『この感動を今一番誰に伝えたいですか?』


向けられたマイクに、瞼に浮かんだのはただ一人。

でもそれを口に出すことすら、もう許されない。


「…ここまで育ててくれた両親に…」


誰もが疑いを持たない笑顔と、優しい瞳で俺は嘘をつく。

普段通りのポーカーフェイス。

あの時から、ずっとオレはオレを演じている。


もうどれくらい、心の底から笑ってないだろう。

もうどれくらい、なりふり構わず泣いていないだろう。




オマエが、俺の前からいなくなってから。





『今大会のMVPは、仙道彰選手でした。どうもありがとうございました』

「ありがとうございました」


見てくれているだろうか。

この世界のどこかで、オレの姿を。

その為だけに、頑張っているんだ。

それだけが、今残されたオレのたった一つの心の拠り所。


世界の誰の、賞賛もオレには要らない。

たった一人だけの賞賛があれば、充分なのに。


スタンドの歓声に手を上げて答えながら、居る筈のない黒髪を捜す。

こんなに未練がましい人間だなんて、オマエがいなくなってから初めて気づいた。


「………越野………」


汗を拭く振りをしながら、オレは小さく呟いた。



オマエの賞賛の声だけが、オレは欲しいのに。

もう、それは叶わぬ夢なのか………。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


4月1日

今日の誕生花は、ウイキョウ

花言葉は、『賞賛』


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□