ニガウリを片手でもぎ取りかじりつくこの地の万物からだをめぐる
除雪 矢澤 保
新調した防寒服を身に着けて羽毛の軽さに昂ぶるこころ
恍惚と除雪機すすめ開く雪冬晴れのした人機一体なり
除雪する必要のないところまで除雪するわが性のかなしも
照り返す日射しの眩しくちりちりと眼鏡の形に頬は焦げだす
積み上げた雪の垂直を確かめる意味なきことにも満足はある
さあ あらはれよ 矢島満子
広島と呉の地名に緊張す幼ききみが過ごせしところ
モンゴルへ追放されて終戦をその地で迎へぬ夫の家族ら
張家口から無蓋貨車にて少年は手榴弾もて如何に逃れし
戦後直ぐ揚げきたるきみたちに奇跡のやうにわれは出会ひき
カメラもて北の大地を駆け巡る夢をかなへて逝きたり 夫は
今住めるきみの家にはきみをらぬ写真の夫よ さあ あらはれよ
冬木々のかげ 磯石万里
おひさまは手稲の峰にやどりゐて雪野に長き冬木のかげ
幼児なら「ごめんね」「いいよ」で仲直り国と国では始末が悪い
防衛費倍にするため税金を上げるのだとか言つちやつてるわ
九条で平和は守れないとしてもミサイル買ふのも違ふと思ふ
志願して前線へ行く少女兵のトランクいつぱいのチョコレート菓子
春の夢 一井美香
葉の落ちてあばらとなれる木木の枝に春の夢詰め冬芽の眠る
雪降ればツルアジサイのあまた落つあたかも森のきまりのやうに
この冬の若きミズキの枝の先は紅く色づき 春に備ふる
早き春も油断はならじ雪のみか黄砂降る降る穀雨の街に
散る花の淡き桃色踏みてゆくすべてことわりただにことわり