グランドピアノがある蕎麦屋
七宗町にある道の駅までドライブするとき、必ず立ち寄る蕎麦屋がある。
並ぶのは必須の人気の店だ。
古民家風の店内にはグランドピアノが置いてある。
このピアノがなければ、少なくともテーブルは4卓ぐらい入るだろう。
でも、店主はその気がなさそうだ。
オペレーションの問題があるのかもしれないが、
私には儲けを最優先にしない経営哲学のような気がしてならない。
この日は、妻と2人なのに並んだ順番の都合で6人掛けのテーブル席に案内された。
「同席でも構いませんよ」と私たちから申し出たのに、他の客を招き入れなかった。
儲けが最優先なら、すぐにでも同席としただろう。
私たち夫婦はあっという間に平らげた。
蕎麦で長居するのは野暮というものだ。
行列ができるような店ではなおさらである。
サービスを供される客の方にも気遣いは必要だからね。
とうに食べ終わってもおしゃべりを続けている先客を目にし、
絶対この人たちとは友だちになれないなあと思いながら店を出た。
テレビドラマ『デザイナー 渋井直人の休日』
テレビドラマ『デザイナー 渋井直人の休日』全12話をすべて見た。
2019年に放送されたドラマを今頃?と言われそうだが、今まで知らなかったのだ。
原作の漫画を買って読んだほどだから、知っていれば生で見たころだろう。
主役の渋井直人(52歳独身、デザイナー)を演じたのは光石研氏。
名バイプレイヤーとして知られるが、連続ドラマ単独主演を務めたのは、
俳優生活40年にして初めてのことだったらしい。
原作のおもしろさを汲み取った映像作品に仕上がっていたが、
渋井直人役の光石氏がしっくりこなくて最後まで馴染めなかった。
光石氏の役者としての技量を疑うわけではない。
実直な人柄と優しげな雰囲気が漂う好きなタイプの俳優さんだ。
だからこそ、渋井直人役には合わないと感じたのである。
役どころの渋井直人は好人物だ。
クライアントには信頼されている。
若いアシスタントの面倒見もいい。
仕事が途切れないのは売れっ子のデザイナーの証である。
実績は申し分ないし年齢的にももっとドンと構えていいはずだ。
ところが、小心者で、他人の視線が気になる性分ゆえ、承認欲求も高い。
スノッブ気取りの一面を持つが、洗練された佇まいは感じない。
アートが好きで、サブカルに詳しく、ファッションにも一家言持つ生き方は、
クリエイターの気質をよく表している。
しかし、オシャレな生き方をしているはずなのにどこか空回りしている。
そんな渋井直人であるが、とんがったところのない光石氏が演じると、
独身イケオジをこじらせた焦燥感が伝わってこない。
ときにちょっと鼻につくような嫌味なクリエイター臭も匂ってこないのだ。
つまり、ドラマが、渋井直人という人間の「いい話」で終わってしまっている。
そこで、渋井直人の適役は誰がいいのか、自分なりに考えてみた。
すぐに頭に浮かんだのは、八嶋智人氏。
漫才師「おぎやはぎ」の矢作兼氏もイケそうだ。
ご両人とも、腹に一物のある小賢しい人物を演じたらハマりそう(褒めています)。
この気質が、表向きのライフスタイルは見栄えがいいが、
実は失敗ばかりの冴えないクリエイター役にピッタリだと思うのだ。
渋井直人にはコミカルな要素も必須であるが、それもこの両人は持ち合わせている。
スカしていてもスマートにはほど遠いカッコ悪さも滲み出る。
それでいて、どこか憎めない愛嬌を感じさせてくれる。
1つのドラマのことでこんなに長く語るのは久しぶりだ。
なんで、そこまで役柄に突っ込んで自信満々に語れるのかって?
何を隠そう、私もデザイン会社を経営するクリエイターで、
渋井直人なる人物の気質と重なるところがあるので、気持ちがよくわかるのだ。
なんなら、私が主人公を演じでもいい。
これはセンスの欠片(カケラ)もない冗談。
結局12話全てを一気見したほどだから、ドラマを楽しんだことは間違いない。
映画『遥かな町へ』を観て思い出したこと
映画『遥かな町へ』を観た。
原作は、漫画家・谷口ジロー氏が1998年に発表した漫画である。
2010年にルクセンブルク・フランス・ドイツの合作で映画化され、
2026年に日本で日本人監督の手によって映画化された。
私は原作を読んでいる。
日本での映像化に強い興味を抱き上映を待ち望んでいた。
主人公の中年男性は、14歳だった中学時代にタイムスリップする。
ときは昭和38年、私が生まれる1年前である。
この時代を映像で再現してもらえただけで私は満足だ。
人は、家族の構成員でありながら、自分にしか知り得ない個の顔を持つ。
それでも「絆」という磁力に引きつけられて生死を共にする。
この磁力にも抗う力が生じて、主人公の父親は失踪するのであるが、
私には失踪するほどの説得力を感じることができずに鑑賞後も悶々としている。
漫画でも感じ方は同じだった。
主人公と学年一番の美人と称される女の子との恋心を描いたシーンは、
映画の方がはるかに繊細でせつないほどの純真さに胸を打たれた。
映画を観ながら、私は14歳のときに好きだった女の子を思い出していた。
バレー部に所属し背が高く、笑い声や仕草がやたら可愛かったクラスメイトだ。
告白どころかまともに話したことさえ数えるほどしかなかったが、
もしタイムスリップできるなら、彼女にこれだけは伝えるつもりだ。
・今はきみより10センチも背が低いけど、5年後には170センチを超えること
・有言実行で文章を書く仕事(コピーライターから作家の道へ)に就いたこと
伝えられたからといって、振り向いてくれるとは限らないんだけどね。





