自分らしさを大切に
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割られたアートギャラリーのガラス

 

 

割られて大きなヒビの入ったアートギャラリーのガラス。

 

目にした瞬間は、手の込んだインスタレーションかと思った。

 

添えられた掲示板の文言を読んで、そうではないことを知る。

 

酷いことをする輩(やから)がいたものだ。

 

本当に腹立たしいし、許される行為ではない。

 

当時者であるギャラリースタッフの怒りは如何ほどか。

 

ところが、掲示板の文面をよく読むと、怒りにまかせた非難ではなく、

世界情勢から人間の心の変化を紐解き、正義について語っているではないか。

 

その日、ギャラリーに勤務されていたスタッフに文面の作成者を聞くと、

専属のキュレーターが綴ったとのこと。

 

いいなあ、この問題意識と心意気。

 

単なる災難として片付けなかったところがいい。

 

ちゃっかり、営業もしてるしね。

 

お見事としか言いようがない。

上京した日の思い出

 

つい先日、東京に出張したときの話である。

 

私は朝9時台発の新幹線に乗り込み、3人掛けの窓際の指定席に座った。

 

少し経ってから若い女性が大きな荷物いくつも抱えてやってきた。

 

チラッと目をやると、泣いている姿が目に入った。

 

嗚咽といった感じで、涙が止まらない。

 

ただならぬ気配に私はおもわず「大丈夫ですか」と声をかけた。

 

心配だったのだ。

 

彼女は、私の声がけで少し冷静になれたようで、涙の理由を話してくれた。

 

東京の大学に受かった彼女にとって、今日は記念すべき上京の日。

 

母親につき添ってもらい、引越しの手伝いをしてもらう予定だった。

 

それが、母親の方に何かしらのトラブルがあり、同乗できなかったらしい。

 

晴れやかな気持ちで東京に向かうはずが、悲しいスタートとなってしまった。

 

寂しさ、不安、やるせなさ、悔しさなど、いろいろなおもいが入りまじって、

泣かずにはいられなかったのだろう。

 

彼女は私が驚くぐらい、ことの顛末を詳しく教えてくれたが、私にできることは何もない。

 

口先だけのベタな慰めも野暮だ。

 

私は自分の経験に照らし合わせて、本心で思うことをひと言だけ口にした。

 

「今日は辛いけど、この出来事が、きっと忘れられない大切な思い出になるよ」

 

言ったあとで、場違いなひと言だったかなぁと少し後悔したが、

口にしてしまったものはしょうがない。

 

彼女はうなずいてくれたから、私の言いたかった意図は伝わったと、

勝手に思うことにした。

 

もう40年以上も前になるが、東京の大学へ進学することになった私にとっても

上京の日は特別な日だった。

 

嫌だった父親のつき添いに加え、父の時代錯誤的な行為もあって、

私は重たい気分で電車と新幹線を乗り継いで東京をめざすことになった。

 

それが、大人になって、父親と過ごしたこの日の思い出が

忘れられない大切な記憶として刻まれた。

 

あるエッセイのコンテストで、この思い出を綴って応募したところ、

1500通を超える中で入選を果たすことができた。

 

今年は奇しくも父の十三回忌にあたり、明日法要を執り行う。

 

母親とはぐれて悲しいおもいをした彼女には申し訳ないが、

彼女と隣り合わせたおかげで私は父の記憶を蘇らせることができた。

 

不思議な因縁を感じる。

 

東京のベトナム料理店の誘惑

 

 

東京の繁華街で食べ物屋を決めるのは難儀である。

 

食指が動く魅力的な店が多くて目移りしてしまうからだ。

 

先週末、ちょうどお昼時にJR有楽町駅に降り立った私は、

美食の魔宮に迷い込んでしまったような気分になった。

 

和食、中華、韓国、イタリアン、フレンチ、エスニックと、

多種多様な国や地域の料理店がひしめき、私を誘惑する。

 

電飾ネオンに誘われたわけではないが、

この日私はベトナム料理を供するレストランに入った。

 

ランチメニューには、おかずを3種類好みで選べるものがあって、

プレートを彩る賑やかさが際立っていた。

 

私は迷わずそれを注文した。

 

ベトナム料理定番のフォーや生春巻きばかりではつまらないからね。

 

お隣の席の女性は、食事の後にベトナムコーヒーを飲んでいた。

 

甘くて濃厚な味わいが特徴のやつね。

 

ベトナムを旅したとき、私も何度か口にしたが、ハマるほではなかった。

 

それが、このときは、無性に飲みたくなったから不思議だ。

 

きっと、お隣の女性のおいしそうに飲む顔にそそられたのだと思う。

 

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