愛嬌のある顔に生まれたかった。


せめて、この隣で倖せそうに眠っているこのオトコぐらいには。




「はぁぁぁ~っ」


思わず漏れるため息。


原因はわかっている。


わかっているだけに、腹も立つ!!




『仙道くんって、実は何気に可愛いよね』


『うん。カッコイイんだけど、どこか憎めない、愛嬌があるってカンジ?』




頭の中でずっとリフレインしている、クラスの女の声。




隣で倖せそうに眠っているこの男、仙道はとにかくモテる。


普段はボーっとしてて、何考えているかわかんなくて、


…そのくせ、バスケは天才と云われる位巧くて。




天は二物を与えない、なんてよく言うけど、


コイツには二物も三物も与えているんじゃないだろうか…。




暗くなってまばらな車内の窓に写る、自分の姿が目に入る。


一重瞼の三白眼。


どっちかというと、近寄り難いといわれる部類に入るらしい。


おかげでモテない。


生まれてこの方17年、付き合った女もいない。


このままオレの青春は、オレの髪のように真っ暗なままで終わるんでしょうか、神様。





ふと、視線をずらす。


三度のメシよりも寝ることが好きな、寝汚い『天才』。


綺麗な二重瞼で、女みたいに睫はバサバサしてて。


ムカつくぐらい整った顔だけど、タレ目でそれがカバーされてるカンジ?


だからきっと男にもあんまり憎まれないのかもしれない。


まぁ、そのモテっぷりには非難ゴーゴーだけどさ。


それは、単なる嫉妬だけだし。





あ~ムカつく。


だけど、憎めない。




もしかして、オレもコイツの『愛嬌』に騙されてるんだろうか…???





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4月5日。

今日の誕生花は、テディジュニア。

花言葉は『愛嬌』


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ストイックという表現よりも、凛としているという方が合っていると思う。




そんな後姿を、藤真はじっとみつめた。


何かと比べられてきた『神奈川の帝王』と呼ばれる、その背中。


頂点を極めても尚、高みを求めて己を鍛え上げるその精神は崇高だ。



シュッ



一点を見つめ微動だにしなかった身体が、その両腕を伸ばした。


いつもなら聞こえる、騒がしいくらいの歓声さえ聞こえない。


ただ、そのボールを投げる音だけが、藤真の耳に響いた。


その両腕から放たれたボールは、ゆるやかな放物線を描いてリンクに消えていく。


その綺麗なフォームを手に入れるまで、どのくらいの努力をしたのだろうか、この男は。


人知れず努力を重ね、そして手に入れたのだろう。



『帝王』という名前を、

『ナンバーワン』という地位を。



ライバル、というよりも、同士に近い彼の横顔をふと見やる。



プレッシャーをももろともしない、その強い精神力は、すでに美に値すると思う。



誰もが憧れ、それでも手に入れることが出来ないもの。



二回目の放物線がゴールに入り、藤真は再び始まる戦いに向けて彼を一睨みすると、助走をつけた。







負けられない。

負けたくない。

この男にだけは、絶対。





藤真の挑戦的な視線に、彼は不敵にニヤリ、と一つ笑いを返しただけだった。










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4月4日。

今日の誕生花は、サクラ。

花言葉は『精神美』



今日は、(勝手に)双璧記念日なので、

双璧ネタ。


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綺麗なモノほど壊してみたくなるのは、人間の本能なんだろうか。

それとも、ドス黒く染まった俺の心がそうさせるのか。


「神さ~ん、今日も残るんっスか?」


何の悩みもない、晴れやかな笑顔。


先輩に向ける、何の疑いもないその眼差しを壊してしまいたい、という衝動と、

そんな事をしてしまった後の後悔を考えると、今は後者が勝っているが為に行動には起こしていないが、

いつかは、やってくるのかもしれない。



彼を壊してしまう日が。



その時、彼はどうするのだろうか。


その時、俺はどうなるんだろうか。


「うん。シュート練習は欠かしたくないんだ」

にこやかに笑う。

優しい先輩の顔をして。

ドス黒い感情は、その笑顔の下に隠して。


そのまま、俺のうわべだけを見ていて。

ねぇ、信長。


俺は最後の最後まで隠し通すよ。

この醜い感情を。


お前を壊すその瞬間まで。


この優しい仮面で、

見事に隠し通してみせるよ。



その時もキミは…

そんなに晴れやかな魅力を持ち続けるのだろうか………?


穢れなどない、その瞳で、

俺を見つめてくれるのだろうか………?



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4月3日。

今日の誕生花は、ラナンキュラス。

花言葉は 『晴れやかな魅力』


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「…花形」

恥らうように寄り添う藤真に、花形は驚いた表情で彼を見つめた。

高鳴る心臓は、藤真に気づかれるのではないかと思うくらいだ。


いつもの罵詈雑言を吐き出す、『毒舌』は形を潜め、

恥じらいながらトロンと潤んだ瞳で花形をしっとりと見つめる。


「…ふ…藤真…?」

想定外のシュチュエーションにどうしていいか分からず

思わず声が裏返ってしまう。


藤真は尚もうっとりと花形を見つめ、はにかんだように微笑む。

頬はうっすらと桜色になっている。



藤真はいつからか自分の気持ちに気づいているんだ…。

なかなか言い出せない自分に、焦れてしまったのだろうか…?


「藤真…。」


やんわりと両肩を抱き、真剣な眼差しで藤真の顔に自分の顔を近づけた。


その瞬間、藤真の身体に似合わない大きな手の平が花形の顔面に直撃する。


「あいたっ!」

「高野ぉ、これでラーメン奢りな!」


藤真は後ろを振り返りながら嬉しそうに大声で叫びながら

今にも泣きそうなそんな情けない表情の花形チラリと見やる。


「サカるのはお姉ちゃんだけにしとけよ、花形!」


藤真はそう云って、豪快に笑いながら

花形の尻をバシンと叩いた。


ほんの少しだけ涙声ではあっと大きなため息を吐く花形であった。




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4月2日

今日の誕生花は、カラー。

花言葉は『乙女のしとやかさ』


今回は、お礼に途中から

にしむらなるほ嬢にチェンジして書いてもらいました。

なるほちゃん、ありがとう。


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『この感動を今一番誰に伝えたいですか?』


向けられたマイクに、瞼に浮かんだのはただ一人。

でもそれを口に出すことすら、もう許されない。


「…ここまで育ててくれた両親に…」


誰もが疑いを持たない笑顔と、優しい瞳で俺は嘘をつく。

普段通りのポーカーフェイス。

あの時から、ずっとオレはオレを演じている。


もうどれくらい、心の底から笑ってないだろう。

もうどれくらい、なりふり構わず泣いていないだろう。




オマエが、俺の前からいなくなってから。





『今大会のMVPは、仙道彰選手でした。どうもありがとうございました』

「ありがとうございました」


見てくれているだろうか。

この世界のどこかで、オレの姿を。

その為だけに、頑張っているんだ。

それだけが、今残されたオレのたった一つの心の拠り所。


世界の誰の、賞賛もオレには要らない。

たった一人だけの賞賛があれば、充分なのに。


スタンドの歓声に手を上げて答えながら、居る筈のない黒髪を捜す。

こんなに未練がましい人間だなんて、オマエがいなくなってから初めて気づいた。


「………越野………」


汗を拭く振りをしながら、オレは小さく呟いた。



オマエの賞賛の声だけが、オレは欲しいのに。

もう、それは叶わぬ夢なのか………。






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4月1日

今日の誕生花は、ウイキョウ

花言葉は、『賞賛』


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