『光る君へ』の第16回で登場したエピソード「香炉峰の雪」は清少納言の随筆『枕草子 下 (ちくま学芸文庫) [ 清少納言 ]』の第282段に描かれています。
『枕草子』で一二を争う有名な段。中宮定子とのやり取りではもっとも有名な段。二人の知的センスあふれるやり取りがポイント
(NHK大河ドラマ『光る君へ』で御簾を巻き上げる清少納言(C)NHK)
『枕草子』第282段の「高炉峰の雪」エピソード
『光る君へ』の第16回で中宮定子が清少納言に投げかけた香炉峰の雪」について、清少納言が漢詩の知識を生かして答えたエピソードが『枕草子 下 (ちくま学芸文庫) [ 清少納言 ]』の第282段にあります。
まずは、その「高炉峰の雪」のところについて引用(『枕草子 下 (ちくま学芸文庫) [ 清少納言 ]』より)
雪、いと高く、降りたるを、例ならず、御格子、参らせて、炭櫃に、火、おこして、物語などして、集まり候ふに、
(中宮定子)「少納言よ、香炉峰の雪は。如何ならむ」と、仰せられければ、御格子、上げさせて、御簾、高く、巻き上げたれば、笑はせたまふ。
人々も、(女房たち)「皆、然る事は知り、朗誦などにさへ唄へど、思ひこそ寄らざりつれ。猶此の宮の人たちには、然るべきなめり」と言ふ。
(NHK大河ドラマ『光る君へ』で清少納言に「香炉峰の雪」と呼びかける定子
(C)NHK)
現代語訳は
雪が、たいそう高く降り積もる降っているのに、今朝は格段の冷え込みだったので、いつものように外の景色を見物することもなく、格子を下ろし参らせて、長火鉢に火をおこしてそれにあたりながら、おしゃべりなどして、女房達が皆、中宮定子様の御前に集まって伺候していた時に、中宮定子様が「
少納言よ、香炉峰の雪は、今、どうなっているか。だいぶ降り積もったことであろう」と仰せになられた。
私は、とっさに、白楽天の「香炉峰の雪は簾をかかげて看る」という漢詩を思い出し、中宮定子様はお庭の雪をご覧になりたいのだと気づいた。
そこで、女官に格子を上げさせ、私が自分で簾を高く巻き上げて、中宮定子様にお庭をご覧に入れたところ、中宮定子様は、満足そうににっこりされた。
その場に集まっていた女房達も、「みんな、白楽天の漢詩を知識としては知っていて、朗誦したりするのだけれども、それをとっさに行動に起こすなんて、思いもよらなかったわ。やはり、清少納言さんは、中宮定子様にお仕えする人として、ふさわしい方なのでしょう」と言う。
と書いています。一条天皇や、伊周・隆家らがいたのかどうかは、この章段からは分かりませんが、学者の清原元輔の娘として、才女として名高い清少納言の面目躍如なものとして記録されています。
他の作品では、清少納言に対する「香炉峰の雪・・・」の呼び掛けは、一条天皇の発言という伝承もあるそうです。
(NHK大河ドラマ『光る君へ』で御簾を巻き上げられて見える庭の雪景色(C)NHK)
注目としては、この白楽天の漢詩は、中宮定子や清少納言だけでなく、女房達も知っているし、朗誦できるということです。当時の宮中の方々には基礎素養であるということです。今、中学や高校の授業でしか接することのない今の私たちからすれば驚きですね。
大河でも、この話は明るく知的な中宮定子サロンを描くのにぴったりなエピソードなんだと思います。
※『枕草子』の段分けは、いろいろ分け方があるそうです。当ブログは島内裕子さんの訳によるちくま学芸文庫の『枕草子』によります。