グーグルが目指すケータイの創造的破壊と実効支配「Google+」というスマホ時代の巧妙な仕掛け | 現役大家さん、現役投資家の生の声を聞かせます。

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週刊ダイヤモンド http://diamond.jp/articles/-/13308

戦略兵器としての「Google+」
Google+(グーグル プラス)の成長がめざましい。サービス開始後1ヶ月足らずで、全世界で2000万人近くのユーザ数を集めたという報道もある。単純に考えれば、年内には1億人を突破する勢いだ。こんなスピードで普及したサービスは、これまで見たことがない。

Google+は、いわゆるSNSの一つと考えられる。SNSやソーシャルメディアの定義は、実は結構曖昧なのだが、まずはfacebookやtwitterなどの対抗馬と考えるのが、とっつきやすい。

あまり興味のない向きは、「何匹目のドジョウなんだ」あるいは「Googleよ、お前もか」という、やや食傷気味の印象を抱くかもしれない。ただ、これまでソーシャルメディアで失敗を重ねてきた同社が、満を持して投入しただけあって、よく考えられている。

おそらくGoogle+であれば、最近日本のtwitterで増えている「読むだけ」のユーザも評価できるだろう。よりビジュアルに表現され、またコメントが荒れにくそうな構造でもあり、眺めているだけでもそこそこ楽しめそうだ。確かに、数週間で2000万人近いユーザを集めるだけはある。

そんなわけで、ご多分に漏れず私もこのサービスを楽しんでいるわけだが、しばらく触ってみて、あることに気がついた。

Google+は、単なるGoogleの新サービスではない。おそらく相当に周到な準備をもって作られた、いわば同社の戦略兵器である。そしてその戦略が達成された先には、もしかすると少々恐ろしい世界が、待っているかもしれない。


「Google+」の3つの特徴
Google+のどこが戦略的なのか。数週間使った限りの印象だが、私は次の3点が気になっている。

まずは、作り込まれたユーザインターフェース。もともとGoogleはシンプルなインターフェースを好んで採用するが、Google+は単にそれだけでなく、facebookやtwitterをある程度(受動的であっても)使ったことのある人なら、直感で理解できるものとなっている。

Googleはこれまで、ユーザインターフェースの作り込み等に時間をかけるよりも、ベータ版と呼ばれる未完成品をいち早く投入して、ユーザの声を聞きながら改良を進める開発手法を採ってきた。それに比べると、今回は例外的といえるくらい、完成度が高い。

おそらくはGoogle+の開発に、相当の時間を費やしたのだろう。実際、その設計を担った人間が、サービス開始前にそのコンセプトを発表しようとしてGoogleに止められたり、またfacebookに移籍したという。そんなことが可能なくらい、水面下で準備を進めてきたということである。

次に、Google+には広告がない。私自身が確認した限りではあるが、どこをどう探しても、現時点では広告にたどり着くことはない。利用者の記事文中に埋め込まれたYouTubeの画像にも、広告は付けられていない。

もちろんこれは「今のところ」という話なのかもしれないし、広告のないGoogleのサービスは他にもある。とはいえ、同社のメールサービスであるGmailには広告が挿入されていることからも分かるように、本来であればその素地は整っている。

広告は、Googleの収益を支えるビジネスモデルの根幹である。またfacebookでも広告が盛んであるように、ソーシャルメディアとの親和性もある。そうした中で、あえて広告が見当たらないというのは、率直に何らかの意志を感じる。

仮にGoogle+がこのまま将来にわたって広告を掲載しないとすると、それはGoogleがGoogle+を用いて新たなビジネスモデルを準備している、とも考えられる。それを読み解くカギは、3つめの特徴にある


Androidのための「Google+」
Google+の3つめの特徴は、Androidとの親和性である。

すでにGoogle首脳陣は、Google+の成功を確信し、Androidとの連携強化を進める、とのコメントを発表している。しかしこれは少々疑ってかかるべきだ。連携強化を〈今後〉進めるのではなく、すでに〈現時点〉でAndroidとの連携を相当意識して開発されたと、感じられるのだ。

Google+とfacebookを、スマートフォンのアプリで比べてみると、よく分かる。前者の方が明らかにサクサク動くし、何より見やすく、また使いやすい。見比べると、facebookは動きも悪くゴチャゴチャしていて、使おうという気になかなかならない。

両者の違いは、パソコンのWeb画面を見ているだけでは、あまり気にならない。しかしスマートフォンでは、Google+に軍配が上がる。おそらくGoogleは、Google+の主戦場がスマートフォン、それも同社がOSを提供するAndroidだと、見定めているのだろう。

いや、もしかすると、逆なのかもしれない。Google+がAndroidを意識して作られたのではなく、Androidを盛り上げるためにGoogle+が作られた――こう考えたら、どうだろうか。

確かに、ソーシャルメディアとモバイルの親和性は、極めて高い。twitterはスマートフォン経由の利用がもはや一般的となっていることは周知の事実だし、逆にソーシャルメディアを使いこなす光景がスマートフォン普及の一助ともなっている。

両者の蜜月が今後のコミュニケーションや情報メディアを推進していくドライバーになるのだとしたら、ソーシャルメディアとしては後発であるGoogle+は、なおのことスマートフォン利用を前提に開発されたはずだ。

そしてfacebookやtwitterと違い、GoogleはAndroidという、いわばスマートフォンそのものを有している。だとしたら、彼らがAndroidを念頭にGoogle+を開発しない方が、むしろおかしいし、またGoogle+がAndroidにとって大きな武器となることも、事前に気づいているはずだ。

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Googleが目指すのはデータとトラフィックの支配
Google+で、Androidを盛り上げるとは、一体どんなことなのか。

おそらくそれは、「スマートフォンで使いやすいソーシャルメディアを作る」などという、善意に満ちた単純な話ではない。仮にそうだとしたら、それこそGoogle+はもっと早期にベータ版で提供され、またそこには広告が入っているはずである。しかし今回は、そのいずれでもない。

では、Googleの真意は、どこにあるのか。それは、「データとトラフィックの支配」だと、私は考えている。

Googleのミッションは、「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」である。これは同社の会社情報ページからそのまま引用したものだ。確かに彼らはこれまで、世界中の様々な情報をデジタル化し、ネットワークに載せ、整理をし、そして世界中に提供してきた。

この時、世界中の情報には、メールやチャットのやりとり、検索履歴、SNSでの情報発信、位置情報等、私たちの日常生活の中で自ずと発生する情報(いわゆるライフログ)も含まれる。これらのすべてが個人情報やプライバシー情報というわけではないが、もちろん一部にはそれも含まれる。

こうした情報をひたすらに集め、整理し、提供する、というだけなら、大した付加価値はない。もちろん前述の通り、それでも世界規模で考えれば相当なビジネスだし、現にこれまでのGoogleはそうして成長を続けてきた。

しかしこれが、従来以上に大量かつ詳細に収集・整理され、しかもその情報を欲する主体(事業者等)にとっての〈値付け〉までできたとしたら、大化けする可能性がある。しかもそれは、Googleがこれまで広告をベースに進めてきたビジネスが、チマチマしたものに見えるほどのインパクトを、有しているはずだ。

実はこうした動きが、すでに米国で報じられつつある。どうやらGoogleが、データエクスチェンジ市場に参入する、というのである。

データエクスチェンジ(データの取引)とは、消費者の行動履歴等、ユーザに関する情報を広告主等に販売するものである。これにより広告主は、まだ自分自身でリーチできていない顧客候補を、単なる基本属性ではなく行動様式等で詳細に定義できるようになる。またその上で、時間や地域等の条件下での行動履歴を元に、消費者の意向をより詳細に把握することができるようになる。

それ自体は、これまでにもいくつかの分野で存在しており、ネット広告の分野ではすでに取り組みが進んでいる。しかしその主体がGoogleとなると、縁日で配られる手作りの麦茶と、世界で売られるコーラくらいの違いがある。

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データ市場の創造と支配に進むGoogle
しかも今回は、単にデータの外販を始めるというのではなく、Googleがデータエクスチェンジの〈市場〉を作るという。

たとえば証券市場や美術品のオークションは、決して参加者の勝手な値付けだけで進められるわけではない。そもそもの集客や、作品の審査に膨大な手間を費やして、最終的に適正な競りを実現するための環境作りや売出値を設定することが、主たる仕事となる。このように、およそ市場と称する以上は、それが適切に運営されるための、何らかのロジックが存在する。

Googleが市場を作るとなれば、当面の売買対象となる消費者の行動履歴をはじめ、様々な情報財について、値付けのロジックを有している、ということになろう。そしてGoogleほどの規模感を持った市場はまだ世の中に存在しない。すなわち、結果的にGoogle自身がこの分野における唯一絶対的なルールメーカーとなる可能性がある、ということだ。

そしてGoogleがこの市場に参入するとしたら、おそらくは彼らの扱う情報すべてが、その対象となるだろう。すでに彼らの守備範囲はWeb上の検索やコミュニケーションに限らず、動画、音楽、書籍、テレビ、位置情報、ストリートビュー、あるいは戦線縮小気味であるものの、医療情報やスマートグリッド等も含まれる。

そこに、Androidが、はめ込まれる。しかもそれは、Google+という最強のソーシャルメディアによって、個人の情報を収集しつくすための武装が、十二分に施されている。パズルのピースが埋まる瞬間だ。

もちろん、すべてはまだ憶測の域を出ない。Googleに問いかけても、一笑に付されるだけだろう。しかし彼らはこれまでも、情報財の値付けに関して、米国の研究者たちと水面下で研究を進めていたし、消費者の行動履歴の保有にも執心していた。おそらくはそれらを価値化する見通しがあったのだろう。つまりこれは、もはや遅かれ早かれ、という話である。

ケータイのコミュニケーションがもたらす価値の連鎖。あるいはテレビやコンテンツの使われ方といった、コミュニケーションとコンテンツの関係性。こうした、当該事業の生命線とも言える情報とその価値化を、客観データを伴いながら具体化され、価値の所在と実態が、丸裸にされる。しかもそれは当事者ではなく、Googleという〈巨大な影響力を持つ第三者〉によって行われる。

だとすると、当該分野の事業者は、Googleによる値付けによって、自らが扱う商材の価値や、ひいてはその存在理由までをも決められてしまうことになるかもしれない。


ネットワークをも支配するGoogle
こうしたGoogleによる〈間接的な情報流通の支配〉に向けた動きは、データそのものだけでなく、ネットワークの運用と構造にも、Googleは大きな影響を及ぼしつつある。

現時点では固定回線の話だが、実は世界中のインターネットを流れるトラフィックの多くが、すでに映像配信によって占められているという。一昔前まではP2Pによるファイル交換が台頭していたのだが、時代はすでに変わってしまったようだ。

この映像配信トラフィックの多くが、YouTubeによるものであることは、論を待たない。そしてYouTubeは今や完全にGoogleの一員である。このYouTubeが、世界中の通信事業者のネットワーク構成に、重大な影響を与え始めている。

利用者が契約しているISPとYouTubeのネットワーク的な距離が遠いと、スムーズに視聴できなくなったり、バッファの読み込みに時間を要する。この状態を放置すると、顧客から「YouTubeとちゃんと接続しないISPが悪い」と文句を言われる。

ISPとしては顧客満足を維持するため、(ネットワーク的な意味で)よりYouTubeの近くにいられるよう、回線にコストをかけざるを得ない。これはGoogleの検索やGmailのようなサービスでも同様だ。すなわちGoogleは何の手間もかけず、通信事業者側が勝手に自分たちに擦り寄ってくるような事業構造が、世界中で作られ始めている。

Googleのサービスが台頭すればするほど、世界中のネットワークがGoogleを中心とした構造に近づいていく。こうした、Googleによる間接的なネットワーク支配が、すでにケータイの世界でも起こりつつある。スマートフォンの台頭によって、ケータイからのビデオ視聴の機会は今後も増えることが予想されているのだ。

拡大画像表示 となると、映像配信の中心であるYouTubeと、ケータイ・ネットワークの距離の近さは、顧客が通信事業者を選択するための重要なポイントとなっていく――まったく同じロジックで、ケータイでもGoogleによる支配が強まっていくのである。

しかもAndroidとGoogle+がそれを媒介する分、もしかするとケータイの方が、そのロジックは強く作用するかもしれない。確かに気がつけば、ソーシャルメディア経由でビデオを見ることが、かなり増えている。


統治すれども君臨せず
Googleの目指すところが、世界中のあらゆる情報流通の〈間接的な支配〉だとすると、Google+によって武装されたAndroidは、その先兵として重要な役割を担う。そしてそれは、スマートフォンで売上とデータARPUを拡大したい通信事業者と、よりリッチな情報環境を獲得したい利用者の両方を、緩やかに懐柔していくための、いわばトロイの木馬のような役割を果たす。

そしてGoogleはすでにそうした戦略に、自覚的になりつつあるようだ。

そもそも、捕捉可能なデータに、思い通りの価格を付けて、商材として外部に提供できるとなれば、Googleにとってはこれまで以上にサービスを提供してデータを集めることの、大きなモチベーションとなる。しかもAndroidの世界を広げれば広げるほど、利用者が「勝手に」情報を出してくれるとなれば、これほど楽しいことはない。

こうした「戦略商品」に、これまで中核として位置づけてきたビジネスモデルを採用していない。おそらくそれこそは、Googleからの重要なメッセージなのだろう。

また、彼らは先日、Google Labsの閉鎖を決定した。Googleのエンジニアたちが「20%ルール」を利用して生み出した実験的プロダクトを発表する場だった。これが閉じられたということは、「Googleとして目指すべき方向が定まったから、もはや無駄金は使わない」という、暗黙の宣言にも聞こえる。

悩ましいのは、Google自身はあくまで「選ばれる立場」に徹しているということだ。Googleとの回線強化をするか否かの判断は通信事業者に、またAndroidやGoogleのサービスの利用の採否も利用者に、いずれも判断が一任されており、Googleは何ら強制していない。

いわば、君臨する主体の見えない、間接的な統治である。こうなると、多くのステイクホルダーは、Googleとどう対峙すればいいのか、分からなくなる。それでもGoogleと付き合わなければならないとしたら、もはや言いなりである。これこそが彼らの最大の競争優位性となるのだろう。

数年前、確か海外の講演で、彼らは「Googleの検索履歴を調べれば、いつどこで風邪が流行しているかが分かる」ということを言っていた。もしかするとその時すでに、こうしたデータとトラフィックの支配を、思い描いていたのかもしれない。

だとすると、相応の準備期間をもって、彼らは現状に臨んできていることになる。というわけで関係する分野の方々は、今すぐGoogleと向かい合うためのご準備を。


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