実務から見た刑法総論「共謀と実行」その4 | 刑事弁護人の憂鬱

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(3)スワット事件判例と主観説

最決平成15年5月1日刑集57・5・507は、銃刀法違反(けん銃不法所持)の事案につき、以下のとおり、判示している。

すなわち、暴力団組長である被告人には、「スワット」と称する専属のボディガードが複数名おり、襲撃してきた相手に対抗できるように、けん銃等の装備を持ち、被告人が外出して帰宅するまで終始被告人と行動を共にし、警護する役割を担っており、上京するに当たって、配下の組員、スワットらと複数台の車に分乗し、被告人車を間に入れて隊列を組んで、被告人を警護しつつ一団となって移動することを常としていたところ、被告人は、平成9年12月25日、羽田空港に到着し、組関係者及び先に上京していたスワット三名らが5台の車を用意し、以下の態勢で移動した。

 「① 先乗り車には,山健組本部のスワット1名と同組兼昭会のスワット1名が,各自実包の装てんされたけん銃1丁を携帯して乗車した。

 ② 先導車には,Aらが乗車した。

 ③ 被告人車には,被告人のほかBらが乗車し,被告人は前記防弾盾が置かれた後部座席に座った。

 ④ スワット車には,山健組本部のスワット3名が,各自実包の装てんされたけん銃1丁を携帯して乗車した。

 ⑤ 雑用車は,当初1台で,途中から2台に増えたが,これらに東京側の組関係者が乗車した。

 そして,被告人らは,先乗り車が他の車より少し先に次の目的場所に向かうときのほかは,この車列を崩すことなく,一体となって都内を移動していた。また,遊興先の店付近に到着して,被告人が車と店の間を行き来する際には,被告人の直近を組長秘書らがガードし,その外側を本件けん銃等を携帯するスワットらが警戒しながら一団となって移動し,店内では,組長秘書らが不審な者がいないか確認するなどして警戒し,店外では,その出入口付近で,本件けん銃等を携帯するスワットらが警戒して待機していた。」「被告人らは,翌26日午前4時過ぎころ,最後の遊興先である港区六本木に所在する飲食店を出て宿泊先に向かうことになった。その際,先乗り車は,他車より先に,同区六本木1丁目10番6号所在のホテルオークラ別館に向かい,その後,残りの5台が出発した。そして,後続の5台が,同区六本木1丁目7番24号付近路上に至ったところで,警察官らがその車列に停止を求め,各車両に対し,あらかじめ発付を得ていた捜索差押許可状による捜索差押えを実施し,被告人車のすぐ後方に続いていたスワット車の中から,けん銃3丁等を発見,押収し,被告人らは現行犯逮捕された。」

 「スワットらは,いずれも,被告人を警護する目的で実包の装てんされた本件各けん銃を所持していたものであり,被告人も,スワットらによる警護態様,被告人自身の過去におけるボディガードとしての経験等から,スワットらが被告人を警護するためけん銃等を携行していることを概括的とはいえ確定的に認識していた。また,被告人は,スワットらにけん銃を持たないように指示命令することもできる地位,立場にいながら,そのような警護をむしろ当然のこととして受け入れ,これを認容し,スワットらも,被告人のこのような意思を察していた。

「前記の事実関係によれば,被告人とスワットらとの間にけん銃等の所持につき黙示的に意思の連絡があったといえる。そして,スワットらは被告人の警護のために本件けん銃等を所持しながら終始被告人の近辺にいて被告人と行動を共にしていたものであり,彼らを指揮命令する権限を有する被告人の地位と彼らによって警護を受けるという被告人の立場を併せ考えれば,実質的には,正に被告人がスワットらに本件けん銃等を所持させていたと評し得るのである。したがって,被告人には本件けん銃等の所持について,B,A,D及びCらスワット5名等との間に共謀共同正犯が成立するとした第1審判決を維持した原判決の判断は,正当である。」

 

なお、深澤裁判官の補足意見は、共謀につき合意説[主観説]及び正犯意思説にたった上で、以下のように判示する。

「 1 本件は,被告人を組長とする山健組の組員3100名余の中から被告人の警護のために選ばれた精鋭の者が,けん銃等を所持して被告人を警護するために行われたものであって,被告人は山健組の組長としてこれら実行行為者に対し圧倒的に優位な支配的立場にあり,実行行為者はその強い影響の下に犯行に至ったものであり,被告人は,その結果,自己の身辺の安全が確保されるという直接的な利益を得ていたものである。

 本件犯行について,具体的な日時,場所を特定した謀議行為を認めることはできないが,組長を警護するために,けん銃等を所持するという犯罪行為を共同して実行する意思は,組織の中で徐々に醸成され,本件犯行当時は,被告人も警護の対象者として,実行行為者らが被告人警護のために,けん銃等を携行していることを概括的にではあるが確定的に認識して犯行場所ないしその付近に臨んでいたものである。

 2 被告人と実行行為者間に,上記のような関係がある場合,具体的な謀議行為が認められないとしても,犯罪を共同して遂行することについての合意が認められ,一部の者において実行行為が行われたときは,実行行為に直接関与しなかった被告人についても,他人の行為を自己の手段として犯罪を行ったものとして,そこに正犯意思が認められる本件のような場合には,共謀共同正犯が成立するというべきである。

 所論引用の最高裁判所昭和29年(あ)第1056号同33年5月28日大法廷判決・刑集12巻8号1718頁は,犯罪の謀議にのみ参加し,実行行為の現場に赴かなかった者の共同正犯性を判示したものであって,被告人を警護するため,その身辺で組員がけん銃を所持していた本件とは,事案を異にするものである。」

 

 本判例は、明示の意思の連絡がなくとも、黙示の意思連絡の場合にも共謀共同正犯が成立すること、②現場にいなかった共謀者について練馬事件判例とは、事案を異にすることを判示した点に重要な意義がある(平成15年度最高裁調査官解説参照)。

まず①に関しては、判示からも明らかなように本件では、客観的謀議行為が存在しない場合で有り、それでも共謀共同正犯を認めるということは、補足意見が明らかにしているとおり、共謀の意義について、客観説ではなく主観説[合意説]に立っていると評価しうるものである。そうすると、②客観説を採用したと思われる練馬事件判例との整合性が問題となるが、練馬事件の事案が共謀者が犯行現場にいない事前共謀・謀議型の事案であるところ、本件では、被告人は実行行為者とともに犯行現場に臨んでおり、現場共謀型の事案である。そして、本件においては、被告人と実行担当者の支配関係・上下関係[支配性]、共同警護態勢での一体的移動[一体性]などを考慮して、共謀共同正犯の成立を認めている。

つまり、判例は、①事前共謀型と現場共謀型で「共謀」の概念を異にしていると見るか、②共謀概念としては合意ないし意思連絡としつつ、さらに共謀共同正犯性を基礎づける客観的ないし規範的要件として、前者では客観的「謀議」を要求し[当然、これは合意を含む]、後者は、支配性・一体性など「正犯意思」を基礎づける要件として理解しているとみるかである[この考えは、共謀と謀議を前者が後者に含まれるとしても、概念的に区別することになる。]。他の裁判例や、実行共同正犯と共謀共同正犯で共謀概念を共通要件と理解すると、②の考えが現時点の判例理解としては、わかりやすいであろう。※

 

※共謀プラスアルファ

 佐伯仁志教授は、「判例は、実行共同正犯と共謀共同正犯の双方で共謀という概念を用いているので、共同正犯の主観的要件としての共謀は、共同実行の意思の連絡を意味することになる。このような意思の連絡=共謀は、共同正犯が成立するための最小限の条件であって、共謀があれば常に共同正犯が成立するわけではない。実行共同正犯においては、共謀=意思の連絡に自手実行というプラスアルファが加わって共同正犯が認められるのであるから、自手実行のない共謀共同正犯においては、自手実行に匹敵するプラスアルファが存在しなければならない」と指摘し、共謀参加のみの事前共謀型では、共謀形成の主導的役割などのプラスアルファが要求され(かつ原則客観的謀議行為の存在が必要とされる)、現場での実行行為以外の見はりなど実行に準ずる犯罪実現に寄与する行為=プラスアルファが行われた場合に共謀共同正犯を肯定する(佐伯仁志・「共犯論(2)」刑法総論の考え方・楽しみ方405頁参照)。共謀が緩やかに認定されると、結局このプラスアルファに何を要求するのかが問題となり、後述するように、それが判例においては、「正犯意思」という規範的主観的要素に結実するといえよう。