしまったのが残念です。アリスの作家仲間として、これからも活躍してほしいくらいでした。

それにしてもぐるぐるしちゃう理由の一つが、仲間の訃報を受けてアリスが混乱してるせいだと思われます。経緯や収集した情報はちゃんと探偵に最初に伝えておきましょうね、先生……。読んでて「その話、火村先生にしておかなくていいの?」というアリスの思考のとっちらかりぶりが気になってしまいました。もしかしたら普段から注意力散漫なのかもしれませんけど。自分の新刊の発売日に、曜日のミスに気づいても直せないよ。もっと早くに気付こう!


今回の火村先生とアリスの独自捜査のちょっと変わったところは、旅先で殺された作家仲間がなぜ殺されたのか?でもなく、誰が彼を殺した犯人なのか?でもなく、「故人が書こうとしていたミステリはどんなものだったのか?」を探すというのがメインの目的であるところ。もちろん、その過程で犯人だって明らかになるのですが、それよりも書かれることのなかった作品の青写真がわかった時の方が、そうだったのかー!というカタルシスになっています。

まさに赤星先生の《作者の言葉》に書かれていた通り、「小説を読むことによって人は、時間と空間を超え、未知の世界に遊び、別の人生に触れる(中略)ミステリはわくわくするような不思議に満ちて、驚きで終わる旅(後略)」でした。


事件としては、第一の殺人のアリバイトリックはなかなか大胆だな、と思いました。ミステリ作家にトリックをしかけるという意味と、移動のダイナミックさという意味で。相手が自分に殺意を抱いている、とまったく想像出来ないと、そりゃ引っ掛かってしまいますわ……。しかし、第二の殺人のサブリミナル効果はどうかな……。必ずウィスキーを飲ませられるほどの強力な効果はまったく期待できないですからね。今このネタで作品書いたら、どんな与太話だよ、ってことになってしまいますが、90年代半ばから後半にかけては、日本でも放送でサブリミナルの使用を禁止したりしたなんて出来事もあったので、書かれた時代ではまだセンセーショナルなネタだったのかもしれません。

ミスリードのための小ネタとして、学駅や学文路駅の入場券を御守にする話も出てきましたが、廃駅の幸福駅の切符はネタとして知っていましたが、銭函駅の切符で金運の御守とか、知りませんでした。え?海水浴場のとこの駅ってそんなので有名だったの?とほんとに驚きました。


そしてこの作品でも「男たちを魅了する女神」が出てくるわけですが、……やっぱり有栖川先生の作品にはこのテの女神、多いですね(笑)。思っていたよりも、どの長編作品にも出てくるのでビックリです。

年齢相応の落ち着きと所作からもたらされる貫禄、それでいて本当の年齢を感じさせない無垢な女神。人魚の肉を食べた八尾比丘尼のイメージともクロスしているのでしょうが、もう一つの女神のイメージは『母』でしょうね。『ダリの繭』の女神にも『母』のイメージがあったので、「男たちを魅了する女神」はイコール「母の抱擁」のイメージ、ということなのでしょうか。

しかし、「恋多き女性」と「子を見守る母」、女の中では矛盾しない二つが犯人の中で混乱を呼んだことが、悲劇的な連続死へ繋がるのだと思うと、単純だ、とばかりも言えませんね。

火村先生じゃありませんが「どいつもこいつも女神がいないと生きていけない男ばっかり」のようです。ただ、浅井小夜子女史の説によれば、「女性の作るあらゆる芸術に感動しない」女性嫌いの火村先生も、「男の作る芸術の多くが伝えようとしていることは、女は素晴らしい、という錯覚」だそうなので(納得!)、矛盾しまくりの混乱しまくりな見解ということになってしまいますね。ほんとに火村先生には過去に何があったんでしょうか?


 

それから時代背景として(サザエさん時空なので、毎回検証するハメになってます)、携帯電話が登場してますね。赤星先生もパソコンでお仕事していたようです。連載作品が本になったのが95年3月だそうなので、携帯電話はまだ普及までは行ってないかな?アリスは公衆電話を使っているし(しかもテレホンカード!これもすでに懐かしの品)、新幹線の中で電話呼び出しなんかもしていますね。パソコンはWindows95が発売になった年だし、一般家庭に普及し始めた頃くらいかな?まだ結構イイお値段でした。家庭用パソコンもモニターがカラーになってたように思います。そしてフロッピーディスク!こんなのでパソコンのバックアップとか取ってた頃があったんですよね。何十枚も必要だった気がします。今は使いませんね。


思わず旅情ミステリ、なんて書いちゃいましたが、火村先生とアリスがあちこち二人で駆け回っているので、いつもより(?)変なことをしていたり、掛け合いが面白いです。人魚の像に座って事件の話し合いをしていたり(おそらくそこはデートスポットだよ先生たち……)、「推理作家がうつる!」とか、ものすごい職業差別しだしたり。最終的には「うつったのは推理作家じゃなくて考古学者」とかものすごい言い訳っぷり。アナタのお友達の職業だよ……。

そして、アリスが作家仲間に友人の犯罪学者の話をしているのは結構出てくるけど、火村先生も警察関係者に友人の推理作家の話をしていることも判明。仲良しですね。

仲良しついでに。

火村先生の深夜の悲鳴、この作品が初出でしたね。夢を見て悲鳴を上げる自分をあまり知られたくなさそうな火村先生と、そんな悲鳴あげられたらさすがに目は覚めちゃうのが当たり前だろうに、全然気づかない鈍感な男を演じるアリス先生。長く付き合いがある友人同士で、気心が知れてても、すべてを話し合えるわけではない、言えないことを抱えている同士、なのですよね。『犯罪だけが友』なんて言ってしまう火村先生の抱える闇の深さがほんとに気になります……。

ロシア紅茶の謎 〈国名シリーズ〉 (講談社文庫)/有栖川有栖
¥586
Amazon.co.jp

3月4日~6日読了。
まとまった読書時間が取れませんでした……。
こういう時に短編集だとちょっとずつ読めていいですね。今回は単に刊行順だっただけですけど。
短編集なので1作ずつ感想書いていきたいと思います。


動物園の暗号
今回初めて気が付いたのが、火村先生が現場検証に立ち会えるのは、大阪府警本部長の許可があるからだ、ということ。
現場への立ち入りに協力的な船曳警部や京都府警の柳井警部、兵庫県警の樺田警部の印象が強いせいで、現場レベルの責任者が許可出してる訳がないよな、という当たり前のことに気付いていませんでした。1作目の『46番目の密室』でも群馬県警の鵜飼警視が現場責任者ですけど、ちゃんと本部長から協力要請の指示があったことが書かれていました。……読み飛ばしてました。
火村先生が学会などで他大学の研究者に「警察権力になんちゃら~」と責められてる、という描写がありましたが、「大げさな先生もいるんだな」くいらいにしか考えていなかったけど、各県警本部長や警視庁のエライ人クラスの知り合いがたくさん、と考えると、そう思う人がいるのも大げさではなかったのかな?と。大学って警察権力の介入を嫌う傾向がありますしね。読者視点では火村先生と権力の乱用なんて、イコールでイメージすることができないのでナニソレ?という感じなのですが。
動物園の事件の物言えぬ目撃者である猿たちを見て「こいつらホモサピエンスみたいに嘘つかないだろうし」って先生のご苦労がしのばれます……。
そして変な事件が起こったら、これは火村センセイ向きだ、と連絡が行くのはいいけど、その5分後には「作家好みの事件だ」って……確かに、この回の暗号は作家センセイ好みの出来だとは思いますけど。
暗号をこねくり回して遊ぶ前半部分が好きです。自力で解いてみたいミステリファン的にやっちゃいがちなことは全部アリス先生がミスリーディングしてくれるという親切設計。ダイイングメッセージを暗号に託した被害者の残した一言から解き方のヒントを探す火村先生。うん、その方が合理的ですよね……。
93年の時刻表で書かれているので、大阪-青森間の特急はなくなっていますね……。もう一つの方は、調べてみたらまだあるようです。時刻表や路線を使ったミステリもやりにくくなっていくのでしょうね。
ラストのアリスの台詞が印象に残っていたせいで、そっちが暗号の答えだったように記憶違いをしていました。
そして当たり前ですが、暗号が解けてもすぐに犯人は逮捕されません。この後、通常の捜査が行われて、お金の流れやら動機の解明やらが行われるわけですね。被害者が残したダイイングメッセージから犯人がわかったぞ!で終わらないところが好きです。

屋根裏の散歩者
動物園で起きた事件以来、と書かれているので、珍しく時系列がハッキリしていますね。初期作品にはこういうの多い気がします。
それにしても70歳の被害者が、すでに何人も殺してる殺人者を強請ろうなんて、殺してくれに近いのでは……無茶が過ぎますな。運動神経に自信なさそうなアリスに犯人と立ち回りをやらせようなんて、こっちも無茶ですよね……。そりゃ、あんな取り押さえ方しかできないの、わかります。
火村先生の捜査方法もだいぶ無茶でしたね。珍しく、しおらしげに言い訳したりしていましたが、美容院での仕込みからすると、犯人が特定できたらやらかそう、と思っていたこともバレバレだと思います。船曳警部は上司に叱られたりとか、しなかったんでしょうか。
総じて、みんな無茶しすぎの回でした。
事件のポイントとしては、屋根裏の散歩者ならでは、の視点の切り替え、というところでしょうか。
あとがきにあった、映画『エイリアン2』の惑星基地は長屋よりも作りが悪い、にも笑ってしまいました。建物の耐震、防火の基準はどんどん上がっていますしね。

赤い稲妻
目撃者が火村先生の教え子、ということで、早期に「ぜひ来てください」になったわけですが、そうでなかったら、目撃証言は気のせい?ということになって、事故か自殺で処理されたのだろうか。自殺と断定するには、いろいろ無理な点が多いし、他殺と断定しても犯人特定までたどり着くのは至難な事件だったように思います。根気強く証拠集め、状況証拠の積み上げをしても、すべての真相に到達可能だったろうか?特に二つ目の死は、疑われずに事故処理されちゃいそうな感じでしたしね。
火村先生が意外にも?講義中の教室内をしっかり把握していることも判明しましたね。初登場時の頬杖ついて講義のイメージからは、ちょっと想像し辛いです。でも教壇に立つと、思っていたより全体が見えやすいんですよね。私も昼食後の講義で居眠りしたりしちゃったの、先生たちからはバッチリ見えていたんでしょう。わかっていたけど、眠気に抗えなかったんだよぅ……。
作品内では答えがないままでしたし、火村先生も答えられませんでしたが、アメリカ人も身投げするときに靴を揃えて置くのでしょうかね?どっちかというとアメリカ人の自殺というと拳銃自殺のイメージです。
読んでいて思うのは、列車との衝突で死亡した夫人が、まだ意識があったなら、という、もしも。考えると寒気がします。マンションの下で重症を負った自分を車で運んでくれる夫が、病院に向かってくれていると信じていたんじゃないかと思って。どうかすでに意識はない状態だったらいい、と思うくらい、残酷でした。落雷からヒントを得た先生の犯人糾弾も、事件の残酷さのせいか、激しかったように思います。

ルーンの導き
火村先生の部屋のちらかりっぷりの描写がすごいです。三方の壁の書棚からあふれる蔵書って……と思いましたが、自分のとこの本棚部屋も大差ないような気がしてきました。片付けます。でも、足の踏み場はあるし、掃除に困るような置き方もしてないよ!足の踏み場もなかったり、机に寄り掛かったら崩れるような本の山もないよ!
そして火村先生の部屋なのに、コーヒーを淹れるのはアリスなんですね。他人のキッチンなんて使いにくいものだと思うのですが、勝手知ったる、というやつですかね。
そういえば『ダリの繭』の感想のほうに、1作目『46番目の密室』以前の事件は書かないの?なんて書いちゃってましたが、二人が33歳の時の2年前の事件、ということは先生が31歳、ということになるから、46番目より前の事件、ありましたね。ないものと思い込んでおりました。
ルーン文字、というモチーフが持っているロマンはステキだと思うし、選んだ文字から啓示を受け、神秘を感じただろう古代、中世に思いを馳せたりはしますが、占いそのものは信じないほうです。血液型占いとか、統計学だよ!なんて言い訳があったりしますが、日本みたいに4種が混在してるような国、そうそうないしなぁ。ほとんど1種、他の型は少数派、みたいな国もいっぱいあるんですよね。種としての生き残り戦略として、血液型による性格傾向はある、と言っても、どうして血液型で分類するのか?遺伝子型とかじゃないの?
将来、遺伝子型占い、とかできたら笑っちゃいそうな気がします。
火村先生もアリスも占いは信じない派のようですね。先生なんてびっくりするくらい無神論者だしなぁ。
この事件でもルーンの石は真相に迫れませんでしたね。火村先生の指摘で、本の裏面を確認してしまったのは私だけではないと思います。存在していることは知っていても、普段は全然気にしていませんよね。
解答編で指摘されていた中国語の英語の表記法を思うと、日本語の、ひらがな、カタカナ、漢字の3種併用表記の自由度は、使っていても楽だな、と思います。最近はなんでもカタカナ語のまま使っているものが多くなって、ちゃんと意味を訳して使って欲しい、と思うことも増えている気がします。

ロシア紅茶の謎
表題作。ロシアンティーは日本では一般的にジャムを入れた紅茶のことを指すようですが、ロシアでは紅茶にジャムを入れるようなことはしないみたいですね。濃いめのお茶をジャムを舐めながら飲むようです。蜂蜜を舐めたり、古くはお砂糖を舐めながら飲んだとか。というわけで、ジャム入り紅茶はロシア紅茶ではないようですが、でもジャム入れるの甘くて美味しいですよね。
この作品では紅茶に毒を入れちゃうわけで、澄んだ水色の紅茶では、溶けるまで異物が入ってるのすぐわかっちゃいますからね。混ぜ物を分かりにくくするのに、ロシア紅茶を採用したのでしょう。
冒頭から笑わせられてしまうのですが、警察からの火村先生宛の電話が、アリスの家にかかってくるようになっていますね。先に北白川の時絵さんにかけたようですが、遊びに行ってるとか、時絵さんの観察力はさすがです。今年あった犯罪の総括を話し合う、とかいっても、ウィスキー飲みながらではね。
今なら携帯電話に掛ければすぐに捕まるんでしょうけど、このころはまだなかっただろうしな。調べてみたら、この作品内の短編は93年から94年にかけて掲載されたもののようですが、携帯電話の一般化は九十年代後半、デジタル化、インターネット接続サービスの開始は99年ごろのようです。
この事件でも、野上部長刑事が良い味を出しています。民間人が現場をうろつくのに否定的なようなのに、いざという時はシレっと協力プレイをしてみせてくれるのですよね。樺田警部が面白がっているのもわかるような気がします。
それにしても恐ろしいのが女の情念……というべきでしょうか。このトリック、自分もかなり危険ですよね?なにかのアクシデントが起きれば、いくら実験を繰り返してあったとしても、自分が毒を呷ることになりかねない。リビング側のパーティーをやっているメンバーに声をかけられても、紅茶を淹れていた妹の真澄に話しかけられても、不自然な動きをせざるを得なくなりそうな危ういタイミング。
本当にどちらが死ぬことになってもいい、と思っていたのかもしれません。

八角形の罠
舞台用の原案をノベライズしたもの、ということで、殺人事件の現場に火村先生とアリスが居合わせてしまう、巻き込まれタイプの事件。そういえばアリス先生が関わった舞台で殺人事件が起きたの、他にもありませんでしたっけ。遭遇率が高すぎです。探偵モノの宿命ではありますが。現場となった建物の見取り図、読者への挑戦!がついてる謎解きモノ。
殺人事件はアリス先生が原案をだした舞台の上演前、ゲネプロで起こってるので、出演者が亡くなってしまったんじゃ、ホールのこけら落とし公演できなかったでしょうね。アリスはせっかく頑張ってアイディアを出したんだろうに、残念。どんな推理劇だったんでしょうか。アリスの原案は『八角館の殺人』で、火村先生にタイトルについてツッコミを受けていますね。同じことを思った人はいっぱいいたと思います。「他の作家の有名な作品」の方も、だいぶ前に読んだので、そのうち読み返して感想を書きたいです。
本物のホールの見取り図が使われていて、謎解きの重要なヒントになっているわけですが、トリックそのものは実際には実行できない、というところも可笑しいです。そりゃ大型エレベーターならそういうの、ついていそうですよね。

短編ばかりとはいえ、6作品の感想を書くのは結構大変ですね。
次は長編『海のある奈良に死す』の予定。
ダリの繭 (角川文庫―角川ミステリーコンペティション)/有栖川 有栖
¥720
Amazon.co.jp

3月2日~3月3日読了。
長編一冊読むのに、二日かかるようになってしまっている……。
読書習慣を取り戻すのは大変です。

いつもの順番通り、次は『ロシア紅茶の謎』を読もう!と思っていたのですが、刊行順を調べてみたところ、『ダリの繭』の方が早く出版されているのですね。おそらく講談社文庫で刊行されているのをまとめて読んでから、角川文庫で刊行されている長編を読んでいたのでしょう……。この順番で読むのは初めてです。

この作品はドラマ版4話「ダリの繭」の原作になってますね。
ドラマの出来にはいろいろ……いろいろ言いたいことがありますが!(涙)
長編を1時間のドラマにするなんて無茶するな、とは思っていたのですが、大事なところほどばっさりとカットされちゃってる感がものすごかったです。
サルバドール・ダリと母性への幻想、ダリと女神として熱愛された妻ガラの関係性、堂条秀一社長の天才ダリへの憧れ……などの説明を全部カットしちゃうと、ただの「ダリ髭の社長が繭(フロートカプセル)の中で殺されただけの話」のタイトルが「ダリの繭」(笑)とか思われちゃうんじゃ……。少なくともドラマだけ見てる視聴者には、タイトルの持ってる意味はまったく伝わっていないことでしょう。
ドラマスタッフのがんばりを評価すべきところもいっぱいあったので、大事なところももうちょっと何とかして欲しかったというのは、贅沢すぎる要求なのでしょうか。

一番がんばったね!と思ったところは、たった1件の殺人事件を解決するのに、長編になっちゃうくらい、込み入ってて錯綜してしまうアレコレを、枝葉をばっさりと削って、シンプルな形にしたこと。ミステリ小説として読む分にはそれでいいのですが、ドラマで全部再現は絶対に無理なので「誰が殺したのか?」と「どうしてそのような状況になったのか?」という部分に謎を集約したのはうまかったな、と思います。

一番ダメだったと思うところは、この作品のゲストヒロイン鷺尾優子さんの扱いですかね……。鷺尾さんはこの作品内の「男たちに崇拝される女神」のアイコンなので、「頭もよくて有能な美人秘書」でいいのですが、なぜ解答編までのあいだに「長池さんと婚約しています」と長池を庇わないのか。
長池が疑われる根拠は「鷺尾さんを巡って社長と対立していた」と思われていたせいで、すでに婚約していたことをオープンにしてしまえば、殺意を持つ理由がなくなって、婚約者が疑われる状況を晴らせるのに。
長池が犯行がばれた時に彼女に迷惑がかかったりしないように婚約の事実を黙っている、という設定にするのはわかるのですが、鷺尾さんは婚約者の犯行を知らないわけで、庇うための最良の決断をしない理由がない。婚約者の犯行に気付いていたと設定を変更したとしても、やっぱり庇う発言がない理由にならない。こういう登場人物の心情として、取るべき行動を取らないのはどうなのだろう。
アリスの初恋の人に似ている鷺尾さん、というオリジナル設定をいれることで、アリスの悲しい初恋の顛末と小説を書き始めた理由、彼の繭の説明をする変更部分は別に良かったのですが、せめて婚約の告白をどこかにいれる、無理なら言おうとしたのをさえぎられる、くらいの表現は入れておいた方が良かったと思います。婚約者を庇ったり、婚約者と自分の幸せな未来を夢見ている、「誰かの女神」ではないごく普通の女性なんだ、という部分がないので、解答編の後、いきなり激高して火村先生を糾弾し始めるのが、すごく自分勝手な人にしか見えなくなってしまっている。
それに「社長にも似てる人がいるって言われました」って、堂条社長から母親に似ていると言われたことがあることを仄めかしてましたが、母親に似てるって言われて結婚してくれる女の人とか、いないから。振られるのが当たり前です。なに変な変更いれてるの……。

解答編も関係者全員を集めて「さて」をやってしまっていますが、これも原作同様に兄弟に向けて解答編をやりつつ、別のところで長池の鷺尾さんへの告白シーンをやったほうが、絶対印象的なラストだったのにな、とガッカリしました……。

「時々こういうことやりたがるんや」ってなんだそれ。
長池の告白シーンが終った後に京都府警組が見張ってましたと登場して長池を連行して、鷺尾さんが待ってるから、と縋ってるところを入れたり、コマチさんの「残念ですが」を入れたりしたほうが作品的にも、役者さんの演技力のアピール的にも良かったのではと思う。アリスと鷺尾さんの「言うべき言葉がみつかりません」とかの無駄やりとりを入れなくてもよくなるし。2話で探偵の推理に頼り切ったりしないでがんばってる警察の皆様のイメージをダメ押しできるし良いことずくめなのに。長池さん役の役者さんの登場時間確保のためなら、再現シーンを演じてもらって挟めばいいだけだし。
余った時間でラストの火村先生とアリスのやりとりを伸ばして、初恋の人だけでなく、鷺尾さんにも何も言えなかったアリスを表現させるとか、ダリとガラの説明を入れれば、「ダリの繭」(笑)にもならないし。

ひそかに一番がっかりしたのが「ブラジル蝶の謎」からセリフを引っ張ってきちゃうことで、ブラジル蝶のドラマ化(少なくともこのキャストのもの)の可能性をほぼなくしてしまったのも酷い(泣)。綺麗な蝶々で飾られたこの作品は映像化向きだよね、と思っていただけに、ね。全10話のドラマで映像化できる作品が限られていることはわかるのですが、原作の暗号だけ公開とかされちゃうと、「これはやらないのね(涙)」といつも悲しくなります。

ドラマの愚痴が長くなってしまったので、原作の感想。

再読して驚いたのが、ドラマでもイチオシしていた「新婚ごっこ」が3回も出てきたこと……。朝食のところだけじゃなかったんだね。二人の皮肉の応酬が好きなので、どんどんやっちゃってください。

火村先生のフィールドワークについても説明が追加されてました。やっぱり初期には警察に頭を下げてお願いして回ってたんですね。『きてもいいぞ』と京阪神の各警察に言ってもらえるようになるほど実績と信頼を積み重ねて努力されたんですね、先生……。このアリスが助手を務めるようになる『前』の時代の事件って、短編とかにはならないんですかね?

作品全体のテーマとしては「孤独」そして「自己を守るための逃避場所たる繭」でしょうね。
作品の語り手であるアリスの孤独(初恋のトラウマ)と繭(推理小説を書くこと)。
火村先生の孤独(?)と繭(学問にかこつけて犯罪者を狩る)。
そして事件関係者たちのそれぞれの孤独、それぞれの逃避場所……。
事件の中心であり、被害者になった堂条社長の孤独(仕事は成功しても、愛情的に満たされていないこと)から守るための繭がダリへの憧れと早くに亡くなった母への思慕、そして母に似た人への愛情と執着。繭(フロートカプセル)の中で満たされたい想いが殺意へと育ったことが、事件発生の引き金になるところも考え深いです。
私個人としては、「孤独」はそんなに悪いものとは思っていません。人は簡単に一人きりにはなれませんし、「孤独」が育てるものもあるでしょう。多くの芸術作品、文学作品、学問や技術を昇華するための思索や試行錯誤の時間がそれにあたるでしょう。
読書だって人が一緒にいる時には進まないので、一人の時間が必要です。

しかし、同じくらい、「自己を守るための繭」も必要なんだ、と思っています。傷つき易い部分をそのまま曝け出し、日々の生活をおくるわけにはいきません。作品中では様々な「繭」が描かれていましたが、一番気になる「繭」はやっぱり火村先生ですよね……。
一見、頭も良くて何でもできて一人でも大丈夫そう、という火村先生にもある弱くて傷つき易いところ……、と思うと、「学問にかこつけて犯罪者を狩る」という先生のセリフがすごく痛々しく思えるのですよね。犯罪捜査をしなくてよくなる火村先生というのは「読者的に」想像したくない
(シリーズが終っちゃう)のですが!いつか先生が穏やかに過ごせる日が来ればいいのにな、とは思います。

そして初期長編らしく、部外者のアリス先生が捜査に参加するのに、サラリーマン時代の仕事仲間が事件関係者になってる、とか。1作目では巻き込まれ、2作目では関係者になってしまった元仕事仲間のアリバイ証言者、とバリエーションがんばってますね。新しい作品になるほど、「有栖川さんもいかがですか」と、何も活躍してないのに呼んでもらえるようになっている(短編が多いので毎回参加する理由の設定や説明は面倒ですよね……)わけで、初期はアリスを捜査に連れて行く設定を作るために苦労しているのがわかりますね。

そういえば読んでいて気になったところが二つ。
一つ目は、最初の捜査状況の説明の時には「靴は下駄箱にあった」と書かれているのに、弟の吉住の証言以降は「靴は兄(秀一)のも自分(吉住)のもなくなっていた」ことになっていること。たぶん、下駄箱にあったという設定は初期のもので、修正し忘れて残ってしまったんだろうな。今は修正されているのでしょうか?
二つ目は、初めて小説を書いたのは17歳の7月9日、のところ。7月7日の七夕の夜に手紙を書いて、翌日(8日)の放課後に渡して、その次の日(9日)に学校に来なかったことを不審に思って、その翌朝(10日)に自殺未遂の話を聞いて、夜に小説を書き始めた……とすると日付が合わない。ここもきっと修正ミス。
初読の時にはスルーしてて気づいていませんでした。今回じっくり読んでて初めて気が付いたよ……。読むスピードの代わりに、集中力を犠牲にしていたのかもしれません。

この作品は特に、ラストの飛行場のシーンがドラマティックで好きです。
長池が鷺尾さんに犯行を告白するところ。野上刑事もかっこいい。火村先生とアリスのフィールドワークと推理の裏側で、警察が常套手段の捜査をきっちりやっている描写があるのが、シリーズを通して好きなところです。探偵として指摘するのはロジックからの犯人の特定、状況の説明であって、犯人を逮捕するところとその証拠固めはちゃんと警察の仕事なのですよね。探偵が警察の仕事に介入しているところがすでにファンタジーなのですが、ファンタジーすぎないところが現代風の探偵小説らしくていいところかな、と思います。

それからサルバドール・ダリについて。絵画は美術の教科書なんかでみた覚えがあったのですが、宝飾品のデザインもしていたのですね。気になって調べてみたら、想像していたよりもずっと艶めかしくも美しくて、素晴らしかったです。『ルビーの唇』は真珠の白い歯とモンローみたいな唇が色っぽい、けど、どんな服にこれを付けるのでしょうか……。個人的には『時の眼』一番好みでした。木にぐんにゃりと溶けたみたいに引っ掛かっている時計のイメージばかりだったので、新鮮な驚きでした。

《追記》3月4日
調べてから書こうと思って忘れてしまっていたので追記。
元・大阪球場が住宅展示場になっている、という特異なシチュエーションの説明に、「あれ、大阪球場跡地って今なにかになってなかったかな?」と調べてみたところ、2003年に「なんばパークス」として生まれ変わっていました。記憶違いじゃなかった。曲線と緑地が多用された変わった建築物で、行ってみたいなと思っていたところです。バブル崩壊後のあれこれで球場跡地の再開発は紆余曲折があったようですが、結果的に魅力的な場所になったみたいですね。空撮写真がスゴイです。

46番目の密室 (講談社文庫)/有栖川 有栖
¥620
Amazon.co.jp
2月29日~3月1日読了。
BGMはバッハの「ゴールドベルク協奏曲」で。
分かる人は分かりますね。
グールドのピアノ版も持ってたはずなのですが、見つからなかったのでチェンバロで。整頓しなければいけないのは、本棚だけではないようです……。そのうち発掘します……。

推理小説とか好きな人はすっごく好きだけど、読まない人には「ふ~ん?」という感じのニッチジャンル……と思っていたので、日曜夜10時半から連続ドラマになったり、番宣で有栖川先生のお名前を何度も拝見することになるとはまったく思っていませんでした……。
こんなこと、たぶんもうないよね。ドラマ化ありがとうございますありがとうございます!

せっかくなので、再読はここからにしようと思います。
書影は講談社文庫の旧版。とりあえず旧版も画像が表示できるようなので、読んだ方でいきたいと思います。新装版も出てるみたいですね。新装丁もデザインがいいし、手持ちの本は年月にさらされて少し変色気味なので、ちょっと欲しかったのですが、置き場所のスペース的に断念。
置き場所の節約と背表紙がちゃんと揃うのが好きなので、基本的に文庫本派です。重い本を持って読むのも苦手だし、外出時に持っていく時にも文庫本のほうがかばんに入れやすいし、余程でないと単行本は買いません。

ドラマ化した作品だけ選択して読もうかと一瞬だけ悩んだのですが、やっぱり読み直すなら第一作からかな、と。一作目だけあって、火村先生とアリスの人物像をなぞるような細かい描写や設定の説明が多いですね。二人の軽妙なやりとりも楽しいし、散りばめられたモチーフのなかにひっそり配置されているヒント。そして解決編の繊細に組み立てられたロジック。
それに犯人がアリスの友人たちの中にいる可能性が高いことへの配慮として「今回は警察より先に犯人がわかったら自首をすすめる」とか。普段の火村先生なら、衝動的ではない、明らかな計画的殺人犯に配慮するとは思えないのに。初めて殺人事件に遭遇して消耗しているアリスへの気づかいなんだろうな、と思うと友達想いだよね……。単に「犯罪者を狩る」のではなく、場合によっては大人として、社会人としての気づかいも見せてくれるところが素敵だ。ドラマ版でも社会的地位のある大人として行動する火村先生を描いてほしかった(涙)。
ネガティヴなドラマ版への感想も書いていますが、ドラマそのものは楽しんでみています。ツッコミしたい衝動に耐えられないだけで。

火村先生の初登場は「犯罪学」の講義中。
クリスマスイヴの1講目に200人定員の教室に半分入ってるとか、盛況です。私が大学生の時に受けていた「犯罪心理学」の講座で、100人強の定員の教室で7、8割の入り。年末には6,7割の入りに減っていたので、やっぱり多いほうだと思います。犯罪学関連の講座は私が大学生の当時も人気がありました。英都大学のキャパシティがどれくらいなのか情報がないので一概に比べられませんが。

それにしても講義の途中から入室するとか、アリス先生お行儀良くないよ!講義途中からの入室を禁止する先生は結構いらっしゃったように思うのですが。遅刻イコール欠席扱いでした……。厳しい……。

ロンブローゾの生来性犯罪人説とかジューク一族の調査とか、縦断研究(サンプルを複数年に渡って追跡調査するなど)と横断研究(同年に複数サンプルを採取して比較分析研究するなど)の一例として、私も習いました。もちろん結果ありきのサンプル収集の悪しき一例としても。ただ、この内容だと12月にするのは遅くないですかね?講義後の雑談だから辛うじてセーフ?かな?
アリスは講義を聴いていたのに捜査中に鵜飼警視の諸田一家の説明で現代のジューク一族はやっぱりいるじゃん!とか考えてましたが、それもたった一例のサンプルでしかないからね!

そして火村先生もお行儀は良くない。座ったまま頬杖ついてダルそうに講義してるとか。きっと板書もしてくれないよね……。ノート取るのも大変そうです。今ならICレコーダー持ち込んで書き起こすとか対策できそうだけど、単位採るのが大変そう。ドラマ版では講義中に寝てる学生とか聞いてない学生とか多そうだったけど、あの学生たちは原作版火村先生には単位もらえそうにないですね。

アリスはダルそうなのは眠いせい、と断言していたけど、朝が弱い設定とかもあったんですね……。北軽井沢に向かう列車の中でアレコレあげつらわれてる設定だけでなく、人見知りっぽい描写も所々にあるし、歯切れのいい東京アクセントでしゃべる、とかも、先生のかたくなさや周りに流されない部分を表現してるように思います。札幌生まれのあちこち育ち、というけど、札幌は独特の言い回しの方言こそ多くないけど、東京アクセントと同じではありません。それに京都の大学に進学してから14年経っているわけで、普通はまわりの人たちがしゃべる方言とか、うつっちゃったりしますよ、ね?
先生はいつ、だれから東京アクセントな話し方がうつったのでしょう。謎。

再読してみると、14,5年前?には気にならなかった、時事ネタも多いですね。(おそらく在来線)特急あさまの車内で、北陸新幹線が完成したらこの車窓も見られなくなる、とか。完成しちゃいましたね。在来線特急あさまもなくなってしまいました。星火荘のパーティの会話でのワープロの誤変換ネタとか。まだパソコンは家庭に普及していないのですよね、この当時……。モニターも白黒だったように思いますし、インターネット機能もなかったし、Windowsもまだ3.0とかじゃないでしょうか。皇太子殿下と同い年、もここで言及されてたのですね。今じゃすっかりサザエさん時空ですが。同い年だとしたらいまごじゅ……なんでもありません!
ずっとクールでかっこよくてたまに変な火村先生と意外と辛口ですぐ拗ねたり仕草が可愛いまんまのアリス先生でいてください(切実)。

再読してみて今回初めて思ったことは、「なぜタイトルが『46番目の密室』なのか?」ということでした。
二つの密室で二つの殺人が起こるけど、真壁聖一先生が書いていた46番目の密室推理小説とは全然関係ないのに、と考えてしまいました。確かに作品中では46番目の密室のトリックを使って犯行を行ったのでは?とかトリックが盗まれたのでは?とか、モチーフとして散りばめられてはいたけど、本質的に関係ない。タイトルなら真壁先生の著作の一つ『星火荘の密室』とかでもよかったんじゃないの?モチーフに火だっていっぱい散りばめられているし、作中作のタイトルと同じではダメってこともないだろうし。

そこで思いついたのが、「『46番目の密室』とイコールで示されているものは何か?」という意味だったなら、という仮定。
作品内でも『天上の推理小説』(あとがきでは『未在』)と『地上の推理小説』(現状の職人的な推理小説のこと)について抽象的に論じられていましたが、『密室』ほど推理小説ファンを引き付けておきながら、裏切り続けてる題材も確かになかなかないですよね。有栖川先生もあとがき内で、密室ものへの愛憎について書いていらっしゃいますし、文庫版付記でも「密室はふしだらに開きっぱなし」とか「密室の息の根を止めてみせて欲しい…」と密室への愛憎が変わっていないことを再度書いていらっしゃいます。
作中では、『46番目の密室』小説は創作メモの段階で、すでに『天上』に向けて離陸していた、とありますし、『46番目』イコール『天上の推理小説』と考えると、事件の被害者は殺された二人だけでなく、もう書かれ読まれることのない『天上の推理小説』『いまだに存在しない完璧な密室もの』ということだったのでは、と考えてしまいました。
つまり「『46番目の密室』イコール『いまだに存在しない完璧な密室もの』」を『地上の推理小説』上で抹殺する、ということの暗喩になっている、というのはどうだろう。
有栖川先生ならこういうダブルミーニング的なの、きっとお好きですよね?