刑事弁護人の憂鬱 -20ページ目

刑事弁護人の憂鬱

日々負われる弁護士業務の備忘録、独自の見解、裁判外の弁護活動の実情、つぶやきエトセトラ

(4)スワット事件判例類似の事案と共謀の成否

    スワット事件判例については、共謀の意義における客観説(客観的謀議説)からの批判はもちろん、黙示の意思の連絡という極めて緩やかな共謀認定について、疑問を呈する見解もあった(共謀を緩和すると、いわば「共謀なき共謀共同正犯」を認めることになるなど。)。他方、スワット事件では、警備のための特別なグループ(スワット)の存在と組織性、対抗組織の襲撃の可能性、組長である被告人もボディーガード経験があったことなどの特殊性からけん銃不法所持の共謀共同正犯を認めたと理解する見解もあった(事案の特殊性の重視)。

    このような中、スワット事件の類似の暴力団幹部を組員がけん銃不法所持で警護していた事案につき、幹部に黙示の意思連絡の共謀を肯定する判例と否定する裁判例が現れた。

    本件事案を要約すると、抗争事件中の同一指定暴力団の幹部A、B(それぞれ同一傘下の別団体の幹部)が、組織の定例会に出席するため、大阪のホテルに宿泊した際、ボディーガードの各自の組員らがけん銃不法所持した事案であり、警察の計画的な一斉職務質問によって、実行犯が現行犯で検挙されたことが端緒となっている。

 

 ア 幹部Aに対する事件 Aにけん銃不法所持の共謀共同正犯の成否につき、

  第一審(大阪地判平成13年3月14日判時1746・159) 無罪

  第二審(大阪高判平成16年2月24日判時1881・140) 有罪

 

  上告審(最決平成17年11月29日刑集288・543) 有罪確定

   「被告人は,本件当時,配下の組員らが被告人に同行するに当たり,そのうち一部の者が被告人を警護するためけん銃等を携帯所持していることを,概括的とはいえ確定的に認識し認容していたものであり,実質的にはこれらの者に本件けん銃等を所持させていたと評し得るなどとして,本件けん銃等の携帯所持について被告人に共謀共同正犯が成立するとした原判断は,正当として是認できる」と判示した。

 

  第一審と第二審は証拠評価及び事実認定の違いから結論が分かれたものであるが、第二審、これを追認する上告審はスワット事件判例に類するケースとみて、黙示の意思連絡としての共謀共同正犯を認定している。

 

 これに対し、スワット事件のような特別な警護態勢(明確かつ恒常的な活動)があったとはいえず、事案を異にし、共謀共同正犯は認められないとして第一審を支持し、第二審、上告審を批判する見解もある(事前の客観的謀議は不要であるが、客観的外部的態度が共謀共同正犯については必要とする立場から、西原春夫・「憂慮すべき最近の共謀共同正犯実務」刑事法ジャーナル3号[2006年]54頁以下参照。)。この批判的見解も共謀の意思形成と客観的外部的態度の厳格な証明を強調しており、つまり、本件について、善解すれば、共謀プラスアルファのアルファ部分が弱い事案と評価しており、黙示の意思の連絡を否定するわけではない。

しかし、組織暴力団の警護態勢において、特に襲撃の可能性がある場合、常に特別なスワットのような警備活動がなされなければ、警護の中心人物である組長、幹部に共謀共同正犯が成立しないというのは、何のためにけん銃不法所持の警護が行われていたのかの社会的認識が不十分である。つまり、かかる場合は、幹部のためにけん銃不法所持による警護はなされるのであり、警護者と幹部はその目的上不可分な行動をともにしているという社会的組織的実体を軽視するのは妥当とは思われない。論者の前提とする共同意思主体説からみても、その事案の「評価」は疑問がある。もちろん、その集団的組織的活動の濃淡は事実関係において異なりうるし、具体的な組織的活動は中断することもありえ、暴力団組織の一般論から、直ちに共謀を認定することは「厳格な証明」といえないのであり、その意味で慎重な事実認定が要求されることは当然であろう。よって、論者の批判の趣旨である組織暴力団以外の事案についての共謀共同正犯の拡張適用の問題意識は、判例を前提にしても注意を要するものである。

 

イ 幹部Bに対する事件 Bにけん銃不法所持の共謀共同正犯の成否につき

  第一審(大阪地判平成16年3月23日) 無罪

   被告人の警備体制は厳重なものとはいえず、被告人のその認識もなかったなどから、組員が「けん銃等を携行して被告人を警護していることを概括的であっても確定的に認識しながら、これを当然のこととして受け入れ認容していたとするには、なお合理的な疑いが残る」という。

  第二審(大阪高判平成18年4月24日) 無罪

   第一審を支持、検察官控訴を棄却

 

  上告審(最判平成21年10月19日刑集297・489)破棄差戻

   第一審及び第二審の間接事実の認定評価に誤りがあるとし、専従の警護組織がなくても、共謀の認定は直接左右せず、Aの警護態勢も2名であり、Bの警護態勢の2名と比較してもそん色のあるものではないとし、被告人は、けん銃による襲撃の危険性を十分に認識し、組員2名を同行させて警護に当たらせていたものと認められ、特段の事情がない限り、組員らが「けん銃を所持していることを認識した上で、それを当然のこととして受け入れて認容していたものと推認するのが相当である」として、重大な事実誤認として第一審及び原審を破棄し、大阪地裁に差し戻した。

 

  差戻第一審(大阪地判平成23年5月24日) 無罪

 新たな証拠調べを実施し、その上で被告人の自宅、浜松駅での移動、ホテル等の警備体制が厳重なものであったとはいえない、被告人の行動から、けん銃等による襲撃の危険性を十分に認識していたとはいえず、組員らのけん銃所持を認識し、それを当然のこととして受け入れて認容していたと推認するには合理的な疑いがあり、共謀していたと推認することができないとした。

  

差戻第二審(大阪高判平成25年8月30日) 破棄差戻

   上告審の破棄判決の拘束力を前提に、また新たな証拠調べの結果の間接事実の認定評価から、厳重な警備体制の認定ができるとして、共謀を否定したのは、事実誤認の誤りとして、大阪地裁に破棄差し戻した。現在上告中

   

  以上、Bに対する事件は、未だ確定しておらず、第一審の証拠、間接事実の認定評価が最高裁の評価と相違し、対立する自体となっている。差戻前も差戻後も、第一審の事実認定はかなり詳細に行っているが、最終的な評価、つまり、「警備が厳重であったかどうか」がどちらの立場がより説得的かとうことで意見は分かれよう。第一審は、被告人Bは、隙のある杜撰な警備で、襲撃の危険を意に返していなかったとみていると思われる。これに対し、最高裁及び差戻後の控訴審は、Aの事件とのバランスを実質的に考慮し、類似の状況下での警備なのであるから、当然危険の認識もあり、警備も厳重と評価して良いと考えているふしがある。同一組織の傘下であっても、各下位組織の性格、構成要素はそれぞれ異なりうるであり、スワット事件判例>Aに対する事件>Bに対する事件と警備体制が徐々に緩和しているように見える場合でも、すべて同一評価してよいかが問われている。

おそらく最高裁の考えは、スワット類似事例について、認定評価といういわば客観的検証のしにくい次元で(経験則の適用という名の「常識」判断)、組織暴力団の抗争の抑止、ないし組織の壊滅という刑事政策的配慮を意識して「特段の事情がない限り」、共謀の推認を積極的に行うべしという「決断」を事実審に要求しているのであろう。

なお、本件でも、表現があいまいであるが、黙示の意思連絡による共謀と未必の故意との関係については、別途理論的に検討する必要があるので、後述する。

(3)スワット事件判例と主観説

最決平成15年5月1日刑集57・5・507は、銃刀法違反(けん銃不法所持)の事案につき、以下のとおり、判示している。

すなわち、暴力団組長である被告人には、「スワット」と称する専属のボディガードが複数名おり、襲撃してきた相手に対抗できるように、けん銃等の装備を持ち、被告人が外出して帰宅するまで終始被告人と行動を共にし、警護する役割を担っており、上京するに当たって、配下の組員、スワットらと複数台の車に分乗し、被告人車を間に入れて隊列を組んで、被告人を警護しつつ一団となって移動することを常としていたところ、被告人は、平成9年12月25日、羽田空港に到着し、組関係者及び先に上京していたスワット三名らが5台の車を用意し、以下の態勢で移動した。

 「① 先乗り車には,山健組本部のスワット1名と同組兼昭会のスワット1名が,各自実包の装てんされたけん銃1丁を携帯して乗車した。

 ② 先導車には,Aらが乗車した。

 ③ 被告人車には,被告人のほかBらが乗車し,被告人は前記防弾盾が置かれた後部座席に座った。

 ④ スワット車には,山健組本部のスワット3名が,各自実包の装てんされたけん銃1丁を携帯して乗車した。

 ⑤ 雑用車は,当初1台で,途中から2台に増えたが,これらに東京側の組関係者が乗車した。

 そして,被告人らは,先乗り車が他の車より少し先に次の目的場所に向かうときのほかは,この車列を崩すことなく,一体となって都内を移動していた。また,遊興先の店付近に到着して,被告人が車と店の間を行き来する際には,被告人の直近を組長秘書らがガードし,その外側を本件けん銃等を携帯するスワットらが警戒しながら一団となって移動し,店内では,組長秘書らが不審な者がいないか確認するなどして警戒し,店外では,その出入口付近で,本件けん銃等を携帯するスワットらが警戒して待機していた。」「被告人らは,翌26日午前4時過ぎころ,最後の遊興先である港区六本木に所在する飲食店を出て宿泊先に向かうことになった。その際,先乗り車は,他車より先に,同区六本木1丁目10番6号所在のホテルオークラ別館に向かい,その後,残りの5台が出発した。そして,後続の5台が,同区六本木1丁目7番24号付近路上に至ったところで,警察官らがその車列に停止を求め,各車両に対し,あらかじめ発付を得ていた捜索差押許可状による捜索差押えを実施し,被告人車のすぐ後方に続いていたスワット車の中から,けん銃3丁等を発見,押収し,被告人らは現行犯逮捕された。」

 「スワットらは,いずれも,被告人を警護する目的で実包の装てんされた本件各けん銃を所持していたものであり,被告人も,スワットらによる警護態様,被告人自身の過去におけるボディガードとしての経験等から,スワットらが被告人を警護するためけん銃等を携行していることを概括的とはいえ確定的に認識していた。また,被告人は,スワットらにけん銃を持たないように指示命令することもできる地位,立場にいながら,そのような警護をむしろ当然のこととして受け入れ,これを認容し,スワットらも,被告人のこのような意思を察していた。

「前記の事実関係によれば,被告人とスワットらとの間にけん銃等の所持につき黙示的に意思の連絡があったといえる。そして,スワットらは被告人の警護のために本件けん銃等を所持しながら終始被告人の近辺にいて被告人と行動を共にしていたものであり,彼らを指揮命令する権限を有する被告人の地位と彼らによって警護を受けるという被告人の立場を併せ考えれば,実質的には,正に被告人がスワットらに本件けん銃等を所持させていたと評し得るのである。したがって,被告人には本件けん銃等の所持について,B,A,D及びCらスワット5名等との間に共謀共同正犯が成立するとした第1審判決を維持した原判決の判断は,正当である。」

 

なお、深澤裁判官の補足意見は、共謀につき合意説[主観説]及び正犯意思説にたった上で、以下のように判示する。

「 1 本件は,被告人を組長とする山健組の組員3100名余の中から被告人の警護のために選ばれた精鋭の者が,けん銃等を所持して被告人を警護するために行われたものであって,被告人は山健組の組長としてこれら実行行為者に対し圧倒的に優位な支配的立場にあり,実行行為者はその強い影響の下に犯行に至ったものであり,被告人は,その結果,自己の身辺の安全が確保されるという直接的な利益を得ていたものである。

 本件犯行について,具体的な日時,場所を特定した謀議行為を認めることはできないが,組長を警護するために,けん銃等を所持するという犯罪行為を共同して実行する意思は,組織の中で徐々に醸成され,本件犯行当時は,被告人も警護の対象者として,実行行為者らが被告人警護のために,けん銃等を携行していることを概括的にではあるが確定的に認識して犯行場所ないしその付近に臨んでいたものである。

 2 被告人と実行行為者間に,上記のような関係がある場合,具体的な謀議行為が認められないとしても,犯罪を共同して遂行することについての合意が認められ,一部の者において実行行為が行われたときは,実行行為に直接関与しなかった被告人についても,他人の行為を自己の手段として犯罪を行ったものとして,そこに正犯意思が認められる本件のような場合には,共謀共同正犯が成立するというべきである。

 所論引用の最高裁判所昭和29年(あ)第1056号同33年5月28日大法廷判決・刑集12巻8号1718頁は,犯罪の謀議にのみ参加し,実行行為の現場に赴かなかった者の共同正犯性を判示したものであって,被告人を警護するため,その身辺で組員がけん銃を所持していた本件とは,事案を異にするものである。」

 

 本判例は、明示の意思の連絡がなくとも、黙示の意思連絡の場合にも共謀共同正犯が成立すること、②現場にいなかった共謀者について練馬事件判例とは、事案を異にすることを判示した点に重要な意義がある(平成15年度最高裁調査官解説参照)。

まず①に関しては、判示からも明らかなように本件では、客観的謀議行為が存在しない場合で有り、それでも共謀共同正犯を認めるということは、補足意見が明らかにしているとおり、共謀の意義について、客観説ではなく主観説[合意説]に立っていると評価しうるものである。そうすると、②客観説を採用したと思われる練馬事件判例との整合性が問題となるが、練馬事件の事案が共謀者が犯行現場にいない事前共謀・謀議型の事案であるところ、本件では、被告人は実行行為者とともに犯行現場に臨んでおり、現場共謀型の事案である。そして、本件においては、被告人と実行担当者の支配関係・上下関係[支配性]、共同警護態勢での一体的移動[一体性]などを考慮して、共謀共同正犯の成立を認めている。

つまり、判例は、①事前共謀型と現場共謀型で「共謀」の概念を異にしていると見るか、②共謀概念としては合意ないし意思連絡としつつ、さらに共謀共同正犯性を基礎づける客観的ないし規範的要件として、前者では客観的「謀議」を要求し[当然、これは合意を含む]、後者は、支配性・一体性など「正犯意思」を基礎づける要件として理解しているとみるかである[この考えは、共謀と謀議を前者が後者に含まれるとしても、概念的に区別することになる。]。他の裁判例や、実行共同正犯と共謀共同正犯で共謀概念を共通要件と理解すると、②の考えが現時点の判例理解としては、わかりやすいであろう。※

 

※共謀プラスアルファ

 佐伯仁志教授は、「判例は、実行共同正犯と共謀共同正犯の双方で共謀という概念を用いているので、共同正犯の主観的要件としての共謀は、共同実行の意思の連絡を意味することになる。このような意思の連絡=共謀は、共同正犯が成立するための最小限の条件であって、共謀があれば常に共同正犯が成立するわけではない。実行共同正犯においては、共謀=意思の連絡に自手実行というプラスアルファが加わって共同正犯が認められるのであるから、自手実行のない共謀共同正犯においては、自手実行に匹敵するプラスアルファが存在しなければならない」と指摘し、共謀参加のみの事前共謀型では、共謀形成の主導的役割などのプラスアルファが要求され(かつ原則客観的謀議行為の存在が必要とされる)、現場での実行行為以外の見はりなど実行に準ずる犯罪実現に寄与する行為=プラスアルファが行われた場合に共謀共同正犯を肯定する(佐伯仁志・「共犯論(2)」刑法総論の考え方・楽しみ方405頁参照)。共謀が緩やかに認定されると、結局このプラスアルファに何を要求するのかが問題となり、後述するように、それが判例においては、「正犯意思」という規範的主観的要素に結実するといえよう。

 

(2)練馬事件判例と客観説

最高裁昭和33年5月28日大法廷判決[刑集12・1718]は、共謀共同正犯の成立要件と共謀の意義内容について、戦後の判例として初めて詳細に判示したものであり、戦前の判例と同様に共謀共同正犯を認めることを明言したものである。また、理論上、戦前の共同意思主体説的な団体責任の観点※からでなく、間接正犯類似の個人責任の観点から基礎づけるものとの評価もある(藤木など)。

すなわち、判決は、

共謀共同正犯が成立するには、二人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となつて互に他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よつて犯罪を実行した事実が認められなければならない。したがつて右のような関係において共謀に参加した事実が認められる以上、直接実行行為に関与しない者でも、他人の行為をいわば自己の手段として犯罪を行つたという意味において、その間刑責の成立に差異を生ずると解すべき理由はない。さればこの関係において実行行為に直接関与したかどうか、その分担または役割のいかんは右共犯の刑責じたいの成立を左右するものではないと解するを相当とする。他面ここにいう「共謀」または「謀議」は、共謀共同正犯における「罪となるべき事実」にほかならないから、これを認めるためには厳格な証明によらなければならないこというまでもない。しかし「共謀」の事実が厳格な証明によつて認められ、その証拠が判決に挙示されている以上、共謀の判示は、前示の趣旨において成立したことが明らかにされれば足り、さらに進んで、謀議の行われた日時、場所またはその内容の詳細、すなわち実行の方法、各人の行為の分担役割等についていちいち具体的に判示することを要するものではない。」

 「数人の共謀共同正犯が成立するためには、その数人が同一場所に会し、かつその数人間に一個の共謀の成立することを必要とするものでなく、同一の犯罪について、甲と乙が共謀し、次で乙と丙が共謀するというようにして、数人の間に順次共謀が行われた場合は、これらの者のすべての間に当該犯行の共謀が行われたと解するを相当とする。」

と判示した。

 共謀共同正犯の成立要件論ないし理論的基礎付けについては後述することとして、ここでは判例が明示した「共謀」の意義について検討する。

 同判例は、①共謀を「二人以上の者が、特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となつて互に他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議」としている。②それは、罪となるべき事実で有り、厳格な証明の対象となるが、共謀の判示は、前示の趣旨において成立したことが明らかにされれば足り、さらに進んで、謀議の行われた日時、場所またはその内容の詳細、すなわち実行の方法、各人の行為の分担役割等についていちいち具体的に判示することを要するものではないという。また、③共謀は、共犯者が一堂に会して行われる必要はなく順次に成立することも認められるという(順次共謀の肯定)。

この点①の点をみると、共謀とは特定の犯罪を行うための客観的な謀議行為と理解しているようにもみえ、そう評価する見解も有力である(共謀の意義における客観説 最高裁調査官解説)。この客観説は、共謀共同正犯の成立範囲をかなり絞り込むものであり、同判例は、成立範囲が拡張されるきらいがあった共謀共同正犯の成立範囲を厳格に解釈するものと評価される。しかしながら、②及び③の点をみると、同判例が厳格に客観説を採用しているとはいいにくい点がある。すなわち、②共謀が罪となるべき事実で厳格な証明の対象となるが、その判示方法として謀議の行われた日時場所その内容の詳細(実行の方法、役割分担等)が具体的に判示されなくてもよいというのである。しかも③連鎖的な順次共謀も肯定するということであり、共謀の立証は、かなり緩やかで有り、具体性をもって明確かつ厳格に認定されなくてもよいことになる。

 客観説の考え方は、二人以上の事前の共同謀議を経て、実行に至る犯罪実現プロセスを一つの共謀共同正犯の典型例として把握するものである(事前共謀・謀議型)。しかも謀議にしか参加していない共謀者にとって、自己の刑責を基礎づける事実は、謀議の事実つまり共謀の事実であり、これが具体的に訴因として明示され(日時場所方法等)、認定上具体的に判示されなければ、刑事手続き上の防御は著しく困難となる(学説には、この点を考慮し、謀議にしか参加していない共謀者について[真正共謀共同正犯]、共謀の事実について日時場所方法等を具体的に訴因として明示すべきとの見解が有力である。)。共謀の具体的判示が不要だとすると、同判例のいう共謀は、実質的には客観的謀議行為そのものではないという評価も可能である(ただし、練馬事件判例を踏襲し、客観的連絡謀議の厳格な証明が必要として、その存在に疑いが残り、厳格な証明があったとはいえないとして判示した松川事件※※多数意見がある。)。つまり、同判例は、事前共謀・謀議型の事例についての共謀共同正犯が成立することを明示するものであり、事前共謀・謀議型の事例についてしか共謀共同正犯の成立を認めないとする立場をとるものではないということである。これは、後のスワット事件判例をみるとより明確になる。

 

※戦前の判例の変遷

 当初は詐欺罪などの知能犯に共謀共同正犯を肯定していたが、昭和11年の大審院連合部判決(大判昭和11・5・28刑集15・715)は、実力犯の場合も肯定し、共謀共同正犯の成立を一般化した。この判決は、いわゆる共同意思主体説(団体責任論)的な表現により、共謀共同正犯を肯定したことで著名である。

 

   ※※松川事件(最大判昭和34・8・10刑集13・9・1419)

 多数意見は、汽車転覆致死等被告事件において、二つの謀議を結びつける二つの連絡謀議の存在について(順次共謀型)、これを支える自白等の変遷から、疑いがあり、厳格な証明はなされていないとして、謀議参加者に対する有罪判決を破棄し差し戻した。

これに対し、田中裁判官の反対意見は、共謀に関する主観説[合意説]に立ちながら、連絡謀議の存在が認められないとしても、他の証拠からこれとは別の何らかの意思連絡、意思の合致が認めることができるのであれば、共同正犯を認めてもよいという。しかしながら、多数意見が指摘するようにこの考えは、「連絡謀議に代るべき何ものかを想定しようとするものであって、もとより、原判決の認定の趣旨に副わないところであるばかりではなく、共謀共同正犯における共謀または謀議は罪となるべき事実であって、その認定は厳格な証明によるべき」であり、「検察官すら主張せず、従ってまた原判決も認定しなかったような、共謀または謀議に類する事実を、ここに自ら新しく認定するが如きことは、上告審たる当審として、なすべきでことではない」と解するのが妥当である。けだし、当事者が争点としていない事実について、事実審でない上告審が認定することは、当事者主義構造にもとり、不当な不意打ち認定で有り(その後の上訴審における攻防対象論や争点逸脱認定を違法とする考えを採用する判例は、このような考えに立っているといえる)、適正な手続きとはいえないからである。このことわりは、主観説の立場でも通じるものである。とくに順次共謀は、一つの共謀が次の共謀に順次連結していくわけであるから、主観説でも意思連絡ないし合意の成立形成とその最終的成立時期は、「罪となるべき事実」とみるべきであろう。なお、本件は、差戻審及びその上告審で無罪が確定している(最判昭和38・9・12刑集17・7・661)。