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刑事弁護人の憂鬱

日々負われる弁護士業務の備忘録、独自の見解、裁判外の弁護活動の実情、つぶやきエトセトラ

訴訟代理人のつぶやき「民法改正ノートその2 債務不履行・危険負担と解除制度その3」

 

※※履行に代わる損害賠償請求(塡補賠償請求)

  本条項(415条2項)は、履行に代わる損害賠償請求、すなわち塡補賠償請求を認めるものである。改正前民法においても、判例通説により解釈上認められていたが、改正法は、条文上明確にした。1号の履行不能、3号の解除された場合または解除権が発生した場合は、従来も解釈上認められていたものであるが、2号の債務者による履行拒絶を理由とする塡補賠償請求を認める趣旨は、履行拒絶が明確に表示された場合は、実質的に履行不能と同じだからである。

 

☆不完全履行の法的構成

 改正前民法は、債務不履行として、履行遅滞、履行不能を明示していたが、解釈論上、これ当たらない第三の類型としての不完全履行【履行行為の瑕疵により損害を生じさせること=瑕疵履行】または本来の給付義務とは別の保護義務違反の損害賠償責任を「債務の本旨に従わない」ものとして、債務不履行の一種として理解していた(奥田・前掲157頁以下)。

 改正法も不完全履行や保護義務違反について明示を欠くが、否定する趣旨ではなく、解釈に委ねているものと解されるし、むしろ前提にしている規定すらある(消滅時効に関する改正法167条参照)。なお、権利の瑕疵についての不完全履行は、従来、売買契約における売主の瑕疵担保責任等との関係が議論されたが、改正法により、大幅な変更がなされたので、別途、売買の箇所で論じる予定である。

 

 (損害賠償の範囲)

改正法第416条※

第1項「債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。

第2項「特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。」

 

※通常損害と特別損害

 第1項は改正前と同じであり、第2項は、「予見することができた」を「予見すべき」との表現に変えている。規範的な意味を込める趣旨だが、本条の解釈は、従来の判例学説の考えを踏襲するものとなる(潮見・新総論Ⅰ448頁参照。なお、判例通説は、不法行為にも改正前416条を類推適用していた。)。

 従前の判例通説によれば、通常損害とは「その種の債務不履行があれば、社会一般の観念にしたがって通常発生するものと考えられる範囲の損害」であり、たとえば「売主の不履行のために買主が他から同種の物を買い入れたときは、その代金の差額および費用、賃借人が賃借物を滅失したとき(返還義務の履行不能)は、賃借物の市価、賃借物を返還しないとき(履行遅滞)は、賃料相当額、利息付債務の不履行(履行遅滞)のときは、利息相当額が通常生ずべき損害」であり、特別損害とは「通常損害の枠をはみ出るような損害」という(奥田・前掲178頁)。特別損害は、①履行期又は債務不履行時において②損害の原因である特別の事情について債務者の予見可能性が必要であるが、通常損害においては、債務者の予見可能性は不要である(奥田・前掲178頁~179頁。例えば、判例は戦争や物価上昇による目的物の価格騰貴を特別の事情として理解している。大判大7・8・27、最判昭和37・11・16、最判昭和47・4・20など)。但し、他方で、下級審裁判実務・旧通説は、本条は、ドイツ民法学説の「相当因果関係説」を採用したものであり、相当な損害について賠償責任を認めるものと解して、「当該損害が相当かどうか」で判断する傾向もある(理由を明示することはあまりない)。

 これらの判例通説の見解に対して、批判説も有力である(詳細は、奥田・前掲179頁以下参照。奥田説自体も判例通説を修正すべきという。なお、平井宜雄説に代表される保護範囲説など近時の批判説の詳細は、潮見・新総論Ⅰ454頁以下参照)。これらの見解の対立は、別の角度からいうと、つまり損害概念からみると、損害差額説(通説)と損害事実説の対立となる。

 

 (受領遅滞)

  改正法第413条※

第1項「債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることが出来ない場合において、その債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、履行の提供をした時からその引渡をするまで、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その物を保存すれば足りる。

第2項「債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないことによって、その履行の費用が増加したときは、その増加額は、債権者の負担とする。

 

※受領遅滞の効果

 改正前民法第413条は、「債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないときは、その債権者は、履行の提供があった時から遅滞の責任を負う。」とあり、債権者の受領拒否ないし受領不能の遅滞責任=受領遅滞の効果について、明瞭ではなかった。解釈論としては、債務者の注意義務の軽減や債権者の費用の負担などがいわれていたが(奥田・前掲221頁、230頁など)、本条はこれを明確化したものである(危険負担の移転については、改正法第565条を参照)。

 但し、受領遅滞の場合、受領義務の有無、債務不履行による損害賠償や解除権の発生の有無に関しては、明示していないので、従来通り、解釈論上議論となろう(従来の学説【法定責任説・債務不履行説・折衷説など。判例は法定責任説といわれる。】につき、奥田・前掲224頁以下参照)。なお、改正法第492条は「債務者は、弁済の提供の時から、債務を履行しないことによって生ずべき責任を免れる」と明示し、弁済の提供の効果として、損害賠償責任及び解除権が発生しないことを含意しているとされる(潮見・概要186頁以下)。

 

 (履行遅滞中または受領遅滞中の履行不能と帰責事由)

  改正法第413条の2

第1項「債務者がその債務について遅滞の責任を負っている間に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。」※

第2項「債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることが出来ない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。」※※

 

※債務者の履行遅滞中の不能

  不能が当事者双方に帰責事由がなくても、当該履行不能を債務者の帰責事由のあるものとして扱う規定であり、改正法による新設である。

※※債権者の受領遅滞中の不能

  受領遅滞中の不能について、双方に帰責事由がなくても、当該履行不能を債権者の帰責事由のあるものとして扱う規定であり、改正法による新設である。よって、この場合、債権者は、契約を解除することができず(改正法543条)、反対債権の履行を拒絶できない(改正法536条2項)。他方、債務者は帰責事由は擬制されないので、債務不履行による損害賠償責任は負わない(改正法415条1項但し書き)。

 

 (中間利息の控除)

  改正法第417条の2※

第1項「将来において取得すべき利益についての損害賠償の額を定める場合において、その利益を取得するすべき時までの利息相当額を控除するときは、その損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率により、これをする。」

第2項「将来において負担すべき費用についての損害賠償の額を定める場合において、その費用を負担すべき時までの利息相当額を控除するときも、前項と同様とする。」

 

※損害賠償と中間利息

  本条は、逸失利益など将来において取得すべき利益や負担費用の損害賠償において、公平の観点から、その中間利息を控除して損害額を判断する実務の運用を明文化し、その利息相当額を法定利率(改正法第404条【3%を基礎とした変動利率】)としたものである。本条は、金銭賠償の原則(417条)とともに、不法行為に準用される(改正法第7221項)。

 

 (過失相殺)

  改正法第418条

「債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。」

 

※損害の発生・拡大と過失相殺

 改正前民法418条に「損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があった」場合を追加したものである。従来、実務及び解釈上認められていたものを明文化したものといってよい(日弁連編・前掲118頁参照)。

 

 (金銭債務の損害賠償額の算定に関する特則)

  改正法第419条

第1項「金銭の目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。」※

第2項「前項の損害賠償については、債務者は、損害の証明をすることを要しない。」

第3項「第1項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。」

※利息損害【遅延損害】の基準時

 利息損害を算定する際の法定利率の基準時を債務者が遅滞の責任を負った最初に時点と明記するものである(新設)。なお、2項3項は改正前と同じである。

 

 (賠償額の予定)

  改正法第420条

第1項「当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。」※

第2項「賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。」

第3項「違約金は、賠償額の予定と推定する。」

 

※賠償額の予定と裁判所の判断

 本条項は、改正前民法420条1項後段「この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。」と規定を削除し、暴利的過大な賠償額の予定に拘束されずに裁判所が賠償額を合理的に判断することの障害を除くものである(潮見・概要74頁参照。判例実務は信義則等を理由に過大な賠償額の予定を無効としていた【日弁連編・前掲119頁以下】)。なお、2項3項は改正前と同じである。

 

 (代償請求権)

  改正法第422条の2※

「債務者が、その債務の履行が不能となったのと同一の原因により債務の目的物の代償である権利又は利益を取得したときは、債権者は、その受けた損害の額の限度において債務者に対し、その権利の移転又はその利益の償還を請求することができる。」

 

※債権者の代償請求権

 従来、判例通説によって解釈上認められていた債権者の代償請求権【保険金につき最判昭和41・12・23など、学説として奥田・前掲150頁以下など】について、明文化したものである(新設)。債務者の帰責事由の要否については解釈に委ねられている(潮見・概要75頁以下参照)。

 

訴訟代理人のつぶやき「民法改正ノート2 債務不履行・危険負担と解除制度その2」

 

      (債務不履行による損害賠償)

改正法第415条

第1項「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りではない。」※

第2項「前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。※※

一 債務の履行が不能であるとき。

二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。」

 

 

 

 ※債務不履行と免責事由

 改正前も改正後も、債務不履行の法的効果が、損害賠償請求権の発生であることは、共通している。

 もっとも、改正前民法415条は「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。」と規定し、後段の履行不能は、「債務者の責めに帰すべき事由」=帰責事由が要件となっているが、前段の「債務の本旨に従った履行をしないとき」は帰責事由が要件となっていないように読める。

 しかし、判例通説は、前段(これは履行遅滞と不完全履行を含むとしつつ)も過失責任の原則から帰責事由が必要と解していた。そして、判例通説は、債権者に債務不履行の事実・損害・因果関係の主張・立証責任を負担させ、債務者に、帰責事由がないこと(過失がないこと)の主張・立証責任を負担させると解していた(奥田・前掲124頁参照)。

 この判例通説に対しては、債務不履行の根拠、つまり損害賠償請求権発生の根拠を過失責任の原則(これは不法行為と共通である)に求めるのではなく、契約の拘束力・契約の内容に求めるべきとの見解からの理論的批判があった(例えば、潮見・新総論Ⅰ377頁以下参照)。この「契約の拘束力説」でも、契約の内容に照らし、不履行のリスクを負わすことができない場合を認め、これを帰責事由の不存在=免責事由と位置づけていた。

 

 理論的対立はあるものの、判例通説の立場でも、履行遅滞が免責されることは、実際上、ほとんどなく、債務不履行でいう「故意・過失」は不法行為でいう「故意・過失」と全く同じものとは考えられていなかったといえる。このことは、帰責事由を故意又は過失、これと信義則上同視しうる場合と解して(不法行為における過失は、信義則上同視しうる場合を含むとはいわれない。)、いわゆる「履行補助者の故意・過失」の理論により、債務不履行責任の範囲を拡張することからも明らかである。

 

 以上の理論的対立を背景としつつも、改正法は、①帰責事由要件を維持し、これを債務不履行全般の「免責事由」と位置づけ、②帰責事由の判断に当たって「契約その債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるもの」かどうかを要求している。これは、履行不能の判断基準と同じである(なお、立法過程の中間試案では、「契約の趣旨」に照らしてという表現であった。)。

 

 この点、①帰責事由が免責事由とされたこと、②契約の内容が帰責事由の判断で考慮されていることから、本条項は、債務不履行に関し、従前の判例通説の過失責任の原則を採用するものではなく(帰責事由がないこと≠無過失過失責任の原則の放棄ないし切断)、「契約の拘束力説」に立ったものであると理解する見解が有力である(潮見・新総論Ⅰ379頁、同・概要68頁、山野目・前掲18頁、90頁参照。なお、立法過程の中間試案では、契約の拘束力説の立場から、「リスクの引き受け」を帰責事由、不可抗力を免責事由と理解するものもあり、無過失責任ないし英米法の厳格責任を認めるものではないかとの批判があった【山田創一・「安全配慮義務に関する債権法改正について」法学新報・第121巻第7・8号587頁~590頁】。)。この立場からは、従来の「履行補助者の故意・過失」の問題は、改正前民法105条の削除と相まって、判例・通説の解釈は修正変更をせまられるという(潮見・概要68頁以下、同新総論Ⅰ405頁以下参照)。

 

 しかしながら、従来の判例通説の立場でも、本条項は、帰責事由の免責事由化は、帰責事由がすべての債務不履行の要件であるとともに、その主張・立証責任が債務者にあるという従来の解釈を明確化したものという理解も成り立つ(日本弁護士連合会編・実務解説改正債権法108頁参照)。

 確かに改正法の規定は、有力学説がいうとおり、帰責事由の判断に当たって、「契約その債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」を考慮することは、不法行為責任と違って契約の趣旨を考慮することを示唆するものである。

 もっとも、従来、「過失とは、一般的には、その人の職業、その属する社会的・経済的な地位などにあるものとして、取引生活上一般に要求される程度の注意(善良なる管理者の注意)を欠いていたために違法な結果の発生を認識しえず、したがって、違法な結果の発生を妨げるための適切な措置(結果回避措置)をとらなかった場合」であり、「債務不履行についていえば、債務者が右のような注意を欠いたために債務不履行を生ずべきことを認識しないこと、したがってまた、債務不履行を回避すべき適切な措置をとならなかったこと」といわれ(奥田・前掲125頁)、債務不履行は「債務の本旨に従った」ものではないものであるから、その判断は契約の趣旨等が考慮される。この意味で、改正法の帰責事由の解釈が改正前と大きく変わることは考えにくい(日弁連編・前掲110頁参照)。

 逆に保護義務・安全配慮義務違反は、不法行為上の過失と重なってくる(保護義務違反により侵害される利益は一般には不法行為法上の保護対象であり【奥田・前掲164頁】、改正法においては、生命身体を害する場合の債務不履行による損害賠償請求と不法行為による損害賠償請求権が同じ消滅時効期間に服することも参照)。

 そこで、改正法は、債務不履行における「過失責任の原則」=帰責事由を維持しつつ、その解釈に当たって、特に契約の趣旨等を考慮すべしということを確認した規定との理解も可能であろう(私見)。

 

 但し、「履行補助者の故意・過失」については、改正前105条の削除等との関係から、新たな解釈が必要となろう(学説が指摘するとおり、少なくとも、履行代行者の選任監督の過失でよいとして債務者の責任を軽減する代表的な我妻説は説得力を欠くことになる。この点は、別の機会に論じる予定である。)。

 

 

訴訟代理人のつぶやき「民法改正ノート2 債務不履行・危険負担と解除制度その1」

 

  【概説】改正前民法においては、債務不履行とは、履行遅滞、履行不能、不完全履行をいい、その共通の要件として、債務者に故意又は過失その他信義則上同視しうる事由つまり、債務者の責めに帰すべき事由(改正前415条後段 帰責事由)が、解釈として、要求されていた(我妻=有泉コンメンタール民法第2版追補版734頁以下、奥田昌道・債権総論増補版125頁など通説 過失責任主義)。また、契約の解除も帰責事由を要件とする債務不履行を前提とするものであった。

       しかし、債務不履行責任に過失責任主義(帰責事由)を採用することの批判や、帰責事由の判断基準が明確でないとの批判、帰責事由のない履行不能は、契約成立前は原始的不能の問題、契約成立後は、危険負担の問題(改正前534条等)として扱われ、取引当事者の合理的意思にそった妥当な解決とは言いがたい結論(前者は契約の無効、後者は反対債務の存否として自動的に消滅か【債務者主義】、存続か【債権者主義】)は学説上批判もあった(内田貴・「民法改正のいま 中間試案ガイド」 113頁~118頁、131頁~140頁参照)。

       もっとも、帰責事由の要件を完全に排除するのは、利益衡量上、問題があるとの反論も根強かった。

       そこで、改正法は、債務不履行の要件として、帰責事由を免責事由として維持して債務不履行の規定(要件・効果)を整備し(但し、帰責事由=故意・過失と理解するかどうか解釈論上の議論は残る。後述)、②危険負担の規定を削除・修正し、原始的不能による双務契約を無効とせず、③解除を債務不履行の効果ではなく、債権者の契約関係からの解放の制度として位置づける制度として再構成を図ったものである。

 

 ア 債務不履行と危険負担

 

  (履行期と履行遅滞)

    改正法第412条※

第1条「債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う」

第2条「債務の履行について不確定期限のあるときは、債務者は、その期限が到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。」

第3項「債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。」

 

 ※履行遅滞

  本条1項3項は、改正前と同じ規定である。そして本条は、後述する帰責事由を債務不履行の損害賠償責任の免責事由とする改正法415条1項からすると、履行遅滞は、「債務の本旨に従った履行をしないとき」に当たるから、債務者の帰責事由がないときは、遅滞の責任を負わないということになる(免責事由 改正法415条1項但し書き)。第2項は、改正前の規定「債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負う」を修正して、①期限到来後の請求を受けた時と②期限到来を知った時のいずれか早い時を履行遅滞の不履行時点としたものである。

 

  (履行不能)

    改正法第412条の2

第1項「債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。」※

第2項「契約に基づく債務の履行がその契約の成立に不能であったことは、第四百十五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。」※※

 

※履行不能の判断基準

  本条項は、債権者が債権に基づいて債務者に対する履行請求権を有することを前提に、履行不能の場合は履行請求できないという当然のことを明示すると同時に履行不能の判断基準として「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」という概念を新設したものである。すなわち、契約等に関する一切の事情に基づき取引通念によって判断される。具体的には契約当事者の主観的事情のほか、契約の目的、性質、契約締結に至る経緯など客観的事情を考慮することを意味する(潮見・民法(債権関係)改正法の概要54頁参照)。これは、特定物の滅失による物理的不能はもとより、法律的不能や一部の滅失や瑕疵でも当該契約の目的を達成できない場合も含む(改正前の解釈でも、履行不能とは「単に物理的不能であるということではなくして、社会生活における経験法則または取引の通念にしたがえば、債務者が履行を実現することについて、もはやその期待可能性がない」場合と解されていた【奥田・前掲144頁参照】)。もっとも、本条項は任意規定であるから、契約上、履行不能に関する特約を設けることは可能である。

 

※※履行不能と原始的不能

  改正前の民法では、契約締結時までに契約の目的である特定物が滅失していた場合原始的不能)、契約は無効であり(奥田・前掲145頁以下参照、旧民法財産編322条1項及びドイツ民法旧306条も参照)、契約締結後に特定物が債務者の責めに帰すべき事由によらず滅失した場合(後発的不能)は、危険負担の問題とされた(双務契約上の反対債権の存否の問題とする。改正前534条等。対価危険の問題ともいう【奥田・前掲145頁】)。

 

 しかし、原始的不能の場合も後発的不能の場合も、どちらも契約の目的を達成できない履行不能の場合である。債務者に帰責事由のある履行不能の場合であれ、原始的不能及び後発的不能の場合であれ、債権者にとってみれば、あずかり知らぬことにより履行不能になる点は変わりはない(奥田・前掲148頁注(5)は、原始的不能の場合でも無効主張を制限した方がよい場合や、あるいは原始的不能の悪意の債務者に対し善意の債権者からの履行利益の賠償請求権をみとめてよいのではないかと指摘する。内田貴・民法Ⅲ第2版25頁は原始的不能の債務からも債務不履行の責任(信頼利益)を認めうるという。従前の原始的不能の議論につき、潮見佳男・新債権総論Ⅰ・76頁以下も参照)。

 また、危険負担の債権者主義(改正前534条)が不合理な規定(特定物の引渡債務は消えるが、反対給付例えば代金債務は残るなど)であるとの学説上の批判は、多く、実務上も適用された事例は乏しい。

 

 そこで、改正法は、契約に基づく債権の履行がその成立の時に不能であったときであっても、契約はその効力を妨げられない、つまり原始的不能でも契約は有効と考え(本条2項はこのことを前提とする。改正法542条も同じ。比較法としてドイツ民法新311a条参照)、債務者に帰責事由があれば(改正法415条)、損害賠償請求(履行利益)ができることを明示し(本条第2項)、同時に危険負担の改正前534条、535条を削除した

 また、本条2項は、原始的不能を理由とする契約解除を否定するものではない(潮見・概要62頁)。つまり、債権者は、契約の目的を達成できない場合は、債務者の帰責事由の有無に関係なく、契約を解除して契約関係を解消することになる(改正法542条の無催告解除 但し、改正法543条の解除制限に注意 後述)。

 これは、双務契約において、債務の履行が不能である場合に、債権者が自己の負担する反対債務から解放されたければ、債権者は、契約解除の意思表示をしなければならず、履行不能になったからといって、反対債務が当然に消滅するわけではないことを意味する(潮見・概要248頁)。すなわち、改正法は、①危険負担の債権消滅構成から履行拒絶構成へ変更し、②反対債務からの解放制度として契約解除(改正法542条等)を位置づけたのである(後述)。

 

(債権者の危険負担)

改正前第534条

  第1項 「 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。」

  第2項「不特定物に関する契約については、第四百一条第二項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。」

 

(停止条件付双務契約における危険負担)

改正前第535条  

  第1項「前条の規定は、停止条件付双務契約の目的物が条件の成否が未定である間に滅失した場合には、適用しない。」

  第2項「停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって損傷したときは、その損傷は、債権者の負担に帰する。」

  第3項「停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰すべき事由によって損傷した場合において、条件が成就したときは、債権者は、その選択に従い、契約の履行の請求又は解除権の行使をすることができる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。」 

 

(債務者の危険負担等)※

改正法第536条

第1項「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。」

第2項「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができになくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなけれならない。」

 

※危険負担制度と履行拒絶権

 改正前民法534条乃至536条が定めていた危険負担制度は、双務契約の一方の債務履行が後発的不能になった場合、反対債務は存続するか(債権者主義)、消滅するか(債務者主義)の問題、つまり債権消滅構成とされていたが、改正法は、双務契約の債務履行が不能の場合(原始的不能も後発的不能も含む)、債権者が債務者から反対債務の履行請求を拒絶できるものとして、つまり履行拒絶権構成を採用したものである。

 換言すると、危険負担制度は債権消滅構成から履行拒絶権構成に変更され、履行拒絶の抗弁が認められると履行請求は、引換給付判決ではなく、請求棄却判決となる(潮見・概要248頁参照。つまり、要件事実的には履行拒絶の抗弁は権利阻止事実であり、他方契約解除は権利消滅事実である【山野目章夫・「新らしい債権法を読み解く」23頁、102頁以下参照】。もっとも、債権者が解除の意思表示をしても、履行請求権は消滅するから、やはり請求棄却判決となろう。)。

 以上をふまえて、本条は、改正前536条を履行拒絶権構成として、修正整備を図るものである。債権者の履行拒絶権を制限する本条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」とは、契約解除を制限する改正法543条の「債権者の責めに帰すべき事由」と同じ意味である(後述)。