インドネシア大統領選挙戦近況その2 焦点は法律が守られるか否か | 知りたがりな日本人のブログ@インドネシア

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日本語では検索できないインドネシア国内の話題を、雑談に使えるレベルで解説。

人口ボーナス期にあるインドネシアでは、村落といってものどかなばかりではないようだ。石の投げ合いや殴り合い、刃物や銃器が持ち込まれたり、村役場が破壊されたり、畑の真ん中で倒れていた血まみれの男性が発見されるといった事件も。原因は村長選挙だ。

 

登録が拒否された恨みや、支持者同士のいがみ合い、集計の不正や妨害、負けた怒りから、道路に壁を築き封鎖してしまう現村長がいたり、指定した候補者に投票しなかったことを理由に、貧しい人の住居を撤去してしまう地主。

#Pemilihan kepala desa riuch

 

”最近は誰でも彼でも村長になりたがる。村交付金のルールを見直した方がいい”と、スリムルヤニ財務大臣は言う。村落交付金というのは、村落の開発の遅れと高い貧困率を改善するため、中央政府から10~30憶ルピア(一千万円相当)の現金が分配されるという制度。ユドヨノ政権で成立し、ジョコウィ政権から本格的に始まり十年が経つ。

 

以前、村落は県や郡の下にあって優先順位が低かった。村落に中央政府から直接の資金を配分することで、橋の修繕や生活道の舗装などのインフラを整え、地域性を生かした生産的な活動を村単位で主導することで雇用を創出することを狙いとしている。果樹園や養殖所を開いたり、零細起業家への無利子貸し付けなど、村落交付金を活用して豊かになった村落が紹介される一方で、交付金に依存するだけの経済構造が出来上がってしまった村落も多いという。

 

”村長さんが新しい車を買った、新しい家を建てた、奥さんが増えた” 村という狭い環境では、すぐに噂が広まってしまう。交付金が何に使用されたかその結果どうだったか、範囲が狭いだけに検証がより可能になるということはある。ところが現状は、通報窓口となっている郡や県政府の担当者が、信頼できない、通報したことが村長本人に知られてしまうという(警察の通報窓口と同じ)恐れから、政府が推奨する住民による監視システムは機能していない。

 

村長に対する不満が如何に積もり積もっているかということは、”村長の任期6年から9年への延長と村落交付金の増額”を要求して、村長連合が行った千人規模のデモに関する記事のコメント欄に、真剣なコメントが沢山寄せられていることからわかる。村職員服で、鉄柵によじ登ったり、タイヤを燃やしたり、ペットボトルを投げ込んだり、参加していた村長・村職員らのマナーの悪さも気になる。

#Kepala desa di depan gedung dpr

 

汚職防止策の一つである任期制限を、何の必要性があって、延長しなければならないのか?大統領も市長も県知事も任期が5年なのになぜ、村だけ延長しなければならないのか誰にも説明できない。こんな要求が通る筈はない、いや、通してはならないという専門家の進言も空しく、国会委員会は、あっさりとこの村長たちのわがままな要求を全面的に受け入れて、後は法制化を残すのみという段階にある。

 

国会委員長によると、”反対する政党はひとつもなく即決だった”という(少数派の政党は棄権した)。これは間違いなく、大統領選挙と同時に行われる総選挙前のタイミングであることと関係している。デモで村長らは、”要求が受け入れられない場合は、選挙に協力しない”と言っていた。法律上、村長は中立の立場で選挙活動にはかかわってはならないことになっているのだが。

 

選挙の実施は、村長や村職員が行うのではなく、選挙専門の全国機関、選挙運営委員会という独立した機関がある。今年は、大統領、地方代表議会(上院)、国民議会(下院)、州議会議員、県/市議会議員、の5枚の投票を一度に行い、投票場ごとに手集計してその日中に仮結果が出る。(終わった後で再び数え直した上で最終的な結果が決まる。仮結果の裏付け)

 

この一連のプロセスは、監視委員会という独立の機関によって監視されることになっているが、この機関が、怪しげなことばかりやっている。例えば、村長・村職員二万人が都心のスタジアムで、特定の候補者への支持を表明する集会を開催するという明らかな違反があったが、主催者側は、監視委員が立ち会っていて何も言わなかったことを理由に、違法なものではないと説明している。そして後日、この集会に参加しなかった中部ジャワ州の村長百数十人だけに、州警察から呼び出し状が届いたということは何を意味するのか。

#Kepala desa di gbk

 

ここで、その特定の候補者の看板政策である”昼食・ミルク無料配布”について考えてみる。貧困対策、栄養向上、テロ対策にもなるとのことだが、500兆ルピアも突っ込むつもりの割には具体的にどうするのかははっきりしない。現物支給の直接の窓口となるのが村組織ということになるが、大混乱になることは誰にも想像できるはず。

 

現物支給といえば、配ったことにして一部をしまい込んで横流ししたり、本当に困っている人には届かないという問題がつきもの。そう言った問題には手をつけず現状維持のまま、現物支給だけ大々的にやるぞ、という宣伝には、どういったメッセージが込められているのか。

 

近年、非効率的で不公平な貧困者向け現物支給制度を、対象者に直接現金を振り込む方法に変えていこうという動きがある。国民全員がすでに所持している住民登録カードと紐づけにして、需給資格の絞り込みと二重受給を防ぐという政策を提案しているのが、ガンジャル氏とコンビを組む副大統領候補マフッド調整大臣。


彼はイスラム法律大学の教授、民主化後最初の内閣で法務人権大臣、国防大臣、最高裁判所長官を歴任した、政治・法務・国防、を担当する大臣の纏め役、現職の調整大臣として、汚職事件や国民の関心を集めた裁判など事ある毎に登場し、報道陣の前でいつも歯切れのよい説明をしてくれる。国会委員会中継で、法律の条項を持ち出してのらりくらりと言い逃れしようとする国会議員を見事に論破し、国民から拍手喝采を浴びたことも記憶に新しい。

 

”汚職を無くすだけで全国民に毎月2千万ルピア(20万円)払うことだって可能なんだ…一体どれだけ、汚職のせいで貧しくさせられてるのか考えてみてほしい” なんと今話題のベーシックインカムが汚職を無くすだけで可能だなんて、将来に希望を持てない世代にとって最も心を打つ重要な発言だ。実は、年齢が若いだけの大統領の息子ギブラン氏よりも、若い世代の心を掴んでいるのはマフッド博士だったりする。

#jika tidak ada korupsi di indonesia 

 

村長が任期延長を要求する背景には、ネットでそういった類の情報を得るのが当たり前になっている民衆の、リーダーに対する評価が厳しくなってきていることや、将来、現物支給が減らされる懸念。これまでのやり方で現在の地位を維持していくことに対する不安がある。そして、改革などに手を付けず、現状を維持してくれるだけの人物にリーダーになってもらう必要がある。

 

”村長の推薦する候補者を支持しない者には、現物支給を渡すな” ”特定の候補者を選挙で勝たせるために村落交付金から○○まで使ってもよい。これは来年の監査には引っかからないから大丈夫” 投票日まであと1カ月を切った時点だが、一つまた一つ、決定的な映像や音声が暴露されている。

 

公開討論会が行われる度に、候補者自身の人柄、本性が顕在化し、大きな影響をもたらしている。年始に行われた第三回目の公開討論会の影響はかなりインパクトがあったが、その焦りもあるのか、ジョコウィ大統領が、討論会の内容を改善しろとコメントしたのは、明らかな越権行為。

 

これまでは、大臣や地方政府の長の地位を退任しなければ大統領選に出馬することができなかったのに、今回はジョコウィ大統領の命令で、退任しなくてもよいことになり、各大臣をはじめ、ジョコウィ大統領自らも率先して、貧困者支援物資の手渡しに勤しんでいるのも不可解だ。

 

とはいえ、全ての村長が特定の候補者を勝たせることに熱心なわけではないし、却ってこういう強硬なやり方を強制されることにストレスを感じているかもしれない。村長・村職員がどう動くかというのが重要なカギになっている。投票日が大荒れにならないことをただただ祈るばかり。

 

↓有料なので全部読んでませんが日本ではこのように報道されているようです

 

↓こちらは田中真紀子さん談。

地方議員も減らした方がいい。「お金くれ」「お金くれ」だ。父が病気だというのに、東京・目白邸に県議がやってきて、「奥さん、金くれ」と。私、お茶を出していて、びっくりした。ここまで地方議員はたかるのかと。