インドネシア大統領選挙戦近況その1 大統領の息子の話ばかりだと見失う | 知りたがりな日本人のブログ@インドネシア

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それまで通える距離に公立高校が存在しなかったために進学をあきらめるしかなかった山合いの集落に、ガラス張りのロビーにレンガ張りの外壁という公立高校にしては珍しいおしゃれな雰囲気の公舎が出来上がった。”同じ予算を使っても汚職がなければ、私立学校にも負けないくらい立派な校舎を建てることが出来るということを証明したい”という知事の意気込みによるものだった。

 

完成まじかの現場を訪れ、すでに仕上げの塗装がなされているガラスの下側の壁を一見、迷いもなく蹴りつけると簡単に穴が開いてしまう。他にも屋上のコンクリートのひび割れや手すりのサビ、タイルの隙間やコーティング剤が塗られていないことを確認すると、ポケットから携帯を取り出し”最初に約束したのと違う。やり直して。それとも裁判に持ち込もうか”と、その場で決着をつける。

 

これは、大統領候補の一人ガンジャル氏の中部ジャワ州の知事時代の仕事風景。地方のリーダーとして実績が評価された人物というときは、知事といえども現場に行ってこれをやってくれる人のことをいう。(先進国ではそんなことはあり得ないかもしれないけれど)隙あらば材料の質を下げたり手抜き工事をしようとする業者ばかりなので、いくら尊いコンセプトを綴ってはじめたプロジェクトでも、作業を担当職員に全て任せていたのでは、赤恥をかくことになる。


選挙戦に先立って任期を満了したガンジャル氏、現在は大統領候補者として毎日のように全国各地を巡っている。庶民性をアピールするために市場や下町を訪問するキャンペーンは、他の候補者もやっているが、普通は撮影が終われば切り上げるのに対して、ガンジャル氏の場合は地元の庶民の家に寝泊まりし、夜は村の小さな集会所の薄暗い蛍光灯の下で、昼は広場に広げたむしろの上で車座になって、地元の人たちと一緒にお弁当をたべる。

 

ジャワ弁特有の優しくゆったりと和やかな口調で語りかけ、打ち解けたところで、質問を募り、打ち明け話を糸口にして政策の紹介へとつなげるスムーズな進行は、プロの司会者も顔負けする。票をとるという目的なら効率があまりよくなさそうだが、これまで地元でやってきたことを、本気で全国に広げてやっていこうという誠実さをアピールする効果は抜群だ。

 

通常でも、家の近所で奥さんと一緒にジョギングしている姿を見物に来る人で人だかりができるくらい人気がある。闘争民主党の一党員からのたたき上げで国会議員を二期務めた経験があり、庶民出身であること、対話重視、現場主義、インフラ建設での実績が評価されているところが、ジョコウィ大統領と似ている。前々から次の大統領候補として名のあがっていた人だ。

 

他の二組の候補者には、彼のようなコミュニケーションはとてもまねできない。元ジャカルタ州知事のアニス氏は、演説が流暢だけれど人の話に耳を傾けることには興味がないし、現国防相のプラボウォ氏は、国家を代表する大臣とは思えないような政治家らしくない巷のおっさんレベルのぶっきらぼうな口調、ついでにお坊ちゃん育ちの苦労知らずで趣味は乗馬。庶民と共有できる話題がない。

 

プラボウォ氏は、過去3回も落選を経験しており、72歳という高齢と、民主活動家拉致問題、スピーチ中に演台を叩いたりする怒りっぽくて暴力的なこれまでのイメージを刷新するために、ジョコウィ大統領の人気にあやかって長男ギブラン氏を副大統領候補として公式に登録したのが10月末。

 

その直前、最高法機関である憲法裁判所で怪しげな決定があった。それは、規定された最低年齢の40歳に満たなくても出馬できることにするという特別例外を認める決定で、それは、権力者の息子を選挙に出すためだけに法律まで変更してしまうという、独裁政権時代に逆戻りしたかのような事件で、しかもその決定を行った裁判長が、ジョコウィ大統領の妹の夫(1年前に再婚したばかり)でありギブラン氏の叔父にあたる人物であったということが問題を大きくしている。

 

倫理委員会の取り仕切りでこの裁判長は罷免になったが、選挙管理委員会はそのことによってギブラン氏の登録を無効にしようとはせず、釈然としないまま選挙キャンペーン期間へと突入した形になっている。”ジョコウィ大統領は任期満了を前にして民主主義に塩を撒いた”と表現されるように、この件に関してジョコウィ大統領が、何故か曖昧な態度をとり続けているという不穏な雰囲気がある。

 

大統領は、権力を去ったあとバレると困ることがあるので、息子に政権を世襲させようとしているとか、母体政党の党首との仲たがいが原因だとか復讐だとか、真相がどこにあるのかは分からない。しかし、政府による貧困者への支援物資の配給が、堂々と特定の政党や候補者のための、選挙活動目的に利用されているというのに、何故黙っているのか。息子を勝たせるためにこっそり力をかしているのだと言われても仕方がない。

 

出馬登録した後のギブラン氏はというと、一般人からの質問に意味不明の答えをしたり、用語の言い間違えがあったり、演説が短すぎるとか、態度が傲慢だとか、事ある毎に突っ込みを入れられ、”公式の討論会しか参加しない”と宣言するほど一般人との接触の場を避けるようになった。彼の物まねやパロディ動画は、視聴率を稼ぐため恰好の素材にもなっている。

 

公式の討論会では、父親の声音や話し方をそのまま真似て、練習してきた成果を披露したにすぎず、他のベテラン候補者らと並んで大統領選挙に参加するレベルには程遠いことを自ら証明しただけだった。加えて、隠しイヤホンから女性の声が聞こえたとか、シャツの下に隠していた四角い箱は何だったのかなど、その後、選挙監視委員会に否定してもらったにしても、拭われることのないネガティブなイメージが増し加わった。

 

それでも、ギブラン氏は討論会を制した、よくやったと言って褒めちぎる、一般人とは別の価値観を持ち合わせた人たちが沢山いるのは驚きだ。彼らつまり、プラボウォ支持者は、選挙に関する活動において大変アグレッシブだ。他の候補者の看板を違反だと文句をつけては、警察や地方政府のスタッフを使って剥させ、自分たちが推す候補者の看板については、貼ってはいけないことになっている場所にも許可を発行する。

 

選挙違反だと批判して深夜に警察から呼び出し状が来た他陣営の宣伝担当、彼らが推す候補者への支持を断って脅しを受けた宗教家、仕事をキャンセルされた芸人、そして公開討論会での奇怪な言動と、支持率が上がるような要素はひとつも無いのに、リサーチ会社のアンケート結果だけは常に一位。そして、最下位の候補者に投票しても票が無駄になるだけだからうちの候補者に投票したほうがいいなどと勧める傲慢さ。

 

どんな違反をしても、支持率が高いことによって正当性が保証されているという理論は全く正しくない。選挙は支持率のために戦うのではなく、政策を実現させるために戦うもので、政策を読めばどんな人に支持されているかがわかるというもの。各候補者の政策を比べてみれば、どんな未来が待っているのか現状がくっきりと見えてくる。

 

ガンジャル候補、一千七百万人の雇用創出、海洋開発、貧困家庭の学費援助、一村一医療施設、零細農民・漁民の債務帳消し、各省庁別に発行している証明書を、現行の住民証明カードに統合させるなどの21項目 年間500兆ルピア 

 

アニス候補 BPJSの無料、電気料金無料、国有地への私立校設立、教育無料、低価格肥料、生活必需品の価格を下げる、雇用機会の開拓、など9項目 予算明記なし 

 

プラボウォ・ギブラン候補  昼食、ミルク無料配布プログラム のみ  一日一兆ルピア 年間400兆ルピア 

 

これだから、選挙というのは人気リサーチよりも、政策を読んでみることの方が大切。日本語メディアのインドネシア大統領選挙関連の情報のほとんどが、ジョコウィ大統領息子の話ばかり。気持ち悪すぎるので、厄払いのつもりで書いてます。

 

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Gambar oleh kalhh dari Pixabay